機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉 作:滝川 海老郎
ライブはうまくいった。
「すみません! ここに差し入れ、置いておきますね」
「あ、ありがとうございます!」
係の人が差し入れを置いていく。
もちろんX線検査、金属探知機などに通した検査済みだ。
なかには袋を開けて中まで確認してあるものもある。
「ねえ、これ、トラのぬいぐるみ。クレア」
「ほんとだ」
「……トラかぁ」
「これ、オセロットのつもりでしょ。小さいトラ」
「だよね。見に来てくれたんだ」
「そうじゃないでしょ、ミカ」
「えへへ。そりゃコロニーに寄ることくらいあるよね」
「まあそうだけど」
「敵さん来襲です」
「そういうこと」
セキュリティーに確認しにいく。
監視カメラにはもちろんトラのぬいぐるみを置いていった人の顔も映っていた。
毛先は金髪だが根本は黒い。顔濃いめの男性で目は緑色。男性にしては小柄だ。
決めつけはよくないけど、なるほど軍人っぽい容姿だと思う。
「この人がオセロットさん」
「うん」
みんなでモニターを覗く。
「この人、敵なんだよね?」
ミカが確認してくる。
「そういうことになるね、たぶん。偶然の一致じゃなきゃ」
「偶然トラのぬいぐるみなんて持ち込む人いる?」
「いないだろうなぁ」
「だよねぇ」
ミカはどう思っているのだろうか。
ミカはあっけらかんとしているというか、口ではワイのワイの言うけど、何事にも動じないタイプだと思う。
ミカとの出会いはジャブローの軍学校からだ。同期だったのだ。
私と違うのは寮に入っていたことだろうか。
出身は地球の北アイルランドの港町ベルファスト。私もホワイトベースで寄ったことがあるので知ってはいる。
あの時、ホワイトベースは入港とは名ばかりの港に停泊して、短い休暇を街で過ごした。
かなり北なので寒そうだったんだけど、どこか長閑で雰囲気のいい街だった。
レンガ造りが多くて、なんだかクリスマスみたいな風景だったのだ。
そんな街に住んでいて、ミカからすればホワイトベースが寄港したときは大事件だったのだろう。
話は聞いたことがある。
それはもうあんな白い鉄の塊が空を低速で飛んでくるから何事かと思うよ。
しかも敵の攻撃にあって空襲警報が出て避難したり大変だったそうだ。
私たちホワイトベースの乗員も大変だったけど。
それがきっかけでミカもホワイトベースやガンダム、モビルスーツというものに少し興味を示した。
戦後、モビルスーツのゲームが出ると私と同じように熱中したらしい。
理由は他にやることがなかったからみたいだけど。
才能を開花させプレイがどんどん上達していく。それはもうのめり込むしかない。
後は私と一緒だ。トップ百人のプラチナランク認定からの連邦軍のパイロット育成学校への推薦状。
オンラインでのダウンロード販売なので、決算情報なども登録してあり、プレイヤーの本名、住所、年齢、性別は登録が元からしてある。
運営元が軍組織なので情報紹介が可能なのだろう。利用規約に書いてあるはずだ。
適正年齢の子供たちがジャブローに集められたというわけ。
この軍学校が曲者で、一癖も二癖もある個性的な子たちばかりだったのだ。
問題児はたくさんいるし、しゃべらない子もいた。そうそうアンジェなんてしゃべらない子の筆頭だった。今はこれでもだいぶ会話するようになったのだ。歌は普通に歌うのが不思議なくらいだ。
それでミカとアンジェは軍学校の寮仲間なのだ。その軍学校の実態はニュータイプ研究所という噂だけど。そして研究所は何人かに変な人体実験なども行っていたらしい。
私たちはその候補からたまたま外れていた。ある日突然来なくなる子もいたし、いきなり態度が急変した子もいる。なかなか後ろ暗いことをしているという噂だった。
それでもパイロットを目指すため、日々シミュレーターと私たちは格闘した。
ミカはアースノイドの中では一番成績が良かった。だからエレメンタル・ガールズに選ばれたのだろう。
スペースノイドからは私。アースノイドからはミカが。そして元ジオン出身からアンジェが選ばれた。
もちろん成績がいいスペースノイドは他にもいた。ただ容姿が悪かったり、男の子だったりしたのだ。女の子で容姿がよい中であれば、私はトップレベルの成績だったはず。
連邦軍はアムロさんを恐れているという噂がある。それで地球の基地で幽閉していると。
真の覚醒したニュータイプが怖いのだという。
私たちもニュータイプだと言われることがある。それでも子供だと思っているのは間違いない。
――しょせん子供だからいう通りにする。
そう判断されているのだ。
いいように使われているのが実情なので、その通りだけど、今はまだしかたがない。
私たちが実際ヒヨコであるのは事実だ。
パイロットとしてもニュータイプとしても。そしてアイドルとしても。
地球市民アースノイド。
私たちスペースノイドから見れば鼻持ちならない人たちだ。
多くの人たちが半強制的に宇宙移民させられる中、地球に残ることを許された特権階級だとされる。
例えば軍人とか軍関連施設の人などに多い。
ベルファストはあの豪華客船タイタニック号を建造した地で、その後も造船業が盛んだった。
地球連邦軍はここに補給基地を置いていた。
ミカの両親も港湾関係の仕事をしていた。軍人というわけではないのだけど近い立場だったようだ。
そして重要なのが0083年12月にできた『ティターンズ』という組織だった。
地球連邦軍内部の組織として結成されたのだけど日に日にその存在感を増している。
ジオン残党の討伐、反スペースノイド的組織でアースノイドの思想を色濃く反映している。
私は元々スペースノイドでサイド7出身なので蚊帳の外なのだが、問題はミカだ。
ミカはアースノイドでそしてエースパイロット候補生なので、当然ティターンズからもお誘いの話が来たことがあるらしい。
私のところに来ないのはそういうものだし、ジオンの子アンジェとは敵同士みたいなものだ。
それでミカなのだけど彼女はどうやら今のところ再三のティターンズのスカウトを断り私たちと連邦宇宙軍直轄の事業であるアイドル活動を続けるようだ。
ただそんなミカも次のお誘いがきたときにどうなるかはわからない。
なにやら向こうもいろいろな甘い言葉で勧誘しているらしいのだ。
たとえば直に連邦軍はティターンズに吸収合併されるので今のうちに入会しておかなければエリートとしての道を踏み外すことになる、とかなんとかすでに言われているそうだ。
ティターンズは選民思想からか価値観の相違なのか強引なところが見受けられる。
私はそういうところも気に食わないのだけど。
私たちのアイドルはジャブローのニュータイプ研究所の一つの事業ということになっているらしく、ティターンズそのものとは少し距離がある。
それが今後、どういうふうに風向きが変わってくるかは慎重に確認する必要がありそうだ。
場合によっては軍やアイドルを辞めざるを得ないことも想定はしている。
だから今はただ、二人と一緒に活動できることをよろこんで、精一杯できることはしたい。
「オセロットだおぉお」
「お、ミカ。よしよし」
「にゃーん」
「よーしよしよし」
「にゃはは」
「なにやってるです」
ミカがオセロットのぬいぐるみで遊んでいる。
きっと寂しかったか、クマのドミーが羨ましかったのかもしれない。
「んじゃこのオセロットはミカが保管しておいてね」
「わかった、にゃーん」
すっかり気分はオセロットのようだ。
普通ならガンダムの移動も穏やかにトラック輸送とかになるのだろう。
しかし経費削減なのか、今回は自走していくことになった。
再びガンダムに乗り込む。
できれば今すぐシャワーを浴びたいのだけど我慢だ。
「それでは移動を開始」
『『了解』』
こういうときは私たちだってふざけたりしない。
一応でも軍人のつもりでいる。人を殺すのが仕事なのだから。
スロットルを上げてバーニアを噴射して上昇する。原理的にはロケットの発射と同じだ。
バックパックのメインバーニアだけでなく各所に設置されたサブバーニアも使っている。
「いいわね」
『大丈夫』
『こちらも』
「では宇宙港へ」
『『了解』』
来た時と逆向きに進んでいく。
コロニーの芯にあるハッチに到着するとエアロックを通って港へと移動する。
現在は宇宙港の大型ドックにも空気が満たされている。
人がバイザーを下ろさないで作業しているのが見える。
そのまま通路を奥に進みホワイトホースまで移動した。
白馬の左足に当たる左舷ハッチから中に入る。
私たちのガンダムは左舷、ジム・カスタム小隊は右舷にいる。
発進時間を考えればガンダムも左右に分けたほうが同時に発進できる。
しかし空気を抜いたりメンテナンスなどをする関係では現在の編成のほうが効率がいいのだろう。
「ただいま帰還しました」
『三人とも了解です。お疲れ様でした。通信終わりです』
エルナ曹長がねぎらってくれる。