機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉 作:滝川 海老郎
ジオンのニュータイプといえばサイコミュ兵器というものがある。
実は戦後、連邦軍はこの技術を習得するように必死に研究を続けているらしい。
しかし一年戦争終結前後、ジオンのフラナガン機関が資料や所属している子供たちを隠蔽したり破壊工作をしたりと、連邦は激しい妨害に遭った。
それもありなかなか技術の再現に成功しておらず、戦後五年経過しても未だに同じような物はできていない。
連邦軍でのニュータイプそのものの研究が遅れていたことも関係していた。
私たちは高機動型のモビルスーツを使うことでなんとかしているものの、本領を発揮するのはサイコミュ兵器のはずなのだろう。
そのサイコミュ兵器にはミノフスキー粒子散布下での無人兵器の誘導技術がある。
このサイコミュ兵器と空間を支配する感情的ななんとなく感じられる情報には関連性があるように思う。
そんな感情のことを連邦軍に言ったところでエスパーがどうのと言われるだけなのだろうけどもね。
敵も味方も多い。戦場は乱戦になっていた。
どこからこんなに多くのジオン残党が出てきたのだろうか。
「目標はなんだろうね」
『まさか私たちのガンダムじゃあ』
「違うと思うわ。これはあれよ。ダルギルスね。移動要塞なんて作られたらジオンからしたら目障りに決まっているし」
『そう思います』
ずばりアンジェにも言われるとなんだか説得力がある。
私たちホワイトホースはダルギルスの正面に展開する。
問題はダルギルス本体は大した攻撃手段がないということだ。あれだけの巨体なのに実態はミニコロニーに近い。
メガ粒子砲でもついていればあるいはとは思うものの、まだ未完成品に過ぎない。
ビームライフルやマシンガンの射線があちこちに見える。
この情報量をすべて処理するなんて不可能だ。一般兵だったら困りそうだ。
私たちも全部は処理できず、まず自分たちに関係なさそうな情報を捨てて残りを吟味する。
それをディスプレイの映像を見て瞬時に脳内で判断していく。
その間もモビルスーツの操縦はしているので、なかなか難しい。
『ザク、接近』
「ザクが何よ」
ビームライフルを撃つと直撃、爆発する。
「ザクはもういい加減にやめればいいのに」
『あれ、なんなんだろうね、隊長』
「さあ」
『ジオンの意志です』
アンジェが答えをくれる。ザクに乗っていることが誇りの人たちがいるのだ。
さすがに連邦側にはもう浮かぶ棺桶ことボールは見られない。
時代は本格的なモビルスーツ戦に移行しているのだ。いつまでもジオンのザクに一方的にやられる時代はとっくに終わっている。
しかしゲルググは脅威だ。特にベテランパイロットのゲルググは。
ティターンズなどは新型モビルスーツの開発もしている。次第に私たちのモビルスーツも旧式化していくのだろう。それが時代の流れだ。
『ドム三機』
「ありがとうアンジェ」
三対三。しかしまず一機を狙って落とす。すると三対二になって有利だ。
そこを追い掛け回して撃ち落とした。
なにも一機ずつ並んで相手をするつもりはない。
戦場には核ミサイルはともかく卑怯もなにもない。ただ自分が死ぬか相手が死ぬかそれだけだった。
『敵の後方、ムサイ三隻。それからあれ赤茶のチベ級です』
またアンジェが教えてくれる。
チベ級とはまた珍しい。ジオンの重巡洋艦で小艦隊の旗艦などを務める。
戦艦クラスのメガ粒子砲がときおり飛んできてはジムなどを破壊していくのが見える。
味方がうまく射線に入らないように事前に打ち合わせをしているのだろう。
なかなか優秀な将官でもいるのかもしれない。
『マジで艦隊じゃないか。どこにこんな戦力』
「暗礁宙域なんだろうね。ミカ、宇宙は私たちが思ってるよりずっと広いんだ」
『なるほどね』
ロックオンの警告が出る。
「緊急上昇」
『『了解』』
艦隊の射線がこちらを向いているという警告だ。
私たちが上昇した直後、すぐ下を三連装メガ粒子砲のビームが通過していく。
『あっぶね』
ミカがもごもごと言った。
のんびり飛んでいる場合ではない。
「そういえばオセロットは?」
『未発見です。ミノフスキー粒子も濃くて』
「そっか、ありがとうアンジェ」
ゲルググが接近してきていた。しかし一機だ。私たちは空中戦を展開する。三対一だがなかなかしぶとい。何発も無駄撃ちをしてしまうが、やっとゲルググに命中した。
大きな爆発が発生する。
また一人、私たちが殺したのだ。ジオンのパイロットを。
人の死を感じつつも、狙われているのはこちらの命だ。攻撃してきているのはジオン残党であって連邦軍ではない。
自分たちは自衛行為ということになる。
もっともそんなのただの言い訳にすぎない。わかっている。人殺しはどうしたって人殺しだった。
気分は最悪だ。
戦っているうちにムサイとチベが接近してきていた。
そのうちムサイ一隻はこちらのメガ粒子砲が命中したらしく撃沈していた。
また敵艦隊からのメガ粒子砲が飛んでくる。
しかし目標は私たちモビルスーツ隊ではなかった。
後方のダルギルスが射程距離内に入っていたらしい。
次々とビームがダルギルスに命中していく。
ダルギルスの近くまで敵モビルスーツが接近するのは難しいが戦艦のビーム砲なら届く。
普通なら遠距離だとミノフスキー粒子の影響もあって命中精度が悪いのだけど、なんといっても的はミニコロニーや木星輸送船くらいのサイズがある。
大きな的は狙いやすい。簡単なことだった。
まだチベにこちらのモビルスーツ隊がたどり着けていない。
ジオン残党は全力を出しているのかなかなかしぶとい。
またメガ粒子砲のビームが命中、ひときわ大きな爆発がダルギルスを包んでいく。
『ダルギルスが』
ミカが呟くように悔しがる。
「ええ。大きな的、か」
私にだってわかる。あれは的だ。
『もう持たないです』
感情のない声でアンジェが最後通告をしてくる。
「残念だけど……」
私だって救いたかった。誰も死なない平和な世界にしたい。
あの映画館もコーヒーショップも、それから美味しいミルクを出すウシも。
ダルギルスが次々と爆発を起こし、そして重力ブロックから部品が遠心力で四方八方に飛んでいく。
「ウシが」
アップにしている観測モニターにウシが映っていた。
白と黒のホルスタインは特徴的だ。本物のウシが宇宙を漂っている。最初は足がバタバタしていたがすぐに動かなくなった。
どんどん流れていき見えなくなる。
『ムサイ二隻、チベ、方向転換』
「了解、ここまでね。こちらも撤退」
『『了解』』
私たちも周辺索敵をしつつ、ホワイトホースの近くまで下がる。
もう後ろには原形をとどめていないバラバラになったダルギルスだったものが浮いているだけだった。
あんなに大きなものが爆発して、今はもうデブリの塊に見えるだけ。
連邦軍が何年もかけて建造したいわくつきの移動要塞ダルギルス。
たった一回の艦隊の攻撃を受けて撃沈した。その最後はあっけなかった。
あんなに大きくても簡単に沈む。ちょっと直視しがたい。
『ダルギルス、なくなっちゃった』
ミカが口から言葉をこぼす。
「うん」
私はただ返事だけをした。複雑な感情がある。
だってさっきまで私たちはあそこで休暇を楽しんでいたのだ。
人の楽しみを壊す人は私は大嫌いだ。
それから人を殺す人も嫌い。私は私が嫌い。人を殺すから。
それでも守らなければならないと思っていた。守るべきものがあると。
人はだからこそ戦える。自分の後ろにいる多くの人の笑顔が思い起こさせるから。
でも、それもこれも、みんな散っていった。
これからどうしたらいいのだろうか。
美味しいカフェオレを飲むたびに、あのカフェモーモーを思い出しそうだった。
●Track9 『進めレインボー』
進めレインボー 虹の先へ 大空を 羽ばたいてく どこまでも
進めレインボー 虹の先へ 真空を 羽ばたいてく どこへでも
今日は雨 曇天の空 広がる 闇世界 それでも がむしゃらに ただ戦うだけ
いつの日か 晴れ間が広がり 虹がかかるよ
進めレインボー はるか遠く 進めレインボー いつかきっと
僕たちの 未来地図 明るく 照らして
僕たちの 夢希望 ミラクル シンフォニー