私が一番名前がやりすぎてるなと思ってることもあり、基本的にドレッドノートが出てくることは少ないので名前がキチイと思われる方も安心してください。
夕方。それは一日の終わりでもあり始まりでもある時間帯。中学生の場合は、学校が終わり部活が始まる時間と言えよう。
転校初日かつ、エヴァのパイロットであるオレには部活をする暇はない。なので後は帰宅するだけ、本来ならその予定だったのだが。
「長い教師人生の中で前代未聞ですよ、このようなことは」
現在オレ。そしてオレの保護者となっているミサトさんは、ここ第3新東京市立第壱中学校の生徒指導室で生徒指導担当のおっさん教師にお説教を受けている。原因はオレだ。
「彼は今日、自分のクラスで英語の授業を行ったんです。体調不良でお休みしていた教師の代理のフリをして」
「はあ」
「あまつさえ宿題まで出して......我々も非常に驚いています。このようなことをする中学生など見たことがありませんから」
「あそうですか」
生徒指導担当の教師、岩村は額にシワを作りながらゆっくりと話す。ミサトさんはそれを興味がなさそうに聞き流しているが、岩村はそれが気に食わなかったのか。何故か関係の無いことを言ってくる。
「大体中学生のくせにそのような規定から外れた服装で登校する理由がわかりません。服装を守らず、ルールも守らず、勝手な行動をする。他の生徒に悪影響が」
「そうですか」
突然、それまではどこ吹く風といった様子だったミサトさんが怒気を孕んだ強い声で岩村の言葉を遮る。岩村が少し体を跳ねさせたのを見た後に、ミサトさんの顔をそっと覗き見る。あ、青筋がたってガチギレしてる。
「そもそもつい先程まで貴方がた教師の誰一人としてうちのタローくんが授業をしたことを知らなかった、という管理体制に問題があると思いますが? 本来英語の授業をする予定だった教師の方が体調不良でお休みだったというのは致し方のないことだと思います。ですが、自習として生徒だけを教室に残し、何か問題が起きたときに責任を取れるのでしょうか?」
「......だとしても、彼は残りの授業を欠席し」
「それとこれとは別問題です。受けるべき授業を受けなかった、ということに関しましてはこちらで彼に指導させていただきますし、各授業の担当の方々から既にタローくんから謝罪を受けたと伺っております。今話しているのは、彼が代理で授業を行ったその時間についてです。岩村さん、とおっしゃいましたか。聞くところによるとその方が1年A組で自習をする生徒の監視役だったそうですが......一体その人はどこで何をされていたんでしょうかね?」
「......」
なんだろう、出会ってから初めてミサトさんに恐怖を覚えている。論点のすり替えを許さない姿勢、事前にこちらが有利になるような状況集め。そして間接的に相手をけなす手法......流石は第二東大卒、ネルフで一尉なだけある。見ろよ岩村の顔、真っ赤にしてるぜ。
「話は以上でしょうか? わたくしもまだ仕事がありますので」
「......」
「では、失礼させていただきます。行きましょタロちゃん」
ミサトさんが岩村の返事を聞かずに立ち上がったので、オレもカバンを手にとり後に続く。生徒指導室を出る直前、ミサトさんは岩村の方を一瞬だけ振り向き、ふんっ、と鼻で笑っていた。完全に悪役である。
「しっかしタロちゃん、無茶するわね~」
「......すみません、迷惑かけて」
「良いのよ別に、悪いのはあなたじゃないわ。それに見た? あの教師の顔。傑作よ!」
ケラケラと笑うミサトさん。その笑顔で心が楽になったのは確かだが、ミサトさんに迷惑をかけたことには変わりない。出過ぎた真似はやめよう。
駐車場に出たオレ達はミサトさんのルノーに乗る。先程は仕事がまだあると岩村に言っていたが、実際はもう仕事終わりらしく、昨日の約束通り商店街へと向かっていた。
「ていうか授業したっていうけど、どうなの? バレなかった?」
「まあ勢いで誤魔化した感じですかね」
「ふ~ん。でもタロちゃんの授業は興味あるかも、詳しく聞かせて」
興味津々なミサトさん。どんな感じだったか、っていうと......
朝。初登校ということでミサトさんに学校まで送ってもらった後、オレは職員室に向かった。
「おはようございます、今日から転校してきた白露ですけど......」
「あー、君が転校生か。1年A組に行きなさい、一限は英語だけど自習だから座ってるように」
ちょうど職員室に人が少なく、対応してくれた教師はクラスの場所も教えてくれない雑な対応だったなと思ったが、今にして思えばそれが岩村だった。多分自習の時間には職員室でサボってたんだと思う。
納得いかないまま職員室を出たオレは、ちょうど教師と会話を終えたばかりの一人の女子生徒を見かける。
少し浅黒い肌に、おさげとそばかす。
洞木 ヒカリはアスカが気持ちよく学園生活を送るのにあたって重要な人物の一人だ。そんな彼女を見かけたオレは、1年A組がどこにあるのかを聞くために話しかける。
「すみません、ちょっと良いですか?」
「えっ? あっ、はい」
オレが話しかけると、洞木 ヒカリはキョロキョロとして少し挙動不審な様子。そりゃ学校内で制服姿じゃない見知らぬ男に話しかけられたらそうなるだろうが、まさかここまで不審がられるとは。そう言えば男嫌い的な感じだったような気がしなくもないが、少しだけ我慢してもらおう。
「1年A組はどこにっ、て、何すんだよ!」
その瞬間に背中に衝撃を感じる。すこしよろけた後に後ろを振り返ると、こちらを睨む黒色のジャージを着た男子と、その後ろでニヤけてるメガネをかけた男子が居た。
これまた見覚えがある人物だ。
「何やお前、変な格好しとんのう」
「ちょ、ちょっと鈴原っ。なにしてんの!」
「行くでイインチョ。授業が始まってまう」
「わりいね~」
鈴原 トウジは洞木 ヒカリの手を取ると、有無を言わさず彼女を引っ張る。そしてその後を相田 ケンスケがニヤニヤしたまま追っていった。
ふむ、さしずめ見知らぬ男に気になる女の子が話しかけられててイラッとした、ってところだろうか。意外と可愛いヤツだな、鈴原 トウジ。相田 ケンスケは何だかこう、無性に気に食わないが。
「......っていうか、結局1年A組ってどこだよ......」
職員室前でうなだれるオレ。結局校内を歩き回る羽目になり、探索している間に二度チャイムがなったので朝のホームルームを逃したことが確定する。
そしてまた一つチャイムがなった頃に、ようやくオレは1年A組の教室を見つける。灯台下暗し、思ったよりも近かった。腕時計を確認すると、既に一限目が始まる時間。
遅れことを詫びながら入ろうか。そう思いながら教室のドアを開けると、授業は始まっているであろう時間にもかかわらず、生徒達数名は席につくこと無く談笑を続けていた。
そうか、自習って言ってたな。誰も見に来る教師が居ないなら回りに流されて真面目にやらないやつが増えてもおかしくはない。しかし、それでは消去法でオレの席がどこなのか見つけることが出来ない。どうにかして全員を一度座らせなければ。
それを考えていると、またもや回りをキョロキョロと見渡して何かを言いたげな表情の洞木 ヒカリと目が合う。彼女は英語の教科書を出して勉強しているようだ。そして、その奥。窓際の一番うしろから一個前の席で一際輝く美少女の綾波 レイも同じく。
綾波 レイって自習とかやるんだな。なんか頬杖付いてずっと外を見てるイメージだったから好感度が上がった。勉強頑張る子はお兄さん好きです。
しかし洞木 ヒカリの視線が痛い。この状況をなんとかしてくれ、というのが伝わってくる。......よし、一芝居打つか。
教壇の上にカバンを置き、あらかじめ貰っていた英語の教科書を取り出す。ちなみに授業の大半はノートパソコンを用いるらしいが、英語は普通に教科書だ。英語こそノートパソコン使えよな。
黒板の粉受けに置いてあったチョークを手に取り、わざとらしくカツカツと音を立てながら文字を書いていく。その瞬間、オレの存在に気付いたであろう生徒達からの視線を感じたため、声を張る。
「
黒板にMr.Dreadnoughtと書いたオレは、最後に下に線を引く。
「
そう言いながら後ろを振り返る。話し声は止まっていたが、まだ席についていない生徒が多い。
洞木 ヒカリよ、そんなようやく先生が来てくれたみたいな顔をするな。そして綾波 レイ、ジッとこっちを見ないでくれ。可愛い子に見られると緊張する。
しかし席に着いてもらわないことには困るな。もう一押しだ。
「
日本語で言うとようやく全員が席に着く。空いている席は......うん、やっぱり窓際の一番後ろ、綾波の後ろだ。そりゃそうか、一つだけ列からはみ出てるんだもん。
ただどうしようか、この状況。今更席に座るわけにもいかないし......それに、洞木 ヒカリの授業をやるんですねと言わんばかりの表情が見てて辛い。そんな純粋な目で見ないでくれ。
とりあえず、教師っぽいことしよう。英語の教科書を手に取り、教室を歩いて周りながら適当に話して誤魔化すんだ。
「私の名前はドレッドノートだが、ノートの綴りにあるghは発音しない。夜のNight、右のRightと同じだ。理由は発音が難しく、息だけの音だからだ。しかし十分を意味するEnoughのように、同じ息の音であるFの音で発音する言葉もあるので、ghは絶対に発音しないと捉えないように」
のそのそと教室を歩きながら、そんな豆知識を言う。やがて洞木 ヒカリの後ろに来た所で、彼女に授業の進み具合を尋ねる。
「教科書はどこまで進んでいる?」
「えっと、35ページです」
「ありがとう。
流石に中学生ならコレくらいわかるだろう。そう期待して英語で言ってみたが、全員ちゃんと教科書を開いた。......いや、一人開かないやつがいるな。鈴原 トウジだ。
彼の横に行き、肩に手を置く。
「君、名前は?」
「......鈴原」
「鈴原、何故教科書を出さない?」
「ワシの自由やろそんなん」
かーコイツ、完ッ全に舐め腐ってますねえ。お前好きな女の子によく知らん男が話しかけるのが気に入らないのはわかるけど、そんな女の子の前でこそちゃんと真面目にやる態度みせろよ言いたい。
そんな気持ちを込めて鈴原 トウジを睨むが、本人がいつまでも教科書を出す素振りが無いので、机の中を漁り英語の教科書を取り出す。そして36ページを開いた後、それを鈴原 トウジの胸に押し付けて無理やり持たせた後、ジャージの首根っこを掴んで立たせる。
「よしこい、鈴原。前に立ってレッスン2の会話を読め。私がミカ役をやる、君はリサ役だ」
立つのを若干拒んだ鈴原 トウジだったが、力で無理やり立たせて教壇の前まで引きずる。そんな彼の横に並び、教科書にある会話文を読ませる。
間をおいてポツポツと話す鈴原。発音もめちゃくちゃだし、読めないのか所々誤魔化している。それにクラスの数名がクスクスと小さく笑っていた。
「何を笑っている! 鈴原の邪魔をするな! 鈴原、少し惜しい。famousの発音はファーマスじゃなくてフェイマスだ。下唇を少し噛むようにしてフェを出すとやりやすい。ここだけ読み直してみろ」
「あ、ああ......い、It's famous spot in Tokyo-3......」
「完璧だ」
鈴原 トウジに笑いかけてやると彼はそっぽを向いたが、少し顔が赤くなっているのがわかった。やっぱコイツ根は良いやつだよな、うん。
そんなことを思いつつ、自分のパートを読んだ。
その後の授業は主に文法ではなく、単語クイズをやるなど単語と発音を重視して進めた。
結局語彙がないと文法覚えても喋れないんだよね。逆に語彙があれば、単語を覚えていれば文法がめちゃめちゃでもそれを組み合わせてある程度の会話ができる。使える英語とはこういうものだ。
割と全員が楽しそうに授業を受けていてくれたし、中でも綾波がちゃんと聞いていてくれたのが嬉しくて頭に残ってる。
今日の出来事を思い出した上で、適当に端折ってミサトさんに伝える。
「新しい言語を学ぶにあたって重要なのって、やっぱり語彙を増やすことだと思うんですよね。だから単語重視でクイズとか、発音の豆知識とかを入れてました」
「あ~確かに! 私もドイツ留学の前はひたすら常用する単語を勉強したわ。発音さえしっかりしてれば意外とぐちゃぐちゃでも通じてくれるのよね」
「そうなんですよ、ちゃんと分かる人にはしっかり通じるんです。なのに喋らないでずっと文法とかノートに書いてるだけで......だから日本人は英語苦手なんですよ。頭で考えてばっかだから」
「なんかタロちゃんが言うと説得力あるわね」
車でそんな会話をしたオレ達は、ショッピングモールで炊飯器と料理道具一式、ひとまず今日の夕食と明日の朝、昼の分を買って帰宅した。
夕食にミサトさんが満足してくれたのは良かったが、リツコさんから呼び出しを食らっていたのでオレは一足先にペンペンと一緒に眠った。大人は大変だなあ。
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「も~なによ。急用だって言うから飛び出してみたら、バーに来るだなんて」
ネルフ本部内にあるバーで、ミサトは隣でタバコを吸うリツコに不満げな顔をして言う。リツコはそれを気にする素振りを見せず、タバコの息を吐いた。
「良いじゃない、面白い話を仕入れたんだから付き合いなさい」
「......あんま遅くならないうちに帰らせてもらうわよ。明日もあるんだし、タロちゃんが心配するでしょ」
「あら、愛されてるのね。まあ彼、昨日ミサトのことを熱っぽい視線で見てたし」
「そりゃないわよ。だってタロちゃん、アスカ一筋だもん」
私に女の魅力を感じてくれているとしても、心はアスカに向いているわ。
二人と一緒に過ごしていた時のことを思い出しながら答えるミサト。リツコは横目でミサトの嬉しそうな顔を見ながら、タバコをふかす。
「で、面白い話って何よ」
「今日、レイがタローくんのことを聞いてきたのよ」
「えっ、レイが!?」
だらーんと机に突っ伏していたミサトだったが、リツコの言葉を聞いた途端に彼女に詰め寄る。リツコは落ち着きなさいとミサトの額を人差し指で押してから、ゆっくりと話す。
「プライム・チルドレンはどんな人物なのかって。まさかあのレイが他人に興味を持つなんて、そう思うでしょミサト?」
「そりゃ思うわよ。大体、二人ってちゃんと会話したかしら?」
「会話はしてないらしいけど、今日学校でタローくんが英語の授業をしたらしいじゃない?」
「なんで知って......いや、レイから聞いたのね」
同じクラスだったか、とミサトは背もたれに体を預ける。
タローくんが絡む話題だと、ずいぶんリアクションが大きくなるのね。
それを見たリツコは心の中でそう思いつつ、レイから聞いた話をそのままミサトにする。
「プライム・チルドレンが代理で英語の授業をしたけれど、今までで一番わかりやすくて、なんだかウキウキした。って」
「ウキウキって......楽しかったってこと?」
「おそらくそうね。あのレイに一時間にも満たない授業、しかもマンツーマンでもないそれをやって楽しいと思わせるだなんて、正直驚いたし興味が湧いてきたわ」
チラリとミサトを見るリツコ。彼女の予想通り、ミサトは眉を引き攣らせてリツコを睨んでいた。
「手、出すんじゃないわよ。タロちゃんには未来のお嫁さんが居るんだから」
「中学生相手に直接手は出さないわよ。データは取らせてもらうけど」
「ちょっとあんた、洒落にならないからホントにやめなさい。怒るわよ?」
「あら、怖いお姉さんはどちらかしら?」
リツコに対して若干凄むミサトと、笑ってそれを流すリツコ。お互いに冗談であるとしっかり心の中ではわかっているからこそ、あえての茶番として少しだけ過激な言葉が飛び出る。ミサトとリツコの仲の良さを表すには、この会話だけで十分だ。
「エヴァンゲリオン:プライマルのこともあるけど、タローくんには本格的に興味が湧いてきたわ。彼強引に行ったら押し通せそうよね」
「......私、友人が未成年淫行で逮捕されるニュースなんて見たくないわよ?」
「ふふ」
「ふふじゃないんだが?」
今まで聞いた中で最もドスの利いたミサトの声に、リツコは満足げに新しいタバコに火をつけるのだった。
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