機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉   作:滝川 海老郎

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24.サイド3/ジオン共和国

 無重力向けの飲食物は何かと制限がある。

 まず飲み物は基本的に紙パックかゼリー飲料のようなパック系が基本だ。

 コップが使えなくてペットボトルも傾けても飲めない。

 そして私たちに致命的なのは薄めるコーヒー飲料があるとしてこれにミルクを混ぜるというのも困難だった。

 地上ならコップにコーヒーとミルクを注いでスプーンで混ぜればいいのだけど、無重力ではそれも難しい。

 パックやチューブをそれぞれ口に咥えて口の中で合わせることはできるけど……。

 ということでアンジェが大好きなカフェオレを好きな濃度で自作することができないのだった。

 

 

 さてまだア・バオア・クー宙域にいる。

 今さっき、宇宙船ドックから出港したところだった。

 まだ後方に大きくア・バオア・クーが見える。

 

「ありがとうございます」

 

 艦内の雑貨屋さんで白い造花を購入した。

 宇宙艦の中にはスペースは狭いけどお店もある。

 

「じゃあいこっか、アンジェ」

「ん」

 

 今は宇宙なので造花をしっかり持ってリフトグリップで移動する。

 出撃時間ではないがパイロットスーツに着替えてブリッジ横、木馬でいう首の部分のエアロックから外に出た。

 私、ミカ、アンジェの三人で艦の外に出る。

 これが地上であれば風で流されそうになるけれど、宇宙では加速していなければ相対速度はそのままなので大丈夫だ。

 実際にはエンジンは噴射しているのでちょっとずつ加速はしている。

 足の裏の磁石でくっついてる状態だった。

 後方のア・バオア・クーのほうへ三人で並ぶ。

 代表してアンジェが造花を持ち上げて捧げるようにして離すとゆっくり流れていく。

 

『お兄ちゃん、ア・バオア・クーで死んでいった兵士のみなさんへ――敬礼、黙祷』

「……」

『……』

 

 三人で敬礼をして、そっと黙祷を捧げる。時間は約一分間が標準的だろうか。

 白い造花は見えているけれどもうかなり小さくなっていた。

 

『安らかにお眠りください』

『うん』

「じゃあ、いこっか」

『はいです』

 

 アンジェにそっと手を添えてエアロックから中に戻る。

 パイロットスーツだとしても生身で外、宇宙へ出ることは少ない。

 やはり真空だし流されたらそれまでなので緊張してしまった。

 お兄ちゃんとのお別れを無事することができたらいいんだけど。

 ニュータイプもどきだからといって相手が死んでいるかすら分からないなんて、欠陥ニュータイプもいたものだ。

 お笑いもいいところだ。

 

「お兄ちゃん……」

「アンジェの気持ち、届くといいね」

「うん」

 

 アンジェも無表情だからといって冷たい子ではないのだ。

 どちらかというと心優しいいい子だった。優しすぎるくらいなのに。

 彼女が表情を出さなくなった一端はこのお兄ちゃんが行方不明であることが関係しているのだろう。

 本人は何も言わないけれど、そう思った。

 今でもずっとこの五年間、引きずってきたのだ。ニュータイプ特有の高い感受性はときに本人を深く傷つけることがあるから。

 

 

 こうして私たちは一年戦争最後の激戦地ア・バオア・クーを後にした。

 ここでガンダム、ホワイトベースも撃沈された。クルーの大半は脱出したらしい。

 普通、宇宙空間で撃墜、撃沈されると搭乗員は死亡することが多いので、何かしら特殊な事情があったのだろう。

 何はともあれ一時期、一緒に行動していた人たちが生き延びてくれたことは、私も少なからずうれしいことだった。

 そして何より、アムロさんが一年戦争を生き抜いて戻ってきてくれたことは、とても私には重要なことだったように思う。

 もっともジャブローではなくどこかの基地に住んでいるらしいけれど、そんなことは些細なことだ。

 

 

 ホワイトホース隊はサイド3方面へと進路を取った。

 さて無重力だと地上とは色々と違う。その一つに空気の対流が生まれないことがある。通常、地球上では地面が暖められたりすることで上下で温度差が発生する。その温度差で対流ができ空気が循環する。ところが無重力ではそういうことがない。

 そのため空気が混ぜられない。それがどうなるかというとオナラがあるとたまに濃い場所が出来て強い臭いがするらしい。

 もちろん人間が空気中を移動すればその分空気は混ざる。またサーキュレーターのようなものがあればいいのだろう。ということで空調システムは重要だ。

 また植物の問題もある。部屋に植木鉢などを置いても、彼ら植物は重力に逆らって成長する性質があるので無重力では変なことになってしまう。

 

 

 今回のラスト経由地であるサイド3に到着した。

 ジオン本国だ。現在はジオン共和国となっていて暫定的に自治権を有している。

 それでも独立国家ではないので、連邦軍の駐留など影響がないわけではない。

 

「緊張してきたね」

「うん、そりゃね。敵のど真ん中」

「はいです」

 

 サイド3のコロニーがすでに見えている。

 その形は密閉型コロニーと呼ばれるタイプであった。

 島3号形は三枚の羽根とガラス張りの部分がある。密閉型は六面すべてが地面だった。

 これはサイド3が地球から遠く、バン・アレン帯の外側であることが関係している。

 バン・アレン帯の外側は磁気バリアがないので放射線が多い。

 ガラス張りの島3号よりも密閉型は高い放射線遮断能力があった。

 光の取入れはなく、中央にちょうど棒型の蛍光灯のように照明が設置されている。

 電力の確保は周辺に浮いている独立した太陽光発電パネルと核融合炉との併用だった。

 ということでサイド3はコロニーの形が独特で興味深い。

 

 

 アンジェが目を潤ませて外を眺めていた。

 

「どうアンジェ? 懐かしい?」

「はいです……」

「故郷だもんねぇ」

 

 アンジェが感情に浸っているところにミカが呑気に言う。

 ミカはいつも明るいムードメーカーだけどこういうときは台無しだ。

 それを見て私はふふっと笑った。つられてアンジェもほんのり笑顔になる。

 無表情でも感情が最近見えるようになった。

 喜怒哀楽も前より表すようになったようで、いい傾向だ。

 もっともクールビューティーなアンジェもかわいかった。

 

「オセロットは自分の故郷で戦争なんてしないよね」

「……だと思います」

 

 アンジェもミカに同意したのでたぶんそうなのだろう。

 モビルスーツ戦は普通にコロニーを破壊することがある。コロニーや民間人への被害について否定的な人は多い。

 あのコンテナ偽装艦はどこにでも出没する可能性があるので油断そのものはできない。

 

 

 他の艦を外に残してホワイトホースはコロニーに入っていく。

 サラミス改は外の警備を担当してもらう。

 宇宙港の宇宙船ドックに到着した。

 すぐにガンダムの積み下ろしが行われた。

 ジオン共和国では刺激しないようにガンダムの展示もあるものの空を飛んでいく演出は控えることになっていた。

 モビルスーツ用のトラックで宇宙港を出ていく。地上経由で運ばれる。

 

 

 翌々日。昨日簡単なリハーサルがあった。いよいよ本番だ。

 ガンダムはトラックから降ろして立ててある。今日もロボットダンスを披露してもらわないといけない。

 このダンス、真面目にモビルスーツの研究をしている人などには不評なのだとか。

 

『こんなことにモビルスーツを使うなんて』

 

 と怒られることがある。逆に製造をしたアナハイムの人などはゲラゲラ笑うほど受けた。

 

『あははは、こりゃモビルスーツの平和利用だ。ウケる』

 

 とまあこんな感じだった。

 サイド3ではどのような印象なのだろうか。

 ガンダムと言えば敵のモビルスーツの代表だ。

 聞いたことがある有名な通称があった。いわくガンダムを『白い悪魔』という。

 私たちも『悪魔娘デビル・ガールズ』と呼ばれる元ネタでもある。

 

 

 さてライブが始まった。

 他の場所のライブよりは観客の人の服装が地味かなという印象はある。

 総じてジオン市民は貧乏なのだ。なかには貧困街などがあるコロニーもあり正確な人口すら把握できていないといわれている。

 スリなども多発しているので治安はサイド5などと比べてしまうと悪いといわざるを得ない。

 サイド5は富裕層が多いコロニーなので比べたら可哀想ではあるが、サイド間格差というものを自分の目で見てしまうと思うことがないわけではない。

 このような情勢では自治権、独立と叫ぶわけもなんとなく理解できる。

 

「エレメンタル・ガールズです。今日はライブにいらしてくれてありがとうございます」

「「「ありがとうございます!!」」」

 

 三人合わせて言い直す。わっと拍手が起こる。

 

「元素の歌姫――水のクレアです」

「――火のミカです」

「――風のアンジェです」

「「「「わあああああ」」」」

 

 アンジェが挨拶がすると盛大な歓声が会場からあふれた。

 グラナダからの予想の通りサイド3では絶大な人気で私たちとは差があるようだった。

 音楽が掛かる。そして私たちは歌って踊る。

 連邦軍の慰安部隊という側面も強い。

 それでもジオン市民だって私たちと一緒に歌を楽しんでもらいたい。

 ――そう歌を通して平和の懸け橋になりたいんだ。

 みんなが安心して夜眠れるようになるその日まで。

 

「それでは聞いてください。『エレメンタル・ガールズ・リフトオフ』――」

 

 こうして私たちは精一杯ジオンでも歌った。

 ただここでは少し違った様子が見られた。

 それは警備がついていたことだ。

 ゲルググのモビルスーツ警備隊がおり、コロニー内の護衛を担当していた。

 いつどこから爆弾テロなどが起きてもおかしくないのだった。

 モビルスーツの襲撃も想定しているということなのだそうだ。

 そういう不安があることは事前に知らされていた。覚悟もしている。

 それでも平和の願いを込めて、私たちはただ歌うだけだ。

 

 

 

●Track13 『地球から一番遠い星』

 

 地球から 一番遠い星 月の裏側  僕たちの 新しい 故郷

 地球を離れ 暮らしてる 新天地  僕たちの 生きる場所 新都市

 宇宙は 果てしなく 広いけど  宇宙は よどみなく 永遠に

 あぁ 無限の 空間  あぁ 真空の 領域

 宇宙は 冷たくて 温かい  宇宙は 無重力 浮遊する

 新天地 フロンティア 夢未来 希望の光

 新天地 フロンティア 明日未来 未知の世界

 どこまでも どこまでも 続いてく  延々と 延々と 続いてく

 遠い星 新天地 僕たちの 家

 

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