『かわいい顔してるけど、なんか陰気臭いところは碇司令と同じだな』
とはタローがシンジをみて思った事。
『立ち姿が綺麗で男前な頼りになりそうな人だな』
とはシンジがタローを見て思ったこと。
『葛城一尉、服が汚れているわ』
とはこの場に居るレイが思ったこと。
プラグスーツ姿のプライム・チルドレンとファースト・チルドレン、そして制服姿のサード・チルドレンは現在ミサトとリツコと共に顔合わせをしていた。
場所は冷却液に浸かった初号機が格納されている格納庫、つまり初号機の目の前の可動式ブリッジである。
出撃準備を終え、後はエヴァに乗り込むだけ。そんな状態だったタローとレイに、ミサトが『碇司令が久しぶりに息子と再会するところ見たくない?』とそそのかして顔合わせをすることになったのだ。当然リツコが呆れたことは言うまでもない。
「はじめまして、オレは白露 タロー。タローで良いよ」
「ぼ、僕は碇 シンジ。よろしくねタローくん......僕もシンジで良いよ」
「おー、よろしくなぁシンジィ!?」
「なんかイメージと違うんだけど......」
片眉だけを上げてシンジを睨みつけ突然オラつき始めたタローに、シンジは顔をヒクつかせる。
だがそれはシンジの緊張を和らげるためのタローの策略、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「冗談だよシンジくん、よろしくね」
「......うん」
(ちっと悪ふざけが過ぎたけど、ツッコミする余裕があるみたいで良かった)
タローが差し出した手を控えめに握って握手するシンジ。その後ろでミサトがリツコに『またやってるよ』と視線で訴えていた。
先陣を斬ってタローがシンジに話かけたことで、レイも一歩前に出てシンジへと挨拶する。
「綾波 レイ」
「よ、よろしく......えっと、綾波」
レイはシンジが自分をそう呼んだことで、シンジと早速談笑しているタローに視線を向ける。
(赤木博士も葛城一尉も名前で呼ぶのに、私は碇司令の息子と同じ呼び方......)
もう1年間、友達になろうと言われてから10ヶ月は経過しているのに、今日初めて会ったシンジが自分を呼ぶ時と同じ呼び方をするタローに、少しムッとした表情になるレイ。
名字でも名前でも、どちらでも自分を呼んでいることがわかれば良いと思っていた。しかしシンジが自らを綾波と呼んだことで、名字呼びは交友関係が深くないことを表していると気付いてしまったのだ。
「あちゃー、バレたか」
「バレたって?」
「レイの顔よ、見てあれ。前々からなぁんでタロちゃんはレイだけ名字呼び何だろって思ってたのよお~」
同世代の男子という共通点で楽しそうに会話するタローとシンジ、その後ろでうらめしそうな顔をして居るレイを見たミサトは気付いた。レイがタローに持っているクソデカ感情に。
(アスカと同じ目してるわ、ほんと罪な男~)
しかしミサトは面白そうに笑っていた。
リツコはというと、ミサトに言われたは良いもののアスカがタローに向ける目を見たことがなく、恋愛経験らしい経験が少ない彼女にはただレイが拗ねているなということしかわかっていなかった。
(なんか綾波がめっちゃオレのこと見てない? え、オコ? シンジくん盗られたって思われてる?)
オレに男の気は無いから許してくれ、と思いながらシンジと会話を続けるタローを、綾波はまだ見ていた。
そしてそんなチルドレン達を見るのはミサトとリツコだけではない。物陰に隠れるヒゲを生やしてメガネをかけた男、碇 ゲンドウもだ。
「シンジ、大きくなったな。シンジ、よく来たな。シンジ、久しぶりだな」
ボソボソと息子との再会で言おうと思っていたセリフを練習する総司令。その
ゲンドウにとってシンジは、自分が愛した妻であるユイがこの世界に居たことの証明そのもの。
そういう意味ではレイも同じであり特別だが、あくまで彼女は副産物でありブラフ。ユイの目的を聞いたゲンドウにとってシンジは彼女の愛を一身に受けた嫉妬の対象などではなく、かけがえのない存在であった。
「それって、プラグスーツって言うんだよね? 着るの大変じゃないの?」
「全然楽だよ、ここにフィッティングボタンってのがあって伸びたり縮んだりするんだ」
「凄い......」
エヴァンゲリオンの説明とその目的はミサトとリツコから聞いていたシンジだったが、タローが身につけるプラグスーツの機能に驚き目を輝かせる。
久しぶりに見た息子の笑顔。それを見たゲンドウは目が熱くなるのを感じていたが、尻すぼみしていてはそれを近くで見ることが出来ないと、意を決して歩き始めた。
三人に近づくゲンドウだが、背を向けているタローとレイは気付かず、シンジもタローとの会話に夢中になっており同様。しかしミサトとリツコは彼らの後ろから歩いてきているゲンドウに気付いており、始まるわねとワクワクしながら見ていた。
「久しぶりだな」
「いや下手くそかぁ!」
ゲンドウの声の掛け方に、ミサトは隣にいるリツコにだけ聞こえるくらい小さく叫ぶ。
もっと他にもあるでしょ、久しぶりだなって何その上から目線! と小声で言うミサトにリツコは同意して小さく頷いていた。
その気持ちはタローも同じく、このマダオが人類補完計画をやろうとした理由がよく分かるわと呆れ笑い。
「父さん......」
とはいえ、シンジからしてみれば実の父親と3年ぶりの再会である。電話越しではなく、同じ空間にいることに不思議な感覚になりながらもしっかりとその目はゲンドウを捉えていた。
「大きくなったな、シンジ」
「そ、そりゃなるよ。その......」
親子揃って言いたいことが上手く出てこない。その様子を見ていたタローはしびれを切らす。
(男ならとっとと言え!)
スパァン! そんな乾いた鋭い音が響いたかと思うと、ゲンドウが腰を90度折りシンジに頭を下げていた。あまりの速さに気づくものは居なかったが、タローがゲンドウの後頭部を引っ叩いたのだ。
「と、父さん!?」
「すまなかった」
「え?」
突然姿勢が変わったゲンドウに困惑するシンジだが、ゲンドウでさえ自身の後頭部を叩かれたことに気が付かずコレを好機と捉え謝罪の言葉を口にする。
「私は親として失格だ。仕事にかまけてお前との時間を取れなかった」
「......」
「シンジ、お前はこのエヴァ初号機のパイロットとして選ばれた。だが乗れとは言わない」
(なんだ、やれば出来るじゃねえかマダオ。お前は今日から、やれば・できる・マダオ、略してヤルオだ)
タローは頭を下げるゲンドウを見て、綾波の手を引いて二人から離れる。親子水入らず、邪魔をしないように。
「白露くん?」
「綾波、今は二人にしてあげよう」
「......ええ」
その意味をレイも理解し、ミサトとリツコの元へ二人で歩く。
橋の中心でゲンドウと一緒に残されたシンジは、父親であるゲンドウからの謝罪にまだ戸惑っていた。そして、リツコから説明で聞いた紫色の巨大ロボ、エヴァ初号機とゲンドウを交互に見る。
「僕が、コレに乗る......」
「強制ではない。お前が嫌なら乗らなくても良い......だが」
ゲンドウは顔を上げ、状況が飲み込めず揺れるシンジの目をしっかりと見る。
「使徒撃滅のためには、シンジ。お前が必要だ」
「必要......」
「ああ。今更なのはわかっているが、シンジが『乗るよ』......」
「僕、乗るよ。このロボットに。父さんが必要としてくれているなら」
「シンジ......」
(父さんが頼ってくれたんだ。僕はそれに応えないといけない)
覚悟を決め、ゲンドウの言葉を遮ったシンジ。ゲンドウは自分が知らないうちにすっかり成長したシンジを見守ってやれなかった後悔と、自分が居なくても立派に育った誇らしさを目を瞑って心のなかでユイに伝える。
目を開けたゲンドウは、シンジに感謝の気持ちを伝える。
「ありがとう。シンジ、お前に言わないといけないことがある」
「うん......なにかな?」
ゲンドウからの感謝を照れくさそうに受け取ったシンジは、次に一体どんな言葉を貰えるんだと期待した目でゲンドウを見つめる。
その目を知ってか知らずか、ゲンドウはメガネをクイッと上げたあとに口を開いた。
「エヴァは厳密にはロボットではない、そして今日出撃するのは白露だ」
「良い感じの雰囲気全部崩れちゃったよぉ!?」
空気を読まないゲンドウに絶叫するタロー。
やっぱり駄目だ、あいつはどこまで行ってもマダオだ。評価を改めるのが早すぎた。と頭を抱える彼に綾波が声を掛けた。
「泣いているの?」
「違うよ、絶望してるんだよ。オレのバカさに」
「白露くんはバカではないわ」
「......今は、泣いてるよ。綾波の優しさに」
「アスカが見たら発狂しないかしら......」
タローを慰めるレイと、その優しさに涙するタロー。それを見たミサトはアスカがこの場に居たらどうなっただろうか、という想像をして背筋が凍った。
「......なんか置いてけぼりじゃないかしら、私」
再会を喜ぶ碇親子、コントをするチルドレン、それを見て別のチルドレンを思い浮かべるミサト。そのどれも分かち合え無いリツコは小さくつぶやいた。
その時、格納庫が激しく揺れた。
「わ!?」
ふらついたシンジをしっかり受け止めたゲンドウは天井を睨み、落下物の有無を確認した。
「ヤツめ、ここに感づいたか」
ネルフの上。第三新東京市では、使徒サキエルが練り歩いていた。
目的は一つ、タロー達が居るこの場所の更に地下深くへ幽閉されている
「私よ......なに、折角良いところだったのに待ってくれないってわけね。住民の避難は完了してる? ......わかったわ」
ミサトはスマホの着信に出てそう応える。相手はマコト、使徒が第三新東京市に侵攻してきたとの連絡だった。
都市及び住民への被害を最小限に抑える。その為には使徒が敵だと認識し攻撃を加えるであろうエヴァを出撃するにも避難を完了させてからと決めているミサトは、マコトから住民避難完了の報告を受けてゲンドウに近づく。
「碇司令、これ以上は時間が」
「......出撃だ。白露」
「はい! じゃあ、綾波。また後で。シンジくんも」
(ようやく出撃か。オラわくわくすっぞ)
手をすり合わせて舌なめずりをしたタローは、レイとシンジにひと声かけてから初号機の格納庫を離れる。それを見届けたミサトとレイ達は発令所へと向かっていく。
タローが向かった先は壱型の格納庫。既に出撃準備の指示をゲンドウが出していたため、整備班が壱型の最終調整に入っていた。その整備班に挨拶とお礼をしながらエントリープラグへ向かっていく途中、一人の整備員に呼び止められる。
「よう、白露くん。頑張れよ」
すすに汚れた頬をニッと上げて笑う整備員に、タローは笑い返し頑張りますと応えた。
やがて待機中のエントリープラグに乗り込んだタローは、目を閉じて集中する。先ほど声を掛けてくれた整備員、ミサト、リツコ、レイ、シゲル、マコト、マヤ、シンジ、ゲンドウ。次々にネルフに居る人物の顔を思い浮かべていた。
「思ったよりもオレ、色んなもの背負ってるな」
全部を守ろうとは思わない、そう思っていたのに気がついたら色々と増えていたことに笑ってしまうタロー。
もし自分が負ければ、次はレイが。レイでも駄目なら、最後の砦のシンジが。それでも駄目なら世界滅亡、ゲームオーバー。そんな考えがタローの頭に浮かんでいく。
(せめてアスカに気持ちを伝えてからだ)
その悪いイメージをかき消すように、笑顔のアスカが頭に浮かんだ。ちょうど一年前にドイツを発つ時にしたキスを思い出し、タローは唇を触れて顔を赤らめる。
「タローくん、聞こえる?」
アスカと過ごした日々を思い出し、これから来るであろうアスカとの再会を思い描いていたタローの耳にリツコの声が入る。
「はい、聞こえます」
「これから壱型を起動します、準備は良いかしら?」
「もちろん」
そう応えると同時に、タローはエントリープラグが動くのを感じる。固定されていたプラグは移動を開始し、壱型の脊髄部分へと近づいていく。
「A10接続正常、ハーモニクス異常なし」
マヤが言うのと同時に、エントリープラグ内に満たされたLCLが電荷され壱型が見る光景が映像化されてエントリープラグに表示される。
この間、いつも酔いそうになるタローは目を瞑っていた。
「エヴァンゲリオン:プライマル、起動。シンクロ率は70パーセント」
70パーセントは、タローが初めて壱型を起動した時と同じシンクロ率。不思議なことに、あれから何度も壱型を起動して実験しているが、起動時のシンクロ率は常に70パーセントなのだ。
本来であれば変動するにも関わらず同じ数字が何度も続く。偶然にしてはおかしいと当初リツコは違和感を覚えていたが、それも起動時の70パーセントという数字が出てきたのが両手の指で数えられなくなったくらいから気にしなくなった。
(間もなく実戦、もしアスカの耳に入った時に恥ずかしくない戦い方をしよう)
エントリープラグの中で気持ちを落ち着かせながら、タローはそんなことを考える。
使徒の形状、能力は大まか頭に入った。後はどう制圧して最短でコアを破壊するか。
幸いにも彼が第3使徒サキエルを迎撃する場所は使徒迎撃のための要塞都市である第三新東京市、つまり
タローは頭の中で様々な状況下をシミュレーションする。使徒の目前に展開し、得意な接近戦で一気に方を付けるか。離れた兵装ビルに展開し、ライフルで射撃して様子見をするか。
前者はイレギュラーを想定した場合の被害が甚大なため却下され、後者もすっかり日が落ちた今の時間では射撃用装備のない壱型でライフルをぶっ放そうものなら、おそらく射撃によって発生する爆煙で目標を見失うだろうと却下された。
つまり、有効な対策はたてられない。しかもそれは今後も来る使徒を迎撃する場合も同様。タローは諦め、大胆かつ慎重に動くことにした。
「ミサトさん、聞こえます?」
「ええ、聞こえてるわよ。どうかした?」
「エヴァを展開する場所ですが、使徒の背後でお願いします。前面からの強行突破は難しいと思うので」
「......わかったわ。壱型は三番射出口から、目標の背後に出して!」
背後から展開してほしいというタローの要望を一考したミサトは、それが自身の建てたプランと同様であったことに『通じ合ってるわね』とニヤけたあとにオペレーターへ指示をする。
その指示を受けたオペレーターによって、タローが乗る壱型とエヴァ専用拘束兼移動式射出台は三番射出口へと移動する。余談だが、ネルフ本部ではエヴァの射出口含め番号が割り振られているものには『4』という数字がない。理由は単純、『4』=『死』を連想させるからだ。
射出口へ移動する途中、壱型を見かけた整備員やオペレーター達は壱型とタローに手を振っていた。中には聞こえないのだが、大声で何かを伝えようとしている者も。タローが一体何を言っているんだろうと職員の顔をズームしてみるが、全員叫んでいる言葉は同じ。『頑張れ!』という応援の言葉。
それを理解した瞬間、タローは自身の体が初めて壱型に乗った時と同じ様に震えていることに気がついた。だが、今の彼にはその震えがどこから来ているものなのかが分かっている。
「沢山の人の期待と願い。命を背負って戦う......それでもワクワクが勝ってるなんて、単細胞で良かったな。オレ」
エヴァを全力で動かせる。エヴァの力を試せる。
その機会がやってきたことに、タローはワクワクしていたのだ。もちろん緊張や不安もある。だがそれ以上に彼にはやり遂げて見せるという気持ちが勝っていた。
壱型が三番射出口に到着した。『使徒とのタイマン、でもオレには沢山のサポートが付いている』。そう考えると一人しか居ないエントリープラグに、沢山の人が乗っているように感じた。
ニヤリと笑ってタローは呟く。
「お願いしますよ。今日も、明日も、明後日も」
エヴァ壱型。その中にいる誰かに声を掛ける。壱型は何も言わないが、その目が光っていた。
「タローくん、準備は良いかしら」
仕事モードのミサトから通信が入る。出撃前に最後の確認だ。
準備は出来ているか、その質問はタローにするまでもない。使徒襲来の知らせが来た時、彼は遺書を書いていた。内容の半分はアスカへの気持ち、残りの半分がイェーナやミサト、リツコにレイ、そしてネルフドイツ支部と本部の職員達への感謝という、ほぼ
しかし、それがタローの覚悟であった。使徒が襲来した時から既に、死んでも自分の気持ちが愛しい人達に伝わるように。自分という存在があったことを覚えていてもらうための準備はしていた。後悔はしないようにと。
「万全です」
発令所でその返事を聞いたミサトは、目を瞑ってタローとの思い出を振り返る。もしここで永遠のお別れとなっても、自分の想いがタローに届くように。タローを忘れないように。
自分は
ミサトは初めてタローと出会った時から悩んでいたその答えを、ついに見つけた。
「......タロちゃん、無理はしないでね。帰ったらうんと褒めて上げるわ」
アスカがタローの
そんな彼女の覚悟も伝わったのか、タローはエントリープラグ内で微笑む。
タロちゃん、それはミサトがオフの時にタローを呼ぶ呼び方。この状況で彼女は、いつも通りに自分を送り出そうとしてくれているのだ。
『それならオレも、いつも通りに』。そんな気持ちでタローはミサトの言葉に応える。
「楽しみにしてますよ、ミサトさん。じゃあ、いってきます」
「ふっ、ええ。嫌になるくらい褒めるわ。いってらっしゃいタロちゃん......エヴァンゲリオン:プライマル。発進!!」
爆発音と共に、タローを乗せた
ゲンドウがマダオ過ぎるかも知れませんが、自分はこういうのが見たかったんです。
この世界がアニメになったらオープニング曲は残酷な天使のテーゼじゃないでしょうね、きっと。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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サクサク進む(3000~4000字程度)
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少し書き込む(5000~6000字)
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ガッツリ書き込む(7000字以上)
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サクサク書き込め