機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉 作:滝川 海老郎
休憩も終わりだ。
「ガンダムAX・ウンディーネ、出撃します」
また私たちの警備の順番が回ってきた。しばらくゴミの識別を続ける。
『隊長、ザク、一機接近です』
「了解」
アンジェから発見の報告が上がり、ガンダム三機で接近してきたザクを追い掛け回す。
なかなかベテランパイロットなのかよく動く。しかし旧型のザクだ。向こうの攻撃はガンダムの装甲では弾かれてしまうザクマシンガンだった。
何のために攻撃しに来ているのか。そしてなぜ単機なのかもわからないまま、追撃してビームライフルで撃墜する。
ビームライフルは弾がない分、エネルギーの充填を母艦でする必要があった。
このエネルギーを貯める仕組みをエネルギーCAPといい、さらにマガジンになっていて交換可能にしたものがEパックだ。
一年戦争当時はエネルギーCAPはビームライフルに内蔵するタイプが主流だったので、撃ち尽くすと再充填かライフル自体を交換する必要があった。
ガンダムAXのビームライフルはこのEパックのタイプになっている。
前回の戦闘でミカが予備のEパックまで持って行かなくて弾切れになっていたので、今はちゃんと予備を腰の後ろに装備している。
今は使っていないが、さらにシールド裏にもEパックのマウントポイントがある。
その後も、散発的にザクが飛んできては撃墜していた。
『次から次へと飽きもぜず、隊長』
「はぁはぁはぁ……」
『疲れちゃった、隊長ぉ』
『へとへとです』
持久戦なのだろうか。どんなにガンダムが優秀なモビルスーツでも運用するのは同じ人間なので限界がある。
どういうつもりで散発的に仕掛けてくるのか全くわからない。
少し戦争物のお話をかじったことがある人なら知っていると思う。『戦力の逐次投入』は愚策だ。
なぜわかり切っているのに、そんなことをするのか。
実は秘密基地が近いとか、何か別の作戦があるとか、もう十分な戦力もなくて戦術的な行動をとれていない、ということなのだろうか。
『左舷前方ムサイ級、です』
「は? ムサイですか」
『うん』
アンジェだ。アンジェは何かと索敵能力に優れている。
拡大画像がモニターのサブ画面に表示された。
確かに艦影は緑のジオン軍宇宙軽巡洋艦ムサイで、あの独特のハイヒールの踵の左右にエンジンブロックをくっつけたような形をしている。
すでに放棄されたデブリとかではなく運用中なのだろうか。
「あ、砲塔が旋回してる、こっち向いた」
拡大画像の砲塔が旋回、こちらの方向を向く。
「くるっ」
黄色い連装メガ粒子砲が三基、六門。こちらの方向へビーム射撃を行う。
目標はどうやら私たちのモビルスーツではないようだ。
右後方、サラミス改に直撃、激しい爆発が発生して轟沈していく。
「サラミスが、クソッ」
『やられたか』
『悲しいです』
燃料やミサイルなど可燃性のあるものと空気中の酸素、酸化剤などが誘爆して何回も小規模な爆発が起きる。その度に宇宙が明るく染まる。
今頃になってこちらのサラミス改とホワイトホースから反撃のメガ粒子砲が発射される。
何回か避けられるが、さすがに数が多い。いくつかは命中して、ムサイの右舷エンジンが爆発。しかしムサイはエンジンを切り離し、逃亡していく。
「全機、追跡」
『『了解』』
スロットルを全開にし、スピードを上げて飛んでいく。デブリには当たらないようになるべく広い空間を選んで前に進む。
私たちはこれでもニュータイプのつもりだ。これくらいの障害物。避けられなければパイロットではない。
「くっ、ザク三機」
三対三だ。このデブリに紛れて今頃出撃してきたのか。なんだか腑に落ちないが、応戦してしばらくザクを追いかけて順番に各個撃破していく。
「ザク撃破。ムサイを追う」
『『了解』』
シミュレーター通りだ。上側から回り込んで、ムサイの艦影を視界にとらえる。
ビームライフルの引き金を引く。モビルスーツと違い向こうは避けるのが難しい。
私のビームはブリッジに直撃する。ミカのは第一砲塔に、そしてアンジェのは左舷エンジンに命中した。
ムサイが沈んでいく。
サラミス改もだがムサイにもモビルスーツとは比較にならない人数が搭乗しているのだろう。
最後にひときわ大きな爆発に包まれてムサイは原形をとどめないほどになった。
なんでこんなことしなければならないのだろう。
戦争は終わったのだ。もはや無意味な戦闘であると感じている。
再び大規模な戦争になり連邦軍を倒せるというのであればわからなくはないが、今はそういうときではない。
なんでわざわざこんな場所に出てきて、的になんてなっているのか。
ムサイ級ともなれば貴重な戦力だろうに。
『他には見つからないです』
「了解。ありがとうアンジェ」
『ん』
こうして私たちはホワイトホースに帰還していく。
無事着艦をしてシャワーを浴びてオープンスペースにまた集合する。
一応としていつ敵が来てもいいようにここで待機しているのだ。
何をしていてもいいけれど、こういうのを準待機といったりする。
「それで、血が沸騰しちゃうっていうよね」
「ミカ。でも沸騰しなかったでしょ」
「うん。そりゃまあそうだね。それなら宇宙服のバイザー上げて遊んだりしないし」
何の話かというと、宇宙空間では血が一瞬で沸騰してしまうという都市伝説のことだ。
これは西暦のころから囁かれているらしいのだけど、実際には少し異なる。
まず沸騰するのに無重力はあまり関係がない。
日本の富士山の頂上にはその昔観測所がありカップラーメンを食べるときに温度が上がらない、という話は聞いたことがないだろうか。
つまり気圧が低下すると沸騰する温度が下がる。じゃあ宇宙と同じゼロ気圧だと沸騰してしまうのでは、というとコップを宇宙みたいに真空にすると地上でも沸騰する。ただしこれは摂氏百度になるという意味ではなく温度が低いまま沸騰している。
それで人間は宇宙空間でコップと水かというと怪我をしているならともかく普通は出血していないのですぐに沸騰したりはしないというのが答えだ。どちらかというと人間は『水風船』に近い。それで皮膚は破れるほど弱くはない。真空だと風船のように膨らもうとはする。それで毛細血管は破れて青アザができたり気泡ができたりする。それで真空だったら呼吸もできないので結果としては死んでしまう。ただし三十秒くらい宇宙空間にいても死んだりはしない。実際に空気が抜けても生存していた例が存在する。
無重力の影響は頭に血が上るなどの影響はあるものの、沸騰とはあまり関係がない。そうでないと宇宙船や宇宙服の中で生きていられない。
ただ骨や筋肉などを常に地上と同じ状態にするには無重力だと運動による負荷を与えないとどんどん衰えていってしまう。これは寝たきり生活に近いのだそうだ。
そういう意味で体の成長や長期間の滞在には重力はあったほうがよい。月は低重力なのであまり住みやすいとはいえない。私ならコロニーを推奨するだろう。スペースノイドの意見だけどね。
●Track7 『シリンダー世界』
ここはシリンダー世界 宇宙に浮かぶ円筒形
朝起きて ご飯を食べて 学校や仕事へ向かう
ここはシリンダー世界 宇宙に浮かぶ人工大地
夜は寝て また起きて 毎日毎日を過ごす
空が ぐるぐる 回ってる
月が ぐるぐる 回ってる
本当は 僕たちが ぐるぐる 回ってる
街並み 森 家 学校 河 空 海 街灯
道路 山 店 公園 建物 ビル 屋根 交差点
地球と そっくりだけど そっくりじゃない 僕たちの 大地
惑星と そっくりだけど そっくりじゃない 僕たちの コロニー
スペース・コロニー ここが新しい 僕たちの おうちだね