機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉 作:滝川 海老郎
『敵、ドム三機』
「『了解」』
リック・ドム小隊だ。この辺にチベ級も潜伏しているのだろうか。
『図体がデカい割に速い』
「ミカ、黒い三連星だっけ」
『うん。死神の列ね』
ドムはかなりの連携だ。また三対三なので各個撃破するか全機で一機を狙うか。
ベテランチームなのだろう、なかなか一機が突出することもない。
「本物の死神はアムロさんが倒したんだ。もういないんだからっ」
私のビームライフルが先頭のリーダー機と思しき機体を貫通して爆発する。
「やった」
『よっしっ。ナイス、クレア』
「ありがと」
残り二機。
そこへさっき帰還したはずの黒いガンダムが向かってくる。
『私の獲物ですわぁ』
ビームがドムを狙っているが、自分たちのガンダムをかすめる。
「ちょっと、ワン少尉!」
『邪魔するんじゃありませんわ』
ビームが連射されてドムと自分たちの間を通過していく。
最後のビームがドムに命中、再び爆発を起こした。
適当に撃っているようにも見えるが、あれで狙っているようだった。
ただし、もし私たちに当たっても別にどうでもよさそうな態度だった。
「仲間なんですけど」
ミカがお冠だ。私だって仲間に背後から撃たれたらやりきれない。
もちろん混戦の宇宙空間では普通にあり得ることだ。
それでも普通はなるべくそうならないように注意して攻撃する。
それが人間ってものだろう。
強化人間は人間を忘れてしまったのだろうか。
人間はどうでもいい機械生命体アンドロイド……。
そんなはずはないがSFに出てくるディストピアを彷彿とさせる。
『ははははは、落ちろ、落ちろ、落ちろですわ』
再びビームの連射が飛んできてドムをハチの巣にして爆発四散させた。
腕は悪くないようだった。
それでも文句の一つも言いたくなる。
普通のパイロットであれば試験に不合格になってもおかしくない行動なのだ。
『索敵、クリアです』
「ありがとう、アンジェ」
周りに敵はいない。しかし黒いガンダムはいる。
果たして本当に味方なのだろうか。
それともティターンズの手によって私たちを乱戦の中、暗殺しようとしているのか。
まさか、とは思うものの、自分たち連邦宇宙軍がティターンズとあまり仲がよろしくないのは事実だ。
スペースノイドに媚を売る連邦軍のアイドルなんてティターンズからしたら目の上のタンコブだろう。
さぞ目障りに違いないのだ。
はたして敵なのか味方なのか。
「どっちも連邦軍のはずなのにな……」
『うん』
私の独り言にミカもうなずく。アンジェは黙ったままだった。
確かに彼女はドムを二機撃破した。その活躍は素晴らしいだろう。
強化人間というものが新人類で自分たちを置き換える未来もあるのかもしれない。
しかし人間として見るとなんというかネジが抜けているように見える。
ニュータイプや強化人間とはそもそもなんなのだろう。
連邦軍は未知の力、超能力者エスパーだと信じている人も多い。
答えはどこにもない。ただサイコミュ兵器をはじめとする兵器運用に強いということだけは事実としてあった。
エースパイロットと何が違うのか。
連邦軍としては勝てればなんでもいいのだろう。それがオカルトと呼ばれようが眉唾ものといわれようが気にしてはいない。
ジオン残党に勝ち地球圏宇宙を統一する。それが連邦政府の考えなのだろうし。
それからも出撃は続いた。自分たちもザクやドムを十機近く撃墜した。
そしてそれ以上に黒いガンダムAXのワン・ムラサメ少尉はたった一機で同じく十機近い敵を倒していた。
強さは証明されている。
またスクランブル発進してきたワン少尉が今度はゲルググを撃墜した後だった。
『あははははは、消えろ! 世界から消えてしまえ、ですわ』
なにやらまた過激なことを言っているなと思っていた。
『うおおおおおお。なんだこれ、なんだこれ、気持ち悪い。気持ち悪い』
急に苦しみだしたのだ。
『世界がおかしくなる。こんなのは普通じゃない。もうおしまいだ』
「ちょっとワンちゃん、大丈夫?」
さすがのミカも心配しだした。
ガンダム四機が並んでいるが黒いガンダムは動きもおかしい。
『私、なにを。こんなのイヤ、イヤなの、イヤですわ!』
それきり応答がない。
私たちは黒いガンダムを引っ張ってシーライオンまで連れて帰った。
コックピットを強制解除して開けて、ワン少尉は医療班に連れられていく。
「大丈夫なのあれ?」
ミカが心配している。案外ミカは毒づくこともあるが優しさもある。
「大丈夫じゃないよね」
「欠陥品です」
「ちょっとアンジェ」
「すみませんです。口が滑りました」
普段感情をあまり出さないアンジェが悪口を言ったと思って顔を見たら、今にも泣き出しそうだった。
口をきつく結んで涙をこらえている。こんな表情は見たことがない。
違ったのだ。ワン少尉の悪口を言ったんじゃない。彼女をあんな風にした連中の悪口を言ったのだ。そしてワン少尉のことは実質敵同士だとしても心配していた。
「もしかしたら、あれが私たちだったかも、です」
「うん」
「そだよね」
私もミカも苦虫をつぶしたような表情をしているだろう。
こんなの人間のすることではない。
強化人間が素晴らしいテクノロジーで諸手を上げて歓迎できるならいいけれど。
実際はこれだ。アンジェが言ったように欠陥技術じゃないか。
それを人体実験をしてむりやり進めようとする連邦軍やティターンズの姿勢に反吐が出そうだ。
私たちはまだニュータイプもどきではあるけど人間として扱われている。
今回のことで痛いほどわかった。わからされた。
強化人間の技術は未完成で危険だ。
しかし軍の決めたことを私たちの意見でひっくり返したりする力は持っていない。
歯がゆかった。
自分たちがニュータイプ部隊だと浮かれていたことも。
裏ではニュータイプに代わるこんな強化人間を作っていたことも。
自分たちは信用されていないのだろう戦力として。
それからもしかしたらアイドルとしても。
いつの日か、お払い箱になる日も近いかもしれない。
相手に『信頼されていない』と感じて仕事を続けることは難しい。
信頼関係が崩れてしまったら元に戻すのも困難だろう。
私たちはどうしたいのだろうか。何が出来るんだろう。何をしたらいいんだろう。
自問自答してみるも答えはすぐには出なかった。
●Track10 『シックス・センス』
広がる 世界 無限の 感覚
どこまでも どこまでも 感情が 伝わっていくの
広がる 宇宙 極限の 感覚
どこへでも どこへでも 気持ちが 伝わっていくの
人間には 心があるよね 当たり前 だと思ってるけど
人間には 体もあるよね 当たり前 だと思ってたけど
世界は 本当に 広くて
みんなの 気持ちが あって
一人ひとりは 違う人でも 心は 通じ合う 未来
シックス センス いつか見た未来 溢れる気持ち押さえられない
シックス センス 遥かなる世界 こぼれる気持ち押さえられない
新人類 ニュータイプ 誰もが信じたい 明日を目指して