機動戦士ガンダム0085 元素の歌姫〈エレメンタル・ガールズ〉 作:滝川 海老郎
エレカつまり電気自動車エレクトリック・カーに乗ってコロニー内を移動する。
「コロニーといっても中は普通の町なんですね『クレアちゃん』」
「そうだよ」
「なんだか内側に湾曲してて変な感じがするけど。ずっと上り坂みたいで」
「うん。でもそれで平らなの」
「ふぅん」
地球は地平線があって反る方向が逆なんだよね。
しかもコロニーは直径六キロメートルくらいだ。違和感はどうしてもある。
あと球技のボールを投げるとちょっと困ることがある。斜めに飛んだりする。
まっすぐ進んでるのに横方向に回転してると進んだときに回転分は相対的にずれるよね、という話だ。
これをコリオリの法則というんだけど、詳細はちょっと難しいので私はよくわからない。
ちなみにコリオリの力ともいい地球上では台風の渦の方向が北半球と南半球で逆向きになるのに影響している。
影響はボールだけではない。エレカもその一つであまり高速に移動すると影響されて斜めに進むようになって運転が難しいので四十キロメートル前後の速度制限がある。
コロニーの円周は一周十八キロメートルを二分で一回転なので、コロニーの地面は時速五百四十キロメートル毎時で進んでいる計算になる。特急列車以上の速度を出すとさすがに影響は出てくる。
「普通に街だけど新しいビルだからトーキョーみたいだね」
「うん」
パリやニューヤークの古いビルには装飾などがたくさんあるんだけど、ここのビル群はもう少し近代的だ。
平面の無駄のないシンプルなデザインのビルが並んでいる。
ただ街づくりのしかたはコロニーによっても異なっていて、このコロニーはこういう方針というだけだったりする。
古い町並みを再現するようなパリ風とかロンドン風みたいなコロニーもある。
「情報によると美味しいチキンナゲットのお店はもう少し先だね」
「そっか、ありがとう、ミカ」
「ううん。ミカちゃんにお任せよ」
「お任せです」
アンジェもノッてくれる。今日の休暇はいい感じだ。
目的地近くの地下駐車場にエレカを停める。
コロニーは外壁が金属板なので地下もよく利用されている。
ただでさえ人口密度が高いので道路下の地下駐車場なんかもあった。
もちろんそのさらに下には配管や電線、通信回線、冷暖房設備などもある。
一番下は外部へのハッチだ。ちなみに二分間で一回転するコロニーから外宇宙を見るとかなり怖い。
ぐるぐる回っている上に遠心力は1G近いので、無限に宇宙に落ちそうな錯覚をする。
だからモビルスーツの操縦は平気でも私はコロニーの外壁点検クルーなどにはなりたくない。
宇宙が見えるガラス張りの地下公園や緊急脱出用宇宙ボートなどがありコロニーでは小学生のうちから社会科見学に行くので、コロニー育ちならその怖さは誰もが体験する。
怖くない子もいるみたいだけど。信じられない。
ここの通りは広めの歩道があり露店がたくさん出ていた。
パリのようでもありニューヤークのようにも見える。
看板などはもちろん連邦政府の公用語である英語だけど中にはオシャレにフランス語になっているお店もあった。
周りを見渡すと若いカップルが多い。戦争とは無縁の生活なのだろう。
この通りに遊びに来ているときだけは現実の不安を忘れようとするのかもしれない。
「お店いっぱいあるね、ミカどこ?」
「うん。あっち」
もう少し先らしい。あった。列ができている。
なるほど検索して出てくるくらいだから有名店かもしれない。
このお店はチキンナゲットしか販売していない。だから注文は個数だけのようだ。
どんどん作っているので列の消化は思ったよりずっと早かった。
「チキンナゲット三つ」
「はい、どうぞ」
すぐに渡される。
さてここからが問題だった。
隣のコーナーにはソースのボトルが用意されていて好きな味を選べる。ダブルで二つ使ってもいいみたい。
ナゲットが入っている紙皿には隅のスペースが空いていてそこにソースを載せるポケットがあった。
「私はケチャップ」
「えっ嘘でしょ、クレア。私はマスタードがいい」
「マヨネーズに決まっています。ドミーもそう言って……置いてきたんでした」
ケチャップとマスタードとマヨネーズ。
三人の激しい視線が交差する。今、負けられない戦いがここにある。
「えええ、ケチャップ美味しいよ?」
「私はいつもマスタードだよ」
「マヨネーズです」
それぞれが自分の好きなソースを主張する。
「まあ、好きなの皆取ればいいんだよね」
「うん」
「そうです」
自分の選んだソースのボトルを手に取る。
「えへへ」
「いひひ」
「ですです」
みんな自分の好きなソースをゲットしたのでニヤリと笑う。
「んじゃあそこのベンチで」
「ほーい」
「はいです」
ベンチに並んで座り、ナゲットを手で摘まんでソースにつけて食べる。
「美味しぃ、やっぱりチキンナゲットにはこのトマトの旨味」
「マスタードの風味が美味しい」
「マヨネーズ美味しいです」
チキンナゲットをパクパク食べる。
外はサクッとしていて中はジューシーな鶏肉が美味しい。
まだアツアツなのもいい感じ。
「そうだ、マスタードも少しちょうだい」
「いいよ」
こうして私たちはソースの交換会をした。
「マスタードもマヨネーズも案外美味しいね」
「でしょう」
「美味しいです」
どの味も美味しいということになった。
ベースのチキンナゲットが美味しいからね。もうたまらないね。
こうして三人の少しばかりのデートは終わりとなった。
「もう帰らないと。ミカ、アンジェ行こっか」
「そんな時間か」
「連邦軍は時間にうるさいです」
「だね。けちんぼなんだよね」
「そうだね」
エレカに乗って宇宙港に戻っていった。
この後はホワイトホースでライブのミーティングがある。
いよいよ明日はコロニー内でのライブだ。
翌日、午後一時。いよいよライブが始まる。
「クレア・ミッドランド少尉――ガンダムAX・ウンディーネ、発艦します」
停泊している宇宙港からカタパルトを使わずにロックを解除して浮遊する。
サラマンダー、シルフィードと合流する。
そのまま三機のガンダムは港の中をゆっくり浮いたまま進み、コロニー内側の作業用エアロックからコロニー内部へと進む。
「すごい、ここちょうど筒の芯なんだね」
周りは一周三百六十度コロニーの地面だ。丸いのが見える。
途中には雲も発生していて、なんだか幻想的だ。
ちょっと俯瞰視点で都市開発ゲームをしているような気分になる。
そのまま少し進んでいく。
「えっと会場は、と」
左下の方向の街の中に緑があり広い空き地のような場所があった。
「こっちだね。レーザー誘導を確認、セミオートで」
そのままコロニーの中をゆっくり回転しながら自由落下していく。
「うぉぉお、紐なしバンジージャンプ、隊長ぅ」
「まったく、クレア。頼んだわよ」
「あいあいさー」
「アンジェも今日はよろしくね」
「合点承知の助です」
「ふふっ」
アンジェが変な返事をしてくると思わなくて思わず笑顔を浮かべる。
上空から地面までは約三キロメートルだ。
コロニー内をらせん状に落ちていく。スラスターで速度が速くなり過ぎないように調整する。
「もうすぐ地面ね。目標視認、位置よしっ」
最後にスラスターを強めに噴いてブレーキをかけてなるべく静かに着地する。
あまり速度差があるとコロニー地震になってしまう。
三機のガンダムが無事に空から地面に降りられた。
ドスン。音は鳴ったけどまずまずだろう。
「ふぅ、着地完了」
安全のためステージ裏のガンダムのスペースは広めに取られているので、着地地点から移動する。
目の前には群衆がいる。
ドスン、ドスンとガンダムが歩くたびに歓声が聞こえる。
もちろんこれは連邦軍に対する抗議活動、ではなく私たちのライブを見に来てくれたお客様だった。
手に手に三色のペンライトを持って振ってくれている。
水色、ピンク、黄緑。私たちのパーソナルカラーだ。
停止位置につくと、ガンダムから降りる。
連邦軍はこのようにガンダムに乗って会場入りする演出を気に入ってるらしい。
ここはルナツーと違って遠心力で生み出した人工重力がある。
ガンダムの右手に乗って地面に降りる。これの操作はオートだ。
ガンダムから降りた先はステージになっている。三人が集合して中央でハイタッチを交わす。
ヘルメットは外しているがパイロットスーツで歌うのが私たちのやり方だ。
「みなさーん。こんにちはー。エレメンタル・ガールズです」
「「「「わあああああ」」」」
「元素の歌姫――水のクレアです」
「――火のミカです」
「――風のアンジェです」
「「「みんな、ライブにきてくれてありがとうございます」」」
私たち三人が頭を下げるとまた歓声が上がる。
ルナツーと違うのはアースが連邦軍だという部分は民間向けには言わないところだった。
「それではさっそく歌います。聞いてください。『元素曜日』――」
歌を歌って踊る。
ガンダムは音楽に合わせて目が光る。三機のガンダムの首と腕を動かしてロボットダンスをする演出もある。
冷静に見るとちょっとシュールで笑いそうになる。
●Track4 『元素曜日』
(三人)僕たちは エレメンタル・ガールズ
みんなと 顔を合わせ よろしくお願いします
(クレア)今日は 水曜日 朝から 雨模様
たまには 傘を差すのも 悪くは ないじゃない
アイスは バニラ味 ソースは ケチャップ
アクアは 水女神 私は ウンディーネ
(三人)僕たちは エレメンタル・ガールズ
みんなと 歌を歌う くるくる 踊りましょ
あー 宇宙〈そら〉は こんなにも 広いのに
あー もっと 自由でも いいじゃん
(ミカ)今日は 火曜日 朝から 陽がサンサン
たまには サングラスも 悪くは ないんじゃない
アイスは ストロベリー ソースは マスタード
マルスは 火の女神 私は サラマンダー
(三人)僕たちは エレメンタル・ガールズ
みんなと 歌い踊る 楽しく 遊びましょ
あー 人生は 無限の 可能性なのに
あー もっと 自由でも いいじゃん
(アンジェ)今日は 風曜日 朝から 東風が吹く
たまには コートを羽織るのも 悪くは ないんじゃない
アイスは カフェオレ味 ソースは マヨネーズ
アウラは 風女神 私は シルフィード
(三人)僕たちは エレメンタル・ガールズ
みんなと おしゃべり 最後には 笑い合おう
あー 心は 誰もが 内に秘める思い
あー もっと 自由でも いいじゃん