機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉   作:滝川 海老郎

3 / 27
2.地球衛星軌道/模擬戦(2)

 モビルスーツが三機横向きに並んでいる。

 二つの目。赤い口。それから頭部のⅤ字アンテナ。

 約十八メートルの巨人の勇士は憧れのガンダムタイプだった。

 少数量産型ニュータイプ専用機RX-78-NT-5『ガンダムAX』。もしくは『量産型ガンダムNT1』。

 GUNDAMの量産型がGMならこれはALEXの量産型で頭文字と末尾を同じように取りAX、アクスと呼ばれる。

 正確にはアレックスの予備部品とジム・カスタムを無理やり使って組み立てたもので、とても量産機とは呼べないほとんど急造品だ。

 性能は本家アレックス未満らしいがジムに比べれば遥かにマシだろう。

 ジム最高峰のジム・カスタムよりも高い性能を誇る。特に反応性は現存モビルスーツの中ではトップレベルだった。

 代わりに素の装甲や火力は若干劣る部分もある。

 なんでも世界一とはいかない。

 

 

 水色、ピンク、薄緑の三機のガンダムだ。

 それぞれに別れて乗り込むと、私はリニアシートに体を固定して、コックピットを閉める。

 それと前後して電源を入れカメラを有効にする。

 アクスのコックピットは全天周囲モニターだ。これはアレックス由来のもので、まだ採用されている機種はほとんどない。

 まさに現状ではニュータイプのためのコックピットシステムといってもいいだろう。

 徐々に一般機へも導入を検討しているので当たり前になるのも時間の問題だ。性能向上は日進月歩となっている。ジオンと連邦軍の技術の融合やアナハイムといった専門会社が牽引しているからだ。

 

 係のメカニックが誘導してくれる。

 

「よし、シミュレーター通りやればいいんだ。できるわ」

 

 自分に活を入れる。地上では動かせていたけど宇宙空間を移動したことはない。

 ずっとシミュレーターだった。

 シミュレーターと本物では慣性の法則の有無など操作感覚には差異がある。

 いくら優秀なコンピューターがあるといっても再現度には限界があった。

 特にニュータイプはじめベテランパイロットは肌で感じる感覚を大事にしている。

 シミュレーターと本物ではその感覚が違うのだ。

 操縦棒を操作してガンダムでデッキ内を歩き、エレベーターへ移動する。

 

「クレア・ミッドランド少尉――ガンダムAX・ウンディーネ、発艦します」

 

 私の専用機は水色カラーとなっている。象徴する元素は水属性。

 エレベーターが上昇して母艦の外側で停まると宇宙と乗っている艦が見えるようになる。

 モビルスーツ運用母艦であるペガサス級強襲揚陸艦ホワイトホースだ。

 これは改ホワイトベース級といったほうが通りがいいかもしれない。

 私にしてみればとても懐かしいフォルムに似ているがいくぶんか新型艦はスタイリッシュになった。

 折り畳み式カタパルトが左舷から浮き上がり展開されていく。

 リニアカタパルトからガンダムが射出されて宙を舞う。

 離れていくホワイトホースの木馬というか白馬が手足と翼を広げている姿はなかなかカッコいい。

 ウンディーネが旋回してホワイトホースの横へ移動して並走する。

 

『ミカ・レンギンス少尉――ガンダムAX・サラマンダー、発艦します』

 

 通信が聞こえてくる。

 カタパルトからピンク色のガンダムが発進してくる。象徴する元素は火属性。

 

『アンジェ・シュナイダー少尉――ガンダムAX・シルフィード、でます』

 

 薄緑のシルフィードが続く。同じく元素は風属性となっている。三機のガンダムが宇宙で肩を並べる。

 それぞれパーソナルカラーの属性精霊を冠しているのだ。

 ガンダムタイプの主武装はジムのビームスプレーガンやザクなどのサブマシンガンと異なり、基本的にビームライフルだ。

 これはちょっとだけ高価だ。ニュータイプ用のガンダムの特別待遇だと考えていいだろう。

 もっともジオン系のゲルググでもビームライフルは採用されている。

 ビームライフルの量産化、低価格化がこのまま実現すれば、ジムタイプにもビームライフルが普及するようになるのもすぐだろうと思われる。

 

「それでは訓練を開始します。ついてきて」

『ミカ、了解』

『アンジェ、了解』

 

 三機のガンダムが宇宙を駆ける。

 それはまるで精霊が踊っているように感じた。

 踊るのは生身の私たちだけでなく、ガンダムだってできる。

 スラスターを噴射して上へ一気に登る。

 Gがぐっと掛かる。思ったよりずっとずしりと重い。

 これが本物の宇宙……。

 まるで大空を自由に飛び回っている鳥になったようで興奮してくる。

 地上では歩くばかりだったので、この感覚にまず慣れないと。

 母艦を少し離れた上から望む。真ん中に翼を広げたホワイトホース、その左右に白紫のサラミス改。

 綺麗に三角形をして並んでいるのが見える。

 モビルスーツのバックパックや戦闘艦の後方のノズルから見える青白い炎が私は好き。

 なぜだかはわからない。ロウソクの炎を眺めるのに似ている感覚だろうか。

 

「反転」

『『了解』』

「目標ベランドン左舷」

『『了解』』

 

 私たちのガンダム三機は上から反転、今度は下方向へ加速する。

 そのまま減速せずにサラミス改級ベランドンのすぐ脇を通過して下方に移動する。

 回りこんで、ホワイトホースの反対側にいるサラミス改級メールシアの前まで行って、そこでビームライフルを持っている右手を上げて挨拶する。もちろんモビルスーツで。

 メールシアのブリッジのクルーが手を振り返して合図してくれているのが見える。

 

「挨拶は大事よね」

『はい、隊長』

『アンジェも挨拶は大事です』

 

 上や下から回り込むのは対艦攻撃を模している。アムロさんが使ったことのある戦術だと人伝に聞いたことがある。

 宇宙空間でははっきりいって上下がない。そのため上下左右の方向感覚がわからなくなってうまく操縦できない人が多い。

 地上戦よりずっとゲームとして見ると難しいのだ。

 ニュータイプといわれる人たちはそういう感覚に特に優れていた。自由自在に飛び回っても平気だった。

 私たちが宇宙でのシミュレーターを見せるだけで一般兵には気味悪がられる始末だ。

 

『お前らってバケモンだよな』

『ひどい』

『可愛い顔してんのに』

 

 これがだいたいの反応だった。

 私たちは表向き『精霊』と呼ばれているが陰では『悪魔娘デビル・ガールズ』と呼ばれていることくらい知っている。

 

「直進」

『『了解』』

「散開」

『『了解』』

 

 直進していた三機のガンダムが三方向に綺麗に分かれる。

 とんぼ返りをしたり宙返りをしたり、左右に避ける行動をしたりと一通りの運動テストを行う。

 

「クレアから各艦、ステージ・ツーへ移行します。よろしくお願いします」

『ホワイトホース了解』

『ベランドン了解』

『メールシア了解』

 

 ガンダム三機は少し離れていき、Uターンする。ここからは模擬戦だ。

 

「では、準備を」

『『了解』』

「スリー、ツー、ワン、ゴー」

 

 私たち三機のガンダムが上方向にビームライフルを一斉射するとピンク色のビームが飛んでいく。

 ビームライフルは光のレーザー砲ではなく、ミノフスキー粒子を圧縮したもので素粒子砲の一種だと考えられる。

 レーザーなら光の速度で飛んでいくけど、ビームはそれよりは遅い。ただ普通の人が避けられるほど遅くはない。ニュータイプの一部の人は先読みなどの感覚を使って避ける人もいる。

 レーザー砲よりはビーム砲が普及している。

 これは戦闘艦でも同じでほとんどの対艦砲はメガ粒子砲というミノフスキー粒子を合体させた高エネルギー粒子によるビーム兵器となっている。

 このビームライフルが模擬戦闘開始の合図だ。

 レーザーと異なりビームは光る粒子が目視できる速度で飛んでいくので側面からでもよく見える。

 当たり前だけどビームライフルを撃つと戦場内で非常に目立つ。これは一長一短だろう。

 離れていたホワイトホースと二隻のサラミス改が接近してだんだん大きく見えてくる。

 各艦のカタパルトから光の筋が伸びていく。モビルスーツの発進だ。

 

 ホワイトホースには本来は私たちの護衛であるカーキー色のRGM-79Nジム・カスタムが三機。

 ベランドンとメールシアからは赤と白の連邦宇宙軍標準色のRGM-79Cジム改が三機ずつ展開してくる。

 

『精霊さんたち、いきますぜ』

「『『了解」』』

 

 私たちはビームライフルを腰の後ろにマウントしてあったサブマシンガンと交換する。

 このサブマシンガンにはペイント弾のマガジンがセットしてあった。

 模擬戦でビームを撃ったら相手が溶けてしまうので、しょうがない。

 引き金だけで当たり判定とする方法もあるが、それだと移動中でも当たるかどうか判定が難しい。

 実体弾は当たれば見えるので非常にシンプルだ。

 このペイント弾のインクは蛍光ピンク色で取れやすい。

 最初に上がってきた向かって右側のメールシアのジム改と会敵する。

 ちなみに宇宙空間では太陽の黄道面を水平と見て、地球北極側を上ということが多い。

 

「私が正面を、二人は左右から挟み撃ちにしよう」

『『了解』』

 

 距離をじわじわと詰めていく。

 当たり前だけど遠ければ遠いほど指数関数的に弾なんて当たらない。

 すでに三機のジム改は正面に捉えていてロックオンしていた。

 

「ファイア」

 

 バンバンバンとサブマシンガンが火を噴く。

 弾は三機のうちリーダー機に六割命中、ピンク色に染める。

 それから少し遅れて左右の僚機が展開して逃げていく。

 逃げるのが遅いが普通のパイロットならこんなものだろう。

 シミュレーターと大差ない、いける。手応えを感じつつ次の行動へ移る。

 向かって左側をターゲットに追い込みつつ、たまに弾を発砲して脅しをかける。

 当たった。左右移動している相手には当たりにくいが左足に一発命中した。

 サブマシンガンだったら穴が空くくらいだけどビームライフルだったら一発でも足がもげる。

 

「ヒット」

『まだだぁああ』

 

 確かに足一本ならまだ戦える。

 でも戦闘を続行するかは状況による。余裕があるなら撤退したほうがいい。

 AMBACといって手足を動かして運動性能を確保している設計なので、実は足も飾りではない。

 足が片方でもないと機動力は低下する。

 リーダー機のほうは撃墜判定なのですごすごと引き返していく。

 なんだかそのジム改の背中が憂愁漂うおじさんみたいで笑いそうになる。

「ほら、正面、入った、ファイア」

 バンバンバン、バンバンバン。またサブマシンガンを三点バーストで発砲する。

 結局二機目のジム改も横に逃げていくばかりで私の的でしかなかった。

 残り一機はミカとアンジェに左右からマシンガンの十字砲火にあってあえなくピンクに染まった。

 さて残り二個小隊だ。

 

 

 モビルスーツは三機を基本一個小隊とする。

 三個小隊をまとめて一個中隊とすることが多い。

 私たちを含めてホワイトホースには二個小隊が搭載されていて、左右のサラミス改二隻に一個小隊ずつ載っているので、合計で四個小隊だけどこれで一個中隊という扱いだ。

 数え方としては私たちガンダム三機は数に入っていないのかもしれない。

 軍学校を出たばかりのひよっこだから訓練兵と似たようなものだ。

 これが私たち第19独立部隊スプライト・プリンセスの今の編成だ。

 ペガサス級のホワイトホースと異なりサラミス改級はミノフスキー・クラフトという重力下の浮遊装置を搭載していないため、宇宙で合流した形になる。

 地球に降りているときは別の隊と合流するかホワイトホースが単独行動している。

 

 

 ジム・カスタムがその高機動性で迫ってくる。

 ジム・カスタムは見た目でいえば肩が横に長いのが特長だろうか。他は極めて平均的だがバランスがよくジムの中では最上位クラスでエースパイロット向けだった。

 私たちは空中戦の様相になって、バラバラに逃げたり攻撃したりを繰り返した。

 さすがはジム・カスタム。高性能なだけあってジム改よりずっと強い。何発も狙われたがロールしたり左右移動などでなんとかかわす。

 ところが一般兵とニュータイプの私たちでは全体の把握できる情報量に圧倒的差がある。

 サラマンダーとシルフィードがそれぞれ追いかけられていたはずが、今では二機のジム・カスタムを挟み撃ちにするところだった。

 ジム・カスタムは前後からサブマシンガンで撃たれ機体をピンク色に染める。

 

『くっそ、精霊ちゃんには後ろに目があるのか』

『んなわけないでしょう』

『ひゅーひゅー、やる』

 

 私も残りのジム・カスタムと撃ち合いになるところだったのだけど、先手必勝とばかり逃げつつ撃ちまくってピンクのハチの巣にした。

 

『あっという間に六機のジムが』

『これでも一年戦争の生き残りなんだがな』

『どこがヒヨコなんだよ。悪魔じゃねえか』

 

 ジム改のパイロットから聞いていないと悲鳴に似た言葉を頂戴する。

 残りのジム改も適当に追い掛け回して撃って追い詰めたらすぐに全滅した。

 

『ちくしょう、惨敗だな……』

 

 ピンク色に被弾したジム改が宇宙を漂っている。

 

「訓練終了、ただちに帰投せよ」

「『『了解」』』

 

 私たちは揚々とホワイトホースに帰還した。

 付け加えるなら宇宙空間で着艦するのは目標物や距離感がわかりにくいためかなり難しい。

 でもこれも散々ジャブローのシミュレーターでやってきたことなので難なくこなした。

 ガンダムから降りて更衣室へ直行する。

 パイロットスーツの中は汗だくだ。女の子でなくても早く着替えたいだろう。

 重力はなくても慣性の法則はあるので、あちこち引っ張られたりして筋力も使うのだ。

 

「お疲れ、ミカ、アンジェ」

「お疲れ様、隊長やりましたね」

「うんっ、今日も撃墜スコア四」

「お疲れ様でした」

 

 更衣室で軽くボディータッチしてお互いをねぎらう。

 女の子同士のコミュニケーションは大事だ。

 男と組まされなくてよかった。こんな気安くはできない。

 アムロさんだったら別だけど……。

 

「ぶるぶるぶる」

「どったの? クレア隊長」

「なんでもない」

 

 アムロさん。エースパイロット。パイロットとしても男性としても尊敬している。

 今は地球でのんびり暮らしているらしいと聞いた。

 ただ悪い噂もある。チャラい感じの変な彼女がいるとか、実は幽閉されているんだとか。

 不自由していないだろうか。

 制服に着替えてブリーフィングルームに戻ってくる。

 無料の自販機からドリンクを取り出して飲む。

 

「ふぅ、生き返るぅ」

「まるでビール飲んでるみたいだね」

「えへへ、そうかなミカちゃん」

「そうですねぇ」

 

 ぽりぽりと頬をかく。まったくパイロットは大変なのだ。

 とにかくこうして私たちの宇宙での初めての戦闘訓練は無事に終了した。

 

 夜、待機任務を終えて寝る時間になった。

 

「おやすみなさい、パパ、ママ」

 

 写真立てに向かって挨拶する。

 実は夜中に両親がサイド7の目の前でザクに殺されてしまう夢を頻繁に見る。

 そうして目が覚めてしまうために、ぐっすり眠れない日が多い。

 パイロットは悪夢を見やすいと言われている。

 それでも写真立ての両親に挨拶はする。一種の儀式だった。

 

「今日はいい夢が見られますように、おやすみ」

 

 まだ両親の魂は私の近くにあって、この世をさ迷っている気がしている。

 こんな危険な仕事をしている娘ではおちおち天国でお昼寝していられないのかも。

 宇宙のどこかに両親がそろって落ち着ける場所があるといいのに、と思う。

 この宇宙ツアーで自分を見つめ直し、何か見つかるといいと思っている。

 私はベッドにもぐって眠りについた。

 

 

 

●Track1 『エレメンタル・ガールズ・リフトオフ』

 

 青い空 白い雲 南南西の風 この水の 惑星の 地上から

  この宇宙〈そら〉の はるか先へ 飛んでいく

  今日こそは 世界一の 記念日に

 カウントダウン 真っ赤な炎 白い煙を吹きだして

  リフトオフ  灼熱の風  推力最大 限界の先へ

 水と火と風が 力を合わせて 歌い上げる

  目指す先は 新世界 月と宇宙

 無限に広がる 果てしない世界へ 舞い踊る

  目指す先は 新世界 未知の希望

 僕はただ 歌うだけ 願うならば

  君にだけは この気持ちが 届くといいな

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。