機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉 作:滝川 海老郎
「ルナツーだ」
私たちパイロットは待機室のモニターに映るルナツーの拡大画像を見ていた。
菱形、アーモンド形またはラグビーボール形というのだろうか。こげ茶の横長だ。
まだ遠くて小さいものの、宇宙なので空気の屈折による歪みがなく意外と細部までよくわかる。
もちろん映しているモニターの解像度以上には見えないけど。
長年の資源採掘で丸い穴ぼこだらけで影があちこちに見える。
元々はスペースコロニー建設の資材確保のために火星の外側、小惑星帯アステロイドベルトから小惑星ユノーを移動してきたものだ。直径は二百五十キロメートルあまり。地球圏で地球、月に次いで三番目に大きい。
そのルナツーの前にはたくさんの艦があるようで小さな点々が光って見える。
私たちのホワイトホースの近くには、十字が黄色く光る宇宙ブイが浮かんでいる。
またその左右にはサラミス改が一隻ずつ、パトロールについていた。
サラミス改の間を通過して、ここから先がルナツー宙域となる。
「もうすぐだね」
「いよいよかぁ。隊長、お腹痛くなりそう」
「頑張って、ミカ」
「うう」
「アンジェは大丈夫です」
「よかった、アンジェ」
さてそろそろパイロットスーツに着替えよう。
私たちは更衣室に向かう。
パイロットスーツは三人とも色が違う。こんなところにもお金をかけていることに呆れてしまいそうだ。
でも動画撮影にも使われるので、連邦軍は広報にも力を入れているのだろう。
私たち元素の歌姫エレメンタル・ガールズに本気なのだ。
それに応えなければならない。
『モビルスーツ隊全機、スタンバイ』
艦内放送が流れる。これはどこにいてもいいようにという配慮だ。もちろんトイレとかシャワーで全裸でもわかるように。
ガンダムAXを発艦させる。続いて私たち19部隊スプライト・プリンセスの全機が上がってくる。
私のウンディーネを先頭に左右にサラマンダーとシルフィードが展開している。
その後ろに三機のジム・カスタム。
さらに後ろ左右にそれぞれ三機ずつの赤白のジム改が並んだ。
進行方向はクリア。衝突可能性のある物体はない。
「すごい、ルナツー方面艦隊が勢揃いだ」
『ですよねえ。圧巻ですね。隊長』
『アンジェも興奮します』
アンジェちゃんまでもか。
それもしかたがないのだろう。全部で百隻近い船が浮いている。
サラミス、サラミス改、コロンブスがずらっと並んでいる。
コロンブスは左右にコンテナを備えた双胴船で輸送艦だ。戦時にはジムやボールを満載して簡易空母となる。色は白っぽい灰色。
数は少ないがマゼラン級も見える。さらに数隻のペガサス級の姿もある。
マゼランは上下対称の二段の主砲塔が特徴的な戦艦でかなりの大きさだ。大将が乗る旗艦を務める。色は濃い緑。
それから無数の小型艇、ランチなどの連絡艇、内火艇。
なかには宇宙戦闘機セイバーフィッシュも見える。一年戦争の生き残りかもしれない。
私たちの進行方向左右にずらっとRB-79Cボール改修型がこちらを向いて並んでいる。
サブアームがついているので改修型だとわかる。正直こんなもの改修する暇があるならジムを増やしたほうがいいのではないか、と思う。
ただしほとんどボールは実質作業用という可能性もある。
「ボールか。――丸い棺桶」
『隊長、笑わせないでください』
「だって、あれだよ」
『アンジェも笑っていいですか』
「いいよ……」
ボールとかそろそろ時代錯誤の象徴のものだ。上層部のアンティーク趣味だと思うほかない。まったく物持ちのいいことで。
でも戦闘ではボールのパイロットにはなりたくない。
こんなもの最低である。人命軽視だ。あまり気分のいいものではない。
作業用なら可愛らしいと思う。
ボールが順番にその180㎝低反動砲を発射する。
どうやら特殊弾のようで、バーンと大きな花火が打ち上がる。
なるほど式典用か。よくやる。
さらにジム部隊が同じように左右に並んでいた。赤白のノーマルタイプだ。
手を上に向けビームスプレーガンの黄色いビームを乱射していく。
もちろん上側に艦艇はいない。
その間を私たちモビルスーツ部隊がルナツー側へと飛んでいく。
歓迎のモビルスーツがいなくなって広い空間になった。
「アクション、スリー、ツー、ワン、ゴー」
『『了解』』
私たちのガンダム三機がドリルのように回転しながら進んで、花が咲くように散開する。
重いGが私たち三人に掛かる。だけど今はそれが心地いい。
まるで前世紀に行われていた軍隊のアクロバット飛行チームだ。
実際その通りだし、さらに女の子で歌って踊るのだ。
モビルスーツの曲芸は難しいので、たいしたことはできない。
「前方の的、ファイア」
ビームライフルを前方にある標的に向かって一斉射する。
三本のピンクの光が飛んでいき命中、激しい爆発を起こす。
これも花火になっているらしく、色とりどりの火花が周りに広がっていく。
『隊長、すごい。綺麗』
「ああ、なかなかだねぇ」
『アンジェも感動です』
ついに私たちは終着点、連邦軍小惑星基地ルナツーに到着した。
そのままガイドビーコンの誘導に従ってモビルスーツデッキに進み通路に入る。
途中にもモビルスーツハンガーがありアグレッサーや実験で使うのだろう白色に塗られたMS-06F2ザクⅡ、MS-09Fリック・ドムなどジオン系量産型モビルスーツが雑多に並んでいる。
あのゲルググもここの仲間になるのだろう。
前が閉じていて背後が閉まった。モビルスーツ用のエアロックだった。
空気を注入しつつ八割満たされたぐらいで、前方のエアロックが開いていく。
ここの格納庫は珍しく空気があるらしい。
モビルスーツ、艦艇の出入りが激しい格納庫の場合は真空のままにして作業員がノーマルスーツを着る運用にすることがよくある。
大きい基地でも空気を無限に供給できるわけではないので節約なのだ。
ルナツー本体は石ころだけど基地部分は金属でコーティングしてある。
メカニックさんが大型のペンライト二本をそれぞれの手に持って最後の誘導をしてくれるので、それに従う。
ドスンと着地する。足裏には磁石やフックで固定する装置があるのだ。
三機のガンダムがステージの後ろ側に並んだ。
――ステージ。
私たちの歌う舞台だ。
その前には無数の人がペンライトを持って並んでいる。こっちはライブ用のものだ。
水色、ピンク、黄緑。少数だが黄色、紫、白などの人もいる。
私たちのうち推しのパーソナルカラーを持ってくれているのだろう。
空気はあるけど重力はない。
『ドア、解放どうぞ』
どこからか無線が入る。ヘルメットを取って自分のバックパックに固定する。
コックピットのハッチを開けて外に出た。
「「「うおぉおおおおおお」」」
「「クレアちゃーん」」
「「ミカちゃーん」」
「「アンジェちゃーん」」
そして一度静かになる。
「「「「エレメンタル・ガールズ」」」」
「「「わあああああ」」」
大歓声。歓迎されているらしい。
すごい熱気だ。地球でしか活動していなかったのに、こんなに応援してもらえるとは思ってもいなかった。
「みなさーん、こんにちは」
「「「「「こんにちはー」」」」」
みんなの反応がいい。
「エレメンタル・ガールズです。今日は……」
「「「ありがとうございます!!」」」
三人で声を合わせて言う。そういうと拍手が起こる。
「元素の歌姫――水のクレアです」
「――火のミカです」
「――風のアンジェです」
「じゃあ土は? アースつまり地球。連邦軍の皆さんのことです。一緒に頑張りましょう!」
「「「「わあああああ」」」」
音楽が掛かる。そして私たちは歌って踊る。
ルナツーに集結した各艦の大型ディスプレイがあるブリーフィングルームでもライブ・ビューイングが実施されていてペンライトを振って応援してくれているはずだ。
連邦軍広報アイドルパイロット。
持ち歌は全部で十七曲。一曲ずつ丁寧に歌う。精一杯、みんなを応援するために。
そして自分自身のために歌う。
――ジオンの亡霊を振り払うために。これは戦歌なのだ。
みんなが安心して夜眠れるようになるその日まで。
「それでは聞いてください。『宇宙にピクニック』――」
●Track2 『宇宙にピクニック』
ワンピース チヨコレイト ホワイトシャツ 歯磨き粉
ペンノート ポケットミラー ハンカチーフ 腕時計
バニラアイス パイナツプル イチゴムース カフェオレ味
なんだっけ ほらなんだっけ さいごにもひとつ なんだっけ
全部全部 リュックにつめて 今すぐ宇宙にピクニック
ジャンケン・ポン アイコでショ 最初に着いたら勝ちですか
何もかも リュックにつめて 今すぐ宇宙にピクニック
よよいのよい アイコでショ みんなゴールで待ってるよ
みんなで仲良くピクニック スペースコロニー月旅行
宇宙は広いぞなんのその 木星だってひとっ飛び