運動着に着替えたオレ達は、更衣室を出て次のテスト会場。グラウンドを目指す。その道中、ネルフ……いや、前身組織であるゲヒルンドイツ支部の職員達が声をかけてくる。仲の良い大人は多いにこしたことはないので、アスカとともにそれにしっかり五歳児らしく答える。
「体力テストか、頑張れよ」
「ありがとう!」
「二人並んで可愛いわね! 頑張って!」
「うん、頑張るよ!」
「ラングレーちゃんに良いところ見せるんだぞ!」
「もちろん!」
「あとでおやつ、差し入れするからね!」
「ありがとう、楽しみにしてる!」
正直なところ、原作アスカの性格を形作るにあたって、このドイツ支部の職員達の対応も関係していると思っていた。しかし、ここの職員はみんなオレとアスカを、まるで息子と娘のように扱ってくれる。某ターミネーターに出てきそうな強面の試験官役だった人でさえ、テストを受け取ったときに頷いて軽く微笑んでくれた。
まあ自惚れかもしれないが、オレが居なかったらアスカはこの職員達に返事することはなく、それが孤独感を生む一つの原因になるだろう。それがまだ出会っていないライバルが一人、
そのためには、施設内の大人に大人らしく動かせる、動くように仕向ける必要がある。最も効果的なのは、笑顔で感謝を。ダンケと大きく言うことだ。幼女アスカちゃんが可愛いのはもちろんのこと、幼年期のオレも中々に可愛い顔立ちをしているからな。前世の両親に感謝。
「お、来た」
グラウンドまでやってくると、ジャージ姿でロン毛が特徴の一人の老人がやってくる。彼の名前はベッケンバウアー。そう、別件バウアーのベッケンバウアーだろう。若い頃はサッカー選手だったとか言ってたし。
「こんにちは!」
「こんにちは」
「はいこんにちは。今日は体力テスト、だけどさっきまで頭を使って疲れたろうし......サボろうか」
キリッとした目を緩ませ、ベッケンバウアーさんは微笑む。彼はオレ達二人の運動指導者だが、飴が多い。多分、孫みたいな感覚なんだろう。セカンドインパクトで息子を失った、と聞くし。
さて、驚いたことにこの世界では前世ことオレがリーマンやってた世界Aと似ている点がある。例えば、著名人。今目の前で笑顔で話すベッケンバウアーさんはこの世界でもドイツサッカー界のレジェンドだし、某ちょび髭の独裁者といったドイツにとって黒い歴史も共通している。驚いたことに、ゲームやテレビ番組も記憶が正しければ世界Aのものと一緒。
そこでオレは、仲良くなった技術系職員の人にお願いしアスカとの自室に日本のテレビが入るようにしてもらった。最近はクロックアップする仮面ライダーにはまってます。ちなみにアスカも気に入ってるのか、時々一緒に見る。たしかに角あって赤色で二号機ぽいもんね、あのライダー。
「糖分補給は大事だ。飴をあげよう」
「ありがとうベッケンバウアーさん!」
「ありがとう」
二人で飴を受け取る。アスカはイチゴ味、オレはグレープ。それぞれ封を開けると、お互いの口にお互いが持っている飴を入れる。
「相変わらず仲良しだなあ二人は。開ける前に交換すれば良いだろうに」
その様子を見たベッケンバウアーさんは、口では呆れたような物言いだが顔にシワを作り隠しきれない笑顔を浮かべていた。
アスカは当然といった様子でグレープ味の飴をコロコロと口で転がしている。カコッ、という音がして左頬がポコリと膨らませ、ベッケンバウアーさんに話しかける。可愛い。
「体力テストって、持久走?」
「ああ、三十分でどれだけ走れるか。歩いても良いから、ただ距離を伸ばすことを考えよう」
アスカの問に答えながら、腕輪のようなものを渡してくるベッケンバウアーさん。GPSと速度計、心拍数等が計れるものだ。少なくとも世界Aで一般人のオレが過ごした2006年にはこんなものはない。世界Aに存在しない組織。ネルフが開発したということも考えられるが、そもそも世界Aよりここのほうが科学技術が進歩しているのだろう。
そんなことを飴を舐めながら考えていると、思い出したような顔でベッケンバウアーさんがオレを見る。
「そう言えばドレッドノートくん。前よりもトレーニング強度を上げたようだね」
「あ、はい。まだ余裕があったので」
「やめろ、とは言わないが......ドレッドノートくんもラングレーちゃんも、まだ五歳だ。その年から負荷をかけたトレーニングをすると、まだ成熟しきっていない体の成長に影響が出る。ウェイトトレーニングだけはしないでくれよ」
優しく微笑みながら、諭すような言い方をするベッケンバウアーさん。純度百パーセントの心配から発言に、心温まる。アスカも同じなのか、笑顔でうんと頷く。クッソ可愛い。
ちなみに世界Aのオレ氏はというと、スパルタ。いや鎌倉武士親父の元バチボコトレーニングしていた模様。多分この世界のベッケンバウアーさんが見たら発狂するだろう。
しかし不思議なことに、肉体が以前の世界よりも劣っているとは感じない。それどころか、世界Aよりも身軽に感じる。おそらく世界Aでの経験がベースにあることで脳が発達しており、この体に動くという司令を正確に行うことでポテンシャルを十分に活かせているのだろう。そう考えてはいる。
「さて、飴も舐め終わったことだし。準備運動だ」
ベッケンバウアーさんに促され、三人で準備体操を始める。おそらくスポーツ科学の分野でも世界Aより発展しているのだろう、学校の体育でやるものとは異なる見たことのない動きばかりで最初は戸惑った。しかし、筋肉があたたまることをしっかりと感じるし、準備体操不要論者のオレもまあやるのは悪くないよね、と思ってきている。
「よーし、体が温まっただろう。合図をしたら、走り出すんだぞ」
スタート地点についたオレとアスカにそう告げ、ベッケンバウアーさんは離れていく。コレがまた絶妙なタイミングで合図してくれるんだからありがたい。
「どれだけ走れるかな」
隣のアスカが、今にも消えそうな声で。日本語でつぶやく。まだ三ヶ月の仲だが、アスカが自室外で弱音を吐くときは日本語で、オレのそばで。という方程式が判明した。
つまるところ、信頼されて頼りにされているのだ。そしてオレは、この三ヶ月でアスカが喜ぶ言葉を学んだ。
「大丈夫だよ、アスカは凄いから沢山走れるよ」
「ふふ、そうかな」
「もちろん。ま、オレには負けるかもな!」
今のアスカに必要なのは、同じ目線で物事を考え、支え、自分を受け入れ求めてくれる人。親ではない、親であっては彼女のためにならない。
それと同時に、目標となれる人物でなければならない。あまりに遠くてはいけない、あまりに近くてもいけない。師匠であってはいけない、ライバルであってはいけない。アスカが自分にもできると思える範囲内。
そんな絶妙な距離感の人間なんて、いるのかと思える程だろう。だが、オレはそうなれる。何故なら、惣流・アスカ・ラングレーが居るからガン◯ム派だったオレはエヴァンゲリオンを見た。彼女のことを見すぎたあまりに今後起こることの予備知識が少ないのは悔やまれるが、新世紀エヴァンゲリオンの惣流・アスカ・ラングレーにはさせない。させるわけには行かない。
「どうしたの? なんかついてる?」
日本語ではなく、ドイツ語で。気を持ち直したアスカが首をかしげて聞いてくる。可愛さのあまり発狂しそうだが、ぐっと堪える。
「その髪型も可愛いなって」
「ッ!」
運動のためにポニーテールにしたアスカを褒める。耳を赤くしてそっぽを向いて、小さな声でありがとうと。日本語をつぶやく。何だこの天使ホンマ天使。守らせろ!!
「......(微笑ましすぎて合図出来ない皇帝さん61歳)」
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