機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉 作:滝川 海老郎
ビーヨン。ビーヨン。ビーヨン。
ダルギルスのホテルにいる。
警報装置だ。敵襲があったらしい。ライブを無事に終えて私たちは重力下の休暇中だった。
それほどすることはないけれどスポーツジムなどに通って毎日汗を流したりしている。
この警報、全艦に放送することになってるみたいで、ここまで聞こえてくる。
近くのサラミスとジム改などが出撃していると思われる。
最近、なんだか頻度が高くなっているという話だった。
こういうのを強行偵察という。わざと敵の識別圏に侵入してスクランブル発進してきたのを観測して敵の戦力や出方を観察する方法をいう。
旧世紀から隣国同士が仮想敵国だとよく行われる方法だった。
一般人は気にする機会があまりないので知られていないだけで、実は一年中、戦闘機のスクランブル発進は行われていた。当時でも年間で二百件以上ある年もあったそうだ。
今回の警報はとりあえず私たちには関係がないので、そのまま惰眠をむさぼる。
『あーあー、クレア少尉、いますか』
「んんっ。なにミカ」
『遊びに行きましょう。いつまでも寝てないで』
「んん。わかった。着替えるからちょっと待って」
『了解』
壁にあるインターホンで通話をする。
さて着替えないと。重力下では着替えたりするのもやりやすいので助かる。
今日はどこへ連れていくつもりなのだろうか。
ダルギルスの中にはさまざまな店や施設が入っているので、まだ見ていない場所も多い。
「今日は映画見に行こ」
「いいよ、ミカ。アンジェもいい?」
「ん」
アンジェもうなずいたので専用の映画館へ向かった。
映画館なんていつぶりだろうか。ジャブローにもあるのだけど世界ツアーが始まってから、いやもっと前からずっと行ってなかったな。
私もゲームばかりしていて引き籠り気味でその後のパイロット学校時代も友達が少なかったから。
電子チケットを買ってゲートを通り並んでいる椅子に座る。
思ったより人も多い。それからカップルなんているんだね、まだ工事中だけど女性の姿もちらほら見える。
中には他の艦やコンペイ島勤務でこちらへ連絡船で休暇を過ごしに来た人もいるのかもしれない。
私たちがそうだったように。
そうそう宇宙機の中には「連絡船」という場合と「連絡機」という場合がある。
space shipであれば宇宙船だけど、大気圏内を飛べるタイプなどはspace craftやspace planeなどといって飛行機として扱われる。宇宙なのでややこしいのだ。
宇宙戦闘機も飛行機に似た形状をしているので宇宙専用だったとしても飛行機呼びされる。
映画が始まった。若い男女の恋愛アニメ映画だ。なんというか中高生が好きそうなもので宇宙世紀になってからアニメ文化もずいぶんとグローバル化した。
各地域、各制作会社の技術が混ざり合い綺麗な映像や技術を駆使した作品作りなど、なかなか見ごたえもある。
前世紀からあるブランドを引き継いだところも多い。
宇宙と地球を舞台に男女二人があっちいったりこっちいったりして甘々デートとかする作品だった。
「映画、まぁまぁだった」
「そうねミカ。もっと期待してたの?」
「うん。もう少し濃いのがいい」
「私は好きです」
「よかったね、アンジェ」
「ん」
アンジェがニコッと笑って頬を染める。なんだかこういう恋に純情なアンジェはとてもかわいらしい。
対するミカはもう少し三角関係とかドロッとした熱い恋がお好みのようで、このアニメみたいな爽やかな青春系は自分の若いころの傷でも障るのだろうか。
対照的な二人の態度がちょっと興味深い。
私はアムロさんに恋だかロマンだか感じていた自分を少し思い出してセンチメンタルな気分だった。
今度は電気屋さんに到着した。
電気屋といっても炊事、洗濯などは軍隊なので基本的に業務で行ってくれる人がいる。
そのためテレビ、ゲーム機、時計、ガジェット、携帯端末、など娯楽商品が多い。
「ハロ、ハロ。いらっしゃいませ~。いらっしゃいませ~」
ハロも置いてあった。赤、青、緑、ピンク、水色、オレンジと各色揃っていた。
「よう、ハロ。元気?」
ミカが声を掛けた。
「ハロ、元気。ハロ、元気。おまえもな」
「おおぅ」
「ハロです」
ミカに続いてアンジェもハロを観察している。もしかして欲しいのかな。
そうしてしばらく遊んでいたところだった。
ビーヨン。ビーヨン。ビーヨン。
『総員、第一戦闘配備、第一戦闘配備』
「おっと、第一戦闘配備とはこれまた穏やかではないわね」
「どうします隊長?」
「出撃するですか?」
「ホワイトホースに戻るわ」
「了解」
「了解です」
二人が足を揃えて敬礼をする。
んじゃ戻りますか。
いつそういう事態になってもいいようにホテルは片づけてある。
私たちは腐っても軍人なのだ。それも戦争が終わってるようで終わっていない時代の。
重力ブロックのエレベーターから中央シャフト通路を通って無重力ブロックへ移動してまっすぐ進んで中央の宇宙船ドックへと急ぐ。
ここ一週間、ガンダムAXを搭載したホワイトホースが点検と休暇を兼ねて停泊している。
暗礁宙域などの戦闘でザクマシンガンなどが当たった場所もあり補修もしていた。
「艦長、エレメンタル・ガールズの三名、戻りました」
桟橋の通路にある連絡用端末で通信を入れる。
『おお、戻ったか。了解、ガンダムの準備はもうすぐ終わる。少し待ってくれ』
「了解しました。パイロットスーツに着替えて待機します」
『頼んだ』
さて艦の中央のパイロット用更衣室へとリフトグリップで移動する。
重力では歩いたり走ったりするのは簡単だけど、無重力のリフトグリップのほうが速いので、どっちもどっちだった。
最低限どうしても必要な軍所属カード兼電子マネーなどは持ち歩いている。
ハロはお留守番をしているし、思い出の品などはホワイトホースにあるのを除いてポケットに入れている。
ささっと着替えてしまう。
「追加装備はぶっつけ本番か。普通は慣らし運転とかするんだろうけど」
『しょうがないわよ。クレア』
「うん。ミカ、アンジェ、いいかしら」
『『了解』』
ガンダムAXを起動。そのまま待機に入った。
私のウンディーネの追加装備は作戦時間延長ユニットなので、特に操作性にはほぼ違いがないようになっていた。
一番違うのはアンジェで追加のビーム砲がついている。使わなければいいとはいえ、使うなら操作方法は覚える必要がある。
訓練ではジムだけでなくジムキャノンの操縦シミュレーションもこなしていたので、大丈夫だとは思う。
基本的に初代ガンダムタイプから派生したモビルスーツなので操作性が統一されているのだ。
ジオン製のモビルスーツはそうはいかないけど、連邦は共通仕様が好きなので、こういうときは助かる。
正面の宇宙船ドックのゲートが開いていく。
外の宇宙と星々それから月が見える。
ホワイトホースが桟橋を離れてドックから出ていく。今回は緊急発進なので自力航行でタグボートはいない。
ホワイトホースごと外に出てみると映像が送られてきた。
戦闘中だ。複数種類のジムが飛んでいる。
敵はザク、ドム、ゲルググ。ジオン残党なのは明白だった。
珍しいMS-21Cドラッツェも確認できる。これはザクを改造して宇宙戦闘機ガトルのスラスターそれからプロペラントタンクをくっつけた簡易モビルスーツだ。
ザクよりは高機動なのだろう。固定のマシンガンとそれからビームサーベルが使える。
デラーズ紛争で多くが消失したらしいがまだ残存機がいるのか。
「ガンダム、発進します」
私たちも戦線に合流する。
そういえば小さなトラ、オセロットは出てくるだろうか。出てくるだろうなたぶん。そんな予感がする。
なんか変なプレッシャーを感じるのだ。こちらを見ている目というか。
戦場特有の空気が広がっていて、気持ち悪くなりそうだ。
人々の意思が渦巻いて、ぶつかり合っている。怨念なのか忠誠心のようなものなのか、さまざまな感情が飛んでいるモビルスーツからなんとなく感じられる。