ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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15話 わかれ

 楽しかったイェーナさんの故郷でのバカンスも、今日が最終日。

 夜、ホテルでバイキングを楽しんだオレ達は部屋で思い思いに過ごしていた。

 

「あら、意外といけるじゃない」

「ふぅん、なるほどね」

 

 ソファーに座って見ていたテレビから視線を動かす。左の窓際ではお風呂上がりのミサトさんがキャンディスを入れたアイスティーを楽しんでおり、目の前のローテーブルではアスカがノートパソコンで何かの講義を見ながらノートを取って勉強していた。正直講師の言葉が何一つ理解できないが、ラフな格好だから見えるアスカの背中がふつくしいことは理解できる。

 今まさに同じ空間には居るが、今は誰もお互いに干渉せず自分だけの時間を楽しむ。この絶妙な距離感は、世界Aでも実家を出てから感じられなかったのでとても懐かしい気持ちになるな。

 

 テレビでは、様々な特技をもったいわゆる一般人が、同じく様々な分野で地位を確立している芸能人の審査員五人の前で、自分の特技を披露しメジャーデビューを目指すタレント発掘番組。Das Supertalent(ザ・スーパータレント)が放送されていた。

 そこではちょうど一人の少女、おそらくオレとアスカと同じくらいの年齢だろうか。が歌を披露していた。透き通るキレイな高音の響きに、思わず釣られて鼻歌が出てしまう。

 

「「......」」

 

 世界Aで親父と歌舞伎を見ることが多かったり、お袋が琴の先生だったこともあり、音楽は意外と好きだ。特に歌うことは楽しいので好んでいるが、世界Aでは学生時代に声量は一丁前という評価をされるくらいには下手だったらしい。自分では全然そんなつもりないし、言われても合唱とかでめちゃめちゃ自信持って歌ってましたけどね。まあオレの声しか聞こえないイコール他の生徒が声を出してないとかで、実質オレが原因で合唱コンでは入賞したこと無かったですけどね、ガハハ。

 

 しかし、やはり世界Aとこの世界での肉体変化のタイミングは近しいみたいだ。身長も記憶が正しければ世界Aと同じだし、ちょうどこのくらいの時期から変声期に入ったのも同じだ。

 世界Aの場合は稽古の際に出していた掛け声で喉が潰れただけだと思っていたが、この世界では大声を出していないのに声がかすれるようになったことから考えるに、かなり早めの変声期だったみたいだな。成長が速く終わって高校から社会人になるまでに二センチしか伸び無かったの思い出したら涙出てきたゾ。

 

「タロー、あんた......」

「あ。ごめんアスカ、集中してたのに邪魔しちゃったかな?」

「いや......」

 

 なんだかアスカがすごく言いづらそうな顔してる。え、オレってそんな鼻歌だけで人を不快にすることができるレベルで音痴なの? 大体の歌音痴ってさ、キャラとして成り立つくらいの程度で面白くなるものじゃん。コレじゃ別の意味でのデスボイスだよ。

 

 心の中で涙を拭っていると、ミサトさんがオレの隣に座ってきた。なんだよ、ミサトさんは物事をハッキリ言えるタイプだから近づかないでくれ。教師はともかく貴女に音痴って言われると傷つくから!

 

「タロちゃん、歌上手じゃない。知らなかったわ!」

「そうですか?」

「もちろんよ! ね、アスカもそう思うでしょ?」

「ええ。なんかの音源再生してるのかと思ったわ」

「おいおいアスカまで、照れるじゃん」

 

 歌を褒められたことなんて世界Aでさえ一度も無かった......いや、本当に小さい頃にお袋が褒めてくれたっけ。タロちゃんのお歌は元気になる、って。

 

「今日はタロちゃんの子守唄で眠りにつこうかしら」

「ご冗談を」

「子守唄は無しでも、今日は一緒に寝てもらうわよ?」

 

 ミサトさんが後ろから腕を回してくる。俗に言うあすなろ抱きの状態で、ミサトさんはオレの肩に顎を乗せてくきた。ミサトさんの吐息と風呂上がりで乾かしていないしっとりとした髪が首に触れる感触、薄着ゆえに感じやすい体温、香りをモロに受けてしまう。コレはあまりにも股間に悪い。

 

「ミサト、あんた離れなさいよ!?」

「い~じゃない。たまにはさ、アスカもおいで?」

 

 甘えたような声で誘うミサトさんを、アスカはアホらしと一蹴して勉強を続ける。テレビの音と講師の話し声だけが数分続いた後に、ミサトさんは髪を乾かしてくると言ってオレを開放しホテルの洗面所へ向かっていった。

 

「ねえ。ミサトなんか変よね」

 

 ドライヤーの音が僅かに聞こえ始めた時、アスカは顔をこちらに向けずノートを取りながら聞いてくる。

 変、っていうのは決してミサトさんが変人だってことではないだろう。今日の様子のことのハズ。

 

「確かに朝から上の空っていうか、ぼーっとしてるよね。ハグ......は、いつもしてくるけどさ」

「離れろって言ったときも、いつもだったら強引にあたしのことも巻き込んできてたし。っていうかバカタロー、あんたミサトにくっつかれた時に抵抗しなさすぎ! もうちょっと抗いなさいよ!!」

 

 途中で我慢できなくなったのか、勢いよく振り返ったアスカに怒られる。

 怒った顔をする時、アスカはいつも眉を吊り上げて鼻にシワを作る。それがタレ目と合わさってまた可愛いんだ。あと数ヶ月もすれば十一歳になるアスカは段々と顔が出来上がってきてるけど、幼い頃の天使のような顔の面影を残し、これから大人の女性。つまり女神へと育っていくその中間地点の今も可愛いのズルいよ。

 アスカの顔を見ながらそんなことを考えていると、返事を忘れてしまってまた怒られた。

 

「なんとか言いなさいよ、バカ」

「ご、ごめんって」

「はぁ。いっっつもそうよね、だらしなく鼻の下伸ばして。この嘘つき!」

 

 そう言い残したアスカは、ノートパソコンに視線を戻して勉強を始めた。嘘つき、って何か嘘つくようなことしたっけ?

 そんなことを思っていると、ミサトさんが歯を磨きながら洗面所から戻ってきた。

 

「ふぁいよ~、けんふぁ?」

 

 シャカシャカと歯を磨きつつ、ソファーに座るミサトさん。アスカの勉強を後ろから覗き込んだが、目を点にしていた。

 

「ん~っ、ふぅ......あたし、もう寝るわ」

「ひょっひまっへ!」

 

 背伸びをしたアスカが寝る宣言をすると、ミサトさんはソファーから飛び跳ねて洗面所へ向かった。ガラガラと口を濯いでいる音が聞こえてくるのは良いけど、ぺって音を出すのは淑女としてどうなんだ。アスカも呆れて首振っちゃってるよ。

 

「おっまたせ~。じゃあベッド行こっか」

「は? なんでよ」

「なんでって、そりゃ一緒に寝るからでしょ?」

「タローと一緒に寝なさいよ。あたしは一人で寝る!」

 

 アスカがノートパソコンを持って立ち上がり、二つのベッドがあるこの二日間オレとアスカが眠っていた部屋の扉に手をかける。そのタイミングでミサトさんはわざとらしく咳払いをした。

 

「あー、アスカは一人で寝るんだ。じゃあタロちゃん、二人でゆっくりと夜を過ごしましょ♡」

 

 腕に絡みついてくるミサトさん。身長差のせいで下乳に顔が近くて色々と体に悪いこの状況、どう始末つけようか。

 悩みに悩んで何もしていないのに賢者タイムに入っていた所に、アスカがまるで錆びついたブリキ人形のようにゆっくりと顔だけを振り返ってきたかと思えば、猫もびっくりの瞬発力と速度で駆け寄ってきた。

 

「あたしも一緒に寝る! 後でタローと一緒に行くからミサトは先行ってなさい!」

「おっ、そう来なくっちゃ! じゃあ待ってるわよ、アスカ。タロちゃん」

 

 ミサトさんはオレの腕を離すと、ウインクをしながら彼女が眠っていた部屋へと向かっていった。これ三人で寝るの確定パターン?

 

「あんったバカァ!? 危機感なさすぎ!」

 

 また怒ったアスカがノートパソコンを机においた後、オレを見下すように圧をかけながら迫ってくる。十歳でこの迫力はおっかねえよ、思わず後ずさりしちまった。もう実際は三十歳超えてるのに。

 しかし、危機感って何の危機感だろうか。割りと自分では虫の知らせというか、そういう何となくを感じて身の危険には鋭いほうだと子供の頃から思ってるけど。

 

「危機感って、どゆこと?」

「イイ!? 女はケダモノなの! ちゃんと自分の身は自分で守りなさいよ!?」

「女はケダモノって、それ普通男が言われるセリフじゃね......?」

 

 ケダモノって言葉が出てくるってことは、つまりそういうことだよね。まじで十歳とは思えねえなアスカ、良い意味でだけど。

 でも、あのミサトさんだぞ? 男のオレには感じ取れず、同じ女性のアスカにしか感じ取れないものが合ったとしても、ミサトさんに限ってそんなこと......いや、まだ十四才じゃないから大丈夫。ミサトさんの守備範囲は多分最低が十四才だから。

 

「と・に・か・く! 言われるがままにはなるなってこと!」

「って言ってもなあ。別にオレのレーダーでは危険を感知してないし、気づかぬうちにマズイ事態になってたらアスカが止めてくれるでしょ?」

「っ......そ、そうだけど。だとしてもあたしが居ないところでそんなんだったら心配なのよ!」

 

 先程まで釣り上げていた眉毛を弱々しく垂れ下がらせ、説得するような声色で訴えかけてくるアスカ。母性あふれるアスカちゃんキタコレ。

 でも確かに、オレは何とも思ってないけど、あまりアスカに心配かけるのも悪いよな。どういった理由であれアスカを不安にするのは不本意だし、まずは女性に気をつける所から始めよう。ミサトさんも例外じゃなく。

 

「わかったよ、これからは色々と気をつける。けどオレじゃ気づかないこともあるから、アスカに見てて貰わないとな」

「しょうがないわね、もう」

 

 よくわからないけど、アスカが満足そうな顔になったからグッドコミュニケーションだったろう。

 アスカもオレも既に入浴も済ませて歯磨きも終えて後は寝るだけだったため、テレビを消してミサトさんが待つ寝室へ二人で向かう。

 扉を開けると光源がベッド横のランプだけだったため薄暗く、このホテルのメインの寝室ということもあってかクイーン以上キング未満と言った大きさのベッドでミサトさんがあぐらをかいて待っていた。

 

「おっ、夫婦喧嘩終わった?」

「だ、誰が夫婦よもう! まだ違うわよ!」

「ほっほ~?」

 

 アスカが「まだ」と言ったことで、ミサトさんは横になって口元を手で隠し何ともいやらしい笑みを浮かべる。アスカはなぜミサトさんがそんな顔をしているのかわかっていないのか、ムスっとした顔をしてミサトさんの隣に横たわった。

 なるほど、コレは非常に魅力的な光景ですね。しかしアスカとミサトさんの隣、どちらを選べというのか。

 オレが迷っていると、ミサトさんがアスカの居ない側をポンポンと叩いた。

 

「タロちゃんはこっちよ」

「は? なんでよ。あたしの隣で良いじゃない」

「そんなひどい......アスカとタロちゃんに挟まれて眠るのが私の夢だったのに......オヨヨ......」

「だーもう! その嘘泣きやめなさいよ! タロー早くミサトの横行って!」

 

 アスカの許可が降りたので、寝室の扉を閉じてミサトさんの隣に向かう。なんか薄暗い中にミサトさんの悪い顔が見えた気がしたけど無視だ。考えるのをやめよう。

 

「よ~し二人共捕獲ゥ!」

 

 オレがベッドに横になると、ミサトさんはアスカとオレのことを両腕で抱えこんできた。

 近い近い! ミサトさんの胸もだけどアスカの顔が近い肌が白くてきめ細やかでお目々がぱっちりしててまつ毛長い可愛い!!

 

「ちょっと苦しいわよミサト!」

「イ~じゃんイ~じゃん。あ、アスカ電気消してくれる?」

「ったく......」

 

 素直にお願いを聞いてくれるのがアスカの良いところだよね。電気消した瞬間にまたミサトさんにホールドされて出た苦しそうな声も可愛いけど。

 しっかし、やっぱ今日のミサトさんは様子がおかしいよな。まあ出発前に引っかかる言葉があったからそれが理由だろうなとは思うけど......。

 いつまでも訳がわからないんじゃあ仕方ないし、少しカマかけてみようかな。

 

「まず先に謝らせて、ごめんなさい。私、二人に言わなければいけないことがあるの」

 

 オレが言葉を出すより先に、ミサトさんが切り出した。

 突然の謝罪に対して思わず動揺してしまったが、それはすぐ目の前にいるアスカも同じだったようだ。目で何事だと訴えかけていた。

 

「私ね、日本勤務になったの」

「ぇ......」

 

 ミサトさんがそう言うと、アスカが驚きから小さく声を漏らす。

 何となく予想はしてたけど、やっぱりそうか。いつかミサトさんが日本に行く日が来るだろうとは思っていたけれど、それが今年だとは思わなかった。予想してても、実際に言われると悲しいものがある。この三年間毎日一緒に居た人だから。

 

「いつからなんですか? 日本に異動になるの」

「明日よ」

 

 ミサトさんの声で一瞬呼吸が詰まった。明日から? そんな突然な、またオレ達をからかってるのか?

 顔を動かしてミサトさんの表情を斜め下から見る。いつもの隠しきれないニヤケはどこにも無く、オレ達を抱きしめる力を少しだけ強くした。

 本当に明日に日本に行くんだろうか。だとしたらいつまでミサトさんと一緒に居れるんだ。そんなオレの考えを見透かしたかのようなタイミングで、ミサトさんは答えてくれた。

 

「朝の飛行機で日本に向かうの。だから二人と一緒に居られるのは今日の夜まで。安心して、ちゃんと起こさないように一人で行くから」

 

 アスカと一緒に頭を撫でられる。いつもの頭を鷲掴みするような少し乱暴な撫で方ではなく、指の腹でそっと優しく壊れ物を扱うかのような手付きから、それが事実であるということを嫌でも思い知らされた。

 つまり、オレとアスカが眠っている頃にミサトさんはホテルを出て日本に行くってことなのか? そんな早い時間だったら、ここから本土までのフェリーだって......いや、忘れてた。今はゲヒルンじゃなくてネルフなんだ。フェリーくらい自前で用意できるか。

 考えれば考えるほど、意味の分からない方向に思考が走る。それはアスカも同じだったのか、ミサトさんの手を振り払って起き上がる。

 

「意味わかんないわよ! 大体、なんでそんな大切なことを今の今まで言わなかったわけ!?」

「そうですよミサトさん。言ってくれればちゃんとお別れを......」

 

 アスカに続くように、オレもミサトさんの手を振り払って起き上がり彼女に文句の一つでも言ってやろうとした。だが。途中で言葉が詰まってしまう。泣いていたのだ、あのミサトさんが。

 いつもどんなときでも笑顔を絶やさないミサトさんが、我慢するように唇をかみしめ瞳に涙を浮かべている。その光景にアスカと二人でぎょっとしていると、ミサトさんはゆっくり起き上がり、またオレ達を抱き寄せた。

 

「ごめんね。でも私、二人に言うと行けなくなっちゃうから......二人から離れられなくなっちゃうから......」

 

 ポタポタと、ミサトさんの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。それを隠すかのように、ミサトさんはオレとアスカを更に強く抱き寄せる。

 

「本当にごめんね、情けない大人で。っ、ちゃんと最後まで、かっこいいお姉さんで居なきゃ駄目なのに......」

 

 鼻をすすりながら、何度もしゃくり上げるように呼吸して話すミサトさん。

 情けない大人なんかじゃない。そうミサトさんに伝えたいのに、言葉が出ない。オレこそ情けない。

 

「......ミサトは、かっこいいわよ」

「アスカ......?」

「ミサトのお陰で、ゲヒルンの中のタローとの部屋しかなかった私の世界がもっと広がった。世界にはこんなにも暖かい人達が居るってことをミサトが教えてくれたのよ」

 

 震えながら言うアスカ。そうだ、オレだって

 

「オレも、ミサトさんが居なかったらこんなにも世界が楽しいものだって知れませんでした。自分とアスカさえ居れば良い。そうやって閉じこもってたオレを引っ張り出してくれたミサトさんの手が、大好きです」

「ええ。ミサトのお陰で、タロー以外の人と心から接するのも悪くないと思えたわ。イェーナだって、最初はあたし結構苦手だったのよ? でもミサトが間に入ってくれたから今みたいな関係になれたの。すごく感謝してるわ」

 

 アスカと一緒に、ミサトさんへの気持ちを打ち明ける。泣いていては駄目だ。ただ嘘偽りはない、心からの言葉をミサトさんに送る。今のオレ達ができることはそれくらいしかないから。

 そんなオレ達の気持ちが通じたのか、うつむいていたミサトさんはゆっくりと顔をあげる。涙を流して目を腫らすその表情は痛々しいが、どこか清々しくも見えた。

 

「タロちゃん、アスカ......」

「もうなんて顔してんのよ。せっかく良い顔してんのに台無しじゃない」

 

 アスカがミサトさんの涙を拭うと、ミサトさんは照れくさそうにはにかんだ。ようやくいつもの調子に戻ってきてくれたような気がして、ついミサトさんの頭を撫でてしまう。

 

「ミサトさん。この三年間、貴女のお陰で凄く楽しかったですよ。ありがとうございます」

「ほんっと、嫌になるくらい笑わされたわ。ありがと、ミサト」

「う......ぅ二人ともぉ~ッ!!」

 

 大きな声を上げたミサトさんに二人して押し倒され、交互に胸元へグリグリと顔を埋められる。いつもだったらアスカが「鬱陶しい!」とミサトさんを剥がすだろうが、今はアスカも、オレも、ミサトさんも笑っていた。

 そうだ、そうこなくっちゃ。ミサトさんとオレ達三人に一番似合うのは笑顔なんだ。しんみりしてる必要はない。

 

「だぁ~い好きよ! タロちゃん、アスカァ!!」

「ちょ流石にくすぐったいわよ! もう離れなさい!」

「っはは、ミサトさんが頑張る糧になるなら良いんじゃないか? 今日くらい」

「そうよアスカ! 私まだまだ足りないわ! いつか会えるとしても、その日までのタロちゃん養分とアスカ養分を接種しなきゃいけないの!!」

「もう好きにしろアホォ!」

 

 それから数十分。ミサトさんが散々オレとアスカを堪能したあと、オレ達は川の字になって横になっていた。

 しばらくの間ミサトさんに抱きつかれそれを音を立てずに振り払おうとしていたアスカだったが、聞き慣れた規則正しい寝息が聞こえるので、疲れ果ててもう眠りに付いたのだろう。それを寝たフリをして聞いていたオレは未だに眠れず、カーテンの隙間から覗く星空をぼーっと眺めていた。

 

 目を閉じて、次に開けた時にはもうミサトさんは居ないんだ。

 そう考えると、なんだか眠気が覚めての繰り返し。アスカのようにちゃんと眠ることがミサトさんを送り出すのに一番だとわかっていても、割り切れなかった。

 

「......タロちゃん、起きてる?」

 

 耳元で囁かれ、体が跳ねてしまう。

 寝たフリを続けようと思ったが、コレでは無意味だろう。大人しくミサトさんの方へ体を向ける。

 

「はい。どうしました?」

 

 僅かな月に照らされて見えるミサトさんは、笑顔だった。といっても、いつもとはすこし違って穏やかというか、なんと言えば良いのだろう。まるで、母親のような笑顔だった。

 

「私ね、ドイツに残ることも出来たの。でも日本に戻るって決めたことに後悔はしてないわ。それが回り回って二人の為になるはずだから」

「そう、だったんですね。最後までありがとうございます」

「うん。タロちゃん、あなたとアスカがエヴァのパイロットであるなら、私達がそのうち再会できることは確かだと思う。でもこれだけは忘れないで、私は再会できるその時までず~っと二人のことを想ってる。だから......」

 

 正面からミサトさんに抱き寄せられる。アスカに気をつけろと言われたばかりなのに色々とマズイ、絶頂期であるミサトさん(24)にオレの愚息が反応してしまう。

 

「たとえ再会できなかったとしても、あなた達のことは絶対に忘れない。今日まであなた達から貰った言葉も、見せてくれた表情も全部。だから眠って良いのよ、心は離れないから」

「ミサトさん......」

 

 いや寝れるわけねえだろ。こちとら思春期直前の健全な男子だぜ? 二十四歳という大人の女性、それもミサトさんみたいなスタイルも顔も性格も良い女性の胸元に顔を埋められてるんだぞ。寝れるわけねえだろ起きちゃってるよ色々と!

 これはまずい。少しだけでも体勢を変えなければエロガキ認定されちまう。いや男の子は皆エロガキだけどさ。

 

「ぁっ......ふふ」

 

 ......終わった。愚息がミサトさんの腹部に特攻したかも知れない。

 もう良いや、寝よう。恥ずかしくてミサトさんの顔見れねえよ。ある意味今日でお別れで良かったかもな。

 でも最後に、これだけは言っておこう。

 

「ミサトさん、またね」

「......うん、またねタロちゃん。おやすみ」

 

 その言葉を聞いた途端、額に一瞬感じた暖かな感触と突然襲ってきた眠気に抗うすべもなく意識を手放した。

物語の密度と1話ごとの文字数について

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