ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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長くなってしまいました。次回から本編か、1話挟むかで悩んでおります。


8話 エヴァンゲリオン:プライマル

 エヴァンゲリオン:プライマルの最終調整及び拘束具換装作業が終わった。

 

 その知らせが入ったのは、オレ達が通う第三新東京市立第壱中学校の前期休業(春休み)も終盤に差し掛かった頃だった。

 トウジの家で彼の妹であるサクラちゃんの宿題を手伝っていたオレは、リツコさんからその電話を受けて急遽飛び出してきたのだ。抜けるときにサクラちゃんをなだめるのに苦労したのはここだけの話。

 

「おまたせしました!」

 

 リツコさんに指定されたネルフ本部の第二実験場、オペレーター室の扉を開く。そこには、オレを呼び出したリツコさんはもちろん、ミサトさん、マヤさん、そして休みでも制服姿の綾波とその他にも複数のオペレーターが居た。

 

「来たわね、タローくん」

 

 こちらを振り返ったリツコさんに、入るようにと促される。

 中に足を踏み入れたオレは、オペレーター達の専門用語飛び交う現場に少し緊張感を覚える。しかしミサトさんとマヤさんが微笑みかけてくれたことで、その緊張が少し和らいだ。女神や。

 

「急に呼び出して申し訳ないわ。けれど、現状最も運用可能状態に近いエヴァンゲリオン:プライマルを実用化させるのに上も必死なのよ」

 

 マヤさんの隣でキーボードを叩きながら、リツコさんが気だるそうに呟く。

 上、という言い方からするに碇司令のことではないだろう。おそらくはゼーレだか何だか、そんな感じの秘密結社的な奴らのことを言っているはず。

 

 やがてキーボードを叩き終えたリツコさんが、オレの名前を呼ぶ。

 

「エヴァンゲリオン:プライマルのお披露目よ。準備は良い?」

「......はい」

 

 オレがそう答えると、リツコさんはニッと笑ってスイッチを押す。

 その瞬間、室内前面にあったくもりガラスが透明に変わり、ついにエヴァンゲリオン:プライマルが姿を現した。

 

「これが......」

「そう。究極の汎用決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。そしてこれは、そのエヴァンゲリオンの始まりの機体。壱型よ」

 

 真っ白な広い空間に佇む壱型。ドイツ支部からここに来る前イェーナさんからモノクロ写真で頭部だけは見せてもらったことがあるが、少しばかり形状が替わっているように感じる。

 

 フェイスマスクから伸びる目を引く特徴的なV字型のアンテナはそのままだが、問題はそのフェイスマスク部分。人間で言う所の額と眉間に当たる部分が前方に突出しており、まるで『ここで頭突きしてくださいね』と言わんばかり。

 顎の先端も少し前に出ていたり、頭の横に初号機に似た排気フィンのようなものがあったりするが、やはりどれもが記憶がハッキリしている零号機、初号機、弐号機とは異なる見た目をしている。

 

 しかし全体的に悪役感漂うのは、カラーリングが限りなく黒に近い藍色(あいいろ)。俗に言う褐色(かちいろ)をベースに赤と黄で彩られているからだろうか。う~む、何ともジャパニーズサムライの風格が漂っておりますね。

 

「実は壱型の改修が遅れた原因って、イェーナさんなのよね」

「えっ、イェーナさんがですか?」

 

 苦笑しているミサトさんの口から出た少し懐かしい名前に、思わず身を乗り出してしまう。

 

 あの完璧超人才色兼備なイェーナさんが改修の遅れる原因になるなんて、正直考えられない。改修が早く進んだ救世主になるのならわかるけど。

 

 そんなオレの考えを察してか、リツコさんが微笑を浮かべて補足してくれる。

 

「ドイツ史上最高の天才、純潔の華と呼び声高いレーマン博士が、タローくんの為に壱型改修案を提案してくれたのよ。例えばあの頭部にある拘束具、あれは彼女曰く『タローが乗る機体ならば全身で戦えるようにするべき』ということで急遽新造されたものよ」

「あ、やっぱあれ頭突き用なんすね」

 

 あれだけいかつく尖ってればそりゃダメージは与えられるよね。ひょっとして使徒のATフィールドを中和する最善策がキツツキになることになってしまうかもしれないが、それは流石にかっこよくないので勘弁してほしい。

 

「エヴァ壱型は、元々対使徒を想定されたものではないの。だから戦闘用の装備は無かったんだけれど『そんなものにあの子は乗せさせない!』って猛反発したらしくて。タロちゃんをネルフ本部に移動する交換条件として、自分が設計した装備を壱型に取り付けることを認めさせたのよ」

「......イェーナさん、やっぱり良い人が過ぎるな。求婚したい」

 

 ミサトさんの生エバーよりも、イェーナさんが日々の激務の中でオレを想って開発してくれたことに感動してしまう。

 

 彼女の為にも、この起動実験は成功させなければならない。いや、イェーナさんが関わっているんだ、失敗はあり得ない。

 確か壱型はイギリスで建造されたって話だったが、イギリスと言えばとんでも兵器やぶっ飛んだ発想が多い国だ。いくら外面をイェーナさんが覆ってくれているとしても、そこだけはリツコさんに聞いておかないと。

 

「壱型って元々イギリスで建造されたんですよね。やっぱりあります? 変な機能とか」

「......拘束具の頚椎部、湯沸かし機能と小さな収納があるわ」

「やっぱやることがちげえなあ、国を盗んだ民族は」

 

 小さな収納の用途は言わずともわかる。多分ティーカップとティーバッグか茶葉をしまう場所だろうな。戦車の中でさえお茶を飲むような奴らだ、まだエントリープラグ内に作らなかっただけマシだ。

 この世界のオレにはその血が1/4だけ流れているそうだが、流石に根は日本男児なのでそれを変だと思ってしまう。リラックスするためなら最適だろうけど。

 

 思わず呆れ返っていると、マヤさんがその小さくすべすべな御手で肩をぽんぽんと軽く叩いてくる。振り返ると、彼女は赤色のスーツを持っていた。

 

「これ、タローくん専用のプラグスーツとインターフェイスヘッドセット。私と先輩で調整したの」

 

 にこやかな笑みを浮かべるマヤさん。その後ろから光が差し込んでいる。

 

 オレはプラグスーツをマヤさんの手ごと受け取った。

 

「ありがとうございます、嬉しいです」

「ふふ、うん」

「マヤ、張り切って調整してたわよ」

「ちょ先輩!」

 

 それは秘密にしてくださいよ! とリツコさんに抗議するマヤさん。

 

 何だこのお姉さん本当に可愛いな、潔癖症らしいけど全てを受け入れてくれそう。耳かきしてもらいてえなあ。

 

 マヤさんで一通り妄想したあと、手にあるプラグスーツとカチューシャ型のインターフェイスヘッドセットを見る。両方とも赤色が基調で、所々に褐色。エヴァ壱型とは対になるような配色となっている。

 ベースが赤色でおそらくアスカとおそろいになるのが嬉しいのはもちろんだが、ようやくオレ専用のプラグスーツが出来たっていうことも嬉しい。今までの実験やテストでは壱型の調整が済んでいないこともあって試験用のプラグスーツだったけど、結構透ける感じだったから恥ずかしかったんだよな。綾波があれ着てたら多分だけど目を合わせられなくなる。彼女がちゃんとしたスーツを持っててよかった。

 けど、見た感じコレなら透けないと思う。マヤさんにそういう趣味がなければ。

 

「じゃあタロちゃん。更衣室で着替えた後、裏にあるエントリープラグに乗り込んで頂戴。その後はこっちでやるから」

「はい」

 

 頑張ってね、とミサトさんに応援されたオレは着替えるために出入り口である扉に向かう。その途中、一言も発していなかった綾波に呼び止められた。

 

「白露くん」

「うん? どうしたの?」

 

 綾波はオレの名前を呼んだは良いものの、なんと言葉をかければよいのかわからない、という様子だった。

 それでもオレは、綾波が声をかけようとしてくれたことが嬉しい。

 

「その......」

「綾波、応援しててくれよ?」

「......ええ」

 

 力強く頷いた綾波に微笑んだあと、オレはオペレーター室を出て更衣室に入り着ていたシャツとズボンを脱いで畳む。基本的にプラグスーツはスッポンポンで着るものだが、姿見が目に入ったのでとりあえずパンツ一丁でポーズだけ決めておく。

 

「仕上がってるねえオレ」

 

 独り言をつぶやき、我が身を隠す最後の砦。トランクスを脱いでプラグスーツに足を通す。首、肩、腕、腰、足。ブカブカの状態でそれとなく位置を調整した後、左手首にあるフィッティングボタンを押す。その瞬間に、カシュッと空気が抜けた音がしてプラグスーツが体に密着する。

 

「......」

 

 通常ならコレで完了だが、オレは今一度プラグスーツをダボダボな状態にする。何故か? 我が愚息のポジションが悪かったためだ。チンポジは大事。

 

「よし、良い感じだ」

 

 完璧にフィッティングを済ませた後、体をねじったり伸ばしたりする。プラグスーツに皮膚が引っ張られる感覚も無ければスーツが突っ張る感覚もない。着ているんだか着ていないんだかわからないレベルのフィット感。

 そしてカチューシャ型のインターフェイスヘッドセットを装着する。アスカと綾波はヘアピン型だが、オレの場合は面倒なのでカチューシャタイプ。といっても、細いから外見上はヘアピン型と大差ない。

 

 後は裏口を出て、準備されているエントリープラグに乗り込むだけだ。その後はいつものシミュレーターと同じ。神経接続でエヴァと調和して、ハーモニクスの値を正常値まで持っていって、シンクロして、それで......

 

「っ!」

 

 まとまらない思考をどうにかするため。気合を入れるために両手で顔を叩こうとした時に、体が震えていることに気付いた。

 怖い? 確かに急だったけど、エヴァに乗るのが何だ。シンクロだって何度もしてきた。不安? 外はイェーナさんが、中はマヤさんとリツコさんが調整してくれたんだ。そんなものあるはずがない。

 じゃあどうしてオレの体は震えているんだ。そして、この腹の底から湧き上がってくる昂ぶりは何なんだ。

 

 その答えは、鏡を見たことでわかった。笑っていたのだ。

 

「そうか、久しぶりの感覚で忘れてたけど......楽しみで仕方ないんだな、オレ。これが武者震いってやつか」

 

 悪くない。

 常に平静で居ること、それが大事だと思っていた。しかしこの昂ぶりを忘れては駄目だ。大きくなる感情の種類によっては、脳が思いがけない力を生み出すことが出来る。

 オレが日々鍛錬を重ねたのは体だけではなく脳も鍛えるため。肉体を動かして脳を発達させる、脳の発達によってエヴァをより自由に長時間操る。それが可能かどうか、証明するチャンスがやって来たのだ。気分が高揚するのも無理はない。

 

「すう......はあ......」

 

 更衣室を出たオレは、まだLCLで満たされていないエヴァンゲリオン:プライマルとオレを繋ぐ専用のエントリープラグ内で深呼吸をする。無味無臭、いや食ってねえから味はしないか。

 

「タロちゃん、調子はどう?」

 

 ミサトさんの声が聞こえる。テストの時は、彼女はLCL注水前にオレと綾波にいつもそう聞いてくる。細かな気遣いを忘れない立派な人だよ。人目がないと部屋を汚しちゃうのがなければ。

 

「万全ですよ、もちろん」

「そ、良かったわ。リツコ」

「ええ。エントリープラグ、移動開始」

「了解。エントリープラグ、挿入位置へ」

 

 リツコさんとマヤさんの声がした後、プラグが移動する感覚を感じる。

 

「停止信号プラグ、排出終了。補助電圧に問題ナシ。エントリープラグ挿入開始」

 

 ゆっくりと動いていた感覚が一瞬止まる。これあれだな、グインってやつが来る。

 オレの予想どおり、エントリープラグ挿入の最後の一捻りの感覚を感じる。これはドイツで弐号機の起動実験をしてた時以来の感覚だから、ちょっと懐かしいな。

 

「インテリア、固定終了しました」

「第一次コンタクト開始」

「了解。エントリープラグ、注水します。タローくん、行くよ」

「はい」

 

 マヤさんの声の後に、エントリープラグがLCLで満たされていく。全身が浸かった所で、軽く息を吐く。問題なし、いつもどおりだ。

 

「第二次コンタクトに入ります......A10神経接続、正常です」

 

 徐々にプラグ内の景色が替わっていく。

 

 これがエヴァを起動するときか。なんというか、カラフルなウォータースライダーの中を通った時みたいだ。ちょっとグワングワンする。

 やがてプラグ内の景色は、エヴァンゲリオン:プライマルが見ているものへと変わる。当然、そうすれば窓の向こうにいる皆の景色が見えるわけだが......

 

「ミサトさんにリツコさんとマヤさん、心配しすぎだよ......」

 

 オペレーター室の中でも特に前のめりになっている三名を見て、聞こえないくらいの声量でつぶやいてしまう。綾波も窓に手を当て、こころなしか不安そうにこちらを見ていた。

 

「タローくん、聞こえる? 思考言語はどうする?」

「じゃあ......ドイツ語で」

「わかったわ」

 

 四人を見ていると、リツコさんに声をかけられる。思考言語は正直何でも良いが、ドイツに居た時に思考言語をドイツ語で脳内で余計なことを日本語で考えていても問題なかったのが、ドイツ語で考えた途端に脳波が乱れたと指摘された事があったので、ドイツ語にする。そうすれば思考が乱れること無く日本語で考え事が出来るって訳。

 

「ハーモニクスは全て正常値。リストオールクリア、シンクロ率......っ70パーセントです!」

「やっるぅ!」

「最初の起動で70パーセント、流石ね」

 

 最初のシンクロ率は70か。ここからどこまで上げられるのかわからないけど......でも、思ったよりも違和感は無いな。固定されている感覚を肩と背中、足に感じるけどそれだけだ。

 

「タローくん、今から固定ロックを外すわ。大丈夫、ただ立っていることをイメージしていれば良い」

「わかりました」

「固定ロック解除」

「了解。固定ロック、解除」

 

 ガシャンと音がして、全身が楽になったように感じる。機体が若干ふらついたが、立っているというイメージをすることで崩れ落ちることは無かった。

 

「よし、タローくん。次は歩いてみて」

「はい」

 

 歩く、か。弐号機内部の簡易戦闘シミュレーターでは何度も動かしていたエヴァだが、実際にやってみると少しだけ重さを感じる。動いていないのに肉体の重さを感じるなんて不思議だ。

 室内をぐるりと一周歩いてみる。思ったよりも余裕だし、ちょっと調子に乗ろうかな。

 

「あら上手なムーンウォーク」

 

 ミサトさんの言う様に、オレはムーンウォークをしている。厳密には、そのイメージなのだが。

 これは面白いな、何なら自分の体よりも思い通りに動くような感じがする。

 

「シンクロ率、72パーセントに上昇」

「素晴らしいわ。タローくん、実験場を破壊しない程度になら思い思いに動いてみて良いわよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 リツコさんから許可が降りたので、色々と動いてみる。軽くジャンプしてみたり、屈伸してみたり、ラジオ体操をしてみたり。

 エントリープラグ内でオレが握っている操縦桿、レバーはあくまで補助や射撃のときに使用するものだが、コレを前後に動かすと実際に腕を動かせることもあってイメージがしやすくて良いな。試しに左手を伸ばして、右手は引いて。

 

 オレがイメージしたのは、某光の巨人のようなファイティングポーズ。腰を低くしたレスリングのような姿勢を無事に取れたので、少し激しく動いてみる。左フック、右ストレート、そのまま右手を薙ぎ払い、左足を軸に勢いを利用して右足で回し蹴りでピタっと止まる。

 現実の肉体とほぼ同じ、速さだけならエヴァのほうが上か。しかし線をなぞるのはやはりシンクロ率の問題からか現実の肉体のほうが綺麗にできている。

 それを見ていたオペレーター達からは声が上がった。

 

『おぉ......!』

「どおタロちゃん。気分が悪くなったりとかしてない?」

「はい、大丈夫です。思ったよりも軽快に動いて感動しちゃってます」

「良かったわ。まだ続ける?」

 

 ここでミサトさんに続けたいと言えば、それなりの時間自由にエヴァを感じることが出来るだろう。だが、無理はしない。

 

「今日はここで終わりにしておきます。気付かぬうちにオーバーワークで時間を無駄にしたら意味ないですし」

「ストイックねぇ~、そういうところ好きよ。っちゅー訳だからリツコ、起動実験はここまでで良いかしら?」

「ええもちろん。データはしっかり取れたわ。タローくん、ありがとう。出来れば固定位置についてもらっても?」

「もちろんです」

 

 最初に壱型を固定していた位置に付いたオレは、自らロックをかけられていく。その途中で、綾波から声がかかる。

 

「白露くん」

「お、綾波。どう、見ててくれた?」

「見ていたわ......お疲れ様」

「......うん、ありがとう」

 

 チラリと綾波の顔を見ると、やはり無表情だが綾波感情検定準2級のオレには安心しているように見えた。そして、その後ろでニヤニヤしているミサトさん。なんかつぶやいてるなからズームしてみるか。

 

『つ・み・な・お・と・こ・ね」

 

 罪な男ねってオイ。オレは綾波もミサトさんもリツコさんもマヤさんも大好きだけどアスカ一筋だぞ。一瞬たりともアスカを忘れたことはないぞ、なんなら夢に出てくるくらいだぞ。

 そう返事してアスカの素晴らしさを語りたいところだったが、それをしてはオペレーター室の全員に聞かれてしまうので黙っておく。アスカは愛すべき存在だが布教するつもりはない。独占欲というものだ。

 

「タローくん、お疲れ様! 事後作業があるから、リラックスして待っててね」

「わかりました、ありがとうございますマヤさん」

 

 マヤさんはマヤたんだからね、推しです。

 しかし、これで起動実験は無事終了か。新しい感覚だったけど悪くない。これなら戦える気がする。

 

 エントリープラグのシートに背中を預け、ぐったりと天井を見ながらオペレーターの人達の声を聞き流していく。視界が替わるその途中に、こちらに向かって両手を伸ばす女性の影を見たような気がした。

 

「......ありがとうございました。次回もよろしくお願いしますね」

 

 エヴァの中に居る誰かに向かって声をかける。

 

 エヴァは魂のない肉体なので、そこに魂を入れなければ動かない。しかし一人の人間だけでは魂が足りないため、あらかじめエヴァの中に(母親)を置き、外からそれに近しい(子供)と共鳴させることで動く。そんな感じだった気がする。

 オレがこの壱型を動かせた、ということは、壱型の中にはこの世界の母親。もしくはオレと近しい魂を持った誰かが居るということ。その人から力を借りているんだ、感謝しないわけにはいかないよな。

 

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 

 時は少し巻き戻り、実験中のオペレーター室

 

 リツコとマヤを筆頭にオペレーター達がデータ収集及びモニタリングをしている中で、レイは壱型を操縦するタローを窓越しに見つめていた。

 

「......」

 

 窓に手を当てて誰よりも近くでタローと壱型を見つめるレイ。彼女の肩にミサトが手を置いて微笑みかける。

 

「......葛城一尉?」

「心配なのね、タロちゃんのこと」

「心配......?」

 

 レイは視線をタローと壱型に戻し、自分の胸にある感情が何なのかを考える。

 

(今は、ぽかぽかじゃない......白露くんと壱型を見てるとざわざわする)

 

 胸に手を当て、自分の感情にどういう名前をつければ良いのか悩むレイ。『愛されてるわね』とミサトはレイを見ていたが、彼女にヒントを出すことにした。

 

「もし仮によ? タロちゃんが怪我したら、どう思う?」

 

 言葉を大切にするミサトはこの場において軽率な発言だったなと思いつつも、それくらいしなければレイが持つそれ(感情)を彼女に自覚させることは出来ないのだと割り切る。

 

 そんなミサトの思惑通りに、レイは頭の中で最悪の状況を思い描いていた。壱型の暴走、タローの負傷。それに伴い、再び一人に戻ること。学校では外を眺めるだけの日々、ネルフでは淡々と実験とテストをこなすだけ。赤木博士、碇司令や葛城一尉。オペレーターも居るが、隣には誰も居ない。

 徐々に、レイの中で渦巻く感情が大きなものになっていく。なぜだかわからないが、今すぐ彼の顔が見たい、声が聞きたい。見えないことが不安、聞けないことが不安。レイはコレが()()という感情なのかと理解する。

 

「心配......白露くん()お弁当を食べれなくなるのは、嫌」

「......そう。タロちゃんと、ね。レイ、実験が終わったらお疲れ様って声をかけてあげて。きっとタロちゃんすっごく喜ぶわよ」

「白露くんが......」

 

 それは本当だろうか? ミサトの顔を見るレイ。彼女は気付いた、窓に反射していた自分の表情とミサトが今見せる表情が同じであることに。

 

(葛城一尉も、心配なのね)

 

 後ろを見る。リツコもマヤも、他のオペレーターも全員が似たような顔をしていた。

 

「どおタロちゃん。気分が悪くなったりとかしてない?」

「はい、大丈夫です。思ったよりも軽快に動いて感動しちゃってます」

 

 ミサトがタローに呼びかけたことで、タローの元気そうな声が返ってくる。その瞬間にオペレーター室の全員の顔が明るくなった。レイの耳に、全員が息を吐く音が聞こえる。

 みんな、タローを心配している。それだけでない、話に聞いただけのドイツの博士まで。そしてレイは思い出す。自分が初めてシンクロテストをした時に、あの人(碇司令)も同じような表情だったことに。

 

(白露くんは、どうだろう)

 

 零号機の起動実験の時、彼は一体どんな表情で私を見てくれるのだろうか。どんな言葉をかけてくれるのだろうか。

 固定位置についていく壱型を見ながら、レイは考える。きっと心配してくれる、きっと安心させてくれる。言いようのない高揚感がレイを包みこんだ。

 

「レイ」

 

 壱型から視線を外さないレイに、ミサトが小さく声を掛ける。ウインクしたミサトを見て、レイは思い出す。

 

「白露くん」

 

 タローの名前を呼ぶ。その時、気を利かせたリツコが窓にタローの顔を写す。

 

「お、綾波。どう、見ててくれた?」

 

 少し得意げな顔をするタローに、レイは安堵する。その後ろ姿を見ながら、ミサトとリツコ、マヤも同じように。

 レイはミサトに言われた通り、タローが喜ぶという言葉をかけてみることにした。どんな顔でどんな言葉が返ってくるのだろう、と楽しみにしながら。

 

「見ていたわ......お疲れ様」

「......うん、ありがとう」

 

 タローの表情に、レイは自分でも気付かぬうちに頬が緩んでいた。

 微笑んでくれた、感謝してくれた。私の言葉で喜んでくれた。

 

 ぞわり。

 

 レイは自分の中に新たな感情が芽生えたのを感じる。一緒にいるとぽかぽかして、姿が見れないとざわざわして、今は胸がぞわぞわする。その不思議な感覚をレイは楽しんでいた。

 

「タローくん、凄いですよね。すっかり私達の毎日に馴染んじゃいました」

 

 マヤがリツコにだけ聞こえるように言う。

 まだタローがやって来てからは半年程度だし、学生であるタローがネルフに来るのは放課後の2~3時間ほど。しかもテストや実験が無い日はその時間の殆どをトレーニング室で過ごしているというのに、マヤやリツコ達の中ではタローと、そして彼と一緒に来る綾波を見るのが一日の始まりとなっていた。

 元気がないときは、二人のエヴァパイロットを見ろ。それ以上の特効薬は無い。それはネルフ本部の職員達がよく口にする言葉。リツコ自身も、一度真剣にタローと綾波は何かヒーリングオーラのようなものを発しているのではないかと考えたことがある。それくらいに二人はネルフ本部にとって重要な存在となっていた。

 

「そうね。でも、ミサト曰くタローくんにはドイツに本命がいるそうよ」

「本命ですか?」

セカンド・チルドレン(第二の少女)と言ったほうがわかりやすいかしら。幼少期からタローくんと共に過ごしていた弐号機のパイロット」

 

 私も詳しくはしらないけどね、とリツコは言う。マヤはそれを聞いた瞬間に、セカンド・チルドレンが日本にやって来たらどうなるかを想像する。

 おそらく修羅場になるだろう、でもきっとそれも楽しいはずだ。

 人に必要以上の干渉と関心を持たなかったマヤは、そんな風景を想像して思わず笑みがこぼれた。

 

「幼少期から一緒に過ごしてたってなると、どんな感じか想像付きますね」

「噂では最初はわがまま娘だったのが、すっかりお嬢様になったと聞いてるわよ。しかもタローくんの唇を奪ったとか」

「く、くくく唇をですか!?」

 

 赤面するマヤ。リツコは心のなかで思った。

 

(いや不潔ですは出ねえのかよぉ!)




いつの間にか主人公がクソデカ感情製造機になってしまった

エヴァンゲリオン:プライマルのカラーは初号機で言うと紫のところが褐色、緑のところが赤色だと思ってください。
頭部に関しては、機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズより登場するバルバトスルプスレクスのアンテナが細くなって、3号機と足して2で割りエヴァっぽくなった感じです。絵心があればイラストを描いてみようと思うのですが、小生たいやきくんしか描けないもので。

物語の密度と1話ごとの文字数について

  • サクサク進む(3000~4000字程度)
  • 少し書き込む(5000~6000字)
  • ガッツリ書き込む(7000字以上)
  • サクサク書き込め
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