機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉   作:滝川 海老郎

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23.ア・バオア・クー/連邦の影

 月のフォン・ブラウンでのライブも成功を収めた。

 その後、ホワイトホースのみフォン・ブラウンを出港しそのまま月の反対側まで行ってグラナダに入港した。

 グラナダでも同じようにライブをしたのだ。

 

「アンジェちゃん!」

「「「アンジェ、アンジェ、アンジェ」」」

 

 個人紹介のとき、アンジェコールが沸き起こった。

 これはちょっと想定外だったのだけど、アンジェがアドリブで小さく手を振っていてかわいかった。

 アンジェの照れた笑顔もたいへんよろしい。

 元ジオンの勢力圏内なのでアンジェのファンが圧倒的だったのだ。

 これはこの先向かうサイド3でも同じような感じだと思われる。

 

 

 その前に私たちは他の艦とも合流してア・バオア・クーへと向かった。

 ただしあれからワン・ムラサメ少尉の調子が悪く、シーライオンは引き返すことになった。

 元々私たちの部隊所属ではなく臨時の合流だったので問題はない。

 ただオセロットが出てきた時に彼女の強さは頼りになりそうだっただけに残念だ。

 元ジオンの要塞、ア・バオア・クーだ。

 一年戦争当時、サイド3の前には、ア・バオア・クー、グラナダ、ソロモンが並んで防衛線を作っていた。

 まず連邦軍はソロモンを落として年末にはア・バオア・クーを攻略することになった。

 ソロモンでドズル・ザビが戦死して、その後ジオンのコロニーレーザー・ソーラレイによりデギン・ザビが死亡した。ギレン総帥による暗殺だった。

 ア・バオア・クーでギレン・ザビ、キシリア・ザビ両名が死亡したことによりザビ家指導者が全員死亡したことになる。戦闘は終結し、ジオン公国はジオン共和国へ移行した。

 0080年1月1日、地球連邦政府とジオン共和国の間で終戦協定が結ばれた。

 そのためグラナダおよびサイド3本国はそのまま残されたのだった。

 問題は終戦協定を結んだのがジオン共和国名義であってジオン公国ではなかった点だ。

 ジオン公国軍の一部はこれに反発して、納得していない人はゲリラ戦へと向かって地球、宇宙両方で隠れながら抵抗を続けている。

 そしてデラーズ紛争が起きて、今でも暗礁宙域をねぐらにしてゲリラ戦が絶えないのだった。

 ティターンズはそれを討伐しつつあるが、先行きは不透明だ。

 ジオン残党の討伐よりもコロニーでのデモ活動の鎮圧活動のほうにお熱だったりする。

 連邦宇宙軍は普段では私たちを含めて小数がジオン残党狩りを続けているだけで、こちらもあまり活動はする気がないようだった。

 上層部がどういう政治姿勢で軍をどうするつもりなのかは正直なところよくわからない。

 真面目にやる気がないのか、それとも派閥や軍閥といったしがらみが大きいのもあるのだろう。

 ジオン残党狩りはそれほど進んでいないというのが事実だ。

 

 

 ア・バオア・クーへ行く途中だった。

 近くをコンテナ輸送船が通過していく。

 それを眺めていたのだけど、ハッチが開いていくではないか。

 

「うぉおおおい、あれ、あれ見て」

 

 呑気に待機室でアイスコーヒーをすすっていたのだけど、それを見てミカが叫ぶ。

 

「あらまぁ、いやだわ」

「クレア、あれあれ、ゲルググ、薄紫」

「単艦で私たちを狙うか。さすがはオセロット」

「急ぐです」

「あ、うん」

 

 パイロット更衣室へ向かう。ささっと脱いでパイロットスーツを着こむ。

 今回ばかりはガンダムを失うかもしれない。宇宙へ放り出されたらパイロットスーツだけが頼みの綱だ。

 袖などの機密チェックをしてエアロックを通りガンダムへ乗り込む。

 

「ガンダム、発進!」

 

 すでにスクランブル待機組のモビルスーツが上がっていて戦闘中だった。

 ジム・カスタム部隊といえどオセロットの相手になるかは疑問だ。

 ジム・クゥエルがせめて自分たちのところへ回ってくれば。しかしあれはティターンズ優先だった。

 ゲルググの黄色いビームがジムを貫いた。

 

「やられたか」

『オセロットっ』

『ん』

 

 私が呟いてミカが相手の名を叫ぶ。アンジェは沈黙をもって応える。

 高機動ユニットをつけたミカの機体が先行する。

 

「ミカ、あまり先行しない」

『了解』

 

 いますぐジム・カスタムに追いついてしまいたいが、一機で先行したら的になってしまう。

 キャノンを背負っているアンジェ機が少しだけ遅い。

 宇宙の速度は純粋に質量と出力比の関数に従って動きが決まる。

 制限速度はないが、あまりに早過ぎたら行き過ぎてしまって意味がない。

 

『おのれオセロット、待ち伏せか』

 

 この航路を通っているということは事前に私たちの行動を割り出して待ち伏せしていた以外にはない。

 当たり前ではあった。なぜなら私たちの行動はライブのスケジュールに従っているのでそれを見れば行動の予想はつく。

 囮部隊なので、それでいいのではあるけれど、なんだか釈然としない。

 護衛もいるものの、心もとない。

 距離を空けてビームの応酬が始まった。

 お互い致命傷を与えられない。

 アンジェの連装ビーム砲とビームライフルで三連撃するも、猫のようにすばしっこくて当たらない。

 

『これだから小さいネコは』

「トラじゃなかったでした?」

『どっちでもいい!』

 

 私がミカの愚痴に突っ込んだものの、突き放された。

 今はそれどころでもなかった。

 通信をすることは余裕がほんの少しでもある現れではある。これは心を落ち着かせるのに必要だった。

 特に私たちのような新米パイロットが一人孤独にコックピットに搭乗して宇宙を浮いて戦闘をするなんて、心細いに決まっている。

 孤独感はどこまでも自分の中に渦巻いて広がっていくと、最後にはパニック障害になってしまう恐れもある。

 複座ならともかく一人乗りのモビルスーツや戦闘機の宿命だ。

 片方の足だけ色が違うゲルググが急加速して接近してくる。

 何かロケット弾のようなものを発射する。シュツルムファウストだ。

 主にリック・ドムが装備しているものの手持ちが共通で使える以上、もちろんゲルググが扱えない道理はない。

 

「目くらましが……」

 

 その間に後ろ側に回り込まれビームを撃たれていた。

 気が付いたらアンジェの連装キャノン砲の砲身をかすめ、砲が溶けていく。

 

『きゃっ』

 

 アンジェが高くてかわいい悲鳴を上げる。

 

「アンジェ」

 

 キャノン砲ユニットはアタッチメントなのでいつでも分離が可能だ。

 半分溶けていたキャノン砲がガンダムから離れていく途中、ついに不安定になっていたキャノン砲ユニットが爆発する。

 ユニットは左右合わせて二つあるのでもう片方はそのまま流れていく。

 

『きゃああ』

「だ、大丈夫、アンジェ」

『大丈夫、です』

「よかった」

 

 ゲルググだけならいいけれどもちろん敵は他にも数機のリック・ドムがいた。

 どのパイロットもベテランなのだろう。

 一年戦争から乗り回しているなら五年は先輩ということになる。

 機種転換もせず、ずっと乗っているなら相当な練度だろう。

 リック・ドムが重モビルスーツで今となってはやや鈍重であっても、それを上回る腕があると思われる。

 ジム・カスタムも頑張っているが、彼ら全員がベテランパイロットとはいえない。

 機種も初代ジムからジム改などを経て乗り換えているはずだった。

 機数は少ないものの混戦になっている。

 両者なかなか決定打にならず、攻めあぐねていた。

 そこへ非番で出撃が遅れていた追加のジム・カスタムが合流する。

 

「応援ね」

『遅いっ』

 

 ミカがビシッと文句を言う。

 さっきまで疲れを癒すために寝ていたところを叩き起こしたのだから大目に見てあげて欲しい。

 ただし寝ている間に母艦ごと撃沈して死んでしまってはパイロットとしては失格もいいところだ。

 連邦側が数で有利な情勢になっていた。

 オセロットのゲルググから信号弾の花火が打ち上げられる。

 そのままオセロットは反転。コンテナ船めがけて逃亡していく。

 追いかけることも可能だけど、深追いは怖い。

 諺にもある「窮鼠猫を噛む」だ。

 

「また取り逃がしちゃった」

『オセロットさんも案外私たちのこと好きだよね、隊長』

「うん、間違いない」

『ストーカーです』

 

 ずばりアンジェに言われると私たちも苦笑いを浮かべた。

 コンテナ輸送船は他には荷物を積んでいないのか早足に逃げていく。

 ミノフスキー粒子やデブリも浮いているので追跡は困難だった。

 悔しいがここまでだ。

 それから少しして私たちはア・バオア・クーに到着した。

 アンジェはあれから少ししょげてしまった。

 ビームライフルがかすったのはさすがに心臓に悪かったようだ。

 それからせっかくの専用装備の二連装キャノン砲を失ったショックも大きい。

 二つの小惑星がつながっている。上半分が菱形、下半分は下部が長いトゲみたいな形だろうか。

 ここでも一年戦争末期、たくさんの人が死んだ。

 宇宙はどこへ行っても戦争の跡があり、この付近にもまだデブリが多い。

 またみんなで待機室だ。

 

「ア・バオア・クーです」

「おう」

「お兄ちゃん……」

「あれアンジェ、お兄ちゃんいたの?」

「いえ、施設の年長者で血縁者じゃないです」

「ああ、そういう意味のお兄ちゃんね」

「はいです。ゲルググのパイロットとして出撃したという話ですが、行方不明で」

「そっか」

 

 ミカがアンジェの頭を寄せて撫でる。

 お兄ちゃんとして慕っていた人がここで死んだかもしれないのだ。

 新米パイロットのゲルググが力を発揮できなかった話はとても有名だ。

 その一人だったと思うと、なんだかこちらまでしんみりしてしまう。

 もちろんジオン残党として戦線を離脱して生きている可能性はある。

 その場合は私たちの敵として立ちふさがるのだろうから、それはそれで複雑な思いだろう。

 

「アイス食べる?」

「はいです」

 

 またアイスモナカを食べる。辛いことがあった後は甘味に限る。

 太ってしまいそうではあるけど、多くても一日一個だ。

 ちゃんと栄養計算には入れてある。

 パイロットは運動もするし操縦でもかなりの体力を消費するから大丈夫。

 

 

 ア・バオア・クーも現在は連邦軍がジオンの居抜き物件としてほぼそのまま使っているらしい。

 全部使っているのか、一部は放棄されたままなのかは分からない。

 ただ宇宙船ドックもあるので、私たちのホワイトホースはア・バオア・クーに入港した。

 

 

 またライブだった。

 一応私たちは軍の広報アイドルユニットで慰安部隊でもある。

 連邦軍のいるところへ行って、歌って踊って頑張ってと応援するのが本業だから。

 今回も重力ブロックのホールでのライブとなった。

 ここは搬入口が大きかったのでなんとかガンダムを押し込んで連れてきてある。

 ちょっとガンダムで通路の角を曲がるのに苦労した。

 大勢の観客の前でステージへと上がった。

 

「エレメンタル・ガールズでず」

「「「わあああ」」」

「それでは歌います。一曲目『エレメンタル・ガールズ・リフトオフ』――」

 

 ライトアップされた光が私たちを包む。

 後ろでは曲によってはガンダムAXがロボットダンスをして楽しませている。

 私たちは歌って踊ってみんなと一体になってライブをこなす。

 死んでいった人々の慰霊でもあると思っているし、今生きている人たちの慰安でもある。

 ただ今は自分たちのできることを精一杯、やるだけだ。

 少しでも世界が平和になることを願って。

 

 

 

●Track12 『初恋ファースト・アタック』

 

 やだ、もう 私 変なの  そう、これは 私 恋なの

 あの人を見るだけで 心がばくばく

  あんなに見つめている 目線がどきどき

 なにもかも 放り出して 今すぐ 駆け付けたい

  君だけと 愛し合って 今すぐ 抱きしめたい

 もう こんな 思い するくらいなら

  あぁ わたし 無に なってしまいたい

 好き 君が好き 愛 愛してる

  ずっと ずっと 君のことだけ 頭のなか ぐるぐる

 好き 君が好き 愛 愛してる

 君に この思い 明日こそ 伝えてやるもん

  初恋 ファースト・アタック!

 

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