ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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いつも感想楽しく読ませてもらっています。本編にすら到達していないのに見てくださる方が居ることに驚きと喜びを感じています。
もちろん賛否両論あるかと思いますが、自分の納得するものを書いていくつもりなので今後もよろしくお願いします。


7話 マダオ

「......」

 

 おそらくオレは今、このネルフ本部に来てから最大のピンチに陥っているだろう。

 

 無駄に広いネルフ本部の司令執務室。その中心の椅子に座っているオレは、向かい側の席でゲンドウポーズをしている碇 ゲンドウと対峙している。

 メガネが反射していて碇 ゲンドウ視線の向いている先はわからないが、おそらくオレだ。

 

 何故このような状況になったのか。それは十数分前に遡る。

 

 

 

 

 

 放課後。学校を終えたオレは、今日は実験がないとのことで綾波と昇降口で分かれ、いつも通りネルフの20番ゲートからジオフロントへ。そしてネルフへやって来た。

 

 目的はネルフ本部のトレーニング施設を使うため。リツコさん曰く、エヴァンゲリオン:プライマルとやらはまだ最終調整を終えていないとのことで、実験がある日もない日もネルフ本部のトレーニング施設で数時間体を動かしている。シャワーもあるしミサトさんが早く帰れる時は車で帰れるしで楽なのだ。

 

 オレはいつものようにすれ違う職員の方々に挨拶をしていくが、トレーニング施設の入口に珍しい人物が立っていることに気付いた。他の職員とは異なる制服で手を後ろに組んだ老人。冬月 コウゾウだ。

 

「お疲れ様で~す」

 

 変に身構えてはいけないと思ったオレは、まるで彼の副司令という立場を知らないかのように軽い挨拶をしてトレーニング施設へ入ろうとした。しかし、それを呼び止められる。

 

「待ちたまえ」

 

 立ち止まり視線を声のした方向へ向けると、冬月 コウゾウがこちらを見ていた。聞こえていないフリで通り過ぎることも考えたが、余計な詮索をされたくないので素直に立ち止まる。

 冬月 コウゾウはしばしオレを見つめた後、小さく着いてこいと言って歩き始めた。

 

「どこへ行くんですか?」

「碇のところだ。君を呼んでこいと言われてな」

「碇司令が、ですか」

 

 マダオからお呼びがかかるとは思わず、その目的は何なのかを考え込む。

 

 もしかして綾波のことだろうか。そういった考えが頭をよぎった。

 碇 ゲンドウからしてみれば、綾波は大事な駒のはずだ。だがそれと同時に、可能な限り無であってほしい存在。自分が死ねと言えば死ぬ、そんな素直な駒であることが大事だろう。

 

 だがしかし、オレは少しだが綾波を変えた。いや、綾波 レイという存在が持つ自我を引き出してしまった。

 それに後悔などしていない、むしろ誇らしく思っている。だがそれは碇 ゲンドウからすれば面白くないことだろう。間接的に接触禁止を宣言されるかもしれない。

 

 碇 ゲンドウという人物に持っているイメージから、オレの頭では悪い想像が次から次へと浮かんでくる。それが表情に出ていたのか、前を歩く冬月 コウゾウは一瞬振り返り、軽く笑った。

 

「そう難しい顔をするな。ただの相談らしいからな」

「相談?」

「ああ、碇を助けると思っていれば良い」

 

 相談か。う~ん、尚更わっかんねえなこれ。碇 ゲンドウの目的が読めない。まあ、いつものことか。

 

 

 

 

 

 この用に、冬月 コウゾウに連行されてこの司令執務室へとやって来た。のだが、碇 ゲンドウは先程から何も言葉を発さない。それは彼の右後ろでやはり腕を後手に組んでいる冬月 コウゾウも同じく。

 

 人を呼んどいて一言も発さないとは、一体何がしたいんだ。こうしている間にトレーニングの時間が減っていってると思うと、何だかイラついてきた。

 

「あの、言いたいことがあるなら早く言ってください」

 

 オレの言葉が予想外だったのか、碇 ゲンドウの眉が僅かに動いたのが見えた。冬月 コウゾウは、その後ろで愉快そうに笑みを見せる。

 

「碇、そろそろ本題に入ったらどうだ」

「......ああ」

 

 低い声でそう呟く碇 ゲンドウ。

 ようやくか。一体何を言うんだコイツは。

 

「......」

「......」

「......」

「......いや何も言わねえのかよォ!?」

 

 再び訪れた長い沈黙に耐えきれず、立ち上がりながら叫ぶ。

 碇 ゲンドウは相変わらず微動だにしないが、冬月 コウゾウはプルプルと震えていた。野郎、オレがこのクソみたいな空気に居ることを楽しんでやがる。

 

「ん、ん。座りたまえ」

 

 咳払いをした冬月 コウゾウに促され、仕方なく立ち上がったときの勢いで倒れたパイプ椅子を起こし、わざとらしく音を立てて座る。

 

 それを見た碇 ゲンドウが、ようやく口を開いた。

 

「......中学生と仲良くなるには、どうすれば良い」

「......は?」

 

 中学生? Middle school students? Mittelschüler?

 

 碇 ゲンドウの言った言葉に聞き間違いが無いか。日本語脳のみならず英語脳、ドイツ語脳も総動員して思い直す。しかり出力された言葉は、やはり中学生。

 

「っ!」

 

 キィーッとパイプ椅子を引きずりながら、五歩後ろに下がる。

 これだけの間合いを確保すれば、飛びかかられて不意をつかれる可能性はない。中学生と仲良くなりたがるとか一体何考えてんだこのマダオ!

 

「碇、それは言葉足らずにも程がある。すまんな白露」

 

 冬月 コウゾウが言う。言葉足らずって、どういうことだ?

 

「コイツには中学生の息子が居るんだ。その息子と仲良くなる方法をお前に聞いている」

「......本当ですか?」

「......」

 

 頬染めんなよキモチワリィ!?

 無理だ、良い歳したおっさんが息子と仲良くなる為にその息子と同年代の男に仲良くなる術を聞いているってことを第三者に暴露されて赤くなるとか、もう生理的に無理だ。何なんだよコイツ、正真正銘のマダオ。いや、マジで・キモイ・オッサン、マキオじゃねえか!

 

 唖然としてマダオあらためマキオを見ていると、マキオはメガネをクイッとかけなおした。ずっとメガネに光を反射させているその技術は素直に褒めよう。

 

「ネルフ職員から、お前は人当たりが良く仲良くなりやすいと評判だ。レイも言っていた」

「綾波がですか?」

「ああ。そこでお前に、人と仲良くなる方法を聞きたい」

 

 綾波がオレのことをそんなふうに思っていてくれたのは嬉しいが、マキオには息子と仲良くなってどうするんだ、と言いたい。

 だが、碇 シンジが父からの愛を求めているならば、オレは素直に碇 ゲンドウに助言するべきだろう。とはいえ、現在の二人の状況を把握しなければマトモな助言も出来ない。まずはそこを把握するところからだ。

 

「失礼ですが、御子息とは今どのような状況で?」

 

 オレがそう問いかけると、マキオこと碇 ゲンドウは軽くうつむいた。

 

 なんかショック受けてる気がするんだが、オレ悪くないよな。現状把握は一番大事だろ、何事にも。

 

 やがて碇 ゲンドウは顔をゆっくりと顔を上げて答えた。

 

「二年前に少し会話した以来、何もやり取りをしていない」

「いやアホか」

 

 思わず本心が出てしまい、二年前にちょびっと話したのみということに頭を抱える。

 

 え? こっから巻き返そうと思ってんのこのマキオ? ......無理でしょ。多感な時期にある息子を二年も放置とか考えうる中で最悪の行動だろ。無関心ってのが人間一番心に来るんだよ、せめて嫌がらせでも良いから何かしらやらないともう自分に関心無いんだって心閉ざしちまうよ。まだ嫌がらせをしてたほうがマシだよ。

 

 スタートラインが思ったよりも絶望的だったことに唸っていると、碇 ゲンドウはしょんぼりと肩と視線を落とした。

 

「そうか......」

 

 そうか......じゃねえよアホ。自業自得だろバカ。

 しかしまいったな、ここを上手く利用すれば碇 ゲンドウの暴走を防げるかもしれないっつーのに中々難しい。

 そもそもオレが人からの印象を良くする為に使うテクニックはゲヒルンドイツ支部に居た時に独学で学んだものだし、0を1にすることは出来てもマイナスまで行っちゃってそうな好感度を上げられる自信は無い。

 

 ただ、ここで何かしら良い変化を起こせれば間違いなくプラスになる。そのためには、ダメ元でも碇 ゲンドウにやってもらうしかない、か。

 

「まず、二年間も何もせず放置っていうのは確実に駄目ですね」

 

 グサリ。そんな効果音が聞こえてきそうなくらいに碇 ゲンドウの頭が下がった。

 

「話さなければ、人と仲良くなることは出来ません。何もせずともわかりあえる、そんなものは幻想。おとぎ話の世界です」

「話す、か」

「はい。人間誰しもが目に見えない心の壁を持っています。その壁越しに他者を見て、あいつは好きだ、あいつは嫌いだ、あいつは興味ないという具合に他者を区別しています」

 

 オレの話すことをしっかりと聞く碇 ゲンドウ。何ともシュールなのでそんなに集中しないでほしい。

 

「簡単にいうとフィルターのようなものです。例えば、コレを見てください」

 

 制服のポケットから、一本のボールペンを取り出して見せる。碇 ゲンドウは顔を上げてしっかりとボールペンを見ていた。

 

「これは何に見えますか?」

「......ただのボールペンだ」

「そうですよね、碇司令からはコレはボールペンにしか見えないですよね。でも自分にとってコレは、友達とおそろいのボールペンとして見えているんです」

 

 瞬間、メガネの奥にある碇 ゲンドウの眼光が鋭くなったように感じた。オレを試しているのだろう、それに乗ってやる。

 

「碇司令はこのボールペンが何時、どこで、誰が、どのように手に入れたか、それを知らない。なのでただのボールペンとして捉えるでしょう。でも自分は一週間前に文房具店で友達とおそろいで買った、という情報を知っている。つまり、碇司令のフィルターがかかっていない目にはただのボールペンでしかないコレが、自分のフィルターがかかった目には普通より大切なボールペンに見えるんです。では碇司令の目には、自分はどの様に写っていますか?」

「......プライム・チルドレンだ」

「ええ、それは紛れもない事実です。そしてそれは、今の碇司令が持っている心の壁越しに見た自分の姿です。会話をすることで、自分という情報を他者に与えることでそのイメージを変化させることが出来るんです」

 

 そう、他人に抱くイメージや感情などは自分の世界から見た偶像に過ぎないのだ。

 それを変える為には重要なのは、他人を知ること。他人を知るために重要なのは、会話をすること。

 

「ここに一人の男が居たとします。その男が碇司令についてを色んな人に聞いて回っているとしたら、どう感じます?」

「不快だ」

「ド直球だな......んん、そうでしょう。知りもしない人間が自分のことを詮索しているなど、不快以外のなにものでもありません。ですがその男が実は自分の古い友人で、過去の約束を果たす為に自分を探しているとしたら......どうです?」

「......良い友人を持った、と感じるな」

「その違いは何だと思います?」

 

 今度は逆に、この話を理解しているかどうかを碇 ゲンドウに試す。碇 ゲンドウは少し考えた後に、光が反射していないメガネ越しにオレの目を見て答える。

 

「情報だ。その男がどういった人物なのかという」

「そうです。そしてその情報を得るにあたって最も簡単なことは何だと思いますか?」

「......会話だ」

 

 オレの言いたいことに気付いてくれたのか、碇 ゲンドウは若干目を見開いて答える。

 そう、人の本質を知るためにオレ達人間が出来ることは会話しかない。心を覗き見ることなど出来ないし、ネットで調べても、人工知能に聞いてもわからない。それどころか、当人に聞いてもわからないことがあるだろう。

 しかしそれで良い、それこそが人間なのだから。

 

「オレ達人間は、心の壁があるから他者を完璧に理解することが出来ない。だからこそ話したり、触れ合ったり、傷つけ合ったり、慰め合ったりして心の壁越しに見える景色を変え、他者を理解しようとするんです。傲慢かも知れませんが、オレはそれが知恵を持った人間の特権だと思います」

「心の壁が特権だと?」

「はい。心の壁で囲まれた自分の世界があるからこそ、人は人で居られる。心の壁があるからこそ、それが他者との繋がった時に幸福を感じられる。愛を示さなければ、愛を得られません。他者を気にしてみてください」

 

 これはオレが碇 ゲンドウに伝えたかった言葉の一つだ。何時までもウジウジと殻にこもらず、外に出て働けマダオ! ってね。

 

「長々と話しましたが、人と仲良くするためには会話をして自分という情報を与えるしかないんです。まあ、その情報の受け取られ方次第では逆効果になりかねません。壁を一気に壊すのではなく、地道に塗り替えていくつもりで。」

 

 端折りまくれば、ガツガツ行かずに相手の様子を見てコミュニケーションを取りましょうねって話になる。

 しかしそれではこの捻くれマキオことマダオこと碇 ゲンドウを納得させることは出来ないだろうから、態々こうやって哲学者的発言をしたわけだ。正直途中から自分で自分が何言ってるのかわからなくなってたが、上手くまとめられたかな?

 

「......わかった」

「まあ碇司令の場合は会話するところからですよね。御子息に定期的に電話をしてみたらどうですか? 親からかけられる言葉っていうのは、良くも悪くも印象に残りますし嬉しいものですからね。言葉遣いは気をつけてください」

「善処しよう」

「それも難しいなら職員の方に挨拶してみては? 碇司令、総司令なのにどんな人なのかわからないって理由で割とよろしく無い噂立ってますよ。実は目からビームが出るとかなんとか」

 

 ぶっちゃけオレが勝手に思ってることだが、碇 ゲンドウはそれを職員に思われていることだと信じているのかしょんぼりしていた。いやおっさんがしょんぼりすな。

 

 腕時計をチラ見ると、すっかりトレーニングの時間がなくなっていた。悲しい。

 

「じゃあ、この辺で失礼します。今日は碇司令が目からビームを出すような人じゃないとわかって良かったです。それでは」

 

 碇 ゲンドウと冬月 コウゾウ、その二人はどちらもオレを引き止めることは無かったので、扉の前で振り返ってお辞儀をしてから退出する。

 クソ、おっさん二人に時間をかけすぎたぜ。トレーニング終わったらミサトさんで目の保養しないと。

 

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 

「どうだ? 碇」

 

 タローの去った司令執務室で、冬月がゲンドウに問いかける。ゲンドウはタローが座っていた椅子を眺めたまま答えた。

 

「ああ。期待通りだ」

 

 それは息子である碇 シンジと仲良くなる方法をタローに求めた期待と、もう一つの期待。ゲンドウが机の引き出しから取り出した一つの書類において、タローが有用かどうかという期待だった。

 

「人類補完計画、オペレーション:ドレッドノート(恐れなき世界)。ユイくんがドレッドノート博士と共に提言した、もう一つの答え。その主軸にするのに十分な男か......しかし、老人達に感づかれんかね?」

「その心配はない。エヴァンゲリオン:プライマル(始まりの神)プライム・チルドレン(始まりの人類)を奴らは自らの切り札と考えている。しかし、Dの意思がこちら側にある限り、エヴァンゲリオン:プライマルもそれに従う」

「他者の存在こそ人が完璧であるために最も必要である。プライム・チルドレンもその意思を継いでいるようだな」

 

 タローの発言を思い返しながら、冬月は考える。そしてそこに、過去の教え子であり目の前の男、ゲンドウの妻であった碇 ユイとを重ねる。

 

『人類がただ生き延びることを選ぶのならば個体は必要ない、しかし人類が人類であるためには単一を否定しなければなりません。私は、ドレッドノート博士の言った可能性に賭けます。この子には明るい未来を見せておきたいんです』

 

 あの日、エヴァ初号機のテスト前にゲンドウと冬月にそう語ったユイ。彼らとその後に意思を宿す少年に全てを賭け、彼女は肉体を捨てた。

 その肉体から得た審判(綾波 レイ)に狂いはない。

 

「我々はあまりに多くの犠牲を出しすぎた。今更極楽浄土に行こうなどとは思わない」

「ふっ、その通りだな」

「心の壁がある限り、他者と完全にわかり合うことはできない。だが心の壁があることで、ヒトは幸せを見つけていく。その為には最初の神(ドレッドノート博士)最初の人類(白露 タロー)が必要だ。ユイの覚悟は無駄にはしない」

 

 ゲンドウは立ち上がり、執務室の扉に向かう。そして冬月に一言。

 

「少し席を外す」

「......ああ」

 

 ゲンドウが何をするのかを察した冬月は、ニヤリと笑う。ゲンドウが去り一人になった冬月は、今は存在しない教え子と、彼女を変えた一人の博士に思いを馳せる。

 

「道になったドレッドノート博士と、それを隠す囮になったユイくん。君達が帰ってきたときは、それを誰も知らないだろう」

 

 一方執務室を離れたゲンドウは、発令所へと向かっていた。

 しかし向かう先は司令席ではなく、オペレーターたちが従事している司令塔。扉の前で、ゲンドウは一瞬躊躇した。しかし、愛する息子の顔が思い浮かび、一歩踏み出す。

 

「......」

 

 突然の総司令の登場に、オペレーター達は会話を止め注目する。

 ゲンドウはゆっくりとメガネを直した。

 

「......諸君、いつもご苦労。今後も期待しているぞ」

 

 何の突拍子もないその言葉に、オペレーター達は固まる。『あの総司令が労いの言葉をかけてきただと? これは夢なのか?』全員がそう思っていた。

 しかしその中でも復帰の早いオペレーターが三人。

 

「......お疲れ様です、司令」

「お疲れです」

「碇司令、お疲れ様です」

 

 青葉 シゲルと日向 マコト、そして伊吹 マヤ。彼らは何となく感じていた、あの台風の目(タロー)がついには碇 ゲンドウをも巻き込んだかと。

 ゲンドウは三人の返事に対して、小さく頷いた。

 

「......うむ」

 

 その後、三人を皮切りに発令所のオペレーター達が次々にお疲れですとゲンドウに声をかける。まさかここまでの反応を得られるとは思わなかったゲンドウは、自分でも気付かぬうちに片方の口角を上げていた。

 

「では、時間まで引き続き頼む」

『はい!』

 

 オペレーター達の言葉を聞いたゲンドウは、その高揚感冷めやらぬうちにポケットからスマホを取り出し電話をかける。電話先は、息子を預けている家の電話。

 

「......はい」

 

 ゲンドウにとって幸運なことに、電話に出たのは彼の息子。シンジであった。

 およそ二年ぶりに聞くその声に、ゲンドウは電話越しとはわかっていても少し緊張を覚える。どのように声をかければ良いか。迷いに迷ったが、最低限の言葉に済ますことにした。

 

「シンジ、元気にやっているか」

「っ......父、さん?」

「ああ」

「なんだよ......今更なんだよ!」

 

 電話の向こうで声を荒げるシンジ。ゲンドウはそれを自らの責任と受け止めたうえで、初めて向き合うことにした。

 

「お前と話がしたくなった」

「......僕と、話が?」

「そうだ。これからは定期的に話す時間を作ろう。私が払うから携帯を契約するんだ、おじさんとおばさんに言っておく」

「ちょ、ちょっと待ってよ父さん! いきなりどうしたの!?」

 

 嫌だ、と断られたらこの親子関係は完全に諦めよう。だが、もしかしたら。

 

 ゲンドウの背中をタローが言った『愛を示さなければ、愛を得られない。親からの言葉は嬉しいものだ』という言葉が押した。

 シンジは少し困惑したような様子だったが、しっかりと頷いた。

 

「......わかった。僕も、父さんとちゃんと話したい」

 

 その言葉に、ゲンドウは肩の荷が降りる。そして思い出す。

 初めてシンジが自分の目を見たときを、触れたときを、父さんと呼んだときのことを。

 

 ああ、これが親子というものか

 

 長年冷え切っていた親子関係だが、二人は切っても切れない何かで結ばれていた。それを手繰り寄せることを拒んできたゲンドウが、初めてシンジの差し出す手を握った。

 

「電話番号はわかるか?」

「うん、わかるよ。......ずっと、僕からもかけたかったんだ。だから!」

「ああ、契約したら私に一番に電話をかけるんだ。待っているぞ、シンジ」

「......うん」

 

 今まで歩み寄っては遠ざかってを繰り返していた二人が、初めてお互いの居る先に向かって歩を進めた。

 もう逃げない。似たもの同士の親子は互いに覚悟を決める。それが近い未来に良い結果を生むことは言わずともわかるだろう。

 

「ではな、シンジ」

「......またね、父さん」

「うむ」

 

 電話を切るゲンドウ。メガネを外した彼は、瞳に滲む涙を拭った。

 

「ユイ......私はもう、間違えないよ」

 

 再びメガネをかけたゲンドウ。その顔は一人の父ではなく、ネルフ本部総司令、碇 ゲンドウだった。

物語の密度と1話ごとの文字数について

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