機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉 作:滝川 海老郎
休憩時間を過ごして半日。
ウーウ。ウーウ。ウーウ。
「警報? 今度こそ敵!」
気合を入れる。超特急でパイロットスーツを着こみモビルスーツデッキに出てハッチを開けてくれてあったガンダムのコックピットに文字通り空中移動して飛び乗る。
私のガンダムがリニアカタパルトから出撃した直後だった。
宇宙が明るく染まる。周りのデブリが白く浮かび上がった。前方右上に大きな火の玉ができていた。第二の太陽のようだ。
それは一見花火のようでもあって綺麗だけど熱核融合炉のエネルギーと推進剤などに誘爆した爆発だ。哨戒中のジム改がやられたのだ。
『ベランドン三番機、ジム改やられました』
緊張が走る。あの光は人の命の輝きだった。パイロットは即死だろう。
直接の知り合いではないけど、この前まで一緒に模擬戦をしていた仲間だった。
通信で冗談を言っていたのを覚えている。
それが一瞬で爆発してもうこの世のどこにもいない。
突然襲ってくる『死』を目の前にして人々の感情が雪崩のように頭に浮かんできては消えていく。
一年戦争やデラーズ紛争で死んでいった人々の走馬灯が同時に脳内に再生されるみたいだった。
「気持ち悪い……」
感情の渦は危険だ。仲間のことを考えよう。今戦わなければ次に死ぬのは私かもしれないし、ミカやアンジェかもしれないのだ。
「やってやるっ。私だってニュータイプだって言われたんだっ」
『クレア隊長、大丈夫ですか? 汗びっしょりですよ』
「はぁはぁはぁ……あ、うん、なんとか大丈夫」
通信でミカから呼びかけられ、なんとか感情コントロールをする。
敵が目の前にいる。初めての本物の敵。ジオンの残党だろうか。海賊だろうか。
「倒すしか、ない。これは戦争。とっくに戦争なんか終わったと思っていたけど、向こうが終わったと思うまでずっと戦争中なんだ」
息を整える。
「ミカ、アンジェ、いい?」
『『はい』』
返事がすぐに返ってくる。仲間は頼もしい。
前方でビームライフルの光とマシンガンの小さな連続した明かりがときおり飛んでいくのが見える。
「ゲルググか」
『えっ、またゲルググなのかあ。ビームライフルだもんね』
デブリに見え隠れしているが推進剤の炎がちらちら移動していくのが見える。
こんな時に限って今ジム・カスタムの小隊は休憩時間で寝ている。警報で叩き起こされたのだろうけど上がってくるまでにはまだ時間がかかる。
「私たちがやるしかない。ジム改なんかじゃ……」
ゲルググはガンダム並みの性能とされる。改修型といえどもジムはお呼びではない。一機撃墜されて今は二対一のようだが、こちらが有利とは言い難い。
『隊長、ゲルググ一機なんですか? 普通、小隊単位とかじゃ』
「わからないわ。どこかにまだいるのかも」
『索敵、急ぎます』
まさかこの暗礁宙域にモビルスーツ単機ということは非常に考えづらい。
どこかに母艦なり仲間なりいるはずなのに、見つからない。
ビームが光ってまた大きな爆発が起きる。
『ベランドン二番機、ジム改、撃墜されたようです』
通信はまたしても悲報だった。残り一機。
「お願い、逃げて……」
私の声が届くだろうか。ただでさえミノフスキー粒子濃度が濃く、通信が不安定だ。
レーザー通信もあるのだけど当たり前だが「目線」が通っていないと使えない。デブリが邪魔で途切れ途切れになっている。
「見えた。ゲルググ……高機動型?」
よく見るとゲルググには違いないがフォルムに少し違和感がある。
バックパックがB型といわれるものに変更されている。あれはエース向けなどにチューンされた高機動型だろう。全体的にはドムカラーに近い。色は黒と薄紫だ。
あらゆるモビルスーツとの対戦シミュレーターはプレイしたし、モビルスーツの資料は読み漁ってある。
その中にはMS-14B高機動型ゲルググももちろんあった。
普通はバズーカなどを装備するらしいがこの機体はビームライフルだった。
「難敵だわ、でもやらなきゃ。ファイア」
当たらなくてもいい。残りのジム改の援護のためビームライフルを発砲する。
小さな爆発が起きて周辺が明るく照らされたけど、これは違う。
「ハズレね」
三機のガンダムがビームライフルで牽制を続ける。
その間にジム改がこちらに近づいてきていた。
『す……すまない……助かった』
ノイズ混じりの通信が入ってジム改が後退してくる。
後ろから足が遅いメールシアのジム改もこちらに向かっているけど、いかんせんガンダムとは出力が違う。
「ぬおおおおお」
デブリを回避しつつ速度を上げて進むのは自殺行為に近い。
しかし相手は高機動型ゲルググだ。
ゲルググのビームが私の乗ったガンダムの頭上をかすめる。
「なかなかやるわ」
右上方向に顔を出したと思ったら突っ込んできた。
「えっ……」
あっという間に間合いを詰められて体当たりされる。
ガンダムが揺れる。当たり所が悪かったら頭部などが壊れることもある。
「うわああ」
『隊長っ』
『大丈夫ですか』
すかさずミカとアンジェから通信が入る。近すぎてビームライフルなど撃てない。
『この声、こんな小娘が』
敵から通信が共通チャンネルに入る。
国際通信チャンネルや救難チャンネルなどの周波数があるのだ。
「小娘じゃないわ。私はクレアよ」
『そうか。俺はオセロット、小さいトラだ』
「小さいトラ……」
『またどこかで、マドモワゼル。元素のお嬢さんたち』
ゲルググが反転して背中を見せる。
「逃がさないっ」
ガンダム三機が追跡してビームライフルで狙うがゲルググはスイスイと宇宙を自在に泳ぐように逃げていく。
きっとジオンのエースパイロットだ。
ドーン。近くで小さな爆発が起こる。
右側からリック・ドムが急速接近してシュツルムファウストで容赦なく攻撃してくる。
高威力爆弾だ。
「うっ、撤退」
『『了解』』
シュツルムファウストが近くで爆発して機体に破片が当たったが直撃ではない。
ガンダムAXは反転し、ホワイトホースに帰投した。
いつの間にかリック・ドムにも逃げられていた。
パイロットスーツから着替えて待機室で合流した。
「やられっぱなしだった。ニュータイプの私たちが」
「隊長、あっちもニュータイプの類ですよ。もしくはエースパイロットっていう」
「そうね。それにしても小さいトラか。トラは猫より大きいけど」
「オセロット、です」
「オセロットね。どれどれ検索……あらかわいい」
「かわいいのに獰猛なんですかね」
「ジオンにはあんな感じの人いっぱい、です」
「うん……」
損害はジム改二機。二名死亡。
やっとのことで暗礁宙域を抜けた。
また三人並んで待機室から宇宙を眺める。
「見てみて、コロニーいっぱいだよ、隊長ぉ」
「ここがサイド5」
「美味しいもの食べる、です。ドミー君もそう言ってます」
「うんうん、上陸楽しみだね」
「はい」
「ハロ。元気ナイ! 元気ナイ! ダイジョバナイ」
「ちょっとハロ」
「ハロ。ハロ」
ハロが転がっていく。そういうものを眺めているとなんだかホッとする。
ハッと気がついた。ずっと私は今まで緊張していたのだ。
なんだか涙が出そうだった。やられっぱなしだった。
何とか逃げられた。いや、逃がしてくれたのか。
初めての実戦。仲間の死。敵の出現。攻撃。殺すか殺されるか。
「ふふっ、ありがとハロ」
「ホメラレタ、ホメラレタ。ヤッタ、ヤッタ。クレア、元気」
「そうね。元気になったよハロ」
「ハロ。アムロ、元気」
「えっ、今アムロって」
「ハロ。ヤッタ。元気」
「ねえハロ、アムロの記憶があるの?」
「ハロ、ヤッタ、ヤッタ」
ハロはまともに応えてくれない。こういう時もある。
まるで猫みたいで何を考えているのかわからない。
次のライブがある。コロニー市民と交流する貴重な場だ。
会場は重力があるコロニー内の広い公園の予定だった。
私は気合を入れて、気持ちを切り替えた。
●Track3 『僕と君の朝食』
僕は朝目覚める 君も世界のどこかで
僕はパンを食べる 君はライスやパスタかも 世界は毎日回ってる
自転かもしれないし 遠心力かもしれない
でもそんな些細な違いより、大切なことはひとつ
みんな同じ人間なんだって聞いたよ この目で確かめたことはないけど
僕も君も、それから知らないあの人も もちろん有名人だって、どんな人もみんな
たとえ地上に恐怖の大王が降り注ごうとも
僕の歌が君に届くように 君の声も僕に届くといいな
さあ声を上げて、君の声聞かせてよ
いつか澄んだ青空の下で 真っ赤な太陽を背に
君と僕が一緒に 朝ご飯を食べられる日がきますように