ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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3000~3500字前後で短く切り分けるか、5000字くらいで1話とするかどちらがよろしいのでしょうか。


13話 第二の故郷

 候補生とはいえ、エヴァのパイロットであることに今日ほど感謝した日は無いだろう。

 何故か? 答えは単純、移動の際にパイロット保護のためお願いすればかなり無理が効くからだ。

 

「まさか、こんなにも早くつくなんてね」

 

 小型フェリーの甲板で海風に吹かれる麦わら帽子を抑えながら、イェーナさんが言う。

 イェーナさんの実家、故郷はネルフドイツ支部から離れているとは聞いていたし、実際彼女が予定していた陸路での移動手段では到着は昼過ぎだっただろう。三日分とはいえ荷物を持って移動するにはしんどい距離だ。

 だがそれも空路で行けば大したことはない。とはいえ最寄りの空港まで一時間飛行機に乗った後、現在進行系でフェリーに乗っているのでそれなりに時間はかかっているのだが。

 

「そろそろ到着よ!」

 

 甲板の先端でアスカが叫ぶ。徐々に近づく港と広がる緑。イェーナさんは大したこと無い田舎町だと言っていたが、事前の下調べによると観光業が盛んらしいしこういう落ち着いた雰囲気は大好きだ。

 

 港に止まったフェリーから降り、イェーナさんの後について歩く。馬が放牧されてるし、観光客らしい人がいっぱい居るな。ビーチにも沢山の人と箱......確かシュトラントコルプっていうビーチチェアだったか。それが並んでる景色は中々に見応えがある。

 

「おっ、イェーナじゃないか。もう帰ってたのか!!」

 

 しばらく歩いてビーチから遠ざかると、眼鏡をかけて金髪を短く結び、網のようなものを持ったガタイの良い中老の男性が手を上げて近づいてくる。

 

「パパ」

 

 イェーナさんにパパと呼ばれたその男性は、彼女の後ろに居るオレ達を見ると崩れた表情とシャツの襟を正してお辞儀してくる。

 

「これはこれは、失礼しました。私、イェーナの父親、アーデルベルト・レーマンです」

「こんにちは。イェーナさんの部下として一緒に仕事をさせて貰ってます、ミサト 葛城です」

「養子のアスカ・ラングレーです」

「お、同じく養子のタロー・ドレッドノートです......」

 

 ドイツ人にとって惣流という発音がしにくいと思ったのか、アスカ・ラングレーと名乗ったアスカに習い、オレも白露を省略して名乗る。

 

 念のため言っておくが、ミサトさんはイェーナさんの後輩ではあるが部下ではないし、オレとアスカはミサトさんの養子ではない。では何故こんなことを言っているか?

 

 イェーナさんの親が、彼女がネルフで働いていることを知らないからだ。まさか国連直属の超法規的武装組織で汎用人型決戦兵器の研究開発、運用に関わってますとは言えないのだろう。

 事前の打ち合わせではイェーナさんは花屋で働いていることになっており、ミサトさんはその部下。オレとアスカはミサトさんの養子ということになっている。

 

 ミサトさんが部下という設定はともかく、その部下に二人も養子が。しかも方や3/4ドイツの日本クォーター、方や3/4日本のイギリスクォーターとかいうとんでもな養子だ。普通そんなの信じるとは思えないのだが......

 

「これはどうもご丁寧に! 話には聞いていましたが、お三方ともしっかりしてらっしゃいますね!」

「ふっ、チョロ」

 

 イェーナさんの事前予想通りあっさり信じちゃったよこの人! 娘さん貴方にチョロとか言って普段絶対しない悪い顔してますよ!! 良いんですか!?

 

「ところで、イェーナが言っていたイギリス出身の子というのは......」

「タローのことね」

「おおっ! 君が!!」

 

 イェーナさんのパパ、アーデルベルトさんに手を握られ激しく上下される。

 あれ、なんかデジャヴだなこれ。イェーナさんと初めて会った時のこと思い出すんだけど。

 

「話は聞いているよ! 五歳にして本場の紅茶を完璧に淹れる天才だと!」

「あちょ、お、落ち着いて。落ち着いてください......」

「いや~会いたかったよ! 私達には私達なりの紅茶があるが、イギリスの唯一尊敬できる紅茶も気になっていたんだ!!」

 

 腕がもげそうなほどに握手が激しい。身長差のせいで体が持ち上がるんじゃないかレベルだし、しれっとイギリス馬鹿にしてたなこの人。いやオレからしてみればイギリスはそんなに縁がある国じゃないから気にしないけど。

 

「パパ、そろそろやめないとタローの肩が抜けるわ」

「おおっとすみません、つい興奮してしまって」

「ああ、大丈夫です......」

 

 イェーナさんがこんだけしっかりした女性になったのは、この父親ありきかも知れない。なんだかそう感じる程に勢いがすごかったが、よくよく考えればイェーナさんも初っ端から強めの握手してきてたっけ。親子ってやっぱり似るものなんだな。

 

「時にイェーナ、聞いてた到着時間よりも大分早いようだがどうしたんだ?」

「私達楽しみ過ぎて、早朝から出て来たんです。突然押しかけるようになってしまい申し訳ありません」

「いえいえ、私達にとっては何も無いところですが葛城さん達にとっては珍しいことばかりでしょう。楽しんでいただければ幸いです」

 

 とっさにミサトさんがフォローを入れたことで、アーデルベルトさんがにこやかな表情になる。

 陸路で行くよりもかなり早い時間の到着だが、イェーナさんは連絡してなかったようだ。しかしまあミサトさんはよくもこれだけスラスラと嘘というか、不自然に思われない言葉が出てくるな。勉強ができるとは別の頭が良いというか。

 

「ミサトと一緒に居て時々思ってたけど、あいつ割りと頭の回転速いわよね」

「あそれだ、頭の回転が速いだ。思いつかなかったよその言葉、ありがとうアスカ」

「え? ああ、うん」

 

 オレにだけ聞こえる声量で言ったアスカ。頭の回転が速い、という言葉が一瞬脳内の辞書から抜けていたのを思い出させてくれたことに感謝すると、一瞬困惑したようだが素直に受け取った。

 

 日本人として世界Aも加えるとアラフォーくらいまで生きてきてるのに、オレとミサトさん以外とは日本語を話さないアスカのほうが語彙があるのに脳みその出来の違いを感じるよ。およよ。

 

「それじゃあパパ、私はミサト達をママに紹介してくるわね」

 

 イェーナさんの言葉に、アスカの体が一瞬ピクりと反応したのが見えた。イェーナさんにはアスカと違い、母親が居る。それに話を聞く限りだとかなり仲良しのようだ。

 自分では得られなかった幸せと愛情を当たり前のように受けているイェーナさん。それを見たアスカがどんなリアクションを取るのか。

 発狂して飛び出しちゃうんじゃないかっていう予想と、今のアスカなら大丈夫だっていう気持ちとがグチャ混ぜになってオレのほうが緊張してきた。

 

 正直オレはアスカとミサトさんに対して罪悪感がある。世界Aで両親と仲が良かった記憶があるのを隠して、彼女達と似たような境遇と偽っているのだから。

 まあ勝手に罪悪感を感じてるだけだと言われればそこまでなのだが。

 

「そうか、ママには私から連絡しておくよ。それじゃあ葛城さん、ラングレーちゃんとドレッドノートくん。せっかくの客人をもてなせずに申し訳ありませんが、私は仕事なので失礼します」

 

 きちっとした一礼の後、アーデルベルトさんは港へと向かった。

 多分漁師かなんかなんだろうな、このあたりは波が穏やかだから趣味としての釣りも楽しそうだ。やったこと無いけど。

 

「実家まではもう少しよ、行きましょう」

 

 そう言ったイェーナさんの言葉通り、十分弱ほど歩いてレンガで出来た彼女の実家に到着した。目印は......以前イェーナさんが言っていた風車だろうか。

 まさか本当にあるとは思わなかったし、しかもこれ風力発電用の風車じゃないよね多分。今は羽が止まってるけど、日本のチューリップ畑にあるようなオランダ風車だし。

 

「あら、ふふ。見て、あの風車の羽の位置」

「羽の位置がどうかしたんです?」

「ミサト達には馴染みが無いかもしれないけど、羽が止まっているときはその位置で管理している家に何があったか表すことができるの。今の位置は、良い出来事があったって意味ね」

 

 嬉しそうに顔をほころばせて説明するイェーナさん。確かに風車の羽は十字架を若干右に傾けたような、なんとも中途半端な位置で止まっている。予想だがしばらく帰ってこなかった娘の帰宅を喜んでいるんだろうな。なんとも微笑ましい。

 

「じゃあ行きましょうか。ママに挨拶しなくちゃ」

「......イェーナさん、嬉しそうよね」

「ですね。空路で早く到着するってなったときも、一番喜んでたのイェーナさんでしたし」

 

 朝から目に見てわかるくらいルンルンとしていたイェーナさんだが、ミサトさんはそれに今気がついたようだ。

 まあこれだけ軽やかに歩いてたら誰でも気がつくか。

 

「ただいま」

 

 ガチャリとドアを開けたイェーナさん。彼女にしては珍しい声量でただいまが聞けたあたりよほど楽しみにしていたのだろう。

 すこしすると、奥の方からパタパタとなにかを引きずりながら歩くような音がしてくる。そして現れた女性は

 

「おかえりイェーナちゃん!」

「「って、若!?」」

 

 思わずアスカとミサトさんが声を出してしまうほど若く見える女性だった。いや確かにオレも思ったよ。女性の年齢は色々とタブーだとはいえ、イェーナさんってミサトさんの2つ上だから多分27歳なんだよな。仮にイェーナさんママが20歳で産んでたとしても、とてもじゃないが47歳には見えない。

 

 よくヨーロッパの女性は若いときはとても可愛らしいけど、年齢を重ねるとゴツくなって昔の面影が無くなるって言うけど、イェーナさんママがこれだからイェーナさんもずっとキレイなままなんだろうな。遺伝子がすごい。アスカには負けるけど。

 

「ママ、紹介するわ。部下のミサト 葛城と、その養子のアスカ・ラングレーにタロー・ドレッドノート」

「は、はじめまして。イェーナさんにはいつもお世話になってます......」

「はじめまして」

「はじめまして......」

 

 とりあえず第一印象が大事だ。人は見た目じゃわからない、ここはしっかり笑顔で愛想よく。

 そんなオレ達の心配をかき消すように、イェーナさんの母親は満面の笑みを返してきた。

 

「いつもイェーナちゃんと仲良くしていただいてありがとうございます。私、母親のエルナです」

 

 お辞儀をするエルナさん。なるほど、確かにこの両親からならイェーナさんみたいな完璧超人美女が生まれるわけだ。

 

「さ、立ち話もなんですし荷物も重いでしょう。今お客様用のスリッパを持ってきますから、待っていてください」

 

 オレ達の返事も聞かずに、エルナさんは奥へと戻っていく。これはチャンス!

 

「イェーナさん、失礼を承知で聞きたいんですけど......エルナさんっていくつなんですか?」

「50よ」

「「「はあああああ!?」」」

 

 思わぬ答えに、オレとアスカにミサトさんは人の家にもかかわらず絶叫してしまう。50だって!? あんなのどう見たって30代じゃねえかよ! 10歳のオレよりシワ少ないよ多分! あんだけ表情豊かそうなのに!!

 

「どうしましたか?」

「し、失礼しました。その、エルナさんがあまりにもお綺麗ですのでそれを維持する秘訣があるのかな~とあはは......」

 

 スリッパを抱えたエルナさんが不思議そうな顔で聞いてくる。それに対してミサトさんはまたもや上手いこと誤魔化す。

 肝心のエルナさんはというと、ん~と唸りながら美の秘訣とやらを考え込む。思い当たる節が沢山あるのか、全く意識していないのか。結果は後者だった。

 

「特にありませんが、唯一あるとすればそれは心ですね」

「心ですか?」

「はい、私は毎日幸せな気持ちなんですよ。側には頼れる夫が居て、遠く離れていても連絡をマメに返してくれる娘も居ますし」

 

 オレとアスカ、ミサトさんの視線がイェーナさんに集まる。イェーナさんは顔をそむけて見られないようにしていたが、頬が若干赤く染まっているのが見えた。

 

「細かく分けると様々な種類がありますが、幸せホルモンというものですね。たとえばセロトニンは精神を安定させ......」

「はあ、また始まったわ」

 

 エルナさんの止まらない解説に呆れ顔のイェーナさんは、スリッパをひったくってオレ達に渡してくれた。

 

 しかしイェーナさんの紅茶(好きなもの)への情熱は母親譲りだったのか。

 

「な・の・で!」

 

 ズズイッとエルナさんはミサトさんに顔を近づける。その勢いにミサトさんはリンボーダンスでもするんかレベルでのけぞっていた。

 

「ミサトちゃんは、幸せなことはある?」

「ちゃ、ちゃん......そうですね。私はイェーナさんと働かせていただいてることも幸せですし、何よりタローとアスカ。二人の成長を側で見守れたことが幸せです」

「うん。よろしい」

 

 この人こういうことを恥ずかしげもなく言えちゃうから憎めないんだよな。アスカは少し照れくさそうに唇を尖らせて目線をそらしているが、オレも人のことが言えないくらいに顔が赤くなってるだろう。

 

 ミサトさんに幸せかを問うたエルナさんは、次に屈んで目線をあわせたアスカにも同じことを訪ねた。

 

「アスカちゃんは?」

「あ、あたしは」

 

 チラリと、オレの方を見てくるアスカ。それに気付いて目線を合わせると、すぐに外された。悲しい。

 

「幸せです。-----のお陰で」

「そう。とても素晴らしいわね」

 

 途中声が小さくて聞き取れなかったが、エルナさんはアスカの答えに満足したようで彼女の頭を撫でていた。祖母と孫でもおかしくはない年齢差だが、母子にしか見えねえよ。

 

「じゃあ最後に、タローくんは?」

「キレイなお姉さんと女の子に囲まれて幸せモリモリムクムクマックスです」

 

 おっといけねえ、口が滑った。とはいえお姉さんズは愉快そうに笑ってるから大丈夫だろう、アスカは拗ねちゃったけど。

 

「そうだ、しっかりした朝食は取ってないのよね。ぜひ家で食べていってください」

「良いんですか?」

「ミサト、ママはこうなったら絶対に帰してくれないから遠慮せず食べて行って」

 

 イェーナさんがそう言ったのを皮切りに、エルナさんがミサトさんの手と荷物を取ってリビングへと強引に連れて行った。残されたオレとアスカは顔を見合わせて、どちらからともなく笑ってしまう。

 

「なんか、どんなご両親なんだろうって思ってたけど良い意味で強烈だな」

「けど楽しそうよね」

 

 どこか遠い目をしているアスカ。彼女を見ていると、いてもたってもいられなくなり手を握ってしまった。アスカはゆっくりと目線をオレに向けた後、優しく笑った。

 

「アスカちゃん、タローくん! 二人も来るのよ、早く!」

「あ、すみません」

 

 いつまで経っても来ないオレ達にしびれを切らしたのか、エルナさんがやって来てオレとアスカの手から荷物をひったくった。

 

「ここが二人にとって第二の故郷になるように、沢山思い出を作っていってね」

 

 世界Aの母とはタイプが違う。だがエルナさんの無条件の愛と優しさもまた、一つの母親の形なのだろう。そして、きっとアスカの記憶の中にある母親とエルナさんは似ているようだ。アスカの安心しきった顔を見ればわかる。

 

「うん、わかったわ。エルナさん」

 

 花を咲かせたような笑顔のアスカ。その成長におじさんは涙腺が緩んできた。

物語の密度と1話ごとの文字数について

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