「いい? 二人共。改めて今回の作戦を伝えるわ」
第3使徒 サキエルから二週間ちょっとで襲来した第4の使徒 シャムシエル。それを迎撃するために非常招集をかけられたタロー、レイ、シンジ。そのうちタローとシンジは、それぞれエヴァンゲリオン:プライマル 壱型とエヴァンゲリオン 初号機とシンクロし、そのエントリープラグ内でミサトから作戦説明を受けている。
「まず最初に出撃するのはタローくん。目標の能力が未知数だから壱型を物陰に展開するわ」
ミサトの声と同時にタローとシンジ、二人の目の前に第三新東京市のマップと目標予想進路が表示される。そして、その近くのエヴァ射出用エレベーターに壱型展開位置との文字も。
「同時にライフルも携帯させるから、目標をシンジくんの展開位置付近まで誘導。ポイントはここよ」
「了解」
マップには初号機展開位置が表示される。
場所は都市部と山岳部の間、これにはいざという時に使用するN2地雷。それが都市部へ持たらす被害を軽減する狙いと、山に偽装した防衛システムでの援護が可能なため。
シャムシエルの持つ能力が不明な今、遮蔽がありすぎてもなさすぎても良くはない。であれば間を取るべきというのがミサトの考えだった。
それに関してはシャムシエルという使徒がどのようなものかを辛うじて覚えていたタローも同じ意見。
(確かインドのウルミみたいな触手でバシバシとビルを斬ってたはず。ビルごとみじん切りはごめんだ)
ウルミというのは、インドの武術で使われる薄く柔らかな鉄を用いたムチのようにしなる剣。タローはそれを想像しながら『当たったら痛いだろうなー』と寒気を感じていた。
「シンジくんはガトリングガンで目標を迎え撃って。目標をセンターに入れてスイッチ、ただ連射は駄目よ。爆煙で目標をロストするから」
「はい......」
シンジへのミサトの忠告に、タローはこころの中で『ナイス助言!』とサムズアップ。派手にライフルをぶっ放したことで劣勢になったところまでが彼の記憶にはあった。
肝心のシンジはというと、初の実戦に少々ナーバス。実験場でライフルを使う感覚は覚えているものの、現在イメージトレーニングでレバーのトリガーを引く指は震えていた。
「目標が予想地点に到着次第作戦を始めます。再三言うようだけれど、タローくんが誘導。シンジくんで挟み撃ちよ」
その不安をシンジから感じ取れないほど鈍いミサトではない。改めて簡潔に作戦内容を伝え、出撃時にパニックになることを予防しようとした。
「じゃあ二人共、頑張ってね」
「はい!」
「......はい」
タローとシンジ、二人の返事を聞いたミサトは通信を切る。このあとタローと壱型が出撃する際に通信を入れっぱなしにすると、射出シャフトをエレベーターで登る際のノイズで耳がイカれてしまうから。
通信が切れたことにより、タローとシンジの間に会話が無かったため、両者の耳にはブーンという動作ノイズのような静かな音だけが響く。それが我慢出来なくなったのはタローが先だった。
「シンジくん、エヴァにはもう慣れた?」
当たり障りのない質問。しかしシンジからの反応をタローがもらうには時間がかかった。
「......うん。なんで動いてるのか、なんで乗ってるのかまだ良くわかってないけど」
タローは『あれ親父と仲良くなる為に乗ってるんじゃないの!?』と言ってしまいそうになるのをこらえる。親子関係は悪くなさそうに見えたのに、と。
シンジとゲンドウ、確かに二人は親子で同居している。しかしゲンドウが中々家に帰れないこともあり、家の中で顔を合わせる時間よりもネルフで顔を合わせる時間の方が長いというのが現状。
父親からの愛を確かめるためにここへやって来たシンジとしては『前と何にも変わらないじゃないか』というのが本音。だがそれでも最低限の会話と時折ある食事をともにする時間があることで、彼のメンタルは保たれている。
しかし今回はゲンドウ不在の中での初出撃。シンジは出撃前から若干の不安を抱えていた。そして、それをタローになぐさめてもらおうとする。
「タローくんは、よくエヴァに乗って戦えるよね。怖くないの?」
「んまあ怖くないと言ったら嘘になるかな、オレ虫とか嫌いだし。でも大丈夫だよシンジくん、すぐに上手くやろうなんて無理はしなくて良いから。もちろん君が一緒に戦ってくれたら心強いと思ってるけど」
「タローくん......!」
碇 シンジという人間は、本当に自分が言いたいことをダイレクトに伝えることが苦手。他者からの評価や目を気にする彼にとっては、それをすることで悪い印象に残ってしまうのが嫌だから。
だからこそ『ちゃんと戦えるか不安』『エヴァに乗るのが怖い』ということを伝えるのにあたってとても遠回りな言葉遣いになる。言葉ではなく声色、態度で察してくれと。
他の人には理解しがたいその真意に、碇 シンジがどんな人間かを観察したタローは気がつくことが出来る稀有な人間。だからこそ遠回りに『出来なくても仕方ない』『君が必要』ということを伝える。それがシンジのドツボにはまった。
「まーたやってるわよ、あの子......」
作戦開始を伝えようと回線を繋いだミサトは二人の会話を聞き、手のひらで額を覆う。しかし口元は上がっており、それを後ろから見ていたリツコも思わずニヤける。
「タローくんってどうしてあんなに言ってほしいことをバスバス言い当てられるんだろうな。俺がちょっとだけ髪切ったのに気付かれた時は男なのに惚れちまいそうになったぜ」
「髪切ってたのかよ。そういえば俺もメガネをマイナーチェンジした時に気付かれたな」
「いやメガネ変えてたのかよ」
シゲルとマコトは笑いながらそんな会話をする。作戦指揮官であるミサトはこれを気の緩みとして正すべきか迷い、チラリと後ろの冬月を見る。しかし冬月も思い当たる節があるのか笑うのをこらえていたため、その談笑については追求することなくタローに声を掛けた。
「......タローくん、出撃よ」
「あ、はい。わかりました。じゃあシンジくん、ちゃんと引っ張ってくるから後は頼んだよ」
「うん、わかった」
壱型の移動が始まる。整備員達が手を振って見送るのは初戦と変わらず、それを見たタローはひたすらに闘志を燃やして僅かな恐怖心を排除する。
やがて射出シャフトに到着すると、すこしの余韻。ミサトが出撃の指示を待ってタローにリズムを作らせる。
「行くわよタロちゃん?」
「お願いします、ミサトさん」
「無事を祈るわ。エヴァンゲリオン:プライマル、発進!」
固定ロックが外され、炸裂音と共に急激に上昇する壱型。そのエントリープラグ内部で、もう慣れましたと言わんばかりに余裕の表情で目を瞑るタロー。
地上ではビルに偽装されたリフトのランプが光り、エヴァの登場はどこにも居ないはずの民間人に知らせていた。
「おっ、待ってました!」
しかし、リフトのランプが光っていることを知る民間人が二人。カメラを構えたメガネとそばかすが特徴的な少年と、ジャージ姿の少年。ケンスケとトウジだった。
「なあ、ホンマにええんか? ティーチャーが知ったらブチギレるで多分」
エヴァの登場を今か今かとカメラを向けて待つケンスケに、トウジが声をかける。
それでも彼がケンスケと一緒にシェルターを抜け出してここに来たのは理由があった。
「妹さんに見せてやりたいんだろ? 白露が戦ってるところ」
「せやけどなあ」
妹。サクラにタローと彼が操縦するエヴァをしっかりと見せたい。そんな思いからケンスケの『妹さんを助けてもらったなら外に出てあいつの戦いを見守る義務がある』という訳のわからない理論に乗せられてしまったのだ。
サクラにタローの戦う姿を見せたい気持ちと、彼に迷惑はかけられない気持ち。その間にいたトウジが、やはり今からでも強引にケンスケを連れてシェルターに戻ろうかとしたその時。ガシン! と響く音と共にリフトのシャッターが上がり、壱型が登場してしまった。
「出た!」
まさか近くの小山でクラスメートが自身を見ている等と知るはずもなく。タローは格納庫から一緒に上がってきたライフルを手に取り、屈んでビルに隠れてシャムシエルを待っている。
「間もなく目標が接近するわ。作戦通り、良いわねタローくん?」
「はい」
じっとその時を待つタローと壱型。もちろんそれを見ているケンスケは大興奮。
「すごい! あれがネルフの隠し持つ秘密兵器!」
ビデオカメラをズームして、壱型の隅々までを撮影する。V字アンテナ、肩部ウェポンラック、扉のようなデザインの胸部、構えているライフル。
ケンスケが目を輝かせている横で、トウジは壱型の姿とタローを重ねていた。
「あれがティーチャー......」
昼間の明るい時間帯だったため、夜間に見たサクラが『黒色』と言っていた壱型のカラーリングを『黒やないやんか』としっかりツッコミつつ、その目は壱型に釘付け。
次第にトウジは壱型の顔がタローに見えてくるようになり、あそこに乗っているのは自分の親友だという事実と、親友が乗っているという現実味の無さに妙な感覚を覚えていた。
肝心のパイロット本人はというと、ビルの隙間から一点を覗き込み、うごめく濃い赤色の使徒を発見していた。
「そろそろ目標と接敵します。マヤさん、合図を」
「了解。目標との距離、100。5、4、3、2......」
マヤの最後のカウントを聞かずして、タローは飛び出す。既に向こう側も壱型の存在を認識していたのか、体を起こして光るムチを出現させていた。
「おら美味いか!」
シャムシエルが動き出すよりも先に、タローがパレットライフル。正式名称をエヴァンゲリオン専用大口径209mm小銃 AUAssaltRifleType-MM-99から劣化ウラン弾数発を高速で放つ。
「移動開始します」
数発撃っては移動、数発撃っては移動を繰り返すタロー。パレットライフルから放たれる弾丸はシャムシエルの耐久力では素で受け切ることが出来ないのか、ビルごと両断できる光るムチを動かさずじっと堪えている。
徐々に距離を取って距離を詰められてを繰り返し、山岳部へ。トウジとケンスケのいる方向へと背を向けて近づいて行くタローと、それを追っていくシャムシエル。トウジとケンスケは近くに来たエヴァと使徒を見て、若干腰を抜かしていた。
小さな弾幕を作り出してシャムシエルの動きを牽制していたタローは、その後ろにあるエヴァ専用リフトのランプが点滅しているのを見てより射撃を強めた。
「シンジくんは私の合図で目標の背後からガトリングガンで注意を引いて。ただし、タローくんが飛び込むタイミングを作れるように連射はしないように」
リフトから現れた初号機とシンジにミサトがそう指示をするが、シンジは返事を返さず。それにミサトとタローは不審に思いつつも初号機が動いてガトリングガンを手にしたので、特に気にすることなく。
壱型は自身が初号機に向ける射線と、初号機から向けられる射線から外れるように位置を微調整する。
その姿を見ていたトウジとケンスケは、新たなエヴァの出現に目を丸くしていた。
「に、二体あんのか!? あの黒っぽいやつがティーチャーで、紫のは......」
「......多分、碇だよ。転校生。あいつ初日からやけに白露と仲良さそうだったから」
「やけどティーチャー、シンジは関係ないって」
「ひょっとしたら新人なのかもしれないだろ? 白露の方が動き慣れてる感じするし」
ケンスケに言われたトウジは、確かによく見るとと初号機のどこか硬さが残る動きを見て納得する。
それもそのはず、初号機の中にいるシンジは心拍数が上昇し額に汗をにじませていた。
「目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ......」
うわ言の様に繰り返し呟くシンジ。その声がタローと発令所につながる回線に拾われることはなく。
それ故に、ミサトは最悪のタイミングで射撃指示をしてしまった。
「今よシンジくん!」
「っ!」
壱型が牽制射撃をしつつ初号機の射線から完璧に外れたタイミングで指示を出したミサト。そのタイミング自体は良かったのだが、問題はシンジのタイミング。
突然のミサトの大声に軽いパニック状態になってしまったシンジは、体が硬直し射撃をするトリガーを引きっぱなし。ただ一点、射撃アシストのトライアングルを見つめたまま一心不乱に弾丸を放つ。
「シンジくん、そろそろって危ね!」
「シンジくん!? 射撃を止めて!」
爆煙の中でシャムシエルが初号機の方へ向いたのを確認したタローが飛び込もうとするが、それでもシンジはトリガーを引いた指を緩めず。ミサトの叫ぶ声すらガトリングガンの発射音しか拾っていないシンジの耳には届かなかった。
「はあ、はあ、はあ......っ」
ガトリングガンの弾を全て打ち切ったシンジは、肩で息をして構えたガトリングガンを下ろす。
かなりの時間連射していたため、シャムシエルを取り囲む爆煙は晴れることなく。タローもその中に突っ込んだ場合のリスクの大きさに動くことは出来ず、装弾数が僅かなパレットライフルを爆煙に向けて構える。
風向き的に、僅かにタロー側の方が爆煙が晴れるのが早かった。その中でうごめく光るムチを見たタローは、立ち尽くして様子を見ているシンジに向かって叫ぶ。
「後退しろシンジくん!」
「え、うわ!?」
シャムシエルの光るムチが初号機に向かって高速で伸び、僅かに後ろへ下がった初号機が持っていたガトリングガンと、その横のビルを両断する。
初号機は尻もちをつく形となり、そこにゆっくりと近づくシャムシエル。壱型が持っていたパレットライフルよりも強力なガトリングガンを持つ初号機を優先的に排除することにしたのか、光るムチをしねらせながら初号機に向けた。
「させるか!」
その直前に、タローが後ろからパレットライフルから劣化ウラン弾を撃ち込みなんとか動きを止めることに成功する。ただ牽制射撃していたため装弾数は残り少なく、十発もしないうちに弾切れとなってしまう。
ただそれでも、恐怖と生存本能で初号機を動かしたシンジが距離を取るのには十分な時間をつくれた。
タローの持つパレットライフルは弾切れ、シンジが持っていたガトリングガンは切られて使い物にならない。そんな状況下で二人にナイフを持って特攻させるほどミサトは鬼ではない。日向を押しのけ彼の操作するキーボードを『貸して!』と言いながら半ば奪い取るような形で占拠し、手早く入力して壱型と初号機の近くにある兵装ビルからパレットライフルを出す。
「二人共予備のライフルを出すわ! 受け取って!」
兵装ビルからパレットライフルを手にしたタローは、早速それをシャムシエルに向けて構える。だがその近くで尻もちをついている初号機とシンジが居るため、一瞬撃つのを躊躇する。
『シンジくんがATフィールドを貼って防いでくれる、ていうか貼れたとて防げるのか!?』そんな考えが頭をよぎり、姿勢を低くして斜め下から上に向かって撃つような格好を取る。
「シンジくん、ライフルを持って距離を取るんだ!」
「あ......あ......」
シンジの目の前に迫る、光るムチと節足動物の足のようなものをうねうねと動かすシャムシエル。
それが近づくのを見上げる形で見ていたシンジは恐怖に体を震わせ、ミサトの指示もタローの声も聞こえていなかった。
もうシンジが動けそうにないと、タローは多少の誤射も承知の上でシャムシエルに対して射撃を始める。だがそれよりも先にシャムシエルが光るムチを動かし、初号機にトドメを刺そうとした。
「うっ、うわぁあああ!?」
「ちょっとライフル忘れてるってー!!」
叫びながら後ろに走りだすシンジ。その後をムチで攻撃するシャムシエルと、そのシャムシエルを後ろから射撃するタローが追っていく。
シンジがひたすらに街を逃げ回るのに対して、シャムシエルは障害物である建物を光るムチで破壊しながら進んでいく。その粉塵や瓦礫に足止めされ、タローは遅れていた。
「シンジくん、そっちは駄目よ!」
そして最悪の自体が起きる。闇雲に逃げていたシンジが到達した先は、自身が乗る初号機の電力を確保するためのビル付近。つまり、アンビリカルケーブルが伸びている元。
必死でシャムシエルから逃げるシンジにはミサトのその方向に行くなと指示する声が届かず、電源ビルを背にしてしまう。辛うじて光るムチは避けたが、その背後にあった電源ビルもろともアンビリカルケーブルを切り刻まれてしまう。
それと同時に内蔵電源で動ける五分のカウントがスタートした。
「アンビリカルケーブル断線!」
「初号機、内蔵電源に切り替わりました」
「活動限界まであと4分53秒!」
「......」
シゲル、マコト、マヤの報告にミサトは言葉を失う。『作戦が悪かった? シンジくんの使い方が悪かった? タロちゃん単独の方が良かった?』と考え込んでしまい、次の指示を出すことが出来ず。
その間に追い詰められたシンジは、シャムシエルの光る触手によって足首付近を捕まれて山岳部に投げ飛ばされる。
「うっ!......な、なんで」
シンジと初号機が落下した場所。それはトウジとケンスケが二人を見ていた山。
初号機の広げた指の間。すこしでもずれればぺちゃんこになっていたであろう距離で怯える二人をシンジが捉えると同時に、発令所ではトウジとケンスケのプロフィールが表示される。
それを見たミサトとリツコは思わず身を乗り出す。
「タロちゃんとシンジくんのクラスメート!?」
「何故こんなところに、避難は!?」
「完了の報告は入っています! おそらく抜け出したのかと!」
初号機のアンビリカルケーブル断線と避難したはずの民間人の出現。発令所内はパニックに近い状態となり、マコトは急いで二人が避難する先である地下シェルターにコンタクトを取る。
その情報を共有されていないタローは、シンジが取らなかったパレットライフルを兵装ビルから取り出し、二丁を構えて彼に近づくシャムシエルへ向かって駆け出していた。
「ちょっと当たっても我慢して『駄目タロちゃん! 撃たないで!』っああもお!」
シャムシエルの光るムチに比べれば、パレットライフルの流れ弾の方が初号機とシンジへのダメージは少ないだろう。今はまずこちらに注意を向かせることが最優先。
そう自身を納得させたタローが引き金を引く前に、ミサトに止められる。ミサトを信頼しているからこそ、なにか理由があるのだろうと大人しくその指示に従い、壱型にライフルのトリガーから指を離させたタローは急いで走る。
すごく長くなりそうなので、2パートに別けます。
書いてて楽しいけどエヴァ2体の戦闘描写は私には難しくどうしても文字数が多くなってしまう......
物語の密度と1話ごとの文字数について
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サクサク進む(3000~4000字程度)
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少し書き込む(5000~6000字)
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ガッツリ書き込む(7000字以上)
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サクサク書き込め