機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉   作:滝川 海老郎

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22.フォン・ブラウン/月面都市

 結局、ワン少尉は任務から離脱。しばらく入院措置になるそうだ。

 私たちスプライト・プリンセス部隊はチベ級を発見できずに一週間近く暗礁宙域を捜索した。

 チベ級を含むジオン残党艦隊は他の部隊が見つけ、多大な被害を出したものの討伐したという連絡がきていた。

 自分たちは無駄足ではなかったけど、それほど活躍もできずに引き返すことになった。

 ダルギルス攻防戦の前に、簡易的な補給や修理をダルギルスでしたものの、まだ傷跡は残っている。

 それから次のライブの予定がすでにあるのだ。

 チケットの販売など予定通りに進める必要があるので、私たちは先を急いだ。

 

 

 次は『月面都市』その名はフォン・ブラウン。月の地球側に位置している。最も大きな月面都市だ。

 月はずっと地球側を向いている面と裏側と呼ばれる地球から見えない面がある。公転周期と自転周期が同じだからだ。あとそれから重力は地球の六分の一なのも有名だろう。

 それでフォン・ブラウンは南北側はちょうど赤道、真ん中付近にある。ここは元々静かの海と呼ばれた場所だ。

 アポロ11号月着陸船が世界で初めて月面に下りた場所が現在のフォン・ブラウン市だった。

 名称はアポロ計画で活躍した科学者から名付けられた。

 一年戦争時は中立都市を宣言し実際に戦時中通して中立を維持した。

 大きなクレーターをくり抜いた半地下構造をしている。

 月面から見ると太陽が昇って沈むまでに十五日前後かかる。これは地球から見ればちょうど月の満ち欠けのことだ。つまり月の一日は二十八日間ということでもある。

 人間が住むのに適しているとは決して言えないが工業などが発達しており、モビルスーツや戦艦などの多くが月面で開発や組み立て、建造が行われている。

 ルナツーやコンペイ島などにも軍の生産拠点はある。

 なおルナツーは直径二百五十キロメートルでコロニーなどよりも巨大だ。

 ルナツー内にはコロニー同様の遠心力式の重力ブロックも完備されている。

 製品によっては重力下のほうが作業がしやすい場合もある。特に小さな部品などは無重力では浮いて散らばってしまいやすいので重力で地面に落ちるほうが楽だったりするようだ。

 月は無重力と重力のいいとこ取りなのかもしれない。大きなものを地球よりも簡単に持ち上げることができる。

 月の地下施設は何層にもなっていて下の方にはスペースデブリを回収したジャンク屋などが並んでいた。

 それからフォン・ブラウンといえば軍産複合体アナハイム・エレクトロニクスだろう。本社ビルがフォン・ブラウンの郊外にある。白いAEのロゴが特徴的だ。家電製品から宇宙戦艦まで電気製品なら何でも作るような企業だった。

 ジオニック社などのジオン系の会社の技術を吸収し近年業績を飛躍的に伸ばしている。モビルスーツ製造については連邦系の技術とジオン系の両方を扱っており、それらを融合させた新型の開発に力を入れていた。

 

 

 月面にホワイトホースとシーライオン、さらに数隻のサラミス改が降下していく。

 月への着陸はアポロ宇宙船がそうであったように地球と比べたら何倍も簡単だ。

 まず月周回軌道から速度を落としていくことで高度が下がり、最後に相対速度をなくせば完了だ。

 地球にはもっと強い重力がある。さらに地球で問題なのは大気で摩擦により速度を落としていくのだけれど条件を合わせなければ自分が流れ星、お星さまになってしまう。つまり隕石と同じ運命になる。

 近年の技術では大気圏突入用に使い捨てのバリュートシステムが多く用いられるようになっている。比較て安価で前方に大きな風船のようなものを広げて減速する仕組みだった。

 近くで見る白く光る月面はなかなか綺麗だ。

 ホワイトホースのオープンテラスでミカがキラキラした目をして外を眺めていた。

 

「フォン・ブラウン。アナハイム――」

「うん、そうだね」

「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」

 

 ミカが右手の人差し指を立てて得意げに言う。

 すでに低重力ではあるものの月の重力圏なので上下反対にはなっていないで床に立っている。

 

「アームストロングね。最初に『ここ』に降りた人。アポロ宇宙船」

「そそ」

「昔の人もびっくりです」

「うん。こんな大きな都市になるとは思わないわよね」

「はいです」

 

 ちなみにサターンⅤロケットで打ち上げられたアポロ宇宙船は三日で月まできている。

 宇宙空間にいると距離や時間感覚がわかりにくいのは難点だ。

 宇宙空間の移動はだいたい黄道面を通るものの、この宇宙世紀ではデブリ帯を通過するときは速度を落として避けて通る必要がある。デブリのある暗礁宙域を避けて遠回りすることも多い。

 月面に蓋をするように宇宙港があり大きなハッチが開いて戦闘艦が入港していく。

 月面付近でも宇宙空間とそれほど勝手が違うわけではないようでミノフスキー・クラフトがない艦でも月には降りられる。

 ただ上下があるので、そういうモノを考慮していない特殊な宇宙船の場合は困るかもしれない。普通は月面での運用も考慮されていて、地球上と同じように宇宙船でも上下をあわせてあるものだ。

 下部にある艦橋が上下反対向きについているということはまずない。

 一点、私たちのホワイトホースの場合、遠心力の重力ブロックが運用できないのが少し困るくらいだろうか。重力ブロックの運用ができないのは地球上でも同じだ。当然のようにひっくり返したバケツになる。上下反対では生活できない。

 さてフォン・ブラウン市に入港した。ちなみに月の裏側には月面都市第二位のグラナダ市がある。

 グラナダはジオンのサイド3側にあり一年戦争時にもジオンの勢力下にあった。こちらにもアナハイム社系列のグラナダ工場がある。

 またフォン・ブラウン、グラナダなどは元々資源採掘場でありサイドのコロニー建設の資材を提供していた。主要な月面都市には打ち上げ用のマス・ドライバーというレール状の設備がある。

 地上用のマス・ドライバーは重力と加速度の関係で不利がある。一方、低重力の月面では非常に有効な設備だった。

 マス・ドライバーは既存の設備でいうと、カタパルトや電磁石で動くリニアモーターカー、ジェットコースターに近い。

 また月面上にはレーザー推進ステーションも設置されている。これは一部の戦艦や大型のコロニー輸送などに使用される。

 月に上陸した。

 

「すごいすごい。月、月」

 

 ミカがはしゃいでいる。

 

「ほいほい」

 

 戦前の小さいころ、私は来たことがあるのでそれほど珍しくはない。

 サイド3出身のアンジェも近いので来たことはありそうだ。

 孤児院の遠足とかで年一回の月旅行とかありそうだし。

 社会科見学にもいいだろう。

 

「地面が平らだ」

 

 ミカがきょろきょろしながら言う。

 そりゃそうなのだがコロニーやダルギルスにいたのでその感想自体は理解できる。

 大型デパートがさらに大きくなった感じだろうか。

 天井までは三階建てがすっぽり入る二十メートルほどある。

 その天井には電灯パネルが貼ってあって、太陽の代わりをしていた。前にも言ったが夜間と昼間がそれぞれ十五日間前後続くので外の太陽光を取り入れて生活という訳にはいかないのだった。

 ただ歩きにくい。低重力で足の裏にマグネットを装着してくっつけることで歩けるようになっている。この磁石は月面だけでなくて場合によっては宇宙船の中でも便利であるので使われることがあった。

 宇宙空間の無重力または低重力なのにモビルスーツや人間が歩いている映像シーンがある場合はだいたいこの磁石式が多い。

 モビルスーツの場合、カタパルトや専用の場所で足の裏にフックも装備されていて固定できるようになっている。

 一年戦争中のジムやボールがロープもなしにサラミスに立っているのも同じ原理らしい。

 

「それじゃあ公園いこ公園」

 

 ミカが先導してくれる。

 第一層、ここにはアポロが着陸したことを記念する『アームストロング広場』がある。有名な観光地だ。

 月着陸船とアポロ宇宙船の展示があった。

 

「ふーん。これが月着陸船なんだ。思ったより小さいね」

「うん。あの百メートルはあるサターンロケットでも月まで運べるのはこれだけなんだよね」

「なるほどです」

 

 西暦二〇〇〇年代までサターンⅤは最大のロケットだった。スペースシャトルも大きい印象だがサターンⅤよりは小さい。

 

「アイス!」

「うん」

「はいです」

 

 ミカが今度は露店のアイスを欲しがった。私たちも一緒に食べる。

 バニラアイスだ。普段はアイスモナカだけど、ここはよくあるカップコーンに入ったタイプだった。

 

「美味しい!」

「ええ、美味しいわ」

「美味しいです」

 

 アイスも外で食べるとまた違う。女性三人というのも悪くない。

 ミカやアンジェは彼氏とかいないようだけれど、もし彼氏にするならどんな男の子を連れてくるのだろう。

 アンジェが男の子と一緒にアイスを食べるところはちょっと想像できない。

 きっと寡黙な少年で目線だけで通じ合っちゃったりするのだろう。

 なんだか自分の手を離れるようで寂しいような気持ちになる。

 でも今は私たち女の子だけだ。

 もしワン少尉がもう少しフランクで入院していなかったら一緒にアイスとか食べたら打ち解けられただろうか。

 

「ワン少尉とも一緒にアイス食べてみたかったね」

「あ、うん」

「そうですね」

 

 ミカはアイスを食べるのに必死だ。アンジェは私と同じような気持ちなのか寂しそうな表情をした。

 彼女だって同い年くらいの女の子だ。きっと分かり合えることもあるはずだった。

 

「そういえばオセロットのおじさん、何してるかな」

「さあまだ暗礁宙域をふらふらしてるんじゃないの」

「そうです、ね」

 

 撃墜されたという話は聞かない。あの薄紫の機体はけっこうユニークなのでもし見つかったら報告がくるだろう。

 敵だとは思っている。しかしなんとなく気になってしまう。

 ぬいぐるみをわざわざ持ってきたりするくらいなので、どこか親しみのある近所のおじさんみたいなイメージがある。

 ここフォン・ブラウンでもライブがある。

 アームストロング広場のすぐ近くの野外コンサートホールで行われる。

 今回はガンダムは輸送して立てておくので、乗っていく必要はなかった。

 ガンダムAXはアレックス系列なのでオーガスタ研究所の設計なのだが製造は月で行われたので、アナハイム社製だった。

 今回はお里帰りとなる。きっとアナハイムの関連会社の社員も大勢見にくるに違いない。私たちではなく背後に立つガンダムAXを見にね。

 

 

 日付が変わって。ちゃんとした重力下ではないライブはルナツー以来だ。

 月が実際には一日十五日だったとしてももちろん照明は地球時間で変更される。

 ルナツーでも重力ブロックでやればよかった。外から飛んでくるという演出上それは無理だったんだけどね。

 今回は低重力なのでこれはこれでまた勝手が違った。

 

「エレメンタル・ガールズです!」

「「「わあああ」」」

 

 また挨拶からライブが開始される。

 個別の挨拶をして、一曲目の曲紹介だ。

「それでは聞いてください。『エレメンタル・ガールズ・リフトオフ』――」

 

 

 

●Track11 『ムーン・ラビット』

 

 ぴょん、ぴょん、ぴょぴょぴょん ぴょん、ぴょん、ぴょぴょぴょん

 月のウサギは お空を跳ねる  月のウサギは お空を跳ねる

 それは 遠い遠い 地球のお話  それは 古い古い 地球のお話

 月に 見える見える 模様のお話  それは 月にウサギ 満月のお話

 十五夜に 輝く 夜空 空を飛ぶ ウサギちゃん

  ぴょんぴょん 飛び回って みんなを明るく照らす

 ぴょん、ぴょん、ぴょぴょぴょん ぴょん、ぴょん、ぴょぴょぴょん

 月のウサギは お空を跳ねる  月のウサギは お空を跳ねる

 

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