機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉   作:滝川 海老郎

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10.ミカ/アースノイド(2)

 さてサイドには四十あまりのコロニーがある。

 ここからが地獄のような日々だった。

 二週間計六回。人口の多い主要コロニー、それから観光地コロニー。

 ライブを日曜日、火曜日、木曜日とこなしていく。

 

「づがれだ」

「ミカ、だらしなくしない」

「だって、もう無理」

「あらよかったじゃない。今日のさっきのライブで終わりだよ」

「うん……むにゅぅ」

「ミカちゃんお疲れです。アンジェはまだ平気です」

「アンジェ、ありがとう~。やっぱり友達だもんねぇ」

「ふふふ、私は友達じゃないの?」

「クレアは軍学校で友達じゃなかったもん。話しかけても無視した」

「あら、まぁ、本当、ごめんね」

「うん。別にしょうがないよね」

 

 

 軍学校。そこは魔境だった。

 私クレアはまともなほうだという自覚があった。

 そして変な子の問いに答えるたびにトラブルになっていたのだ。

 学習したのだ。むやみにブツブツ言っている子に返答しないと。

 

「変な子、多くてよくトラブルになったから無視するようになって」

「うん。それでますます孤立していった」

「そうなんだよね。今思えばまだまだガキンチョだったわ」

「今は大丈夫だけど、あのころのクレア病んでたよね。危なかった」

 

 私は軍学校で孤立した。

 変な子同士は妙に波長が合うらしく、みんなそれぞれグループを作り仲良くしているらしかった。

 私にはよくわからないけれど無言でずっとじゃんけんをしている子とか、あっち向いてホイのニュータイプ特有のすごいやつとか、そういう子たちもいた。

 

「私はアンジェと仲良かったからよかったけど」

「うん。ミカちゃんアンジェと仲良しです」

 

 そのころクレアやアンジェともっと会話して打ち解けていれば、今はなかったかもしれないけど。

 私は寂しさを紛らわすように四六時中シミュレーターを動かすようになった。

 ずっとずっとコックピットに乗り込みコンピューターで戦闘訓練をする。

 なかには敵がアムロさんが搭乗しているという設定のベリーハードモードなどもあった。

 初代ガンダムの動きはそれはもう人間離れしていた。

 しかし次第にそれにも対応できるようになっていく。常に動いていればビームライフルにもそれほど当たらない。

 本物でずっと動いていたら推進剤切れになってしまうので、あくまで学校のシミュレーター特有の攻略法だった。

 そういう一種の抜け道的な解決方法、俗にいうグリッジぎりぎりの行為も駆使して、私は成績を上げることだけを考え続けた。

 それは家に引きこもってモビルスーツゲームをずっとやっていることの延長でもあったので、当時の私はそれほどまでの熱中がこれっぽっちも異常だとは思っていなかったのだ。

 今はわかる。あれは異常だった。どこかおかしかった。

 あのまま何年も続けていたら私はもう壊れていたと思う。

 でも連邦軍は壊れる前に私の成績を評価してエレメンタル・ガールズに誘ってきたので、その生活から抜け出せたのだ。

 タイミングは非常に良かった。

 

 

 ミカとアンジェは私がシミュレーターを頑張っているのは評価はしているみたいだけど、密かに心配してくれていた。

 ただ当時は私に話しかけても無視されていたのだ。そのころの私は人を見る目がなかったから。

 完全に人間不信だったと言い訳するしかない。

 

 

 ミカとアンジェとエレメンタル・ガールズとして初めて顔を合わせた。

 知ってる顔だったので私が嫌な顔をしたのは覚えていると思う。

 軍学校の子は変な人たちとしてひとくくりにしていたので、それはもう私の態度は悪かった。

 

「……クレア・ミッドランドです。よろしくお願いします」

 

 私の挨拶の時の顔は引きつっていたと思う。

 やっと軍学校から飛び級で出られたと思ったら、この子たちと一緒だったという顔だ。

 

「知ってると思うけど、私はミカ・レンギンス、よろしくお願いしますね」

「私はアンジェ・シュナイダーです」

 

 ふたりが一緒に手を出してくるので、私は両手で挨拶をした。

 

「私とアンジェは寮生だから知り合いで。クレアよろしく。笑顔、笑顔だよ」

「あ、はいっ」

 

 私は敬礼で応える。これからは軍人だったから。

 

「クレア。もうシミュレーターは卒業だ。それからひとりぼっちも卒業したんだよ」

「卒業?」

「クレア。私たちはあなたが頑張ってきたのはずっと、ずっと見てたから……」

 

 ミカとアンジェが抱き着いてきて、背中をさすってくれた。

 私はクソ真面目ちゃんをしていたので、びっくりした。

 その言葉を聞いただけで、今までの生活が頭の中によみがえってきた。

 二人は私がどんな思いでシミュレーターで一人戦ってきたか、見てたという。

 自分は彼女たちのことをこれっぽっちも知らない。名前くらいしか。

 それでも私のことを理解してくれていると感じた。

 

「うわあああああん……ミカさん、アンジェさん……」

 

 私は抱きしめられたまま、声を上げて泣いた。

 今までずっと軍学校で壁を作ってきた。

 ずっとたった一人の「普通の生徒」を演じてクソ真面目ちゃんをしてきた。

 全部、虚構だった。でもずっと見守ってくれている人がいたのだ。

 こんなに近くに。

 

 

 それからも二人は私に優しく接してくれた。

 自分は成績だけはよかったのでリーダーだったが、正直リーダー失格だと思っている。

 むしろ二人に支えられているのが実情だった。

 それでも、二人は私を信じてくれている。

 私だって彼女たちの期待に応えないと、天国で見ている両親にも顔向けできない。

 ミカとアンジェ。私の大切なお友達。

 同僚であり、パートナーであり、戦友であり、文字通りかけがえのない人。

 

 

 ホワイトホースがコロニー、サイド5をタグボートに牽引されて出港していく。

 別にタグボートがなくても自力航行もできるが、彼らは出入港のプロなのでお任せできるならしたほうがいい。どうせ費用は連邦軍持ちだ。

 コロニーから幾分か離れたところでタグボートからのワイヤーのフックを分離して、ワイヤーは巻き取られていく。

 その様子をずっとパイロットスーツを着こんで待機室の壁のモニターで外の宇宙を眺めていた。ここは艦の内側なので窓はない。

 なぜなのか。それはあのトラがこのコロニーにいたからだ。報告はしてある。

 しかしどこのだれでどこの船かはわからなかったという。

 サイド5を出港した直後に、あのホワイトベース隊のように襲撃される可能性もある。

 敵はムサイ級軽巡洋艦などではなく偽装輸送船に違いない。輸送船なんて無数に飛んでいる。

 どの船がそうかなんてわからないので、警戒態勢が敷かれていた。

 

 

 コロニーから離れていく。またコロニー群の間を通行していく。

 サラミス級もついてきている。いや実はサラミス級はさらに増えて四隻、ホワイトホース含めて全部で五隻体制になっていた。

 これだけあれば艦隊といえよう。

 撃墜されてしまったジム改二機の代わりにジム・カスタムが補給されて追加配備された。

 追加のサラミス改にもジム・カスタムが搭載されている。

 ジム改が四機、ジム・カスタムが八機体制となった。

 実を言えば最新型の量産機といえばジム・クゥエルだ。

 しかしジム・クゥエルの生産や配備は主にティターンズを中心に行われており、連邦宇宙軍直轄事業の私たちの所には回ってこないのだ、と愚痴を耳にした。

 

 

 モビルスーツはミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉という小型の核融合炉のエンジンまたはジェネレーターが使われている。

 重水素と木星から輸送してきたヘリウムの同位体ヘリウム3を反応させて核融合を起こす。

 ミノフスキー粒子のIフィールドで核融合反応で出る中性子線を遮断することで安全に扱うことができるようになった。

 ミノフスキー粒子を用いる方式により電気エネルギーを湯沸かし器であるタービンを用いずに高効率で取り出すことができる。

 モビルスーツは核融合発電機で駆動系は電気によるモーターによって行う。

 もちろん宇宙を移動したり地球でジャンプしたりするには、推進剤によるロケットエンジンが必要で、これをバーニア、スラスター、ロケットモーター、アポジモーターそれからブースターなどと呼ぶ。また噴射口特有の形をノズルという。

 固体ロケットをモーター、液体ロケットをエンジンと呼ぶ場合もある。一般的には固体ロケットは一度火をつけると途中で停めることができない。液体ロケットは停止が可能であったり再点火もできる物がある。

 推進剤には例えば水素があり、酸化剤も必要で多くは酸素が用いられる。水素と酸素を燃焼させると水ができる。つまり水蒸気を噴射して推力を得ている。

 液体水素と液体酸素は強力だが取り扱いが難しいので、灯油などの他の物質による推進剤も広く使われていた。

 

 

 サイド5領域を出る宇宙ブイを通過した。

 

「ふぅ。さすがにコロニー付近では仕掛けてこないね」

「うん、でもわかんないよね」

「オセロットさん次第です」

「だね」

 

 三人で少し緊張を解く。

 もちろんサイドエリアを出たからここから攻撃してくる可能性もある。

 

『ガンダム隊は休憩にしましょう』

 

 エルナ曹長から通信が入る。

 

「了解です」

「やったぁ、アンジェ。アイス食べに行こ」

「アイスです」

「え、私も……」

「隊長も来ます?」

「うん」

「じゃあ三人で」

 

 こうしてアイスの自動販売機のあるオープンスペースに向かった。

 

 

 

●Track5 『惑星グリーン』

 

 青い星 母なる大地  惑星グリーン

  どんな遠い 宇宙の 果てへ行っても

 私たちの 血は 地球人なんだ  重力の 力を 糧にして

 天を目指す 草の ように伸びろ

 

 木々が生えた 母なる大地  惑星グリーン

  どんな寒い 極地へ 住むことになっても

 私たちの 血は 凍ることはない  灼熱の 砂漠へ 行くことになっても

 私たちの 血は 渇くことはない

 

 水と空気 母なる大地  惑星グリーン

 宇宙 恒星 惑星 衛星  進め 自由と 未来 信じて

 

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