「ミサトじゃない。
「
「それは貴女こそよ。私はこの時間に来いってアスカに言われたのだけど」
「アラ、私もタロちゃんに呼ばれたんですよ。まさか......ハーレごふっ!?」
ドアの向こうで、ミサトさんエヴァにでも乗ってんのかよと言いたい苦しそうな声と鈍い音が鳴り響いた。あの人、オレ達の居ないところではあんな不適切発言してんのかよ。
「イェーナは大変ね」
「うん、全く持って同感だよ」
暗い部屋の中、一緒に角で隠れているアスカが呆れたような表情を月明かりに照らさせる。すんごい絵になってるから絶叫して褒めちぎりたいけど、今それやったら二人へのサプライズが台無しになるから我慢だ。
「馬鹿なこと言ってないで姿勢正しなさい。ドア、ノックするわよ」
「うう、はい......」
コンコンコンと、扉が三回ノックされる。人の習慣というのは恐ろしいもので、普通に出ようとして体が動きかけた。それはアスカも同じだったのか、二人で動き出そうとしたお互いを制するという、意味の分からない状況に笑みが溢れる。
「居ないのかしら?」
「まさか。あの二人が約束をすっぽかすとは思えません。タロちゃんだけなら寝てる可能性もありますけど」
おい、ミサトさんの中ではオレは寝坊助さんなのかよ。
「確かに」
イェーナさんもかよ! オレ寝坊したこと無いよ!?......いや一回だけシンクロテスト中に寝ちゃったことあるけどさ、あれは不覚だっただけだ。弐号機の中、落ち着くんだもん。
「鍵は......開いてるじゃない無用心ね」
イェーナさんがドアノブに手をかけ、扉を少しだけ開けて呟く。さあ、いよいよか?
アスカに視線を向けると、彼女は手に持ったクラッカー。またの名を紙製炸裂音機(命名我)を手に構えて頷く。
「これは入ったほうが良いのかしら?」
「う~ん、入らないほうが良いような二人が心配だから入ったほうが良いような......」
「私は入るわよ」
「や、
キー、とドアが開かれた音がして、真っ暗な廊下に共用廊下の光が差し込む。オレたっての希望でアスカとの共同部屋は土足厳禁のため、入り口近くにビニールテープで仮の
イェーナさんとミサトさんがそこで靴を脱いだ音がしたあと、ポスポスとゆっくり歩を進める音が聞こえてくる。
「......」
アスカと目配せをしてタイミングをあわせる。イェーナさんか、ミサトさんか、どちらかが軽く鼻をすすった音が間近になった時、オレが部屋の電気をつけてアスカと一緒に飛び出した。
「うわぁ!? 何なにナニィ!?」
「......」
先程まで暗闇に居たせいで部屋を明るくした時に少し目に来たが、珍しく口を開けてポカンとした表情のイェーナさん。そんな彼女に情けない声とポーズで涙目ながら絡まるミサトさんがいた。
よし、驚かすことには大成功、後は決め台詞。アスカと息を合わせて
「「誕生日、おめでとう(ございます)!!」」
「......へ?」
「なるほどね」
今度はミサトさんが口を開けてキレイな間抜け顔を晒していたが、イェーナさんは状況を理解したのか自分に絡みつくミサトさんを剥がし、こちらに近づいてくる。
「二人共」
あ、これ怒られるやつかも。不意にそう感じたが、イェーナさんはいつもどおりの無表情。いや、いつもより心なしか優しげな表情で屈みながら両手を目一杯広げて
「ありがとう。嬉しいわ」
オレとアスカを優しく抱きしめてきた。アッ、優しい森林のような自然な香りがするぅ! 興奮するぅ!!
「どう、イェーナ。驚いた?」
「もちろん。素敵なサプライズだったわ。部屋もちゃんと装飾してくれて」
時間がなかったので色紙を切り出して作った文字を、壁に貼り付けている。本当は文字バルーンとかを使ったほうが華やかで良いのかも知れないが、イェーナさんもミサトさんも派手なのは嫌うタイプだろうし、コレぐらいがちょうど良いのかも知れない。別にバルーンだと片付けが面倒だからとかじゃないですよええ。
「ほんとだ。っていうか、文字の切り抜き綺麗すぎじゃない? 文字の影までついてるし」
「これがタロちゃんクオリティってやつですよミサトさん。さ、二人共! 今から準備するので、ちょっと座っててください!!」
部屋の片隅に置いてあった折りたたみのローテーブルを広げ、冷蔵庫へと向かう。取り出すものはそう、オレとアスカが食堂の人達と協力して作ったケーキだ。
といっても、ケーキといえばイメージされるショートケーキではない。生クリームたっぷりで翌日の仕事に響いては行けないので、シュトロイゼルクーヘンというドイツのお菓子だ。個人的に食べてみたいのもあって、材料は調べておいた。
切り分けられていないそれに四枚のお皿とフォーク、切り分けるためのナイフをもってローテーブルに置く。ミサトさんは見たことが無いのか興味深そうに観察していたが、イェーナさんは馴染みが合ったのか懐かしげな顔をした。
「どうぞ」
「シュトロイゼルクーヘンじゃない。しかもこれはイチゴかしら?」
「そうですよ。アスカがアレンジしてくれたんです」
「ま、ただのシュトロイゼルクーヘンじゃつまらないもの。オリジナリティ出さなきゃね」
ふふん、と誇らしげなアスカ。イェーナさんとミサトさんに頭を撫でられながらお礼を言われ、まんざらでもなさそうだ。可愛い女の子×キレイなお姉さんは正義、オレは男子禁制の絶対的聖域に近づくほど愚かではないよ。
さて、わたくしはお茶を作るとしましょうか。お湯を沸かして~と。
「タロちゃん、手伝うわよ」
「主役は座って......いや。じゃあカップ四つとポットを取ってください」
「ふふ、オーケーよ。タロちゃんのパーペキな紅茶を作るサポートは任せなさい」
サムズアップしながらウインクしてみせるミサトさん。
いや茶目っ気あって可愛いけど、パーペキとかもう死語だろ。厳格なくせにミーハーだった世界Aのオレの親父ですら使わねえぞ......ま、そこもミサトさんの良いところだということにしよう。
「ミサトさんが言うと、自然に聞こえますね。死語が」
「あはは、そうでし......ちょっち待ってそれ皮肉? ねえ皮肉!?」
「褒め言葉ですよやだな~」
そんなくだらない会話をしていると、予めセットしていたタイマーが鳴る。カップを温めるために注いでいたお湯を捨てた後、念のためティーポットの蓋を開ける。茶葉が良い感じに開いており、いつもの香りが鼻をくすぐった。
ちなみにこの茶こし内蔵ティーポット、二年前だかにイェーナさんがお近づきの印にといってくれたものだ。真っ白に赤色のラインがやはり映えている。羨ましいだろ。
「よし、良い感じ。ミサトさん、そこに牛乳あるんで取ってください」
「ア、ハイ」
皮肉かどうかを考察しすぎてミサトさんがモノクロに見えるけど、触れないでおこう。古いのは言葉だけで十分だっちゅの。
「アスカはミルクと砂糖少しだよね?」
「ん、ダンケ~」
カップをそれぞれ四つテーブルに並べたあと、まずはアスカの分から淹れる。ゲストから淹れるべきだろうが、イェーナさんがどうやって淹れるんだととんでもない眼力で見てくるので一旦わかりやすく見せてあげることにした。
諸説あるが、オレは紅茶を先に入れてからミルクを加える。だがアスカの場合は砂糖を少しがお好みのようなので、ミルクの前にグラニュー糖を少し溶かし入れたあと、目安でいつもの色になるまでミルクを加えて混ぜる。
「ミルクインファーストというわけではないのね」
「人それぞれですね、オレはいつも紅茶が先です。さてイェーナさん、ミルクと砂糖は?」
「タローと同じで」
「じゃあ砂糖なしでミルクだけですね」
同じ量のミルクが入った紅茶を二つ作る。最後はミサトさんだが......
「ミサトさんはどうします?」
「サトークダサイ」
「わかりました」
完全に脳がオーバーヒートしてらっしゃるご様子なので、砂糖は多めにしてあげよう。
さて、コレでイェーナさんとミサトさんに、ケーキと紅茶。このささやかなパーティーの主役と主役が揃った。あとは文字通り主役に花を持たせるだけだ。
「アスカ、渡そうか」
「ええ。イェーナ、ミサト。あたし達からのプレゼント、受け取りなさい」
アスカがちゃっかり紙袋に入れて隠していた二人へのプレゼントを取り出す。イェーナさんのマグカップ、ミサトさんのボールペン。
もちろん梱包し直してメッセージカードもつけている。なぜならコレは、二人だけの為にオレ達が愛を込めて選んだプレゼントだからな。
「ありがとう」
「ヒニク......えっ、プレゼント? ......ありがどぉ~」
貴重なイェーナさんの笑顔をしっかりと焼き付けた後、ミサトさんを見る。
虚ろな目をしていたミサトさんだが、プレゼントを目にした途端に涙を流しながらオレとアスカに抱きついて来た。な、なんだこの力!? あと良い匂いに反応しちゃうのが悔しい!!
「さっそく開けても?」
「ど、どうぞ......」
ミサトさんの肩越しにイェーナさんが聞いてきたので、ヨシと答える。イェーナさんは梱包さえもプレゼントの一部と言わんばかりに丁寧に開封していった。
「まあ、素敵なマグカップね。しかも名前入り......ありがとう。大切に使わせて頂くわ」
マグカップとメッセージカードを胸に抱え、大事そうに見つめるイェーナさん。あれ、気のせいか彼女の頭上に天使の輪が見えるよ......おかしいな、こんなところに階段なんてあったっけ。
「こんの、いい加減、離せ!」
アスカがミサトさんを引き剥がしたことで、ついでにオレも開放される。あれ、階段どこ行った?
「じゃあ私も開けちゃお~っと」
ミサトさんは強引に引き剥がされたことで、ぶーとふくれっ面をした後にプレゼントを開ける。意外とイェーナさんと同じように丁寧に開けていくのを見て少しだけ好感度が上がった。
「お、ボールペン! 私のも名前入りじゃない!」
わはーと顔をキラキラさせ、ボールペンを今着ているジャケットの色々なところに差し込むミサトさん。最終的には、一番目立つ胸ポケットに収まったようだ。
「ほんっと落ち着き無いわよねミサトって」
「ははは、でも喜んでもらえてよかったよ。アスカもそうでしょ?」
「まあね。にしたってこんなにうるさくなるとは思わなかったけど」
「でも良いじゃん。アスカだって顔、ニヤけてるし」
オレが指摘すると、アスカは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。今日も今日とて私の天使が可愛い、誰か写真を......ミサトさんナイス!
「あ、そうだイェーナさん。そのマグカップ、文字が定着するのに時間かかるみたいで。明日の朝からなら問題なく使えるかと」
「わかったわ。使うのも勿体ないから飾っておきたいけれど、二人からの贈り物だもの。使ってなんぼ、据え膳食わぬはなんとやら、だったかしら?」
「んん地味~に意味違いますねそれ、てか誰がそんな言葉教えたんですかね?」
なるべく笑顔のまま、ミサトさんを流し目で見る。この人ほんっとわかりやすいな、とぼけるのに口笛吹くアホがどこにいるよ。
そう思ってミサトさんを見続けていると、視線に耐えかねたのかごまかすように両手を広げ叫んだ。
「と、とりあえず! もう一回だけ感謝のハグさせてちょうだい!」
「だーもう鬱陶しい! さっさとケーキ食べてお茶飲んでミサトは部屋に戻りなさい!!」
アスカとミサトさんのキャットファイト? を見ながら、イェーナさんと目を合わせる。思わずお互い吹き出してしまった。
色々あったけれど、喜んでもらえたようで何よりだ。出来ればもっとスマートにやれれば良かったけど、良い思い出ができた。
イェーナさんはともかく、その晩散々暴れ回ったミサトさんが翌日いつものキャリアウーマン顔で出社してたのに驚いたのはまた別の話。
念のためもう一度書きますが、毎日投稿では無いのでご了承ください。時間なくなっちゃうので。
あと年齢は結構飛ぶものと思ってください。書かれていない時間に何があったかを想像するのも物読みの楽しみだと思うのでという言い訳
物語の密度と1話ごとの文字数について
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