綾波宅、その最寄り駅から第一環状線に乗り7番ゲートでネルフ本部へと到着したタローとレイ。
零号機の調整の関係からやはり今回もレイは控えの立ち位置。戦線に投入されるのは壱型パイロットのタローと、二人より先にネルフ本部へ到着し出撃準備を終えていた初号機パイロットであるシンジの二人。
「未確認飛行物体の分析完了。パターン青、使徒です」
「現時刻を持って未確認飛行物体を第5使徒と識別する。初号機と壱型を出せ」
「了解。エヴァ初号機及び壱型、発進準備!」
MAGIによる分析と検証の結果、小田原防衛線を突破した正八面体の青い未確認飛行物体を使徒と確認したことをシゲルが告げる。ゲンドウはこれを第5使徒とし、ミサトに壱型と初号機の出撃命令を出す。
第5使徒 ラミエル。どこからともなく突然現れ高速で飛行するそれに対して対空射撃等を行う暇がなく、加えてその形状からラミエルが持つ能力は不透明。戦闘指揮官であるミサトがどのような作戦を立てるか悩んでいたところに、ラミエルの能力をおぼろげに覚えていたタローが話しかける。
「ミサトさん、少し良いですか?」
「ええ、良いわよ」
「ありがとうございます。今回の作戦について、まずは様子見をすべきと思います。事前の攻撃が行えていないことに加え、目標の形状ゆえに能力が未知数です。その状態では自分の白兵戦も役に立たないかと」
「......そうね」
腕を組みながらタローの意見を取り入れ考えるミサト。誰が聞いてもその意見は真っ当なものであるのだが、言っている本人としては『とにかく出オチは回避しなければ』という一心での提案。
地表に出ると同時に加粒子砲で上手に焼けましたは勘弁だ。とラミエルの衝撃を覚えているタローの思いが伝わったのか、ミサトは安全策を取ることにした。
「エヴァ両機を遮蔽の後ろ、ライフルの有効射程範囲ギリギリに展開するわ。まずはその距離でATフィールドを中和出来るかを試し、不可能であれば二人が交互に前進と後退を繰り返し距離を詰めて。間違っても二機が同じ距離で横並びになることはしないように」
遮蔽の後ろに展開するのはサキエルのようなビームへの対策。壱型と初号機が横並びにならないようにするのはシャムシエルのようなムチで一閃されることへの対策。
何をやってくるかわからない使徒が相手ならばエヴァとそのパイロットを信じて真正面に展開するのも策の一つではあるが、ミサトは決してそのような容易に命をさらけ出す作戦は取らない。
当然、彼女に大切にされていると感じたタローとシンジは『はい!』としっかりした返事をした。
「目標、芦ノ湖上空に侵入」
「エヴァ両機、発進準備よろし!」
シゲルとマコトの報告に、ミサトは目を閉じてパイロット二人の無事を祈ったあと。スクリーンに映るラミエルを睨みつけて短く叫んだ。
「発進!」
ミサトの声が響くと同時に、壱型と初号機。タローとシンジがリフトを駆け上っていく。
あと少しで地表。二人のパイロットが自身と機体を上に持ち上げるエヴァンゲリオン専用拘束兼移動式射出台、そこに添えられたパレットライフルにすぐ手にできるようにと意識を向けた時だった。
「目標内部に高エネルギー反応!」
「なっ、防護壁展開急いで!」
シゲルの報告にミサトが素早く指示を出したことで、ひとまず初号機が出てくるリフトの前面には防護壁を展開することに成功する。しかしそれでもラミエルは動きを止めない。
「まだよ、マヤ!」
「はい!」
違和感を感じたリツコが一番近くに居るオペレーターであるマヤに指示をする。あくまで彼女はエヴァへの遠隔操作やモニタリング担当だが、こうなってはお構いなしと壱型のリフト前面にも防護壁の展開を急ぐ。
二機のエヴァンゲリオンが現れる直前に、正八面体だったラミエル。それが変異してコアがむき出しになり、そこから加粒子砲が壱型の出現位置に向かって放たれた。
「熱ッ!」
遮蔽を溶かしながら壱型に向かってきたその加粒子砲は、マヤが展開した防護壁が完全に起き上がる前の一瞬だけ壱型の胸部に届く。その一瞬だけでも胸を焼かれるような感覚に、思わずタローは声を漏らす。
防護壁の前に無効化されたラミエルの加粒子砲。使徒の攻撃を防げたという事実がミサトに『防護壁さえあれば』という油断をもたらしてしまった。
「防護壁多重展開。目標の攻撃を防ぎ、っ迎撃中止! エヴァ両機緊急回収!!」
再び形態変化を始めたラミエル。まるで花のような形に開いたそれを見たミサトの直感が『これはマズイ』と告げたことで壱型と初号機を下げる決断をする。
しかし、遅かった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「タロちゃん!?」
数枚に展開した防護壁。黒板を引っ掻いたような悲鳴のような音と共に放たれたラミエルの加粒子砲はそれすら融解させ、壱型のATフィールドを真っ二つにして胸に突き刺さる。
あまりの高温に壱型がオーバーヒートを起こし、発令所には警報のシグナルが表示され警告音が鳴り響く。それだけでも発令所を焦らせるのは十分だったのにも関わらず、その中にいるパイロット。タローの悲鳴が数名の冷静さを失わせた。
「シンクロ率ミニマムまでカット、ATフィールドは!?」
「限界まで展開してます! でも形状維持で精一杯で......!」
「クソッ、カタパルトが融解して動かない!」
それは先に格納されていた初号機に乗るシンジの耳にも届き、友人の状態を父親に問いかける。
「父さん! タローくんは、タローくんはどうなってるの!? ねえ!」
その悲痛な叫びは肺を塩酸で満たされたかのような痛みに耐えているタローにも届き、ゲンドウよりも先にシンジに応えた。
「問題、ない。大丈夫だから」
「でも!」
エントリープラグ内、発令所に表示されている警告レベルが最上位の赤に到達し、明らかに普通ではないタローのかすれた声。ミサトの理性を崩壊させるには十分過ぎた。
「作戦要項破棄、パイロット保護を最優先。プラグの緊急射出早く!」
通常兵器ではおよそ貫通することなど不可能であろう防護壁を何枚も溶かして貫通し、ATフィールドまでも無効化するラミエルの加粒子砲。いくらシンクロ率を最小限まで抑えているとはいえ、それを胸で受け止めているなど想像もつかないほどの苦痛。
よほどシンクロ率が高くない限りエヴァの損傷イコールでパイロットの損傷ではないが、それでも加粒子砲の熱でエントリープラグ内のLCLは高温状態。加えて神経損傷やいわゆる思い込みで肉体に被害を及ぼす可能性もある。
ミサトは一刻も早くその地獄のような苦しみからタローを開放しようとプラグの射出を求めた。
「駄目だ」
「えっ、碇司令!?」
エントリープラグの緊急射出をゲンドウに却下されたミサトは、相手は最高司令であるにも関わらず親の仇かの様に睨みつける。
何故? こんなに苦しんでいるのに、もうリフトだって融解して動かないのに。どうしてコイツはこの地獄を続けさせようとするの!?
今にも飛びかかりそうな勢いのミサトの肩に、リツコがそっと手を置いてなだめた。
「落ち着きなさいミサト。今パイロットを失うと、エヴァのATフィールドが完全に消失......つまり、壱型を失うことになるのよ。それにこれだけの熱量の中でプラグを射出して、タローくんを無事に回収できるとでも?」
「っ、じゃあ」
もうどうしようもないじゃない。そんな言葉をミサトは飲み込み、解決策は無いのかと必死に頭を回転させる。
リツコの言う通り、パイロットとの接続が切れてATフィールドがなくなった場合壱型は溶けて無くなるだろう。装甲が融解しても素体が残っているのは、今タローが気合と根性で耐えてATフィールドを維持し続けているから。その状況下でプラグ射出ともなれば、壱型よりも先にタローを乗せたエントリープラグが溶けて消える。パイロットもエヴァも失う最悪の選択肢。
普段ならばそれに気づけたであろうミサトだが、この場で最もタローに近い彼女にはそんなことを考える余裕など無く。ただ助け出してあげなきゃという感情で緊急射出と口走ってしまった。
「救護班の手配をしろ」
ミサトを中心に暗い雰囲気が漂い始めた時、ゲンドウが立ち上がった。
「作戦は既に中止されている。パイロット保護を最優先、爆砕ボルトに点火しブロックごと機体を強制回収だ」
「碇司令......」
爆砕ボルトに点火、それすなわち第三新東京市の一部にポッカリと大穴を開けることになる。当然様々な問題が発生するが、命令したのはゲンドウ本人。つまりは責任を自分で取るということ。
最高司令からその指示が出ると迷わずオペレーター達は壱型の居る区間の爆砕ボルトを爆発させ、機体の強制回収を遂行する。
「目標、攻撃を中止」
「壱型回収完了、99ケージへ!」
「プラグ内のLCL冷却を最優先に!」
焼け焦げ煙を発している壱型の回収が完了すると、マヤとリツコが機体の状況を素早く確認し最短で最善の命令を下す。
そこにタローをモニタリングしていたマコトが問いかける。
「パイロット確認。脳波、心音ともに正常ですが意識が」
「プラグスーツの生命維持機能を最大。プラグの強制排出とLCLの緊急排水、救護班の待機!」
「はい!」
あれだけの熱線を長い時間浴びていたのにも関わらず、タローは数値上では気絶しただけで問題は無し。だがリツコは数字など信用ならないと言わんばかりに指示を出していく。
エヴァのことや人体のことは専門外のミサト。彼女はただ唖然と立ち尽くしこの状況で何も助けになれないと、己の無力を恨んでいた。そこに司令席から降りてきたゲンドウが声を掛ける。
「葛城一尉、次の作戦を立案したまえ」
「つ、次ですか?」
「ああ。幸い時間は取れそうだ」
ゲンドウの言う通り、ラミエルはネルフ本部直上にとどまっていた。その下では形態変化によってドリルのようなものを作り出し、ゆっくりと掘り進めている。
その最中ラミエルは移動することは出来ない。様々な方法で情報を集めることが出来るという訳だ。
「以降の戦闘指揮権は再び君に委ねよう」
「......はい!」
ゲンドウはそれだけ言い残すと、冬月を置いて発令所を去っていく。その後姿を最後まで見届けるミサトの目は、先程とは別だった。
「言われなくてもやってやるわ」
不敵な笑みを浮かべて自身を鼓舞したミサト。それに気付いたリツコは彼女に近づく。
「タローくんのところには行かなくて良いのかしら?」
「行って良いってんなら今すぐにでも走ってくわよ。けど、今タロちゃんの為にすべきことはソレじゃない」
「あらそう、じゃあ私が行ってあげようかしら」
そう言って歩き出したリツコの腕を、ミサトはガッシリと掴んだ。
「ダァメよ赤木博士、あなた喫煙者でしょう?」
「数値上では肺へのダメージは無かったのだけれど」
「さっきまでそんなの当てにしてなかったクセによく言うわね。とにかく駄目!」
「ならマヤはどうかしら? さっきからずっとソワソワしてるし、彼女が抜けてる間は私が責任もって担当するわ」
リツコに言われミサトはマヤの方を見る。その視線に気付いたマヤはハッとした後に、肩をすくめて気まずそうに視線を逸らす。
『確かに喫煙者じゃないけれど......』とミサトは一考したが、そもそもこの状況では一人でも頭脳が多い方が良いのでは? と最もな事が思い浮かび却下する。
「駄目」
「ぅ......」
とは言ったものの、しょぼくれるマヤを見て何も思わないほどミサトも鬼ではない。むしろ心を痛めていた。
「今は目標を撃破するのが最優先。そのためには一人でも多くの力が必要なの。先程は不甲斐ない姿を見せてしまったけれど、良ければ協力して欲しい」
発令所の下段デッキ、中段デッキ、そしてミサト達がいる上段デッキ。その全てに聞こえるように通った声を出したミサトに、異議を唱える者は居ない。
であれば褒美が必要だろうと、ミサトは彼女基準のご褒美を宣言する。
「目標を撃破した暁には、全員にタロちゃんのおはようございますボイスをプレゼントするわよ!」
『......』
「......あれおっかしーな、いらない感じ?」
見事なまでに静まり返った発令所に、困惑したミサトの声が虚しく響く。それが誰かのツボにハマり、さらに別の人のツボにハマり。ミサトにとって予定外の形とはいえ発令所全体を盛り上げることに成功した。
「呆れた。司令やタローくんとは大違いね」
「何よ、やる気出たんなら良いじゃない。それともリツコはいらないのかしらぁ? 朝イチで聞けるタロちゃんのおはようございますが」
「いるわよ。レイが欲しがるだろうし」
「けっ、とか言っちゃって」
ミサトがニヤニヤとリツコを見ると、リツコは『ムカつくわね』と手に持っていたバインダーでパシンとミサトの頭を叩いた。
「イタッ、暴力反対よ!」
「良いから早く指示を出しなさい。皆待ってるのよ」
「話逸らすんじゃないわよ......まあ良いわ。まず行動パターンをあぶり出すところからよ。手始めに自走砲とダミーバルーンを準備して」
「あの......」
それを止める形でマヤが控えめに手を挙げてミサトに体を向ける。マコトとシゲルも同じ様に。
「私、おはようございますボイス欲しいです。最近朝が弱くて」
「俺もください。面白そうですし」
「俺もお願いします。あの爽やかな挨拶が元気出るんですよ」
「......ちと色んな方面から人気過ぎるわね。正妻力が試されるわよ、アスカ」
タローのおはようございますボイスは、彼とよく会話する上段デッキのオペレーター三人が一番要らないだろうなと予想していたミサト。
彼女にはマヤが欲しがるのは想定内だったが、マコトとシゲルまで悪ノリではなく普通に欲しい雰囲気を醸し出していたのに驚きと嬉しさを感じる。
その中でアスカとタローの運命をつなげる為に、ミサトは規格外の作戦を打ち立てた。
TV版準拠ですが、それはストーリーなので。ラミエルと最強と言われてる使徒は新劇場版仕様となってます。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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