何故彼女が私の最推しキャラであるかを理解した。
第三新東京市立第壱中学校。その中庭で二人の男子生徒が会話をしていた。
「で、どうしたんやティーチャー?」
黒いジャージ姿で関西弁のような言葉を喋る男子生徒、トウジが目の前に居るタローに質問する。今朝電話で話があると言われ、中庭まで来たは良いものの、核心を突く話をしない彼にしびれを切らして。
『何を言われようとも、何をされようとも受け入れよう』。そう心に決めたタローは少しだけ深く呼吸したあと、トウジの目を見た。
「まず最初に、サクラちゃんの意識が戻って良かったよ。それでなんだが......本当に、申し訳ない!」
「うえ!? なんや!?」
突然頭を下げて謝罪したタローに、トウジは戸惑う。一体何故目の前に居る親友は頭を下げているのか。それがわからずに。
タローもいきなり謝罪されては困惑するだろうと、続けざまに言葉を絞り出す。
「サクラちゃんが言ってた黒で赤く光るロボってやつ......あれに乗って操縦してたのオレなんだ」
「ちょ、ちょっと待てや、いきなり何言うてんティーチャー! ようわからんけど、クラスの奴らは転校生......シンジが関係してるんやないかって言っとったで?」
サクラ以外にも、タローが乗る壱型と第3使徒 サキエルとの戦闘を目撃した人達は数人居る。政府としては一連の戦いを『直下型の地震によって地下都市の設備が破壊されたことによる爆発事故』として処理していたが、噂というのは簡単に広まるもの。
赤く光る巨大ロボが、同じく巨大な宇宙人との戦闘をしていた。という話が人づてに伝わり、この第壱中学校ではちょうどその後のタイミングでシンジが転入してきたため、シンジが関与しているのではと噂がたった。
それを学校支給のノートパソコンでクラスの一人がシンジに質問したものの、シンジが出した応えは『NO』の二文字。それをもって教室が落胆の色に染まった後に、タローはひっそりとトウジを呼び出したのだ。
もちろん、エヴァンゲリオンという決戦兵器の存在は公にはしていない。だが第三新東京市自体がそもそもネルフ職員やその家族が多く住む都市ということもあり、世界を守るための隠された何かがある、という話はそれなりの市民が知っている。
それがあるから日本の中でこの街が一番安全、という理由で市民が生活をしている側面もある。諜報部が仕事をしていないわけではない。
「シンジくん......は、関係ないよ」
『今回の騒動には、だけど』と心の中で付け足すタロー。
トウジはタローがそんな冗談を言う人では無いと知っているからこそ、反応に困っていた。ロボに乗ってたのがタローだとしたら、自分は......と、どうすれば良いのか迷う。
「......ティーチャー、顔上げや」
ゆっくりと顔を上げるタロー。殴られても構わない、そう覚悟していたが、トウジはタローが顔を上げるのと同時に頭を下げた。
「ホンッマにありがとう! ティーチャー!」
「え」
なんで妹を怪我させたんだ、という言葉を言われるだろうなと想像していたタローだったが、それとは正反対。感謝の言葉を言われて目が点になる。
トウジも巨大ロボ騒動というのを聞いてはいた。妹のサクラがそれに巻き込まれたであろうことも。それにタローが乗っていた、ということを本人の口から言われ一瞬でもタローを得体の知れない存在と思ってしまったことは事実。
だがサクラの言葉を思い出し、トウジは『本当に巨大な宇宙人と戦ってたなら自分の親友が適当にやるわけが無い』、と気付いた。
「サクラが言うてたんや。あのロボがタローさんっぽかったて」
「お、オレっぽかった......?」
「せや、動きが似てる言うとってな。んなわけ無いやろって言ったんやけど、あいつティーチャーが私を守ってくれたってホンマに感謝しとったんや。やからワシからも、サクラを守ってくれてありがとう」
「......だけど、サクラちゃんが怪我したんだぞ。オレは許されないことをした」
まだ殴られたり暴言を言われたほうが楽になると思っていたタローは、トウジの予想外の反応につい捻くれたことを言ってしまう。その直後に『友達の善意を無駄にしてるんじゃねえよ』と自身に毒づく。
トウジは顔をあげ、『あんなあ』と言いながらタローの肩に手を置く。
「ティーチャーが戦ってくれへんかったら、サクラはそもそも怪我じゃすまんかったかもしれないんやで。それはワシらも同じや。それにサクラ、目が覚めて一番に発した言葉がティーチャーの名前やったからな」
「オレの名前?」
「おう。ティーチャーは一人で沢山の人を守るために戦ってるんやってな。せやからお兄ちゃんはタローさん守ったってって......ったく、言われんでもティーチャーがロボ操縦してるならそうするつもりやけどな」
自分で言ってて恥ずかしくなり、トウジはそっぽを向く。
タローはトウジの耳が真っ赤になっているのを見て初めて会ったときのようだなと笑みをこぼし、ガツッと乱暴にトウジと肩を組む。
「おわっ、なんや」
「ありがとう、トウジ。でもオレは一人で戦ってる訳じゃない。エヴァ......ああ、ロボの名前なんだけどね。それをメンテナンスしてくれる人達や、戦いをサポートしてくれる人達がいる。それに、オレを信じてこの街に残った人達だって。本当はぶん殴られた方が気が楽になったけど、ありがとう」
「ワシは親友を殴る趣味あらへんで。まあ、どうしてもティーチャーがスッキリしない言うんやったらサクラに顔見せてやってくれや。あいつティーチャーの話するとなんか怖いねん」
「おいおい、あの可愛いサクラちゃんに怖いってなんでだよ」
「雰囲気変わるんやって! ようわからんけど......」
思い出すだけでも怖いわあと、トウジは体を震わす。
タローの前では可愛い女の子を演じているサクラだが、彼女もレイと同じく彼にクソデカ感情を植え付けられた被害者の一人。タローと学校で顔を合わせられる兄にまで嫉妬してしまうようになっているのを、二人は知らない。
「ま、ともかくワシはティーチャーがロボのパイロットでも気にせんで。寧ろそっちのほうが良かったわ」
「良かったって、どうしてさ。ただの中学生だぞ? オレ」
「ただのなんて言えるヤツは少なくともうちのクラスにはおらんやろ。まあそれは置いといて......ティーチャーなら、安心して任せられる思うんや。手を抜くこと嫌いやしな!」
何気ないトウジのその言葉に『オレに命を預けてくれる人達がネルフの外にも居るんだ』と感銘を覚えるタロー。
損害損失ゼロなど、夢のまた夢。だとしても自分を信じてくれている人達が居る限り、どんな結果になってもそれを受け入れて『世界』を守る。必要犠牲だと切り捨てるのではなく、その思いをしっかり背負うことが自分の責任。
ミサトは私達全員で背負うと言ったが、タローは自分一人で背負うことを辞めない。それが彼の覚悟であり償いになると信じているから。
結局は周りがどれだけ声を掛けようとも、白露 タローという人物は一人で抱え込むことを好むのだ。それで一度は自分が壊れかけてしまったが、幸いなことに彼の周りには彼自身に自分とはどんな人間なのかを気付かせてくれる人が多かった。
自分に恥じない生き方をする、ということをモットーに生きているタローはこの日、親友の言葉によって覚悟ガンギマリの無敵の人となっていた。
「もちろんだよ、トウジ達を守ることがオレの使命。だけど、全てを守ることは出来ない。そうなったら遠慮なくオレに不満をぶつけてくれて構わない、それもオレの役目だから」
「人の話聞いとったか? まええわもう、とにかく少なくともワシとサクラはティーチャーに感謝しとるんや。あいつまだ足は治っとらんけど、別にそれでティーチャーをどうこうとは思わん」
「......わかった。サクラちゃんのお見舞い、早速今日行っても?」
「もちろんや。けど大丈夫なんか? なんか訓練的なやつあるんやないん?」
「問題ないよ、今日は------」
そこに鳴り響く警報。
【只今、東海地方を中心とした関東中部の全域に特別非常事態宣言が発令されました。速やかに指定のシェルターへ避難してください】
この警報と機械的な声はネルフの特定の職員にとっては非常招集を告げるものでもある。タローはポケットにあるスマホを取り出す。
警報が鳴る数分前に『非常招集。至急ネルフ本部へ来られたし』というメッセージが見たことのない番号から入っているのを確認した。
「......行くんやろ?」
あえてスマホを見ないように目を背けたトウジはそう尋ねる。
エヴァパイロットであるタローに対しての非常招集ということはつまり、使徒襲来。
レイとシンジにも同様のメッセージが来ていたため、二人は物陰からタローとトウジの様子を観察していた。
「ネルフへの緊急経路は?」
何故タローの様子をあなたも見ているの、と言いたげな表情でレイがシンジに問う。
「覚えてる」
「先、行ってて」
「......うん、わかった」
シンジは頷き、一足先にネルフへと向かう。
一見するとレイが追い払った様に見えるが、実際その通り。シンジは内心では『目が怖かったな......』と怯えながらなんとか返事を絞り出していた。
それもそのはず。レイは『ぞくぞく』の為、非常招集がかかっているのに友達とほんの少しだけおしゃべりを続けていたタローをどうやって叱ろうか。そこからどうやって持ち上げて喜ばせようかと考えていたのだから。
そんな狂気じみた感情を向けられているとは知らず、タローはトウジに詫びを入れる。
「ごめん、行かなきゃ。その......サクラちゃんの病院は」
「街からは離れとる。思い切り戦ってこい」
「......うん、わかった。トウジもなるべく早く避難して」
「おうよ!」
『またな!』と言い残し、トウジは地下シェルターへと向かっていく。その後姿をタローがしっかりと見届けた後に、レイが出てきた。
「白露くん」
「ふひゃあっ!?」
後ろからいきなり声をかけられ、飛び跳ねて驚くタロー。レイはそんなに驚かなくてもという不満を僅かに顔に出しながら言った。
「非常招集、かかってるのだけれど」
「ああ。すぐに行こう」
「......おしゃべりしている暇はないわ」
「うぐ、ごめんって......」
シュンとするタローをしっかりと目に焼き付けたレイは、踵を返して走り出す。タローは焦ってその後を追っていった。
「零号機、まだ最終調整が終わってないの」
会話が出来る程度のスピードで走りながら、レイが突然そんなことを呟く。
タローはその話をリツコからやんわりと聞いていたため、特に驚くことなく『そうだったんだ』と返す。まんまとレイの罠にかかっていることに気が付かずに。
「今日も私は控えだから。白露くんの帰り、待ってるわ」
「綾波......うん、待ってて」
「ええ」
『レイちゃんからの応援来ましたー! 大勝利!!』等と大興奮しているタローを、レイは横目に観察する。その表情に以前のような露骨な喜びが見られなかったため。
それも無理はない、彼のポーカーフェイスはミサトやイェーナはおろかアスカですら見破ることが出来ないのだから。
そんな完璧に近いタローのポーカーフェイス。だが、普段から自身が表情の変化に乏しいため他人の表情の変化に敏感なレイは気付いていた。タローの頬に僅かに現れたシワに。
「......よし」
彼女は自分の作戦が上手くいったことに小さなお祝いをし、タローと共にネルフへ走った。
一方その頃のネルフ本部発令所では、ミサトとリツコが第三新東京市に近づく未確認飛行物体をスクリーン越しに睨んでいた。
「分析パターンは青。間違いなく使徒よ」
マヤの操作するモニターを見ながら、リツコがミサトに未確認飛行物体が使徒であることを告げる。
「第4の使徒ってわけね」
第4使徒 シャムシエル。深い赤色をしたイカのような見た目のそれは、海上を飛行していた。
司令であるゲンドウ不在の間に何の前触れもなく訪れた使徒襲来に、ミサトは目をつむりながら腕を組み、考えをまとめる。未だ日本政府よりエヴァの出動要請は来ていない、つまるところ通常兵器での撃破が可能かどうかを試せと言われているも同然。
当然それは総司令であるゲンドウが居ない今、臨時でその立場になっている副司令の冬月も理解している。
「総員、第一種戦闘配置」
冬月の命令を聞き、オペレーター達が第三新東京市を戦闘態勢へと移行する。
ジオフロント内部にモノレールや集光ビルといったインフラ設備を始めとした収容ブロック内にある建造物を収容し、代わりにエヴァの戦闘をサポートする兵装ビルや対空射撃用の砲台、ミサイル、機銃が展開される。
これが使徒迎撃専用要塞都市である第三新東京市、その真の姿。
「政府及び関係各省への通達終了」
「非戦闘員と民間人の避難は?」
シゲルがそう言ったところで、ミサトはやや強めの口調で聞き返す。
それを確認出来ないことにはエヴァを思い切り稼働させられない、というのはミサトがオペレーター達に普段から口酸っぱく言っていること。第3使徒 サキエルを撃破したパイロットが特に気にしている、というのは周知の事実となっていた。
「退避完了と報告が入っています」
「......そう、分かったわ」
信用ならん、とミサトは内心で思いつつも自ら出向いて一人ひとりを点呼するわけには行かないので大丈夫だと言い聞かせる。
それを司令席から聞いていた冬月は、エヴァ出動要請が入る前の茶番劇をすることにした。
「対空迎撃システムの稼働率は?」
「現在55パーセントです」
「では目標に対しての射撃開始。時間を稼ぐぞ」
司令席のモニターに映る第三新東京市のマップとそこを動く三つの赤い点。タロー達エヴァパイロットの位置情報を確認した冬月が指示を出すと同時に、大量の弾丸やミサイルが連続発射され弾幕を作り出してシャムシエルを取り囲む。
その様子を冬月と同じようにエヴァパイロットの位置を確認しながら見ていたリツコが、鼻で笑う。
「税金の無駄遣いとはまさにこのことね」
機銃はもちろん、ミサイルをもってしてもATフィールドがある限り使徒にダメージを与えることは出来ない。N2兵器であれば街を犠牲に体皮を溶かすことくらいは出来るだろうが、被害に対しての成果が小さすぎる。
それは核兵器でも同様。核分裂によってN2兵器以上の破壊力を生み出すことが可能かもしれないが、街を犠牲にするどころか県を百年単位で不毛の大地にする代わりに与えられるダメージなどたかが知れているだろう。過去に戻って先の大戦で日本の誇りと威信をかけて建造された世界最大の戦艦、その主砲の一斉射があったとしてもATフィールドを破れるかは不明瞭。しかしそれでも弾丸を撃ち込む理由をミサトは何となくだが理解している。
「この世には弾を消費しないと困る人達も居るのよ。それに、弾も女性と同じで適切に管理しないと期限が迫ってくるからね」
「あらそう。少なくともあなたの期限は伸びてると思うわよ?」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。パイロット達は今どこに?」
「壱型、初号機、零号機パイロット、三名ともじきに到着します。既に壱型と初号機は出撃準備が進んでいるため、目標が都市部に接近するころには出撃可能かと」
パイロット達の位置をモニタリングしつつ、エヴァの機体情報をチェックし整備班とやり取りしているマヤ。彼女が言い終わると、間髪入れずに何処かからかかかってきていた電話を切ったマコトが声を張った。
「日本政府より、エヴァンゲリオン出動要請!」
「今回は諦め早かったじゃない。了解」
『国連軍の装備じゃ無理だって学んだのかしら?』とニヤリと笑ったミサトは後ろを振り返り、司令席にいる冬月に声を掛ける。
「冬月副司令。今回の戦闘についてですが」
「前回と同様で問題ない。葛城一尉、君に委ねよう」
「ありがとうございます。目標の行動パターンが不明なため、エヴァ壱型及び初号機を同時出撃。前衛を壱型、後衛を初号機に担当させます」
「賛成だ」
前回のサキエルと異なり、今回の茶番劇にはVTOL等は出動していない。つまりATフィールドに守られた使徒にとっては痛くも痒くもない豆鉄砲のみで、目障りな羽虫も存在していないためシャムシエルは自らの持つ能力の一切を明かさず悠々と進んでいた。
そんな状況下でエヴァ単騎の出撃は危険と判断したミサトは、壱型と初号機の二機を同時に出撃させることに決めた。作戦を一任されているとはいえ一機でも大きく破損した場合は国が傾くほどの予算となるそれを二機出撃、ということで念の為冬月に作戦内容を伝えたが、彼女の心配は杞憂に終わった。
「ではパイロットが到着次第すぐに出撃が出来るように。レイと零号機はまだ待機、で良いのよねリツコ?」
「ええ、零号機の調整にはまだまだ時間がかかるわ」
「壱型、初号機共に肩部ウェポンラックにプログレッシブナイフを2本装備済み、パレットライフルとガトリングガンの用意も出来てます」
「上出来ね。タロちゃんはアンビリカルケーブルの場所も完璧に覚えてるし、パレットライフルで比較的自由に動いてもらうとして......シンジくんはすぐに撤退出来るよう射出口付近にガトリングガンで固定砲台役、そこまで誘導しての挟み撃ちで様子を見ましょう」
前回の反省を活かしたリツコとマヤから装備類を確認したミサトは、作戦を徐々に具体的なものにしていく。もちろんその作戦にケチをつけるもの等誰一人居ない。それが最善であると分かっているから。
「パイロットが到着し出撃準備完了次第作戦開始とします。それまで目標から目を離さないで、なにか一つでも良いから情報を得るのよ」
『了解!』
ミサトの指示に、発令所のオペレーター達全員が大きく返事をする。
初の使徒戦の次にやってきた、初のエヴァ2機同時出撃。その成功率を高めるために発令所総出で情報収集と安全管理に徹するのであった。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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サクサク進む(3000~4000字程度)
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少し書き込む(5000~6000字)
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ガッツリ書き込む(7000字以上)
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サクサク書き込め