機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉   作:滝川 海老郎

26 / 27
25.オセロット/好敵手

 サイド3公演は警備が大変などの理由もあってサイド5とは違って一回だけだった。

 それでもジオンの地でも活動できることはうれしかった。

 特にうれしかったこととして、孤児院の院長先生のおばあちゃんからアンジェに手紙が届いていたことだろう。

 アンジェの知り合いの子たちみんなでライブを見に来てくれたそうだ。

 ライブ会場ではアンジェの索敵能力をもってしても、人が多すぎてさすがに見つけられなかったみたいだけど。

 

「アンジェ、よかったね」

「はいです」

 

 アンジェが手紙を大切そうに胸に抱いて微笑んだ。

 目にはほんのり涙も浮かべている。

 実は孤児院があるのはこのコロニーでここがアンジェの出身地なのだ。

 もちろんそういう理由でこのバンチが選ばれて、宣伝文句にもなっていた。

 アンジェコールはそれはもう盛大で、また遠慮がちに手を振るアンジェは今回もかわいかった。

 

「いよいよ終わりだね。地球へ戻らないと」

「そうだねぇ」

「はいです」

 

 小さくなっていくサイド3のコロニーたちを眺めて一息つく。

 

「なんだか、やっと終わった。世界は広い」

「隊長はジャブロー大好きだもんね」

「そういうんじゃないやい」

「ふふふです」

 

 アンジェが笑った。かわいい。

 

 

 もうひとつ。公演と体力を戻す重力休暇をしているうちに私たちのところに荷物が届いていた。

 

「これ、ウサギちゃん」

「だね」

 

 私が言うとミカがうなずく。

 

「差出人はワン・ムラサメちゃん」

「うむ」

 

 同じく。アンジェはすでに一匹目のウサギを胸に抱いて頭を撫でている。

 

「ご迷惑をおかけしたからって」

「そうなんだ。ワンちゃんもかわいいところあるじゃん」

「ね?」

「ん」

 

 みんな言葉は短い。でも感情は複雑だ。

 強化改造されてどこかおかしくなってしまっていた。

 そんなワンちゃんも私たちのことをお友達だと思ってくれたのか、こうしてウサギちゃんをくれた。

 ちゃんと人数分。

 そういえば綺麗な長い白髪に赤い目はウサギちゃんそっくりだ。

 

「このこ、色がワンちゃんなんだよね」

「そだね」

 

 ニュータイプ同士として私たちが出会っていたら。

 そうしたらまた違う未来もあったかもしれない。

 強化人間なんてという偏見めいた気持ちも少し持っていた。

 でもやっぱり彼女も人間なんだ。なんだか温かい気持ちになった。

 

 

 そんなこんなでサイド3を離れ、しばらく宇宙を進む。

 このあたりでは月がとても大きいのが目に付く。

 宇宙もずっとこんなふうに長閑に進んでいくといいのだけど。

 こうしてまたコーヒー休憩をしたりアイスモナカを食べたりして過ごした。

 もちろんご飯も食べる。宇宙食は昔よりは進化している。

 ただ無重力なので重力下そのままとはいかないのはその通りだった。

 それでも缶詰などもある。

 スープは粘度を高めたものにするか、チューブやパック状にする。

 あつあつのスープでは火傷してしまうので温度が難しい。

 

 

 ところがやはりというか、のんびりばかりもしていられない。

 ウーウ、ウーウ、ウーウ。

 警報だった。

 

『第一戦闘配備、第一戦闘配備』

 

 私たちは急いでガンダムを発進させた。

 

「うぉ、なんだあれ」

 

 コンテナ偽装艦が三隻ばかり集結している。

 ジオン残党や海賊に襲われにくいようにああやって艦隊を作ることもある。

 しかし彼らはジオン残党側らしい。

 

「なんか見たことない機体が」

 

 見た感じはゲルググだが肩に丸いポッド、そして足の外側にプロペラントタンクとバーニアが装備されていた。

 ゲルググに無理やりドラッツェの機動ユニットを追加したような形だった。

 

「そうね、超高機動型ゲルググ、ハイパーゲルググとでも名付けましょう」

『『了解』』

 

 そのハイパーゲルググが迫ってくる。思ったより早い。

 アンジェ機には予備の高機動型ユニットが新しく装備されていた。

 キャノン砲のほうは予備がないらしい。

 ハイパーゲルググが出てきたことを考えればかえってこちらのほうが都合がいい。

 僥倖、僥倖。

 モビルスーツ隊は私たちが準待機だったので少し出撃が早い。

 他のチームは今から上がってくる。

 

「ボディーは薄紫。あのハイパーゲルググ、オセロットか」

『なるほど』

『はいです』

 

 ハイパーゲルググと交差する。急制動を掛けて反転、なんとか後ろについた。

 しかし向こうは戦闘機のパーツがついているのだ、動き特に直線のスピードが速い。

 

「くぅぅ」

 

 加速度はGが掛かるのだ。向こうも同じだけの加速度が掛かっているのだろうに、よく動く。

 けっこう苦しい。

 こうして三対一でオセロットを追いかける。

 

「ちっ、うぉおおお」

 

 ハイパーゲルググのビームがかすめる。三連撃だった。ご丁寧に三機をそれぞれ狙っているがみんな何とか避ける。

 回避行動をとっていなければ直撃コースだった。やはり腕はいい。

 

『ガンダム!』

 

 通信が入る。オセロットの声だ。

 

『お嬢さんたちに恨みはないが、ガンダムはいただけない』

 

 そうか。ガンダムには思うところがあるようだ。

 わからないわけではない。なんせ白い悪魔の後継機だ。

 高速旋回してきてビームナギナタが振るわれる。

 こちらもビームサーベルで応戦、なんとか耐える。

 ミカとアンジェは後方で旋回する。

 機体が離れたところで二人のビームライフルがハイパーゲルググを狙う。

 しかしあっさりとくるくるっという感じでかわされてしまう。

 機体が大きいわりに旋回性能も高い。

 再びビームライフルで攻撃を受ける。ミカ機の右足をかすめていく。

 表面が少し溶けているがなんとか大丈夫だろう。

 

『うぉおぉ。おっちゃん危ないじゃないか』

 

 ミカの声が聞こえてくる。

 ミカはオセロットのトラのぬいぐるみを殊の外大切にしていた。

 近所のおっちゃん並みに親しく思っているみたいだった。

 三対一でこれだ。技量はベテランパイロットのほうがやはり高い。

 

「ぬおおお」

 

 全出力でハイパーゲルググを追い掛け回す。

 あちらの方が出力が上のようで完全には追いつけない。

 なかなか不利だが、やらないわけにはいかなかった。

 

『ここです』

 

 アンジェがビームライフルを撃つ。それは旋回中のハイパーゲルググの左側のプロペラントタンクにみごとに命中した。

 タンクは爆発し大きな火の玉に包まれる。

 眩しい。カメラが一時的に見えなくなる。

 

『やった、アンジェ』

『まだです』

『お、おう』

 

 ミカが喜びの声を上げたけど、まだゲルググは健在だった。

 バランスをとるためかハイパーゲルググは左右のプロペラントタンクを投棄してそのまま戦闘を続けた。

 少し移動して肩の丸いタンクも分離する。

 

「なるほどね」

『普通のゲルググです』

 

 うん。部品をパージすればほとんど普通のゲルググに戻っていた。

 しかしここからだった。

 身軽になったからか余計に旋回性能、回避性能が上がっている。

 みんなでビームライフルで攻撃を続けた。

 

『くっそ、全然当たらん』

 

 ミカが愚痴をこぼす。

 ビームライフルを予備のマガジンと交換する。

 

「挟み撃ち」

『『了解』』

 

 挟み撃ち戦法を試してみる。

 左右から追い込んだものの、結局ひょいっと包囲網を抜けて逃げられてしまった。

 

「さすがね」

 

 他のリック・ドムなどはこちらにほとんど回ってこない。

 ジム・カスタムと戦闘を繰り広げていた。

 向こうは向こう、こっちはこっちで相手がいる。

 

「ザク!」

 

 私の目の前にザクが割り込んできたが、ビームライフルで撃墜する。

 撃墜スコアは増えたけど、うれしくもない。

 その隙にゲルググがシュツルムファウストを投擲、至近で爆発が起こる。

 

「くぅっ」

 

 部品が機体に当たる音がする。場合によってはダメージを食らう。

 そのままゲルググが私の機体に突撃してきて蹴りを受けた。

 肩のビームサーベルが当たってサーベルが飛んでいく。

 

「ああぁああ」

 

 私のガンダムはガタガタと揺れた。

 よかったガンダムタイプで。ビームサーベルは二本標準装備だ。もう一本ある。

 ゲルググは後ろ向きになって逃げていく。

 

「今だ!」

 

 私は叫んだ。

 三機のガンダムのビームライフルからビームが飛んでいく。

 ゲルググはジグザグ飛行でこれを避けた。

 

「まだまだ」

 

 追加のビームを連射する。

 弾がなくなるかもしれないがこの際、倒してしまいたい。

 何回も避けていたゲルググだったが、ついに一発命中した。

 しかもボディーだった。小さな爆発が起きる。

 

「やったっ」

『おう』

『はいです』

 

 ゲルググのバックパック辺りに命中して燃料が爆発を起こしたようだった。

 もう動かなくなったものの機体そのものは原形をとどめていた。

 そこへリック・ドムが接近してきて、ゲルググの機体を回収して離脱コースへと入った。

 

「やった……んだよね」

『はい、大破です。あの機体はさすがにもう』

「そうだよね」

 

 取り逃がしてしまったが、ゲルググは撃墜としてカウントしてよさそうだ。

 パイロット、オセロットの生死は今のところ不明だ。

 

 

 他のリック・ドムが迫ってきたので対応をする。

 リック・ドムも素人のそれではない。

 空中戦となったがなんとか撃墜した。

 そうこうしているうちにオセロットのゲルググは見えなくなってしまっていた。

 撤退信号の花火が上がった。

 残りのザク、リック・ドムが引き返していく。

 敵は思ったより数が多かったようだ。

 

 

 すでに後方にはコンテナ偽装艦が待機していた。

 モビルスーツを素早く回収、進路を変えて逃げていく。

 

「終わった、んだよね」

『うん、そうだね隊長』

『はいです』

 

 私たちのモビルスーツもホワイトホースへと帰還させた。

 

 

 この後、地球へ向かった。

 その間、オセロット率いるジオン残党が襲ってくることはなかった。

 

「地球じゃん」

 

 ミカが大きく下に見えている地球を眺めていた。

 私たちはこれから大気圏突入をする。

 ホワイトホースは連邦軍の艦としては珍しく大気圏突入能力と大気圏内飛行能力がある。

 空力的には不可能なのに空を飛べるのはミノフスキー・クラフトのおかげだ。

 ミノフスキー物理学さまさまだった。

 サラミス改とはここでお別れだ。彼らはこのまま宇宙へ残る。

 徐々にスピードを落とし高度を下げていく。

 大気摩擦で赤く見える高熱の空気に包まれていく。燃えてしまうんじゃないかと思うけれどこの艦には耐熱性能があるのだ。

 しばらく通信はできない。

 

 

 その大気圏突入に何とか成功した。今は高空を飛んでいる。まだ速度が速いのでさらに空気抵抗を利用して速度を落としていく。

 海や陸地が見えていた。そのまま進んでいく。

 地球圏宇宙を一周して生きた私たちは無事に南米ジャブロー基地に戻ってくることができた。

 眼下には広大なジャングルが広がっていて茶色い川も見える。

 このどこかに宇宙船ドックがあるのだ。

 

「お、すごい地面が開いてく」

 

 ここがその宇宙船ドックの入口らしい。地面が横にスライドしていき鋼鉄の入口ができていた。

 ホワイトホースはゆっくりと降下してそのドックへと入っていく。

 宇宙港を含むジャブローは地下の巨大な洞窟にある。

 

「おかえり、ジャブロー」

「久しぶりだわ。あぁ重力が重い」

「ジャブローです」

 

 こうして私たちの世界一周ツアーが終わった。

 ジャブロー公演がラストライブだ。

 長かった旅もこれで最後になる。私たちは世界のあちこちで歌って踊った。

 私たちはエレメンタル・ガールズ。

 地球連邦軍のアイドルパイロットユニット。

 世界が少しでも平和になってくれたら、そんなにうれしいことはない。

 

 

 

●Track14 ED 『リトル・キャット』

 

 昼下がり 公園で 日向ぼっこ  ぽかぽか 温かい 僕は 子猫

 夜になり お家で ベッドで寝る  ぽかぽか 温かい 僕は 子猫

 あぁ 寝るのが 一番  一日中 ぐっすり 寝んねするもん

 僕は リトル・キャット どこでも 自由の身

  君は リトル・ガール 誰とでも 仲良くね

 リトル・キャット リトル・キャット わっふぅ

  リトル・ガール リトル・ガール わっふぅ わっふぅ

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。