辺境街の衛兵さん   作:大いなるcoffee

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6話

 俺は冒険者を嫌いだと言って憚らない、無類の冒険者嫌いであるし、事実として今まで冒険者を散々にこき下ろしており、冒険者にだけは絶対にならないと公言しているほどであるが、しかし、別に俺は相手が冒険者ならば無条件で嫌いと言うわけではない。

 俺が嫌いなのはあくまで冒険者協会と田舎から上がりたての犯罪者予備軍共であり、きちんと常識を弁え、節度を持って慎重に行動できる冒険者達には、寧ろ好感を抱いてすらいる。

 

 そしてそんな好意を持てる冒険者達は、決まって高位の冒険者だ。

 何故ならそれは、常識を弁えた、節度を持って慎重に行動が出来る人間を優先して協会が高位の冒険者にさせるからに他ならない。

 そういう人間であるという事は、問題行為を起こさず、下手を打つ事なく依頼をこなして信頼を集め、実力を育てることができる人間であるという事の証明でもあるのだから、当然という話であるのだが。

 

 とにかくそんなわけで、俺は冒険者は冒険者でも、高位の冒険者は好きなわけだ。

 

「このッ、クソ衛兵野郎ォォォォッッ!!」

 

 冒険者全体で見れば、勿論嫌いの方が圧倒的に勝つが。

 

「ふんッ!」

「おごぇッ……」

 

 青果店からリンゴを盗もうとした不届者の腹に蹴りをぶち込んでやる。

 すると冒険者が後生大事に握っていたリンゴがポロリと手から溢れるので、落ちる前に優しくキャッチ。

 そのまま店主へと投げ……美味そうだなこのリンゴ。

 

「おーい店主! これ幾らだ!?」

「あ!? あー……いいやいいや! 代は要らん! そこのと一緒にタダで持ってってくれや!」

 

 俺の足元に崩れ落ちた冒険者を指差しつつ、気前よくそう言ってくれる店主。

 

「マジか! じゃあありがたく頂いてくわ!」

「おう! こっちこそいつもありがとうな!」

「気にすんな気にすんな!」

 

 いやー、良いモン貰ったわ。

 衛兵と言う仕事は基本クソだが、こう言う人脈と言うか、民衆から信頼してもらえるのは良いところだ。

 冒険者を槍と一緒に肩に担いで、リンゴ片手に齧りながら冒険者教会の方へと向かう。

 ……うん、甘くて美味い。

 俺はやはり、酸っぱいより甘い方が好きだな。

 

「あれ? もしかして分隊長さん?」

「む?」

 

 シャリシャリとリンゴを咀嚼していると、突然横合いから声がかけられた。

 声の聞こえた方を向いて見ると、そこに居たのは二人組の女性。

 片や剣を腰に佩いた青髪の少女に、片や大斧を背負ったこれまた青髪の女性。

 それだけで既に特徴的な彼女達であるが、その美貌が更にその存在感を引き立てていた。

 

「……おお、白金等級(プラチナ)の!」

 

 冒険者等級は大まかに分けて五段階。

 下から銅、銀、金、白金(プラチナ)宝石(ジュエル)だ。

 一応、宝石(ジュエル)紅玉(ルビー)青玉(サファイア)金剛石(ダイヤモンド)と、色々な条件によって更に細かく分かれていたりするのだが、そもそもそこまで至る人がほとんど居ないので、宝石(ジュエル)と一纏めにされている。

 

 で、そんな彼女ら姉妹はその中でも上から二番目の白金(プラチナ)

 全世界で百人程度しか居ない、本物の実力者達である。

 

「おお、覚えていてくださったのか」

「そりゃあ覚えてるだろう。一時とは言え共闘したんだからな」

 

 詳細は省くが、去年くらいにこの街の下水道に巣食った邪教団を始末する作戦が実行された時、たまたま貴族から受けた調査の依頼でその場に居合わせたのがこの二人。

 互いに邪教団をぶっ潰すと言う目的で一致したので、共に戦う事になったわけだ。

 

「んで? 今回はどんな依頼でここに? 何かあるんだったら俺達も協力するが」

 

 基本的にイルドラム(第三主要都市)で活動する彼女らを含めた白金等級(プラチナ)がこの街に来るのは、貴族か何処かからの大口依頼が入った時くらいだ。

 そしてそう言う依頼が出る時は、何か『ヤバい』事態が街かその近辺でで起こっている時。

 場合によっては、俺達も動かなきゃならん。

 

「……それがね? ゼン公と帝国がまた戦争しそうって話、知ってる?」

「ああ、ちょうど明後日にそれについての会議があるな」

「だったら話が早いかな」

「最近、混沌共の動きが活発になってきただろう。その対策として、金か白金(プラチナ)の冒険者を各都市に均等になるように配備、調査及び警護をする事になってな。衛兵とも協力する」

「ほう」

 

 何ともまぁ有難い話だ。

 金等級、白金等級(プラチナ)の冒険者達は、銅や銀のカス共とは訳が違う。

 こりゃあ随分と楽になってくれるぞ。

 

「……あのさぁ、ボクここに来る時ずっと気になってたんだけど、冒険者のこう言う使い方っていいの?」

「ん? ……ああ」

 

 心の中で小躍りしていると、不意に妹の方が不安げにそんな事を聞いて来る。

 まぁ、言わんとしている事はわかる。

 つまり、いくらこの国の国民であるとは言え、国際機関である冒険者協会の冒険者が、国の政治や軍事に関わる事をして大丈夫なのか、と。そう言う話なのだろう。

 

「実は問題なかったりするんだな、これが」

「ああ、全くもって問題ない」

「え? いいの?」

「おう。……だってまぁ……なぁ?」

「うむ」

 

 冒険者協会は、確かに混沌の脅威から秩序を守ると言う名目の下に作られた国際機関である……と、されている。

 そのため、冒険者協会は全世界共通の機関として作られた、なんて思われる事も結構あるのだが、その実態はかなり異なっていて、冒険者協会は『元々その国にあった対混沌組合(アンチケイオス)の寄せ合わせ』であるのだ。

 

 だからよく世界で冒険者協会と一纏めにされているし、国境を跨いだ依頼もあるが、国際的な縛りなんて一切ない。

 国の法律と元々の対混沌組合(アンチケイオス)のルールの範囲内であれば、何でもやっていいのだ。

 

「へ、へぇ〜……そうだったんだぁ……」

「うむ、また一つ勉強になったな」

 

 そう言って妹の頭を撫でる姉。

 姉妹仲が良いようで何よりだ。

 

「……あ、そう言えばなんだが、こんなに有力冒険者を放出して、イルドラム(第三主要都市)は大丈夫なのか?」

 

 ふと思い出して、そんな事を聞いてみる。

 イルドラム(第三主要都市)は主要都市とあるだけあって、超巨大な都市だ。

 その分衛兵の数も多いし、向こうには数少ない()()()()騎士団もあるが、金等級、白金等級(プラチナ)の冒険者達も馬鹿には出来ない戦力だっただろう。

 

「ああ、問題ない。今回は私たちを各地に配置する代わり、王都から翠玉(エメラルド)を呼ぶつもりらしいからな」

「マジか」

 

 うん、だったら問題ないな。

 

「まぁ、それじゃあ俺はこれで失礼する。こいつも運ばないとだし」

「あ、仕事の途中に引き留めちゃってごめんね?」

「構わん。じゃあな」

「じゃあね〜!」

「ああ、また」

 

 リンゴを持った手を軽く持ち上げて返事を返し、冒険者協会の方へ向かう。

 しかし、翠玉(エメラルド)かぁ……マジかぁ……

 いいなぁ……

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