「良いのよタロちゃん、正直になって。ほらおいで」
全裸のミサトさんが手を広げ、甘えるような表情と声でオレを誘う。その誘惑に逆らえるわけもなく、オレは彼女の胸に飛び込んだ。
「タロちゃん、私と一つになりましょう」
「......はっ!?」
真っ暗だ。何も見えない。
上体を起こして伸びをする。それと同時にとてつもない自己嫌悪に陥り、額を叩く。ペチン、という乾いた音が良く響いた。
「最高で最悪だよ、ミサトさんであんな夢見るなんて」
小さくつぶやく。
ため息のあと、ベッドを買うまでのつなぎとしてミサトさんから借りた敷布団から立ち上がり、部屋の電気をつける。昨日一緒に横になっていたペンペンはいつもの場所に戻ったのか、すでに部屋には居なかった。そのかわりに、制服が置いてある。一昨日に最短で明後日、つまり今日って話だったけど、早く仕立てられたのかな。
にしてもこれが置いてあるってことはミサトさん、帰ってきてたんだろうか。
枕元に置いてあったスマホを手に取り開く。金曜日、朝五時。夢を見ていたからかいつもより長く眠ってしまった気がするが、ちゃんと早起きできたな。
料理道具一式を買ったことで、今日から一日の始まりとしてお昼の弁当と朝食を作る、それが最初にやることになる......いや違うな、ゴミ出しか。いや違う、ご飯を炊かなきゃ。
スマホはズボンのポケットにしまい、敷布団とタオルケットを畳む。その最中、ずっとミサトさんの残り香が鼻をくすぐる。
そうか、これは元々ミサトさんがこのマンションに越してくる前に使ってた布団って言ってたな。だからミサトさんの匂いが残ってて、あんな夢を見ちまったのか......。惜しいことだとは思うけど、この匂いを落とさないことには今後もあんな夢を見続けるようになるな。ちゃんと落として忘れよう。
押入れに布団をしまい込み、枕を投げて閉める。
部屋を出てキッチンへ向かうとき、ミサトさんの部屋へと続く閉ざされたふすまに視線が固定されて足が止まった。
勝手に部屋を覗くのは流石にデリカシーが無いし、あんな夢を見た後に寝てるミサトさんの姿なんて見れるわけがない。玄関に行こう。
「やっぱり帰ってきてたんだ」
乱雑に脱ぎ捨てられた靴があることを確認したオレは、それをちゃんと揃えた後にキッチンに立つ。
手を洗い、お米を研いで炊飯をセット。最新の炊飯器だし、夜に時間指定で炊飯を設定しておけばわざわざ早起きして朝にやる必要は無いだろう。とはいえオレは炊きたての美味しいご飯を食べたいし、ミサトさんにもそれを食べて欲しい。
あとは世界Aで子供の頃からしつこく言われていた、お米の一粒一粒に七人の神様が宿っているという言葉。食べ物を粗末に扱わないようにとそう言われ続けていたが、いつしか神様に手で触れるのだから朝一番の汚れがない状態でやるべきという謎理論に至ってしまった。しかもそれが習慣付いているからやめようにも謎の罪悪感でやめられないという状態。悪いことではないと思う、人に押し付けてはないし。
ポケットに入れていたスマホを開いて時間を確認する。五時半か......よし、ゴミ捨てがてらちょこっと散歩にでも行こうかな。
顔を洗って口をゆすいだ後、まとめておいたゴミ袋を手にし、ゴミ出し用にと買っておいたサンダルに足を突っ込む。扉が開くと朝の風が心地よく体を抜けていく。何だか気分が良くなったので階段で11階から1階まで降りてゴミ捨て場に向かい、ゴミを捨てた。
そのままオレは散歩の為にエントランスに戻らずに歩き始めたのだが、マンションから十数メートルほど離れた所で視線を感じ、両手を上にあげる。
「......家出か?」
数秒経った後に、存在をオレに気が付かれていることに気付いたのかどこからか現れた黒ずくめの集団。おそらくパイロット保護のために行動を監視しているのだとは思うが、コレで家出認定は厳しくないか?
「朝からご苦労ですね。でも残念、違いますよ。ただ少し散歩しようとしただけです。家出なんてするわけ無いでしょう」
「では、いつから気付いていた?」
「オレはいつも背後を気にしてますからね。気付かれないように行動するのなら、貴方達は不合格だ。最も重要なチームワークを忘れ、集団でありながら個人で監視をしている」
正直な所、後をつけてくる存在に気付いたのはたまたまだ。だがオレも男の子、こういう某007やキングスマンのようなセリフを言って強者感を出したいときもある。
「まあ余計な心配はかけたくないのでちゃんと戻りますよ、自覚が足りない行動で申し訳ありません。あ、でも家の中は絶対に監視しないでくださいよ! それだけは絶対に!」
「それは心配ない、私達の任務は君が予期せぬ危険に巻き込まれるのを防ぐことだ。同居相手が葛城一尉であるならばわざわざ監視する必要はない」
「あ、うん。ありがとうございます」
なんだなんだ、話せばわかるやつばっかりじゃないか。
黒スーツにサングラスという明らかにヤバい風貌の大人達が全員揃ってうんうんと頷く光景に、驚きのあまり顎が外れそうになりなる。
......良い人達っぽいし、ちゃんと戻ってあげよう。なんとか撒いて散歩に行こうとしてたけど、ずっと監視してて大変そうだから休ませてあげないと。
軽く会釈をしてから大人しくコンフォート17マンションに戻り、階段を登って11階の部屋へ。散歩は出来なかったが、彼らと話すのは良い時間つぶしにはなったな。イカツイ見た目で会釈返してくれたり地味に礼儀正しいところにギャップ萌えしちゃった。
手を洗ってから台所の戦闘服エプロンを装着し、まずはお弁当づくりに取り掛かる。流石最新式の炊飯器だ、30分ほどでもう炊きあがっている。ツヤツヤのお米が眩しいでござる。
お米を切るように混ぜ、オレとミサトさん二人のお弁当に使う分だけお皿の上に敷いたラップに乗せておく。おかずを作るまでの間に冷ましておくのだ。
「たっまっご~たっまっご~、らんラン
料理は楽しい。つい人類には早すぎる歌を歌ってしまうくらいには。
卵焼き、味噌汁に使う出汁、魚を焼く。様々な作業を並行しながら行う。こうやって効率を考えながらやるのも楽しみの一つだ。
「ぁ~良い匂いがする......」
ほぼほぼ作り終えた所で、ボサボサ頭で目をこすりながらゾンビのように遅い動きでミサトさんが歩いてくる。
あの頭のボサボサ具合、多分だけど昨日夜遅くまで用事があって風呂入るまでもなく寝たな。
「おはようございますミサトさん。お風呂ですか?」
「......うん」
「無理はしないで、早く帰れる時は帰ってきてくださいよ。睡眠は大事ですから」
ん~と唸って答えるミサトさん。そのだらけた様子が少し面白くって、笑いながら料理を続けると、突然後ろから抱きしめられた。
「ありがと」
綺麗な大人のお姉さんに後ろから抱かれ、甘い声で感謝される。こんな状況普通なら大喜びなんだが、今日はそうはいかない。
「ミサトさん」
「ん?」
「タバコ臭いです」
「......リツコよぉ! そうだリツコが昨日私を呼び出して長々と愚痴に付き合わされたのよ!」
「はいはい、とりあえずお風呂入っちゃってください」
まだ寝ぼけているのか、リツコがぁ~リツコがぁ~と言うミサトさんを引き剥がし、洗面所兼脱衣所に押し込む。しばらくリツコさんの名前を呼ぶ声が聞こえたが、それが止まったのでちゃんとお風呂に入ってくれたんだろう。
「......はあ、心臓に悪い」
冷静を装っていても体は正直なようだ。夢の件もあって心臓の鼓動が若干早くなっている。
それを忘れるために、オレは料理に心を注いだ。
「ごっちそうさまでしたぁ!」
「ごちそうさまでした」
朝食を終えたミサトさんが大きな声で言ったのに続く。いただきますとごちそうさまでしたを大きな声で言える大人は素敵だ。
立ち上がり、ミサトさんの分の食器も下げようとしたところ、手で制される。
「待ちなさいタロちゃん。私だってね、大人の女っていうプライドがあるのよ。洗い物は任せなさい!」
「いや結構です」
「なんでよお!?」
親指で自らを指し、自信満々に宣言したミサトさん。それをしっかりと断る。
「だってミサトさん、少なくともここに越してきてからお箸くらいしか洗ったこと無いでしょ」
「うぐっ、そんなことはぁ......」
ミサトさんは肩をすくめて視線をサーッとオレから外す。流石に目が泳ぎすぎだぞミサトちゃん。
決して洗い物を任せるのが嫌というわけではないが、部屋をあんだけ汚せる人に一人でやらせたくないというのが本音だ。それに洗い物の道具は使用感の無いスポンジが一個だけしか無かったし、全然減ってない食器用洗剤を見てしまったからには時間がある時にでも一緒にやってもらったほうが良いだろう。ミサトさんの生活能力向上委員会を設置したい。
「だけど、タロちゃんばっかに負担かけられないわよ」
「別に負担だなんて思ってないですよ。それにミサトさん、そろそろ時間を気にしたほうが良いんじゃ?」
「えっ、もうそんな時間!?」
ダイニングには時計が無いので、慌ててリビングへと飛び出すミサトさん。そのすきに食器を全て流しに持っていき、洗い物を始める。
「嘘ついたわねぇ~!」
「ちょちょ、痛いですって」
「嘘をつくような子に育てた覚えはありません! お仕置きです!」
時計を確認してまだまだ時間に余裕があることを確認したのか、オレの頭をグリグリと両手でしてくるミサトさん。
家を出る時間はオレのほうが早いから引っかからないかなと思ったが、思ったよりちゃんと騙されてた。バカ素直なところがミサトさんの好きなところだが、この人が老後に詐欺に合わないか心配だ。
「イテテ......」
ミサトさんから開放され洗い物を終えたオレは、頭を擦りながらお弁当の準備をする。といっても、風呂敷に包んで保冷バッグに入れ、保冷剤とお箸をその上に乗せるだけだが。
保冷バッグに入れるのなら風呂敷はいらんだろと思うだろう。だがあれば机の上に置いて風呂敷を解くだけでランチマットになり、机を汚さずに済むのだ。入れておいて損はない。
「よし、コレでオッケー。ミサトさん、今日のお昼です」
「うん、ありがとう。朝ご飯があれだけ美味しかったんだもの、期待してるわよ?」
「毎日期待してもらって良いですよ」
「ふふ、そうこなくっちゃ」
ミサトさん用に買った紺色の風呂敷、それに包まれたお弁当が入っている淡い黄色の保冷バッグを手渡す。
「お魚は骨があるので気をつけて食べてください。あと、保冷バッグの内ポケットに割り箸が何本か入ってますけど、予備なので気にしないでくださいね」
「は~い」
「それと、お弁当は電子レンジで温めオッケーです。汁物が欲しかったら言ってください、準備するので」
「わかったわよ~タロちゃんママ。汁物はコンビニあるから欲しい時はそこで買うわ」
「誰がママですか、コラ。早くお弁当しまっちゃいなさい」
ミサトさんの冗談にそう言い返すと、彼女はヘラヘラと笑って言われた通りお弁当をしまうためか、自室へと戻っていく。
時間はまだあるので、オレも自室に戻る。制服と下着、靴下に肌着を持って脱衣所に向かい、朝シャワーを浴びる。寝癖治すのとかめんどくさいし、五分くらいちゃちゃっとシャワーを浴びるほうが楽ちんなのだ。汗も流せるし。
「んあ、ふぉふぇ~ん」
シャワーを浴びてスッキリしたオレがお風呂場の扉を開けると、ちょうど洗面所で歯を磨いていたミサトさんとエンカウントしてしまう。
ミサトさんはオレが出てきたことに気付いてこちらを見た後、少し視線を下に動かしてまた顔を正面に戻した。
「いや出てけよ!? 何を気にしてないアピールしてるんすか! オレが気にするんですけど!!」
「ひょっひまっへ~」
慌てて股間を隠したオレがそう叫ぶも、ミサトさんは特に気にする様子もなく口をゆすぐ。
スッポンポンでミサトさんの歯磨きの終わりを待たなきゃいけない地獄よ。浴室に引っ込めば良いのかも知れないけど、背を向けたら死ぬ気がした。
「ふぅ......じゃ!」
何故か良い笑顔を作ったミサトさんが洗面所兼脱衣所から出ていく。こういうハプニングを防ぐ為にカーテンかなんか設置したほうが良いかな......。
そう考えながら体を拭いていく。途中、洗面所の鏡に映る自分の肉体を見て意味もなくポーズを取ってみる。
「オケェイ......」
全く、筋肉は素晴らしいな。
自らの体を見て、思わず惚れ惚れとしてしまい低音ボイスが出る。ボディビルダーのように限界まで絞り上げた逆三角形の魅せる体では無い。角ばらずしなやかで柔軟な筋肉の鎧を纏ったオレの体は、一見すると少しガタイが良いレベルだろう。だがコレで良い、コレも一つの正解なのだから。
体の水気を全て拭き取ったオレは、ドライヤーでしっかり髪を乾かす。前髪は作るのが面倒、かといって下ろすのも邪魔なので適当に横へ流す。
そしてしっかりと肌の保湿だ。外見を磨き完璧に整えることで、内面も必然的に磨かれていくもの。アスカと再会した時にニキビがあるなど言語道断、彼女も自分磨きを好むタイプなので呆れられること間違いなしだ。
次に歯を磨き、口臭ケアの為にマウスウォッシュ。
もちろん普段からよく噛むことと食事のバランスを気遣うことで、歯磨きだけで少なくとも臭いが気になることは無くなるだろう。だがそれじゃ足りない、アスカの為に常にプラス1の男であるべき。それがオレの覚悟である。
全てを完璧に仕上げたオレは、最後に鏡の前で笑顔でキメ顔をする。二重なのが笑うと一重になるところが若干コンプレックスだが、今日もいつも通りの顔だ。
そうだ、世界Aでは17歳頃から生え始めたので大丈夫だろうがヒゲのチェックもしよう。よし、パーペキですね。
「だぁ~っはっはっは!」
脱衣所を出ると、ミサトさんが朝のニュース番組に出ていたお笑い芸人を見て大笑いしていた。
幼少期は世界Aとこの世界は共通点が多いなと思ってたけど、実際はそうでも無かったらしい。世界Aでの2014年のことを覚えていないのもあるだろうが、テレビは知らない番組、知らない人ばっかり。某マスクドライダーも気付いたら新ライダー無しだったし、夏だけだからか冬を。というより、春夏秋冬を題材にした色々なものがなくなっている。
この季節といえばコレだよねっていうのが無いし、特に歌とかくそつまらんよこの世界。
「ミサトさん、横失礼しますね」
「どぞ~。しかしこんなに余裕のある朝はひっさびさだわ。タロちゃん様々ね」
「はは、そりゃ良かったです」
雑談をしつつオレは家を出る時間までソファに座り、ミサトさんと朝のニュース番組を楽しんだ。
全てが新鮮だ、悪くないな。
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同日 昼 ネルフ本部食堂
「ふんっふんっふふ~ん♪」
食堂の二階席へと続くエスカレーターを、軽やかに駆け上がっていくミサト。それを二階席から見ていた人物が二人。
「あらミサト、あなたずいぶんと機嫌が良いじゃない。何か良いことでもあったのかしら?」
「本当ですね、よかったらお昼一緒にどうですか?」
リツコとマヤだ。エスカレーターから最も近い席に座っていた二人は、下から笑顔で登ってきたミサトに声をかける。
ミサトはそれを見られていたことを恥ずかしがる様子もなく、二人に近づいた。
「あら本当? じゃあご一緒させてもらおっかしら」
普段であれば食堂に現れるのがお昼休みギリギリ、そして手早く食事を済ませるためマヤの誘いを断っていたであろうミサトだが、今日はしっかりと時間があるので誘いに乗って席に座る。
そして、これみよがしに淡い黄色の保冷バッグをドンッと机に置く。
「ふふん」
聞きたいことあるでしょう?
そう言いたげなミサトの顔を見た二人は察する。ああ、彼かと。リツコはそれを察したうえでミサトに聞く。
「その保冷バッグ、どうしたのかしら?」
「よくぞ聞いてくれました! こちらはなんと、我らがタロちゃんの愛情が籠もった愛妻弁当よ!」
保冷バッグを持ち上げ、ドヤ! という効果音がリツコとマヤの脳内に再生されるほどのドヤ顔で答えるミサト。リツコとマヤは思わず視線をあわせて苦笑いしてしまう。
「タローくん、お料理出来たんですね」
「そうなのよ! 朝ご飯も作ってもらったんだけど、これまた絶品! ザ・日本の朝食! って感じでね。お昼も楽しみで仕方ないわ!!」
「それは良かったわね。でもミサト、中学生に朝食を作らせるのはどうなのかしら?」
「あんったが悪いんでしょうがリツコ!」
ミサトに指を指されたリツコは、そうだったかしら? ととぼける。マヤは昨夜にリツコがミサトを呼び出して晩酌に付き合わせたことを知らないため、首をかしげていた。
「ま、それもこのお弁当があれば許せるわ! いざご拝謁!!」
お弁当相手に仰々しい表現だ。リツコはそう思ったが、ミサトがタローをどれだけ溺愛してるのか、その片鱗を知っている彼女は特に突っ込むことも無く見守る。
保冷バッグから取り出された、紺色の風呂敷に包まれたお弁当。息を呑んだミサトはその風呂敷をほどき保冷剤を避ける。中から現れたのは一般女性よりも少し多く食べる彼女にとっては、ちょうどよいと言えるサイズのお弁当箱だった。
ミサトはその蓋を、ゆっくりと開ける。思わずリツコとマヤも見入ってしまうくらいに。中から現れたそれは、彼女達の期待を裏切らないものだった。
「うわ~凄い! バランスが完璧じゃないですか!」
「......気の所為かしら、お弁当が光り輝いているように見えるのだけれど」
和食ベースで質素ながらも、栄養素全てを完璧にカバーしたそのお弁当。それを見た瞬間ミサトは悟った。
タロちゃん、完璧に私の胃袋を落としにきてるわね。日々の栄養を管理してきて、もうこれからはタロちゃん無しじゃ生きていけない身体にされちゃうわ......でも、いっか!
「......いっただっきま~す!!」
お弁当に見惚れていたミサトだったが、一気にバクバクと喰らいつく。だが途中でお弁当を口に放り込む箸を止め、じっくりと噛み始めた。
リツコはそれが気になり、ミサトが咀嚼を終えたタイミングで話しかける。
「どうしたのいきなり? 箸が止まったけれど」
次に体へ取り込む栄養を選別する箸を止めたミサトは、リツコの質問に笑顔で答えた。
「ゆっくり噛んで食べてくださいねって、タロちゃんに言われたのを思い出したのよ。それにこんなに美味しいお弁当、いつものようにかき込むのは勿体ないじゃない!」
「そう......ミサトがお昼休憩に余裕を持てたのも、タローくんの朝食のおかげかしら?」
「ええ。今日は自分でもびっくりするくらい冴えてるわ」
言い終わるがいなや、再び箸を動かすミサト。リツコとマヤはそれを見ながら同じ事を思う。完全に手懐けられているな、と。
普段から自分をしっかりと持ち、おかしいことにはおかしいと言えるミサト。そんな彼女が唯一全ての言うことを聞く人物、それがタローなのだ。
ミサトとの付き合いが短くないリツコが初めて見る目を輝かせながら食事するミサトに驚いていると、そんな自分の横で後輩のマヤも羨ましそうな目で見ていることに気がついた。
「タローくんのお弁当、美味しそうですね。先輩」
ボソリと呟くマヤ。その瞬間、リツコに電流走る。
あ、あのマヤが......潔癖症なきらいがあるマヤが、昨日出会ったばかりの男の子が作ったお弁当を美味しそう......!? れ、冷静になりなさい。そもそも、昨日いきなり握手してた時点で驚くべきよ!
脳内で自分にツッコミを入れるリツコ。しかし後輩の発言を無視するわけにはいかず、なんとか言葉を返す。
「そうね。マヤもお願いすれば作ってもらえるかもしれないわよ」
「そんな、タローくんに悪いですよ......」
それに私はまだそこまで仲良くなれてないですし、と苦笑いしながら自分のお弁当を食べるマヤ。
完全に断らないのかよ!? そんな言葉が出そうになったリツコだったが、それを我慢して「そのうちチャンスがあるわよ」と言い自らもお昼を食べ進めるのであった。
日常パートって書くの楽しいですよね。はよ本編いけやと思われるかもしれないですが、本編前の日本編はあと2~4話続く予定です。
それと、次回からは折角あるのだから多機能フォームの機能を積極的に使っていこうと思います。文字が震えたりするのは文章下手勢にとってキャラの心情を表しやすいので画期的。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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サクサク進む(3000~4000字程度)
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少し書き込む(5000~6000字)
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ガッツリ書き込む(7000字以上)
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サクサク書き込め