ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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ストーリー進行はしないお話なので◯◯話とはつけません。
時系列的にはシャムシエル戦後です。


プライム・チルドレンの休日

 ある平日の朝の葛城家。いつもなら学校へ行っているはずのタローはぼーっとテレビを眺めていた。

 

「......暇だ!」

 

 その声に反応してくれる人は誰も居ない。ミサトは仕事、ペンペンは朝食後の睡眠に入っているからだ。

 学校を休んでいるため下手に外に出ることも出来ずに暇を持て余すタローは、決してサボっているわけではない。シャムシエル戦の時、命令違反と独断専行をしたことに対しての処罰を受けている最中。

 処分内容は1週間ネルフの業務も学生の活動も停止、ただし外出可能というもの。学校に行けないことには変わりないので、早朝にレイにお弁当を届けてからはずっとテレビを見ている。

 

 処分内容を伝えた時『こんなんじゃただの休暇じゃないですか!』とタローはミサトに抗議したが、ミサト曰く『休暇ではないわよ。することが無いってのも意外と退屈だし』とのこと。

 実際のところは彼女の中ではシャムシエル戦でのタローの行動はそこまで問題視されておらず、むしろあの状況でよく戦ってくれた、という思い。しかしそれでは部下に示しがつかないため、活動停止処分という名の休暇を与えることにしたのである。

 それに加えてリツコからも『前回と違って攻撃を受けているから脳神経にダメージが出ているかもしれない』というアドバイスが期間を1週間に設定した。

 

「しっかしこれ、だれか見てんのかなあ」

 

 タローはリビングの角天井に設置されている監視カメラを見て呟く。

 活動停止処分にあたってダイニング、リビング、タローの自室の三箇所に設置されており、監視の目が届かない家の中での行動を見るためという理由でミサトが設置していったものだ。ミサトが仕事に行っている間はカメラを起動し、夕方5時半になったらレンズにカバーをつけても良い、とタローは言われていた。

 

 そのカメラが映像をリアルタイムで映し出している場所。複数名の男女がタローの様子を見ていた。

 

「ふふふ、見てるわよタロちゃん......」

「まさかあなたがこんなにも悪趣味だとは思わなかったわ」

「何でよ。これもあくまでパイロット保護の一環なのよ!」

 

 仕事中であるにも関わらず、発令所のスクリーンに映し出されている葛城家とタロー。ミサトは腕を組んで邪悪な笑みを浮かべながらカメラを見つめるタローを見つめており、その後ろではリツコが呆れ顔でため息を付く。

 彼女達もまたネルフの仕事をサボっているわけではない。暇な日というものはネルフにもある。

 

「しっかし思ったよりも書類が少なく済んで助かったわ~。山に付いた初号機のシルエットに関するやつ以外はそうでも無かったし」

「壱型は胸部装甲が僅かに融解しただけ、初号機はアンテナの損傷のみ。私も思ったよりやることが少なく済んだわ」

 

 ミサトもリツコも、オペレーター達も暇。現場でシャムシエルに切り刻まれたビルの片付けをしている作業員でさえ、瓦礫が想像より小さいからすぐ終わりそうという状況。

 そこであまりにものんびりとした退屈な日に面白みを加えようということで、ミサトがタローを監視するカメラを発令所のスクリーンに映し出したのだ。とはいってももちろん仕事はあるわけで、自分達の決まった座席がないミサトとリツコはわざわざパイプ椅子と折りたたみ机を持ち出していた。

 

「ん~、昼までまだ時間あるし......勉強するか」

 

 スクリーンに映し出されているタローはリビングから自室へと戻り、学校のカバンを開いて筆箱を取り出す。それを机の上に投げ置いた後、本棚から『基礎数学 中学生編』という題名の問題集とノートを手にとって席についた。

 基本的に学校の授業はノートパソコンを用いているため問題集などは学校で配布されておらず、タローが自習用にと本屋さんで買ったもの。それを広げておもむろに問題を解き始めた。

 

「風の噂で聞いただけだけれど、彼たしか博士号を持っているんじゃなかった?」

「えっ、そうなんですか? あの若さで」

 

 マヤは驚きと関心の混じった目で勉強しているタローを見る。

 ミサトはリツコから向けられるなぜ中学レベルの勉強なんてしているんだという視線に気が付き、得意げな顔をして答えた。

 

「そうよ、日本に来る前だから中学1年生で体育科学の博士号取得の天才中の天才! それが私のタロちゃんなのよォ!!」

「体育科学ですか。俺も運動が出来ればな~」

「運動が出来るだけじゃ駄目じゃないか?」

「博士号取得ということは、なにか特別な論文でも出したんでしょう?」

 

 まさか裏口では無いでしょうね、とミサトを睨みつけるリツコ。ネルフの権限ならばそれも出来なくはないし、ミサトの溺愛具合からやりかねないと思っているからだ。

 それが気に食わないのか、タローが裏口取得したと思われているのが気に食わないのか、ミサトはリツコに睨み返す。

 

「あのねえ、あんた映像見なさいよ。成績全部最高点なのにも関わらず理解しきっている中学レベルの勉強を自分からやるような子よ? タロちゃんがズルするわけないし、私がしようものなら容赦なく絶交されるわよ」

「......そうね、疑った私が悪かったわ。なおのこと彼の書いた論文が気になるけれど」

「多分、お願いしたら見せてもらえると思うわよ。オックスフォード大学だから全部英語だけど」

『......は?』

 

 今さらっと凄いごと言わなかったか? とミサトを見つめるリツコ、マヤ、シゲル、マコト。

 ミサトは呑気に紙コップに入ったコーヒーを飲んでいたが、あまりにも目が点というような四人の視線に驚き少しだけ体を跳ねさせて空になったコップを握りつぶす。

 

「ど、どったの皆?」

「私、彼が博士号を取ったのがオックスフォード大学だなんて聞いていないのだけれど」

「あ~、そうだっけ? でもほら、タロちゃんって一応イギリスとのクォーターじゃん?」

「だからといってオックスフォード大学が一番に出てくるわけ無いでしょう。......そんな名門大学で博士号取得済みとなれば、日本重化学工業共同体も納得するわね

 

 来月行われるある企業が開発したモノの発表会。そこにエヴァパイロットであるタローを同席させ意見を貰いたいと考えていたリツコは、タローの出身大学を聞いて好機と捉える。

 その小さな呟きは誰にも聞かれることなく、ミサト達の視線は数学の勉強をするタローに向いていた。

 

「エヴァのパイロットとして訓練しながら勉強を続けて、それで博士号まで取るって簡単じゃないですよね。きっと凄く期待されてたのに、それに全部応えちゃうなんて」

「本当だよな、普通だったら途中で嫌になって辞めちまうよ」

「日向くんの言う通り、やれと言われてたらいくらタロちゃんでも難しかったと思うわよ」

「自分からやってるんですか!? てっきりドイツ支部で強制されてるのかと」

 

 マコトがそう思うのも無理はないのだが、ミサトは『そんな子供に色々求めまくるブラック企業じゃないわよ』と苦笑し、ポケットからスマホを取り出す。

 開いたのは写真アプリ。二回ほどスワイプしたあと、沢山ある写真と動画の中から一つの動画を選択肢、それを再生して四人に見せる。

 

「これは?」

「しっ、ちゃんと聞いてて」

 

 シゲルが何の動画だと聞けば、ミサトは人差し指を口に当てて静かにするようにと促す。

 その場にいる者たちが静かになったところでミサトが動画を再生すると、それはリビングにあるソファーで眠るタローの動画だった。

 数ヶ月前に、珍しく疲れたのかリビングで眠っていたタロー。それをミサトが盗撮もとい思い出として記録したその動画には、普段の顔つきとは正反対の寝顔がバッチリと写っていた。

 

「こうしてみると、年相応の子供ですね」

「ね、可愛いでしょ? でもこれからもっと可愛いのよ」

 

 カチカチと音量ボタンを押してミサトがボリュームを上げると同時に、眠っているタローが小さく口を開いた。

 

......アスカ......

 

 うわ言の様に何度か呟いたタローは、夢の中でアスカとの思い出を振り返り眠りながら笑っていた。

 

「ミサトの鼻息が入りすぎよ」

「そりゃこんなお宝映像のネタを目の前にしたら興奮しちゃうからしょうがないじゃない!」

 

 タローの寝息と寝言とは別に、スマホのマイクに近い場所から聞こえるふーっふーっというミサトの鼻息と、被写体の名を呼ぶ恍惚とした声にリツコが突っ込む。

 この動画をアスカに送った際も指摘されていたが、流石に職場の同僚に興奮した鼻息を聞かれるのは恥ずかしいのか、ミサトは急いで話題をそらした。

 

「ともかく! これがタロちゃんがあそこまで頑張れる理由なのよ」

「アスカ、っていうのがですか?」

「そ。ドイツにいるセカンド・チルドレンでエヴァ弐号機専属パイロット。そしてタロちゃんの幼馴染であり彼からの愛を一身に受ける超絶プリティで負けん気の強い可愛くて強い素敵な女の子の名前よ」

「と、とりあえず葛城一尉とタローくんがその子を好きなんだってのはわかりました......」

 

 迫真の表情をしながら一呼吸に早口で言うミサトに圧倒されるシゲル。ミサトはまだまだ語り足りないといった様子だったが、タローが勉強を終えたのでスクリーンに目を向ける。

 

「お、今日はもう終わりね。どれどれ、1時間しないくらいで結構進んでるわね」

 

 カメラをズームして僅かに傾け、タローが解いた問題を見るミサト。ご丁寧に途中式と呼ばれるものまで全て書かれたそれを見たリツコは、ついつい脳内で自分も計算してしまい全て正解答であることを確認した。

 一般的な監視カメラにはここまでのズーム機能は無いが、現在葛城家に設置されている3台のカメラは軍事用と言えるほどの性能を誇っている。保安諜報部から提供されたそれの性能は、タローのまつ毛の一本一本をもくっきりと映し出し彼の呼吸音まで拾うほど。

 

「やっぱ好きな女の子の為に頑張れる男の子はカッコイイわよね」

「セカンド・チルドレンも相当優秀だと聞いているけれど、ミサト的にはどうなのかしら」

「どっちも凄いわよ。アスカとタロちゃん、二人共お互いがお互いに相応しい存在になれるようにって努力しまくってるもの。あんな可愛い女の子が自分だけの為に努力してて落ちない男は居ないし、あんなカッコイイ男の子が自分だけの為に努力してて落ちない女は居ないわよ......あ、またなんか面白いことやりそうよ」

 

 ミサトが言うように、タローは筆箱をカバンの中へ、問題集とノートを本棚へと閉まった後、収納を開く。そこにあるのは、ケースに入ったとあるもの。

 

「ギターか?」

 

 それをにいち早く反応したのは、ギターが趣味のシゲル。タローはケースを開けると、中からアコースティックギターを取り出してチャランと指で弦を弾く。

 その音を聞いて起きたのか、起きていて反応したのか、ペンペンがパタパタと歩いてきてタローの部屋の扉をノックするようにつついた。

 

「ペンペン、今日も聞いてくれるの?」

「ウァ」

「はは、ありがと」

 

 タローは扉を開けてペンペンを室内へと招き入れる。ペンペンはベッドに座ったため、タローはその隣に腰をおろしてギターを構える。

 

「タローくんって、ギター弾けるんですか?」

「弾けるわよ。タロちゃんとアスカ、ああセカンド・チルドレンね。が通ってたドイツの学校では芸術課目で音楽と美術が選択出来たんだけど、二人共音楽を選択してタロちゃんはクラシックギター、アスカはバイオリンを選んだの。ちなみにめっちゃ上手いわよ」

「へー! 楽しみですね!」

「アコギを指弾きする中学生とはまたシブいな」

 

 マヤの質問に応えたミサトの言葉に、その場の期待値が上がる。ギター仲間が出来たシゲルは特に期待しているが、まさか発令所でそんなことが起きていることとカメラがあることなど忘れているタローは、ゆっくりといつも通りに弾き始める。

 

「......Sunday morning,(日曜日の朝、) I woke up with no one beside me(目覚めても隣に誰も居ない)

「弾き語りか。ていうか、この字幕はどこから」

「MAGIに音声を取り込んで翻訳をやらせてるのよ。全く、技術の無駄遣いね」

「タロちゃんの歌が聞けるんだから無駄ではないでしょ~。それに、都市管理システムに空きがあるんだから良いじゃない」

 

 全く悪びれる様子もないミサトだが、彼女の言う通りシャムシエルとの戦闘によって第三新東京市の一角が立入禁止となったことで、MAGIがその部分を管理し運行するところに余裕が出来ている。そこに音声認識と翻訳を組み込んだという訳だ。

 大都市一つを管理しつつ複雑な計算を難なくこなす出来るスーパーコンピュータのMAGI。確かにそれを音声認識と同時翻訳に使うというのはあまりにも贅沢だが、無駄遣いと言いつつもミサトにお願いされて設定したのはリツコである。

 

Reaching out for you(君がそこに居るように) like you were still there(手を伸ばした)

 

 アコースティックギターの音色とタローの高音が響いて発令所がうっとりする中、音楽知識のあるシゲルがぼそりと呟く。

 

「聞いたことのない曲だけど、歌が上手い」

「オリジナル曲なのかもな。ラブソングっぽい感じだけど」

 

 マコトはオリジナル曲と言うが、実際にはタローが居た世界にあった曲。

 途中から何もかもが変わったこの世界で、この曲を知っているのは今歌っている彼だけだが。

 

Let me love you(君のことをずっと) let me love you all day(ずっと愛させて)......I got a million,(数え切れないくらい) got a million,(沢山のやりかたで)got a million ways(君に愛を伝えるから)

「ずいぶんと色っぽい歌を歌うのね。これもセカンド・チルドレンに向けてかしら?」

「多分ね。元々タロちゃんって、一人で日本に来たくなかったみたいだから......それを後押ししたのがアスカってわけだし」

 

 アスカに『日本に行きなさい』と言われた日に思い出した曲をおもむろに歌い終えたタローは、ペンペンが頷くのを見た後に再びアコースティックギターを弾き始めた。

 

「もう一曲! 今度はもうちょっと落ち着いた感じで......またラブソングみたいですね」

 

 『それでも素敵ですけど』と付け加えたマヤが言うように、やはり英語のラブソングを歌うタロー。

 先程の曲で発令所全体にしんみりとした雰囲気が漂っていたが、今度はド直球なため盛り上がりを見せていた。

 

Well, I found a girl,(ある少女と出会った。)beautiful and sweet.(とても綺麗で優しくて) Oh, I never knew you were(まさかオレを待っている) the someone waitin' for me.(運命の人だと思わなかった。) 'Cause we were just kids(だって二人が恋に落ちた時は) when we fell in love(まだ子供だったから)

 

 どこかからか『俺もこんな恋愛を子どもの時にしたかったよ』という声や『やはり純愛しか勝たんのよ』という声が聞こえてくる。

 ここまで来るとリツコ達もこの歌をセカンド・チルドレンに向けて歌っているんだなと察していたが、滝のような涙を流しながら聞いているミサトを見て確信に変わる。

 

Darlin', you look(愛しい人よ、今夜の) perfect tonight(君はとても素敵だ)......」

「う~アスカぁ! タロちゃんの愛が凄いわよぉ!!」

Well, I found a woman(ある女性と出会った) stronger than anyone I know.(オレの知る誰よりも強いんだ) She shares my dreams, (夢を分かち合ってく) I hope that, someday,(れた彼女といつの日か) I'll share her home(一緒に暮らしてみたい)

 

 曲も2番に入ったところでMAGIがタローを学習して導き出した和訳に、リツコとマヤは『これミサト(葛城一尉)のことでは?』と思い声をかけようとする。

 しかし涙でMAGIの意訳を見れていないミサトはそれに気付かずに聴き込んでいたため、邪魔をしないように何も言わなかった。

 

「あら、レイ......ふっ」

 

 ピロリンという音と共にスマホに来た通知を見たリツコは、レイから送られてきた写真と『今日のお弁当。美味しいのが沢山』という一文に笑みを零す。

 もう既に昼時だが、時間を忘れて邦楽洋楽と様々なジャンルの曲を歌い続けているタロー。彼の歌を聴き続けた発令所はこの日、ただでさえ暇なのに仕事のやる気が上がって更に暇になる。

 その効果は凄まじく、後の室内トレーニングがガチ過ぎて真似をして全身筋肉痛になったシゲルとマコト以外はタローの歌バフを2日間キープし見事に定時上がりを達成したのであった。




タローくんが歌っているのは、HRVYのMillion WaysとEd SheeranのPerfectです。二つとも有名ですがとても良い曲なのでぜひ聞いてみてください

物語の密度と1話ごとの文字数について

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