「こうなったらッ」
両手に持ったパレットライフル。それを左手でまとめて二丁持つと、タローは壱型の右肩部ウェポンラックを展開する。
そこからあの特徴的な形をしたプログレッシブナイフがジャキン! と音を立てて僅かに飛び出し、柄の先端を三本指でつまむように取り出す。
「おりゃ!」
その流れのままプログレッシブナイフを棒手裏剣の様に、壱型の肘を伸ばす動きでシャムシエルに向かって投げる。ビュンッと勢いよく放たれたプログレッシブナイフは、上に向いていた刃の先端が1/4回転してシャムシエルのATフィールドを貫通し、見事にその背部へと突き刺さる。
プログレッシブナイフが背中に突き刺さった衝撃でシャムシエルの動きが一瞬止まるや否や、シンジは初号機の右足でコアに向かって蹴りを放つ。空中に浮遊する形のシャムシエルは、その蹴りで後ろへと飛んでいった。
「シンジくん! 二人をエントリープラグへ乗せるわよ!」
「何を言っているのミサト! そんなことをしたら神経パルスにノイズが混じって初号機とのシンクロが下がってしまう!」
「今のシンジくんが手で握るよりは安全よ。エヴァを現行命令でホールド、プラグを排出して!」
シンジが出来るだけ初号機の姿勢を低くした所で、エントリープラグをハッチが出る程度まで排出する。緊急時用の縄はしごを伸ばして、ミサトはトウジとケンスケに『そこの二人乗って!』と初号機のスピーカーから声を出す。
トウジとケンスケはどうしようかと顔を見合わせたが、いつ死ぬかわからない状況よりはこの得体の知れない巨大ロボに乗ったほうがマシだということで、急いで垂れ下がった縄はしごに掴まる。ぐんぐんと縄はしごが巻き取られ、エントリープラグのハッチが開かれる。
真っ暗なその中に、トウジとケンスケは意を決して飛び込んだ。
「なんや水やないか!?」
「ああ!? カメラが!」
LCLによって一瞬溺れたような感覚に陥る二人だったが、すぐにLCLを電荷させられて明るくなると、不安そうな顔をしているシンジが目に入って落ち着きを取り戻す。
「て、転校生......」
「やっぱり碇だったんだ」
「......二人共......」
シンジは二人に『なんでこんなところに居るんだ』と言うかどうか迷ったが、余計なことを言う必要は無いと口を閉じる。
「......」
タローはそれまで何が起きているのか分かっていなかったが、初号機との通信回線越しにトウジとケンスケの声を聞いた時、まるで心臓を鷲掴みにされたかのような感覚と寒気を覚えた。
ここに居るはずがない二人がこの場に居るのだ。もしかしたら今までの戦闘で他の市民も居たのかもしれない。
そんな想像をしてしまい、シャムシエルの光るムチが自らに伸びてきていることに気付くのが遅れてしまった。
「タローくん!」
壱型の胴体が光るムチによって叩かれ吹き飛ばされるのを見たシンジが叫ぶ。急いで加勢しようとするが、ミサトが待ったをかけた。
「シンジくん、後退よ」
「で、でもタローくんが『命令よ、シンジくん』......ミサトさん......」
「異物が二つも入った状態でエヴァを操縦するのは簡単なことではないわ。それにシンジくんに残された時間はあと2分もない。回収ルート34番、山の東側まで後退しなさい」
初めて聞くミサトの冷たい声に、命令を無視して飛び込もうとしたシンジは動きを止める。その目線の先では、未だ背部にプログレッシブナイフが突き刺さったままのシャムシエルが壱型へと迫っていく。
壱型に乗っているタローはそれに反応を示さず、ただ下を向いてレバーを握る手を震わせていた。
「壱型とパイロットの状態は?」
「機体及びパイロット、双方に問題ありません。ハーモニクスとシンクロ率、共に正常範囲内です」
「......タロちゃん、シンジくんと二人を後退させるわ。目標の動きはどうにかして止めるから、あなたもそこに続きなさい」
微かに聞こえるタローの乱れた呼吸に、ミサトは『友人が戦場にいる恐怖で思い切り動けなくなってしまったわね』と、タローにも撤退命令を出す。
オペレーター達やリツコに冬月も、同じように考えていた。しかし、タローが震えている理由は恐怖ではない。それと近しいものかも知れない別の感情に、彼の心は支配されていた。
「どうして......どうして......」
「タロちゃん! 後退するのよ、シンジくんも!」
落としたパレットライフルを拾い上げてゆっくりと立ち上がる壱型を見て、ミサトは再び叫ぶ。タローは動かなかったが、シンジは自分が居ては足手まといなだけだと先に指示された回収ルートに向かっていく。
「し、シンクロ率81パーセントに上昇」
マヤがそれを報告すると同時に、タローが初号機と発令所内に響く大きな声で叫んだ。
「どうしてバカなことをするんだお前らは!? トウジ、ケンスケェ!!」
目を見開き、怒りを顕にしたタローは左肩部ウェポンラックからもプログレッシブナイフを展開してそれを構える。
通信の声でそれを発した本人がどういう表情をしているのかを知らない二人だったが、その怒気に思わず初号機のエントリープラグ内で震える。すぐに謝罪しようとしたが、声を出すことすらかなわなかった。
「後退するのよ、命令を聞きなさい!」
慌ててミサトがタローを止めに入ろうとするが、右手にプログレッシブナイフを、左手にパレットライフルを構えた壱型は目の前のシャムシエルに向かって駆け出す。
ただ友人が自らを危険に晒したことへの怒りと、その危険の原因となる使徒。シャムシエルを撃滅するために。
「あなたがしていることは命令違反よ! タローくん、今すぐにその場を......チッ!」
壱型から回線を切られたミサトは、舌打ちしてガツンとモニターを殴る。埋込式のモニターは何とも無かったが、力任せにそれを殴ったミサトの拳は切れて血を流していた。
司令席から黙って見ていた冬月は、エヴァパイロットであるタローが理性を失ったことと、作戦が予期せぬイレギュラーによって崩れたことを重く見て口を開く。
「二人がもし
「し、承知いたしました」
その指示をわざと初号機の回線にも聞こえるように出した冬月。抜け出したトウジとケンスケは、あのタローが我を忘れて怒り狂っていることと、重大な処分を下すようにという発言にようやく自分達がしたことの重さに気がつく。
シンジはそれを見て、なぜ冬月がわざわざ初号機の回線に聞こえるように言ったのかを理解し、友人の友人程度しかない二人に助け舟を出すことにした。
「......重大な処分は、もし二人が抜け出してたらだよ。逃げ遅れてたのなら多分大丈夫だと思う」
「やけどワシら」
「タローくんだったら二人を庇うかもしれないけど、僕は......僕は、何も言えない」
パニックになってガトリングガンを連射し、優勢に思われた戦況を不利にした。それに加えて危うく民間人二人を潰すところだった。
そう自身を責めるシンジは『僕には二人のことをどうこう言う権利はない』と回収用のリフトに向かう。それ以上何も喋らなくなったシンジに、トウジとケンスケは黙り込んだ。
一方のタローは、回線を全て切断した状態でシャムシエルに特攻しつつも、実は怒りの感情に支配などされておらず頭は冷静だった。
わざわざ演技をしてまでシャムシエルと一対一の状況を作り出したことには理由がある。
「あいつをちゃんと跡形も残さないようにしないと、サンプルを取られちまう......!」
使徒のサンプルをネルフを通じてゼーレが入手することを防ぐこと、それがタローの目的。
何故サンプルを取らせないようにするかというと、いずれエヴァ量産機に搭載されるS2機関、それの研究開発を大幅に進めることになってしまうため。
既にこの世界で9年近く生活をして知識が所々抜け落ちているタローだったが、それでもなおアスカに関することだけは強く頭に残っている。特にあの惨状はアスカと共に生活した彼の脳内に嫌というとほど深く刻まれてしまったため、それを回避することに死力を尽くしているのだ。
コアを破壊するだけで形象崩壊して何も残らないのか、コア以外にダメージを与えたうえでコアを完璧に破壊する必要があるのか、何をしてもコア以外は残ってしまうのか。その辺りを覚えていないタローが選んだ選択肢は、コア以外にダメージを与えつつ、コアを完璧に破壊する作戦。
「まず邪魔なムチを」
左手のパレットライフルでシャムシエルの足元を射撃しながら近づくタロー。壱型の回線は切っていると見せかけてその後しれっと受信だけはしていたため、マヤの『初号機回収完了!』という声に安心して突っ込んでいく。
そこにシャムシエルの光るムチが壱型の胴体めがけて伸びてきたため、右手に持ったプログレッシブナイフで弾いてさらに近づく。もう片方の光るムチが伸びてきたため、体をよじって避け超至近距離からお返しのパレットライフルを乱射する。
そこで動きが止まった壱型に、プログレッシブナイフで弾いた光るムチが再び伸びてくる。
「避けて!」
回線を切られていると思っているミサトは、それでもなお叫ぶ。実際は繋がっているためその声がしっかりとタローの耳に入り、壱型の横っ腹を貫通するかと思われたシャムシエルの光るムチはパレットライフルで受け止められる。
タローはパレットライフルで受け止めたシャムシエルの光るムチをATフィールドごと力任せに切り落とすと、パレットライフルの銃床でシャムシエルを殴りつけながら引き金を引く。レールガンのような仕組みであるパレットライフルからは、シャムシエルの光るムチで損傷を受けた箇所から行き場のない電力が溢れ出し、その光るムチと銃本体にショートして爆発を起こした。
爆散したパレットライフルの破片はATフィールドを破られたシャムシエルにだけ突き刺さり、動きを鈍らせる。その隙にプログレッシブナイフで残りの触手を肩のような部分ごと切り落とし、さらに2,3度刃を返して小さく切り分ける。
プログレッシブナイフを逆手に持ったタローは、トドメと言わんばかりに頭部めがけて一気に振り下ろした。
「たぁあああああ!!」
掛け声と共に振り下ろしたその刃は、もはやATフィールドを展開する余裕がないシャムシエルの頭部を貫き縦に切断する。
振り切った壱型の腕を戻さず指先で順手にプログレッシブナイフを持ち替え、勢いをつけてコアに突き立てる。そこで、先程棒手裏剣の様に投げつけたもう一本のプログレッシブナイフがちょうどコアの後ろ側にある背部へ刺さっていることに気付いたタローは、2つに割れたシャムシエルの頭部を両手で持って地面に叩きつける。
「終わり!」
そして壱型が背部へと突き刺さっているプログレッシブナイフを踏み抜くと、シャムシエルのコアは真っ二つに割れる。
コア以外にも甚大なダメージを与えたためなのか、シャムシエルの体は膨らんだ後に破裂して血のような液体となり第三新東京市の道路と壱型の足元を赤く染める。切り分けた触手もこの短時間で腐敗が進んだのか、同じ様に半分は赤い液体となっていた。
それをしっかりと確認したタローは、エントリープラグの
「ミサトさん、処分を」
「......命令違反に独断専行、この二つは重いわよ。でもまずは......無事で良かったわ。お疲れ様」
「っ......すみま、せん」
上司としてのミサトではなく、家族としてのミサトから声を掛けられたことにタローは驚きと申し訳無さがこみ上げる。
ミサトもここは毅然とした態度で処分を言い渡すつもりだった自分が、自然とタローを労う言葉を放っていたことに自分で驚いていた。それと同時に『少しは私も母親らしくなれたかしら』という嬉しさも。
「あなたの処分は追って連絡するわ。まだ動けそうなら、近くのリフトから戻って来るように」
「はい。あの、二人なんですけど......」
トウジとケンスケ、その二人はどうなるんだというタロー。それに応えたのはミサトではなく冬月だった。
「後から事情を聞くつもりではあるが、抜け出した訳ではないのなら処分はしない。白露、君は何か知っているか?」
「え、あっ......えっと、オレが二人と話し込んでたから、逃げ遅れたのかと思います」
「私も見ていたわ。白露くんがずっと話している所を」
冬月の助け舟に乗ったタロー。その帆に風を吹かせるために戦闘終了を聞いて発令所へやってきたレイが付け加える。
『綾波......』とタローの声が耳に入ったレイは、貸し一つとスクリーンに映るタローと目を合わせた。
「それは二人に伝えておこう」
「はい、ありが......じゃなくて。お願いします」
「ああ」
ここで礼を言えばタローの証言が嘘であることを認めたようなもの。そんなことを気にする職員は発令所に居ないが、タローは慌てて礼を言うのをやめる。
そこに冬月はよく気付いたなと鼻を鳴らすのだった。
このあとのシンジくんのメンタルケアはまるで駄目な親父(マダオ)あらため、やればできる親父(ヤルオ)がやってくれたようです。
そこも書くべきか迷いましたが、ストーリー進行を優先します。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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サクサク進む(3000~4000字程度)
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少し書き込む(5000~6000字)
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ガッツリ書き込む(7000字以上)
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サクサク書き込め