「タロちゃん、アスカ。海、行こっか」
「「......ん?」」
十代最初の夏。四年制の基礎学校を卒業して夏休みの最中、いつもの休日と同じで昼間っからオレ達の部屋でくつろいでいたミサトさんが、突然そんなことを呟いた。
海に行こうって行ったよな? どういう風の吹き回しだ?
アスカの方を見ると、彼女も意図がわからないのか訝しげな表情。成長して天使と女神の間にいるアスカたんに今日もメロメロです。
「でも海って、ここからだと結構遠いわよ?」
アスカがミサトさんに問う。そう、ここゲヒルンドイツ支部......いや、去年の四月からはネルフドイツ支部か。一年以上経っても慣れないけど、徐々にいわゆる原作が近づいてきてるのを感じる。
それは置いておいて、ネルフドイツ支部は海から遠いところにある。というかドイツ自体海と面しているのはバルト海と面する北側のみ。そんなわけで夏のウォーターアクティビティといえばプールか湖だ。まあオレもアスカもネルフドイツ支部内にあるプールでしか泳いだことは無いのだが。
「バカンスシーズンだから、今日からしばらくお休みなのよ。で、最後の思い出作りに二人と海に行きたいってわけ」
「......え?」
「いいじゃない、海! あたし賛成よ! タローは!?」
「あ、お、おう。オレも、行きたいです」
アスカは気付いていないようだが、ミサトさん今とんでもない爆弾発言した気がする。最後の思い出作り、って言ったよな?
ということは、直に日本に帰ってネルフ本部勤務になる、ってことか?
「ミサトさん」
「ん? なぁ~にぃタロちゃん?」
急いでミサトさんに問いただそうと名前を呼ぶが、彼女自身も自分がこぼした言葉に気付いていないのか、普段の調子で返してくる。
正直、聞きづらい。それにアスカは初めての海ではしゃいでるし、ここで「ミサトさん居なくなっちゃうんですか?」とか言って雰囲気を壊すようなことしたくない。
名前を呼んだは良いものの、どうしようかと悩む。ミサトさんはいつまで経っても言葉を発さないオレを不思議に思ったのか、肩を組んできた。
「どうしたの? 何か不安?」
「い、いえ。そういうわけじゃ......あっ、そうだイェーナさんとかは誘わなくて良いんですか?」
「あ、それなんだけれど」
ミサトさんに見つめられて、それが続くと心を覗かれそうな感じがして急いで話題をそらす。ちょっと雑だったかなと思ったけど、ミサトさんから開放されたので上手く誤魔化せたようだ。
「イェーナさんが明日からおやすみなんだけど、実家に帰るらしいのよ。で、彼女の実家が海のある所だからよかったら三人で一緒にって誘われてたの」
「へ~、イェーナの実家ね。ちょっとどんな感じが気になるわ」
「それは確かに」
思わずアスカに同意してしまう。いやあんだけ完璧超人な美女を育てられる親とか誰でも気になるでしょ。未来で子育てするようになった時参考にしたいじゃん。
それに、アスカが他人の親を気にできるほど余裕ができてよかった。なんだかんだ彼女の母親に関するトラウマを克服させられているか分からなかったから。
ただひたすら褒めて褒めて受け入れる。それしかできないオレがアスカの心の傷を癒やすことはできないかもしれないけど、思い出させないようにすることくらいは出来たのかもな。
「何よタロー、難しい顔して。まさか泳げないの気にしてるわけ?」
「いやアスカと海で遊べるの、楽しみだなって」
ミサトさんとアスカのことを考えていると表情が暗くなって居たのか、アスカに小馬鹿にしたような感じで聞かれる。ので、本心である楽しみを伝える。
アスカはそれを聞くと、みるみる得意げな顔になっていく。この喜怒哀楽豊かなところがまた可愛いんだ。
「え、タロちゃんって泳げないの?」
「水泳だけ4でしたね......あとは全部1なのに」
ドイツの学校は六段階評価、数字が大きくなるほど評価が低くなる。日本とは逆なので、オール1のアスカは満点評価ということになる。教師からしてみればオレとアスカの評価は1以外ありえないって感じだったと思うけどね。
その証拠に現在、アスカはアメリカの大学に飛び級で入学して生物工学を専攻してるし、オレもイギリスの大学で体育科学を専攻している。
ゲヒルンがネルフになったことで国家に対する影響力をより強大なものとし、特例中の特例でオレ達がドイツの義務教育課程を終えたことを認めさせたと聞いている。大学に関しても通わずにネルフ内で学んでいるので正直実感が湧いてない。名門大学卒が揃う旧ゲヒルンドイツ支部の教養係は伊達じゃないということはわかるが。
「ちょっとくらい欠点がある方が可愛いじゃないの、ね~タロちゃん」
「なんかミサトってダメ男に引っ掛かりそうよね」
「うん。わかる」
「ちょっとなんでよ!? タロちゃんまで後ろから射撃はしないで!?」
こればっかりはアスカに同意しちゃうよ。ていうか、もう既に引っ掛かってるんじゃないの? と言いたい。怪しまれるので言わないけど。
「とりあえず、海に行くなら水着が必要よね。 遊ぶものは向こうで買えるかもしれないけど」
「オレは学校で履いてた海パンで良いかな~。まだ履けるし」
悲しいことに、オレの記憶が正しければこの世界と世界Aの肉体は成長速度が全く同じだ。となると、最終的な身長も変わらないことになるのかも知れない。クソ、ギリギリ人権ラインじゃなくて高身長イケメンになりたかったぜ。
それに、ずっと同じくらいだったアスカに身長を抜かされてしまっている。このくらいの年齢では女子のほうが成長が早いとは言うが、アスカはクォーター。流れる血の3/4がドイツなので少なくともミサトさんと同じくらいの身長にはなるだろう。
そうなるとさ、ほら。アスカがヒール履いたら世界Aのオレと身長が変わらなくなるわけでしょ? アスカが身長第一主義だったらオレなんて見向きもされなくなる。それがこの世界でオレがフィジカルを鍛えるモチベーションが高い理由だ。筋肉は正義だと信じている。
「それだったら、この後水着を買いに行きましょう。水着買わないにしても、タロちゃんも来るでしょ?」
「そうですね、それじゃあ一緒に......」
「駄目よ」
「え」
ついでに行こうと思っていたが、手を向けてきたアスカに拒否される。何か怒らせてしまったかと、焦りで一瞬にして冷や汗をかく。
ミサトさんも目を丸くして驚いていたが、アスカはそんなこと気にもとめずに言った。
「とびきり可愛い水着を選ぶんだから、タローは明日まで楽しみにしてなさい」
腰に手を当て、胸を張るいつものポーズとキメ顔でアスカは言う。そういうことかという安堵と共に、期待感が押し寄せてきた。
「......うん、楽しみにしてる。でもアスカならどんな水着も可愛くなるよ」
オレがそう答えた時のアスカの顔は、ミサトさん曰く満面の笑みだったらしい。
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