「……ん…」
目を開けると知らない天井であった
周囲を調べると俺を診ている内に眠ってしまったのか足の上で顔を伏せているジョーヌがいた
檻がある事から俺は誰かに捕まったのだろう、ただジョーヌがこうやって眠っている辺り拷問はされなさそうだ
「手が再生してる?」
骨折していたはずの手も問題なく動かせるようで完全に完治しているようだ
色々と身体を調べている内にコツコツと何か規則的な音がこちらに近付いているのに気が付く
恐らく誰かが尋問しにきたのだろう、ジョーヌの頭を少しだけ優しく撫でて起こさないように自分の足から離れさせてベッドから立ち上がる
立ち上がると同時に誰かがきた
足音が同じタイミングで消えたことから察するにさっきの足音の人物なのだろう
振り返ると中性的な顔立ちであり外見だけでは性別が判断が出来ない
また胸が膨らんでいない事から胸部からでも判断は出来ない
「さて、身体の調子はどうだ」
声もまた性別の判断がつきようがない
ただ一つ分かるのは活発な声であることだ
初めに発した言葉は温厚であり第一印象は優しい人物を抱いた
「まぁ…傷も治っているし万全だよ」
とても今から尋問をする様な声色ではなく戸惑いながらも返事を返す
殺気は感じ取れない、単純に隠しているだけの可能性はある警戒は無くさないようにしよう
「あー…あんまり緊張するなよ、これからお前を処刑するって訳じゃないし事情を聴きに来たんだ」
「事情を?」
「ああ、お前の後ろにいる悪魔がいるだろ。その子が何でもするからお前を助けて欲しいって言っていたんだ、それも泣きそうな顔をしてな」
「………」
俺が意識を失った後そんなことがあったんだな
どうやら俺はジョーヌにとって何よりも大切な存在らしい
ただ俺からすれば何故ジョーヌがこれ程まで俺を助けたいのかが分からない、過去にジョーヌと出会った訳でもなくそれらしき名前の人物とは会った事がない
強いて不可解な点は妹と容姿が瓜二つなことだ
妹は双子で生まれたのではなく1人で生まれてきた
俺と両親以外に家族はいない
……いや今はその事は置いておこう、尋問に意識を向けよう
「俺もジョーヌの事は、何も分からない
出会った覚えがないんだ」
正直にそう伝えた、嘘を言った所でジョーヌの為でもないし得を得られる訳ではない
「そうか……もう一つだけ聞いていいか
お前はこの国を仇なす存在か?」
殺気が現れ、吹き飛ばされる感覚に陥る
今にも殺されそうでまるで山の様に見えてしまう
「俺はジョーヌを傷付ける奴は誰であれ殺す……アンタはジョーヌに危害を加えるつもりか?」
そう返した自分でも何を言っているのか分からなかった
だがジョーヌのことを考えると誰よりも守りたかった、それに誰にも奪われたくない
……この気持ちは妹に似ているからという理由もあるかもしれない
それでも俺を助けてくれた、あの姿に見惚れてしまった
抱きしめてくれた時、何よりも温かった
初めて温もりを感じた。両親から抱きしめられても俺はどうしてか何も心が埋められていなかった
愛情を感じていなかった訳ではない、それでももどかしい気持ちを感じていた
「………ふっ、お前を面白いな。普通そこは俺達にとって危険じゃないって言う所だぞ」
すると彼は一転して初めの印象に戻り暫くの間笑っていた
どうやら認めて貰えたらしい、それなら良かった
「まぁ、まだ疑いが完全に晴れた訳じゃないが一旦尋問は終了何だが……そのさっきからその子お前の言葉全部聞いているからな」
「ふぇ…?」
思わず変な声が漏れ出た
ゆっくり後ろを振り返ると顔を真っ赤に染めて手を頬に当てて下を向いているジョーヌがいた
俗に言うこれが恋する乙女なのだろう
「お〜い。大丈夫か?」
「も、ももももも問題はない
と、とととととととにかくジョーヌにだけは危害を加えるなよ!??分かったな!?」
戸惑いなど隠し切ることなど出来ず赤面をしながらそう返事をすると彼は酷く笑いながら「そんじゃ、また〜」と言って去っていった
暫く沈黙が流れた後、後ろを振り返る
……どうやら、まだ気持ちの整理が出来ていないようだ
「その…だな。ジョーヌに守られる存在なのに俺がジョーヌを守るってのはおかしいかもしれない……うん、おかしいと思うけど。それくらい感謝しているんだ。だから…その」
普段から会話をしないのが原因なのか、それとも恥ずかしさが影響しているのかは分からないが言葉が上手く出すことが出来ない
そんな俺のことを見透かしたのかジョーヌはずっと待っていてくれた
…ホント、馬鹿だな俺
こんな時に言えなくなってどうする。そう思うと自然と気持ちに整理が出来てきた
「ありがとう。俺を助けてくれて」
ただ一言お礼を伝えた
もう少し工夫の仕様があったとは思うがまだ何も出来ない俺にとって彼女に対して送れる感謝はこれが正解だろう
「構わない、私が助けたいと思っていたからな」
「それで、その俺は君に何を支払えばいい?」
恐らくこの世界でも悪魔を呼び願いを叶えるにはそれ相応の報酬を与えなければならないのがルールなのは変わらないのだろう
…よくある報酬だと誰かの命、だが現状俺の命程度しか上げることができない
ただそれは難しい問題だ、ここで死ねば今度こそ死ぬ……それはあの機械音声君がそう言ってくれた
だが一つおかしな点が一つある
それはあの兵士に殺されたはずなのに俺はこうして生きているということだ
……あれは夢とは思いたい
だが今でも思い出せる
千切れた感覚、裂ける感覚、失う感覚…そして痛みを
それは夢といった簡単な言葉で一括りになど出来ない
「願いの代償か……それなら私に名前を名付けて欲しい」
「名、前……本当にそんなことで良いのか?現に君はジョーヌって名前があるのに」
思わず聞き返してしまう
既に彼女にはジョーヌといった呼び名がある
この世界では名前はそんなにも珍しいのか?
「そうか、君はこの世界に転生して間もないタイミングだったな
簡単に説明するとこの世界で名前という物はスキルの次には欲しい物だ
名付けをされることでその者との繋がりを確立し、色々と出来るんだ
この辺りは私も余り理解できないまま死んでしまったからな」
「……ちょっと待った、死んだ?あれ程の力を持った君が?」
「そうだね、これから起きる出来事でもあるし過去とも言える。ただ一つ言えるとするなら私は一度死んだ、それも嵌められてだ」
ジョーヌから殺気が現れるのを感じる
何かを思い返して感情を露わにしているのが理解できた
「今でも思い返せるよ、奴が私を見下すあの顔を…」
握り締める拳からは血が滲んでいた
例え心を読めなくともジョーヌの気持ちは痛い程伝わってくる
あれは単なる怒りではない
憎悪が正しい
必ず殺すと言った明確な殺意も感じ取れていた
黙っていた俺に気が付いたジョーヌは萎縮をさせてしまったと思い「す、すまない!」とすぐに謝ったので「気にするな」と返した
「それにしても名前か…」
いざ、名前を欲しいと言われても浮かばないのが本音だ
喜ぶ様な名前でガッカリはさせたくない、そんな気持ちが余計に名前を決めるというのを難しくさせる
ふとジョーヌを見てみると今か今かと待ち切れない様子で相当俺に期待しているらしい
心の中で頭を抱えてしまう
元の世界で子供の名前を考えることなどそんな機会は一度たりともなかった。というか高校生で普通そんな事はあり得ない
それに…ジョーヌは色々と妹を思い出させてしまう
分かっていた自分でも度は過ぎてはいないがシスコンであったことは
だからこそ…だからこそだ!
その気持ちが引っ張ってきてここまで難航となっている
「な、なぁジョーヌ…君が得意とする魔法とかってあるのか?」
「そうだな、核撃魔法…その中でも重力崩壊(グラビティ・コラプス)という魔法が得意だな
一気に軍勢を滅ぼせて爽快だぞ」
ワオ…悪魔的だァ
その最後の一言さえ無ければ無邪気な笑顔をする可愛い悪魔といった評価で終える事は出来たがまぁそれはそれとして核撃魔法、グラビティコラプスか…
まさしく悪魔に相応しい名前だ
核撃…と言ったら破滅が象徴的だ
スペイン語で確かルイーナもしくはロヴィーナという読み方だったはずだ
そうだな…合わせて決めるか
「ジョーヌ決まったよ。今日から君はルヴィアナ…そう名付けるよ
その名に相応しく俺に破滅を魅せてくれ」
名前を伝えるとジョーヌは口角を上げて気高く笑い始めた
まさしく悪魔という姿であり、自然と口角が緩んでしまう
反応から察するに名前に関しては良かったのだろう、そうでなければあれは余りにも名前の出来が酷過ぎて笑っているに違いない
「ルヴィアナ…いいな、まさしく私に相応しい名だ!
その名の様に私は敵に破滅を与えよう!!」
再び笑い始める
「気に入って貰えて良かったよ。不安だったからさ」
「まさか、君から贈られる言葉は全て私にとって至福だ」
何度も褒められて思わず恥ずかしくなり目を背けてしまった
「あまり褒めるな…けど嬉しいって気持ちは充分伝わったよ、ありがとうルヴィアナ」
自分の気のせいかは分からないがルヴィアナの雰囲気が何と言うか変わった気がする
それと身体も色々と変化が起きているような
「さて、ミソラ」
「何だルヴィアナ」
返事を待つ
しかし嫌な予感がする…それもとてつもなく嫌な予感だ
「この檻、ぶっ壊して逃げることにしよう」
あぁ…案の定そんなことだろうと思っていた
「……そうだな」