ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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まさかアンケートにあそこまで回答をいただけるとは思いませんでした。ありがとうございます。
テンポがよくて読みやすく、それでいて内容の詰まった書き方を意識していきたいと思います。とくに日常の場面では。
また、それに伴い本編突入と共に視点の変更も検討しているので、良い頃合いにアンケートを再び取らせていただきます。


本編前:日本編(アスカ未登場)
1話 渡日


「......知らない天井だ」

 

 朝。目を覚ましたオレは呟く。

 一度言ってみたかったんだ、知らない天井を見た時に。ただ誰にも聞かれていないとはいえ羞恥心が凄まじい。それのお陰で目が覚めたので後悔はしていないが。

 

「ふう、痛てて。簡易ベッドは流石に体が固まるな」

 

 上半身を起こして伸びをする。ボキボキと骨が鳴る音と力の抜ける感覚が爽快だが、やりすぎるとぎっくり腰ならぬギックリ背中になるらしいから程よい所で止めよう。体が硬いのはベッドのせいではなく、リカバリー不足な自分の落ち度だ。

 

 ゆっくりと手を伸ばしてカーテンを開く。何にも遮られず窓に飛び込んできた朝日に思わず目を細めるが、慣れてくると小銃を構えた戦略自衛隊が現在オレの乗る輸送機の周りを取り囲んでいるのが確認できた。

 

 輸送機で一泊したのには理由がある。ドイツを発ったのが昼間だったために日本に到着したのは深夜。おまけに急に日本異動が決まったため迎えをよこせないということで、一日この輸送機の中で待機するという事になったのだ。じゃあもっと余裕をくれよと言いたい。

 ただ夕食がまっずいレーションだったのを除けば、割と快適だったな。トイレはあるがシャワーは流石に無いので、ドイツを出る前にシャワーを浴びておいて正解だった。

 

「って、もう八時か。三時間寝るだけでも意外と元気になるもんだ」

 

 立ち上がり、寝巻きから着替える。おそらくネルフの誰かが迎えに来るのだと思うから、しっかりとした服装をしておこう。

 狭い空間でパンツ一丁になった後、肌着の上からシャツを着て、スラックスを履き、薄手のジャケットを羽織る。

 

 たまたまオレの周りがそうだっただけかもしれないが、ドイツの子供というのはシンプルな服装でまとめることが多い。そんな環境で過ごしてきたのに加えオレの好みの服装がいわゆる綺麗系ということもあり、中学生らしからぬ格好をしているということは理解しているがどうしてもビジネスカジュアル的な服装になる。

 まあ、仮に中学校に入学するのであれば制服を着る時間が長くなるだろうし、あまり変わらないか。

 

 そんなことを考えながら寝巻きを畳んでいると、コンコンと扉をノックされる。もう迎えが来たのかと扉を開けると、目の前には全身フル装備で小銃を持った戦自隊員が居た。

 

「迎えが来たぞ。準備は出来たか?」

「ああ。出来てる」

「......来い」

 

 目元がゴーグルで隠れているため表情はよく見えないが、威圧的な声色でこちらに問いかけてくる戦自。別にそういう教育を受けている訳ではないが、戦自に良いイメージはないので舐められないようにと相応の態度で返す。

 オレの反応が予想外だったのか、思惑通り戦自隊員は一瞬だけ動きを止めた後、幾分穏やかな声で言った。ビビるなら最初からやるなよな、エヴァに乗れるガキが嫌いってのかもしれないけど。

 

 折りたたんだ寝間着をボストンバッグに突っ込んだ後、それを肩にかけて戦自隊員の後をついていく。外の景色はよく見えなかったが、オレの知ってるどの空港とも噛み合わない。そりゃそうだ、世界が違うんだからな。この時間帯に他の飛行機がないあたり、そもそもが一般開放されている空港では無いのだろうが。

 

「あれって......」

 

 空港を戦自に囲まれながら移動して道路に出ると、見覚えのある車が現れる。

 青色のボディ、確かルノーと言っていたか。それが愛車なのは、オレの知る限り一人しか居ない。

 

「やっほータロちゃん」

 

 サングラスをかけピアスを付けた長髪の女性が、車から降りてきてオレにピースをしてみせる。

 

「ミサトさん!!」

 

 その女性。ミサトさんに向かって思わず走り出しそうになったが、気付かれないように足を止める。

 顔見ただけで駆け寄りたくなるって、オレどんだけミサトさんが好きなんだよ。

 

「我々の護衛任務は()()()を葛城一尉に引き渡すまでだ。わかっているな?」

 

 後ろにいた戦自隊員の一人が前へ出てミサトさんに言う。

 物呼びはひでえなあ。なんて思っていると、ミサトさんが顔を歪ませ右眉だけを上げて相手をバカにしたような表情を取る。

 

「ええどうも、()()()の護衛ご苦労さまです。後は私が責任持って彼と行動するので、どうぞ失せ......んん。任務を終えてください」

 

 笑顔でごまかしたが、ミサトさんは戦自に失せろと言いかける。

 その言葉と態度が、オレのことを大切に思ってくれているからだと感じ、嬉しくなる。結構チョロいんだな、オレって。

 

「では失礼」

 

 ミサトさんの態度は気にもとめず、戦自隊員達は輸送車に乗り込んで颯爽と何処かへ消えていく。ミサトさんはしかめっ面で腕を組み輸送車が見えなくなるまで睨んだ後、オレの方を向いて笑顔を咲かせた。

 

「ひさしぶり、タロちゃん」

「っ......はい、ひさしぶりです」

 

 先ほどまではミサトさんに会えたのが嬉しくて仕方なかったが、今となっては気恥ずかしさが勝っている。恐る恐る彼女に近づくと、ミサトさんは腕を目一杯広げてオレを抱きしめた。

 

「本ッ当に久しぶり! 会いたかったわよぉ~!!」

「ちょ、ミサトさん、苦しいですって」

 

 ラベンダーの香りに包まれたオレはそんなことを言いつつも、自然と口角が上がってしまう。

 決してオレの身長が伸びたことで以前まではミサトさんの腹部あたりに顔が押し付けられていたのに対し、今は胸付近に押し付けられているからでは無い。再会が嬉しいからだ。

 

「やっぱ実際に見ると大っきくなったわね~。それに体もだいぶん仕上がってるじゃない。夏に向けて準備万端! ってとこかしら?」

「日本はいつでも夏だし、そもそも今が既に夏でしょう」

「たはは! そうだった!」

 

 二年間違う環境で過ごすことが人をどれだけ変えるかはわからないが、少なくともミサトさんはオレが知ってるミサトさんと全く変わらない。常に明るいところ、スキンシップが激しいところ、そして小ボケに突っ込むと豪快に笑うところ。

 オレが大好きだったミサトさんそのままだ。

 

「さ、乗って! ちょっち時間かかるけど、その間に色々聞かせてもらうわよ!」

「はい、オレも話したいこと沢山あります。運転よろしくお願いします」

「まっかせなさぁ~い!」

 

 ミサトさんの愛車に乗り込んだその時、ミサトさんとは別の香りがした。この匂い、懐かしい。

 

「気付いた? これ、二年前に乗せてもらったイェーナさんの車とおんなじフレグランスなの。私あの匂い好きになっちゃって、貰ったあともずっとドイツから取り寄せてるのよ」

「良い匂いですよね、これ。自分も三番目に好きです」

「あらすっごい具体的な順位出てきたわね。一番はな~に?」

「ベルガモットの匂いですねー。柑橘類っぽい感じと、甘い感じがなんとも」

 

 芳香剤一つでここまで話が広がるのも、ミサトさんくらいだろうな。

 シートベルトをしながらそう思っていると、ミサトさんがニヤニヤとしながらオレの方を見ていることに気付いた。

 

「なんです?」

「なんでも~? にしてもタロちゃん、やらしーわね」

「いや何がです!? やらしい要素どこにも無かったでしょ!」

「やらしーわよ~。そんなまるで、好きな女の子の匂いみたいな感じに言っちゃって~」

 

 ミサトさんの言葉に、思わずドキリとする。

 この人、無駄に鋭いのやめてくれよ。確かにベルガモットの香りはアスカの香りに似てるし、アスカの好きな紅茶の香り付けに使われてるし、アスカの......

 

「っちょ、どうしたのタロちゃん!?」

「......なんでもないです。虫が居た気がしたので」

 

 頭の中がアスカで埋め尽くされ、良からぬ想像が膨らみそうだったので両頬を思い切り張る。初日でこんな調子じゃオレ、アスカと再会する前に干からびて死ぬんじゃねえか。

 ヨシ、とりあえず話を逸らそう。そういえば、ちょうど気になってることがあるんだった。

 

「ミサトさんの車もイカしてますよね。右ハンドルってことは日本車ですか?」

「いいえ、外車よ。で、色々カスタムしてるの」

 

 そう言いながらミサトさんは車のエンジンをかける。見た目が見た目なので、スポーツカーのような爆音が鳴り響くかと思ったが、意外にも静かだった。

 それだけでなく、エンジンを始動した瞬間に真っ暗だったメーター類の液晶が光り輝く。なるほど、レトロ感のある計器類と相まってこれは男心を擽られる。

 

「元々左ハンドルなんだけど、やっぱ右ハンドルの方が慣れてるし日本だと都合良いのよ」

「へ~、まあ左ハンドルだと歩道から殴られそうですもんね。それに音が静かだ」

「いやどんだけ治安が悪いと思ってるのよもう。音が静かなのは、電気自動車にカスタムしてるからよ。そのせいで毎月結構これがかかっちゃってるけどね」

 

 指で輪っかを作りながら、ミサトさんは苦笑する。そりゃそうだ、元がどんなのか知らないけど、中身を丸々いじるならお金もかかるだろうに。

 でもそんなカスタムのローンが通るってことは、ミサトさんの社会的地位が高いってことだろう。割と良いお給料貰ってるだろうな。いやお給料良くなきゃネルフなんか勤めたくないな、うん。

 

「よし、目標地点までは大体一時間と少しね。じゃあタロちゃん、ドライブといきましょうか!」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 サングラスを掛け直したミサトさんは、アクセルを踏んで車を発進させる。思ったよりも安定性があって乗り心地が良いな、この車。

 ミサトさんの運転を邪魔してはいけないと少しの間無言で車に揺られていると、あっ、とミサトさんが声をだす。

 

「そういえばタロちゃん」

「ん、なんです?」

「迎えに来るの遅れてごめんなさいね。本当は夜中だとしても迎えに来たかったんだけど、あの柄ワル連中が夜中の移送は危険だ~って聞かなくて」

 

 柄ワル連中とは、戦略自衛隊のことだろう。まあ確かに柄悪いな、人を見下しているというかなんというか。

 

「全然気にしてませんよ。むしろ、ミサトさんが迎えに来てくれて嬉しかったです。ありがとうございます」

「クッ、私のタロちゃんはいつまで経っても天使だわ......!!」

「え?」

「ああいや、なんでもないわよ! そうだ、私の後にドイツ支部に来た人居るでしょ?」

 

 ミサトさんの後にドイツ支部に来た人、か。ってなると、もうあの人しか居ないよな。

 

「加持さんですか?」

「そうそう! って、やっぱ仲良い感じ?」

「まあはい。この二年間ダル絡みされまくりましたから」

「あちゃ~......」

 

 顔に手をあて、ミサトさんは呆れる。けど意外だな、ミサトさんから加持さんの話をしてくるなんて。もしかして出来てるのかな?

 

「加持さんとミサトさんって、大学が同じだったんですよね? なんか初対面のときに、葛城の寝相の悪さを知ってるのは君だけじゃないぞ。とかドヤ顔で言われましたけど」

「ブッ!?」

 

 呆れたかと思えば、今度は吹き出すミサトさん。何とも感情豊かで、サングラスが傾いたこともあり見ていて面白い。一瞬だけ車が盛大にバランス崩したのは面白くなかったけど。

 今のミサトさんにとっては、加持さんとの過去は黒歴史なんだろうか。そりゃあ中学生の子供が相手とはいえ、以前にそういう深い関係だったことを匂わす発言を自分の知らない所でされるのは不愉快かもしれないけど。ただ、不思議と複雑そうな表情はしていないんだよな。どこまで突っ込んでよいのかわからない。

 

 ミサトさんの動きを待っていると、彼女はずれたサングラスをかけ直し、咳払いをしてから話始めた。

 

「昔、ちょっちね。で、卒業する前くらいから全然連絡を取らなくなったんだけど、二年前からまた連絡を取るようになったの」

「ほえ~、なんかあったんです?」

「タロちゃんよ、タロちゃんとアスカのおかげ」

「......んん?」

 

 オレとアスカのおかげ?

 全く持って意味がわからない。オレなんかしたか?

 加持さんに紅茶飲むのを邪魔されて思いっきりぶん殴ったことが一度だけあるけど、まさかそれで脳が揺れ加持さんの人格が変わった訳じゃないだろうし、ただ普通に過ごしてるところに加持さんが首突っ込んできてただけじゃね?

 

 う~んと唸りながら頭を捻って考えていると、いつまでも答えを見いだせないオレを見かねてかミサトさんが教えてくれた。

 

「二人と一緒に居るのが楽しかったらしくて、ウッキウキで私に連絡してきたのよ。葛城、お前こんなに良い子達が居るなら教えてくれよ! って」

「はあ......え、あれで本当に楽しんでたのか加持さん。ドMかよ」

「毒舌に磨きがかかってるわね、素敵。それに加持くんのこと思いっきり殴ったらしいじゃない」

 

 アカン、ミサトさんに知られてたか。これはオレのキャラが崩れるかも知れない。

 

 そう思っていたのだが、ミサトさんは左手でサムズアップしてみせた。

 

「グッジョブよタロちゃん、ぶん殴ってくれて」

「いや親しくなかったんじゃないんですか?」

「あいつを一回だけでも思いっきり殴りたかったのよ。でもタロちゃんが代わりに殴ってくれたおかげでスッキリしたし、ちゃんと話す機会ができたの。しかも結構過激な言葉で罵ったらしいじゃない」

「いや~ちょっと覚えてないっすねあはは......」

 

 正直一言一句違わず覚えているが、自分の名誉の為に忘れたふりをするべきだ。その時はアスカが居なくて一人だけだったとはいえ、いくら何でも容赦せずに怒りすぎだろと過去の自分に反省を促したいくらいだから。

 

 だがミサトさんはそんなオレの黒歴史を忘れさせてはくれないらしく、左手でハンドル近くに固定してあるスマホをポチポチと操作し、ある音声を流した。

 なにか鈍い音の後に、子どもの怒号が聞こえる。

 

『テメェしつこいんだよ、早く消えろこの蛆虫野郎が! 大人しく家でママの乳でも吸っとけ!!』

「......」

「いやホンットに感謝するわ。流石は私のタロちゃんよもうマジで神。加持くんにこんだけガッツリ言える人ってなかなか居ないから」

「忘れさせてください」

 

 信じられるか? これただ紅茶を飲もうとした所に声をかけられただけなんだぜ。それでこの男の子、当時十歳はこんだけブチギレてるんだ。

 普通の十歳児がゲームしてるところをしつこく邪魔してもこんなにはキレないよね、当時の幼稚さに恥ずかしくなってしまう。

 

「この後、タローくんに怒られた~って嬉しそうに言ってたわよ」

「えキモ、っていうかそもそも何で加持さんはこんなの録音してるんすか......」

「え? そりゃ私がお願いしたからよ。普段のタロちゃんとアスカの様子を知りたいって」

「人が貴女にまた会う時まで連絡を我慢してたってのに......!」

 

 しっかりと心身共に成長した状態でミサトさんと再会を果たして安心させるんだって心に決めてたのに、この人ときたらオレ達の知らないところでオレ達のことを見守っていたのか。

 嫌では無いが、何だか出鼻をくじかれたような感じがする。ていうかオレも人のこと言えないけど、この人オレ達のこと好きすぎでしょ。今年で十三歳の男子をあんなに激しく抱きしめてくるし。

 

「本音を言うと私は一瞬たりとも二人から目を離したくないのよ。だから加持くんを利用させてもらったってワケ」

「どうせ加持さんが駄目ならイェーナさんにお願いしてたんじゃないですか?」

「そりゃそうよ! 大体二人が可愛すぎるのがいけないのよ、いつも凛としてるタロちゃんがふとした瞬間に見せる笑顔とか」

「ちょやめてぇ! 車に二人きりで好きな所語られるの恥ずかしい!!」

「なんでよ~、まだ言い足りないわ。私は最初二人とどう接すればよいのかわからなかったけど、タロちゃんが笑顔でミサトさ~んって-----」

 

 目的地に到着するまで、ミサトさんはオレのことを語るのをやめなかった。それすなわち自分の黒歴史も掘り返されているわけで、とてもじゃないが景色を楽しむ余裕もなどなく。

 それに色々聞きたいことがあるとか言ってた割に、大体のことは加持さんとおそらくイェーナさんも経由して知ってやがったよこの人。ミサトさんからの愛が強すぎておしつぶされそう......




この話から始まる、本編前:日本編はすぐ終わるかと思います。

物語の密度と1話ごとの文字数について

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  • ガッツリ書き込む(7000字以上)
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