ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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10話 下準備

「アスカ、この後の流れについておさらいするよ」

「ええ」

 

 本日は十二月の八日、時刻は午後一時前。ミサトさんとイェーナさん二人の誕生日である。

 そんな日の学校帰り、バスの中でアスカと作戦会議をする。ちなみにオレとアスカが通う学校は半日の日と終日の日があり、運良く今日は半日。しかもゲヒルンでのお仕事もお休みだ。

 

「まずはショッピングモールでケーキの材料とプレゼントを買う。ゲヒルンには十四時につくように、なるべく早く買い物を終わらせよう。その後に食堂でケーキ作りを一緒に出来ないか頼む、無理だったらオレがそれとなく作り方を知ってるから勘で。十五時になるとミサトさんとイェーナさんはコーヒーブレイクに入るから、そこでそれとなく午後の用事を聞く」

「あたしがイェーナで、タローがミサトよね。でも二人が同じ場所に居たら?」

「それは大丈夫。イェーナさんはほぼ確実にテストモニター室に居る。ゲヒルンの中でイェーナさんが紅茶を淹れるのはあそこしかないし、ミサトさんは多分どっかでカップコーヒー飲んでるから」

 

 二人が居る時に聞いてしまうと、サプライズ感が薄れてしまう。理想は二人がなんの事情も知らずに集合することだ。

 

「誘う時間は?」

「仕事が終わるのが十七時だから......イェーナさんはともかく、ミサトさんがその後に残ることを見越して十九時にしよう」

「わかったわ。確かにイェーナはいつも遅くて十七時半には帰ってきてるけど、ミサトは日によってバラバラだものね」

 

 そう。シゴデキイェーナさんはどんなに問題があっても絶対定時退社をすることが可能なスーパー超人。ただミサトさんも基本的にはオレとアスカの部屋に入り浸るため定時で終わっているようだが、時と場合によって残ることがある。

 その時間と夕食の時間を考慮した場合、十九時が最適なはず。アスカも可愛く頷いて同意してくれてるし。

 

「あ、そろそろ降りたほうが良いんじゃない?」

「本当だ、降りようか」

 

 アスカの声で外を見ると、学校から最も近いショッピングモールがある街に。普段は通り過ぎるが、そこでバスを降りる。

 

「よし、行こうか」

 

 バスを降りた後、アスカに手を差し出す。彼女は少し照れくさそうにしながら誕生日にミサトさんから貰った手袋越しにオレの手を握ってきた。ちょっと前まではニコニコで手を繋いできたけど最近少し羞恥心が感じられるのが凄く良いです。

 

「まず先にプレゼントから買おう。ケーキの材料は後だ」

「そういえば思ったんだけど」

 

 ショッピングモールに歩いて行く途中、アスカが神妙な顔をする。一体何を言うんだろうと思い、思わず足を止めてしまった。え、なにその顔。もしかして重要なこと見落としてた?

 そんなオレの不安を見抜いてか、アスカは「少なくともあたしの知ってる限りでは」と前置きしてから言った。

 

「ドイツって基本的に誕生日の人にプレゼントあげないのよね」

「......ゑ?」

「もちろんミサトからは手袋と帽子貰ったからちゃんと返すけど、ドイツ人のイェーナの場合は多分あんまりお金のかかるやつは辞めたほうが良いわよ。この前紅茶を淹れてくれたのがあたしへの誕生日プレゼントって感覚だから」

「......マグカップ買おうと思ってたけど、それじゃ駄目か......」

 

 国民性の違いというものを完全に忘れてた。確かにオレとアスカはゲヒルンドイツ支部で三度の誕生日を迎えてるけど、お祝いの言葉は貰えどプレゼントは貰ってねえな。

 ヤバいどうしよう、ミサトさんは日本人的感性でプレゼント渡しても良いかもだけど、イェーナさんにマグカップをプレゼントして心の中で「金をかければ良いと思われてるのね」なんて思われた日には立ち直れない。

 

 様々な思考によって頭がオーバーヒートし燃え尽きていると、アスカが解決策を提案してくれた。

 

「タローはもちろん知ってると思うけど、大事なのは気持ちなのよ! あそこのショッピングモール、食器にその場でデザインを写してくれるやつがあったはず」

「アスカ......お前女神だ! 早速行くぞ!!」

 

 アスカの手を強く握り、ショッピングモールに向かって走る。バス停からそう遠くは無いが、早いに越したことはない。入り口が近づいてきたのでちゃんと歩く。流石にショッピングモール内を走るわけにはいかないからね。

 

「アスカ、何階かわかる?」

「一階よ、あのお店」

「ちょうど隣に食器屋さんもあるじゃないか、好都合」

 

 アスカが指さした方向へ人にぶつからないように、早歩きで向かう。ショッピングモールの中に入ったらちゃんと帽子と手袋を取るアスカちゃんマジ愛してる。

 

「まずはカップから選ぼう。大きさは300mlで白をベースにするとして、大事なのは形状......」

「これイェーナっぽくない?」

 

 そう言ってアスカが差し出してきたのは、カップの下部と曲線的な持ち手が暗い紺色で縁取られ、上部から下部に行くにつれ細くなるテーパー形状のカップ。

 

 確かにこれは、イェーナさんっぽい。なんというかこう、無骨ながらも曲線美のあるデザインが、落ち着いていて表情を表に出さないながらも母性を感じるイェーナさんと重なる。そしてこの暗い紺色。イェーナさんは髪の毛も瞳も色素が薄いが、彼女の芯の強さを表現しているようだ。う~む、これを初手で持ってくるアスカ......

 

「本当に天才かよ」

「え?」

「とりあえずカップはコレに間違いない。あまりにもイェーナさんすぎる。お会計だ!」

 

 カップを受け取り、アスカの手を握ってレジに向かいお会計をする。このお店はいわゆる大量生産品の食器ではなく、一点ものを取り扱っているお店なのかそこそこ良い値段だった。とはいえ無問題、キッチリ払ってから早速隣のお店へ。

 

「すみませーん! カップにデザインをしたいんですけど!」

 

 声を出すとお店の奥から髭を蓄えた気の良さそうなおじさんが出てくる。オレのあまりにも必死な目を見てぎょっとしていたが、すぐに駆け寄ってきてくれた。

 

「おうおう、どうしたどうした。どのカップだ?」

「コレです、出来ますか?」

 

 先程隣のお店で買ったカップ。あえて梱包はしないでもらい裸で受け取ったものをおじさんに手渡す。

 

「ああ、もちろんできるぞ。ところで訳ありのようだな。急ぎか?」

「はい。どれくらいで出来ますか?」

「デザインを入れて渡す事自体はすぐできる。ただ、そのデザインが定着して使用できるようになるまでは半日かかるが......それでも良いか?」

「もちろんです!」

 

 さあ、後はデザインを考えるだけ......。イェーナさんのことは、オレよりもアスカのほうが知っているはずだ。好きな動物とかあるのか聞いてみよう。

 

「アスカ。デザインなんだけど、どんなのが良いと思う?」

「まあシンプルなやつよね。確かイェーナの実家には風車があるって言ってたから、とりあえずこれ入れたいわ」

 

 アスカはランセルからノートとペンを取り出すと、風車の羽だけを描く。スタイリッシュで良いけど、コレだとイェーナさんの為に、って気持ちが伝わらないかも。アスカもそう思っているのか、唇を尖らせて「やっぱ微妙ね」と呟いた。

 

「坊主、お嬢ちゃん。手書きで送る人の名前と自分のサインを書いたらどうだ」

 

 そこに、おじさんが提案してくる。それを聞いたオレとアスカは目を合わせ、風車の羽マークの下に、イェーナさんの名前。Jenaと筆記体で書き、その右下に小さくオレとアスカのイニシャルであるTAと書く。

 これだけでもデザイン性は十分だろうが、シンプルすぎるな。イェーナさんの名前とオレ達のサインの前に小さく付け加えて......。

 

「「出来た!」」

「おぉう、こりゃ中々センスあるな」

 

 親愛なるイェーナへ、TAより。ドイツ語でのその一文をデザインらしく描いたものとマグカップをおじさんに手渡し、委ねること数分。満足げな顔でマグカップを手にやってきた。

 

「ほれ、これでどうだ。傑作だろ」

「完ッ璧です! ありがとござます!!」

 

 さあ、後はミサトさんへのプレゼントだ。これはボールペンに決まっている。その場で刻印と書かれた看板があったから、イェーナさんのカップと同じような文を刻んでもらおう。

 

 支払いを済ませ、筆記用具店に向かう。その道中でカップを梱包するための箱を買い、到着した文房具店ではまさにミサトさんにピッタリ。艶のある暗い赤色の多色ボールペンを買い、「親愛なるミサトへ、TAより」というイェーナさんのマグカップと名前違いの刻印を施してもらう。しかも目の前で。

 

「うおすっげえ......」

「......」

 

 若い男性が微笑みながら彫刻刀のようなもので多色ボールペンに文字を刻んでいくさまに、オレとアスカは釘付けになる。アスカちゃん口を閉じなさい可愛いけど。

 

「色はどうしますか?」

「黒い色でシンプルにお願いします。普段使いできる感じで」

「承知しました」

 

 文字を削ったところに、黒色のインクが流し込まれる。そして機械に入れられ、塗料が剥がれないようにコーティングと乾燥が短時間で行われる。

 その後箱に戻されたボールペンを受け取ったオレたちは、食品売り場を最短ルートで駆け抜け、ケーキの材料を買い揃えバス停に到着した。

 

「流石に時間がかかったわね、もう十四時を過ぎてる」

 

 アスカの言うように、バス内の時計は十四時すぎを指している。ここからゲヒルンドイツ支部までは三十分弱だろうか。しかも次のバスは十分後、とてもじゃないが余裕のあるスケジュールとは言えない。

 頭の中でこの後の行動を練り直していると、黒塗りの車がバス停に止まった。こんな時になんだよと心の中で愚痴っていると、助手席の窓が開かれ運転手が顔を出してきた。

 

「お二人さん、お困りごとかな?」

「って食堂のおばちゃん!?」

 

 この人ってこんな厳つい車乗ってんのかよ! 最初どっかの怖い人だと思ったぞ!

 

「おばさん、ゲヒルンまで乗せてって!」

 

 おばちゃんの登場に驚いていると、アスカが強引にオレの手を引き、後部座席を開けて引きずり込んできた。その様子を見たおばちゃんは察してくれたのか、オレとアスカがシートベルトをするのも待たずに発進した。まあスモークガラスだから多少はね。

 

「しかしどうしたんだいドレッドノートくんにラングレーちゃん。寄り道してたのかい?」

「イェーナとミサトが今日誕生日だから、贈り物とケーキの材料を買ってたのよ。それでおばさん、この後時間ある?」

「ああ、そういうこと。それなら任せなさい、ゲヒルンドイツ支部を支える私達の出番だね!」

「感謝するわ」

「ありがとござます!」

 

 今日はなんてツイてるんだ。アスカの方を見ると、彼女も同感なのかウインクを返してくれた。正直鼻血出た。

 よし、誕生日お祝い大作戦。予定通り遂行できそうだ。

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