ヤシマ作戦。それは完全無欠の空中要塞と思われる第5使徒 ラミエルを撃破するためにミサトが立案した作戦の名前。
かつて屋島で行われた合戦において、一人の弓の名手が遠く離れた扇を撃ち抜いたことに由来するその名の通り、作戦内容は単純明快。ラミエルの感知範囲外から一撃で仕留める、というもの。しかしこの作戦を実現するためには様々な問題があった。
まずは強力なATフィールドを持つラミエルを、ATフィールドごと貫ける威力がある武器。これを調達するためにミサトは茨城県はつくば市まで出向き、戦自研のつくば研究所に単身乗り込んだ。
コードネームKの言葉を信じてアポ無し突撃を決めた彼女を出迎えたのは、一人の男性職員。彼はミサトを見るやいなや素早く近寄よった。
「自走陽電子砲の件ですね。話は聞いています」
「......本当ですか?」
まさかここまですんなり行くとは、と困惑した様子のミサトをよそに、男性は自走陽電子砲の組み立てマニュアルを取り出しそれを手渡す。
半ば押し付けられるように受け取ったミサトに対して、男性は子どものような笑みを向ける。
「私達も、いち研究者として自分達の発明がどれだけ出来るかを知りたいんです。しかしこの暴れ馬を動かすことはそう簡単ではない......こんなものが役に立つのであれば、ぜひ活用していただきたいのです」
ミサトは『一体コードネームKは彼に何を吹き込んだんだ』と期待の眼差しを向ける男性から目を逸らす。とはいえ最も難しいと思われた武器の調達が簡単に済んだことで、あえて追求はしないことにした。
「ご協力、ありがとうございます。なるべく原型をとどめて返却するように努めさせていただきます」
「返却なんてとんでもない。あくまで理論上は可能、といった代物ですからね。撃てたのか撃てなかったのか、それさえ知れれば十分です」
「そうですか。では、搬入はこちらでさせていただきます」
MAGIの計算では1億8千万キロワットの電力が必要。その膨大な電力に耐えられる砲身など一朝一夕で作れるものではない。
電力と射撃ポイントはネルフの権限でどうとでもなるが、開発、設計、組み立てが必要なこれに関しては同じ様にはできない。それを無事に持ち帰ったミサトをリツコは怪しんだ。
「徴発令状も無しに戦自研が極秘開発したものを貰っただなんて。あなた、変な事したんじゃないでしょうね」
横に並んで歩きながら『エヴァの情報提供とか』と訝しむリツコに、ミサトは苦笑する。
「そんなことしないわよ、ただちょっち借りがあるだけ。で、どうなの? 陽電子砲は」
「急造品だけど、設計理論上は問題なしね」
「出た~理論上、ったくこれだから科学者は。もっとフィーリングの感想をよこしなさいよ」
怪しんできたお返しと言わんばかりにリツコを煽るミサト。リツコはため息を付いた後に、ヘルメットを被っているからと容赦なくミサトの頭をスケッチボードで引っ叩いた。
「ちょ、ヘルメットしてても痛いんだけど!」
「良かったじゃない、生きてる証拠よ。今回の作戦は言わせてもらうならロマンね。日本中から集めた莫大な電力を一度きりのチャンスに掛ける、それをシンジくんが背負えるかしら?」
「......大丈夫よ。だって、洗脳士がいるし。それに彼は自らの意思でここに残った、それを私達は称賛すべき。私もシンジくんがどんな子なのかよく知らないけど、少なくとも逃げ出す子ではないと思ってるわ」
「そう。初号機パイロットは狙撃訓練の後、壱型、零号機パイロットと共にここに向かってきてる途中よ。付け焼き刃だとしても何もしないよりマシね」
そこまで言った所で、ミサトとリツコは設営がほぼ完了した自走陽電子砲改めEVA専用改造陽電子砲NERV仕様。通称ポジトロンスナイパーライフルにたどり着く。
技術開発部の努力の甲斐あって形にはなっている。後はシステム面がどうなっているのか、それを確認するためにリツコがノートパソコンを操作する後輩に声を掛けた。
「マヤ、
ファルケンアウゲ。直訳で鷹の目となるそれはドイツのイェーナが開発した射撃補正プログラムの名前。その名の通り、あらゆる状況下において目標への着弾を可能とする万能プログラムだが、唯一の欠点はこちらも急造品ということもあり地球の自転、磁場、重力等の影響を計算するために時間がかかること。
といってもラミエルの感知する範囲外からであれば問題はないだろうというのが現場の考え。それをテストしていたマヤは精度の高さから笑顔を隠さずリツコに返事する。
「先輩、これ凄いですよ! どんなシミュレーションをしても、入力した位置に正確に補正してくれます。こんなものを短時間で作れるだなんて」
「それは良かったわ。あとは零点規正のG型装備とのリンク、頼んだわよ」
「はい!」
いくら射撃補正プログラムの精度が高くとも、零点規正。照準と着弾位置の一致がされていなければ明後日の方向に飛んでいく。これまで運用してこなかったG型装備と同期させる作業は現場にいるリツコとマヤにしかできないが、リツコはマヤに任せることにした。
じきに到着するシンジへの説明やエヴァ3機の確認作業を担当するため時間を掛けられないということはあるが、どちらにせよそれは後輩を信じているからこその決断。当然マヤのやる気を出すには十分過ぎた。
「......パイロットが到着したわ。リツコ、付いてきて」
「はあ、また歩くのね」
スマホに入ったエヴァパイロット到着の報を受けたミサトとリツコが集合地点へ向かうと、鼻息荒く興奮した様子のタロー、いつも通り冷静なレイ、暗い顔で俯いたシンジの三人が制服姿で待っていた。
「来たわね、三人とも」
「ええ来てやりましたよ、あの使徒を倒す為に!」
「ふふふ、リベンジに燃えてるわね。良いわよタロちゃん! 素敵よ!!」
「ミサトの方がやる気出てるじゃない」
ラミエルへの復讐に燃えるタローと、それを崇めるミサト。二人の掛け合いにリツコがツッコミを入れる。
これから一大作戦が始まるとは思えない雰囲気に、シンジは自分の感覚がズレているのかとレイの方を見る。しかし、無表情の彼女に『そういえば、いつもこんな感じか......』と無理やり自身を納得させる。そんなシンジにミサトは近づき、肩に手を置いた。
「シンジくん、来てくれてありがとう」
「ミサトさん......」
「この作戦は三人の力が必要不可欠。あなたならやってくれると、そう思ってたわ」
「......別に、乗らなきゃいけないだけですし......」
ぶっきらぼうに言い放つシンジは上がりそうになった口角を無理やり抑える。ミサトはそれを見逃さなかったが、余計な言葉を掛ける必要はないと肩においた手を離す。
「それでもありがたいの。では、本作戦における各担当を伝達します。シンジくん」
「......はい」
「初号機で砲手を担当」
「え......ぼ、僕がですか!? タローくんじゃなくて」
やる気満々のタローを差し置いて自身が砲手に選ばれたことに困惑するシンジ。何の説明も無しでは納得しないだろうと、リツコが人選の理由を伝える。
「今回はより精度の高いオペレーションが求められるの。一番シンクロ率が高いのはタローくんと壱型だけれど、壱型は修復中、零号機は未調整。そうなると初号機とシンジくんが最適。それに加え初号機は射撃用の装備があるし、射撃補助システムもある」
「でも、どこがコアかがわからないんじゃ」
「目標が攻撃形態中にだけ実体化する部位があるの、おそらくそこがコアと推測される。防衛システムでそれを露呈させるから、狙撃位置の特定及び射撃誘導の諸元は全て私達に任せて。シミュレーションと同じ、真ん中のマークが揃ったタイミングでスイッチを押して頂戴。ただし電力の最終放電収束ポイントは一点のみ、速い話が初号機は射撃位置から動けないわ」
「......逃げられない、ってことですか」
失敗すれば今度は自分があの加粒子砲を受けることになる。その恐怖に負けそうになったシンジをタローは支える。
「大丈夫だよシンジくん。ミサトさん、オレの役割はなんですか?」
「防御担当よ。想定外の事態に備えて盾で防ぐ」
「わかりました。そういうことだからシンジくん、オレが守るよ」
「レイも一緒よ。ただし壱型以上に無茶は出来ない、忘れないでね」
「はい」
返事をした二人に対して、シンジはまだ迷った様子。
しかし時間は待ってくれない。ミサトは腕時計を確認し、シンジを最も理解しているであろうゲンドウがこの場に居ない今、彼が本当に覚悟を持ってエヴァに乗れるようになるには二人の同級生との会話が必要と判断した。
「時間よ三人とも。着替えてくるように」
『はい』
「......」
結局最後まで返事をすること無かったシンジ。その後姿を見つめるミサトに、リツコは気にするなと声を掛ける。
「タローくんやレイで感覚が麻痺してるけれど、あれが普通の中学生なのよ。突然人類の運命を背負って戦えだなんてそうそう出来ない。ミサトの言う通り、ここに来てくれただけありがたいわ」
「そうね。でもきっと今のままじゃ失敗する。情けないけれど、あとは任せることしかできない」
「お互い様よ。要望通り仮更衣室の音声は入ってるわ、様子を見ましょう」
「一応言っとくけど、もしもの時のためだからね? だからそんな変態を見るような目するんじゃないわよ」
『何故私が犯罪の片棒をかつがなければならないのだ』と輝きを失った目でミサトを見つめるリツコ。二人が仮設オペレーター室に到着するのと同時に、三人のエヴァパイロットもコンテナの中央にパーテーションを設けただけという仮設の更衣室に到着していた。
ビニールに包まれた新品のプラグスーツとインターフェイス・ヘッドセットがそれぞれの分用意されており、それを手に取ったレイは一度コンテナから出てパーテーションの向こう側に入り直す。
三人は、それぞれバラバラに着替え始めた。
「......ねえ、タローくん。タローくんは、どうしてエヴァに乗ってるの?」
突然の質問に、タローはシャツのボタンを外す手を止める。その隙にシンジは着替えを終え、椅子に腰掛けていた。
タローは返答に困り、頬をかいて応える。
「どうして、って言われても。逆にシンジくんはどうして?」
「僕は......わからない。まだ、どうしてエヴァに乗ってるのかわかってないんだ。こんな失敗したら世界が滅びるなんて、どうして僕なんだ......」
うつむくシンジ。タローは何も言わずにそれを見ていた。
「いつか死んじゃうかもしれないのに、僕達ばっかり辛い目にあって。ミサトさん達は安全な地下本部で指示を出すだけだし」
「......」
「ズルいんだよ、皆。本部の地下に侵入したら自爆するって言うけど、それが何だっていうんだ。自爆なら一瞬じゃないか。痛い思いもしないのに、まるで同じみたいに言って」
止まらないシンジ。タローもレイも、作戦室からそれを聞くミサト達も、何も発さない。
しかしシンジは地雷を踏み抜いてしまった。
「僕達のことを気遣ってるなら少しくらい助けてくれても......ッ!?」
突然目の前から発せられる異様な雰囲気にシンジが顔を上げると、彼の頬すれすれでタローの右腕が伸びてくる。風切り音と共にまっすぐ撃ち抜かれたその拳は、バァン! という大きな音を立てて壁をへこませた。
「た、タロー......くん......?」
直撃したら大怪我は免れなかったであろうその拳を見たあと、シンジは何も言わないタローの名を呼ぶ。
タローはコンテナの壁を殴ったことで皮膚が裂けた右手を壁から離すと、シンジを睨みつけた。
「文句あるなら制服に着替え直して出てけ!」
「え......」
「誰も君にエヴァに乗ってくれなんてお願いはしてない。そんな生半可な覚悟でエヴァに乗るくらいなら、ここでのことは全て忘れて元いた場所に戻ってくれ」
本心から出る言葉、しかし怒りの形相は演技。タローは怯えた様子のシンジに心のなかで『マジで申し訳ない』と謝罪しつつも、シンジの為に怒り続けた。
「この場にいる皆、オレ達のことを信じて残ってるんだ。確かに痛いかもしれないけど、エヴァの中ほど安全な場所は無い。少なくとも生き残ることは出来る、神経接続をカットすれば痛みもない。だけどミサトさん達は......ミサトさん達は怪我どころじゃ済まないんだぞ! オレ達が戦わなきゃ皆死ぬんだ!」
ミサト達がズルい。その発言ほどタローを怒らせるものはない。
命をかけていることは全員同じ、しかしミサト達はエヴァに乗れないため直接自分達の手で運命を変えることは出来ない。土俵を整える事はできても、最後は委ねることしかできない。それでもなお不安や恐怖を一切見せない大人達の気持ちを、今回砲手ではなく防御役に回ったタローは痛いほど実感した。
だからこそ、そんな大人達を軽視するシンジの発言を受け入れることは出来なかった。
「シンジくん、どうしてエヴァに乗ってるのかって言ったよね。オレは決して正義のヒーローなんかじゃないし、時々怖いと思う時もある。それでも、大切な人達を守れる力があるなら。例え敵が使徒でも人間でも、何でも戦い続ける」
「......」
「本当は君もわかってるんだろう? どうして自分がエヴァに乗ることにしたのか。決して碇司令に、親父さんに認められるためじゃない。親父さんから、自分から逃げない為に」
「僕は......」
かつて自分を捨てた父親。シンジの頭の中では、その時の光景が繰り返されていた。どれだけ泣いても、手を伸ばしても止まることはない父親の背中。追いかける事など出来ず、ただ立ち止まって父親が振り返ってくれることを祈るしか出来ない自分の非力さ。シンジは父親に捨てられたという事以上に、何もしない、何も出来ない自分にトラウマを持っていた。
だからこそエヴァに乗って自分にしか出来ないことをしようとしていた。理想と異なり上手く行かない現実に苦しみながらも、自分と向き合ってくれた目の前の少年、ネルフの職員、父親。そして、自分自身の存在意義を見つける為に。
それでも何かと言い訳し逃げようとする自分。それを見抜いていたタローの言葉に、シンジは揺れる。
(僕はどうしてここに居るんだ。嫌なら逃げれば良いのに。タローくんの言う通り全部忘れて、先生のところに戻って静かに過ごせば......僕は......)
拳を握りしめたシンジは自分に問う。ここに居る理由は何か、エヴァに乗ろうとする理由は何か。嫌なことは考えずに今までみたいに逃げよう。そんな答えをシンジは否定した。
「......逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ......逃げちゃ、ダメだ!」
この瞬間、自分の決めたことには梃子でも動かなかったシンジは『嫌なことがあったら逃げてしまえば良い』という今までの自分を捨て『逃げちゃダメなことからは逃げない』と決めた。
バッと顔を上げ、自身を鋭く睨むタローの目を見つめ返す。
「僕は......僕はエヴァに乗る。僕が狙撃する。もう何もしないで逃げるのは嫌なんだ!」
少しでも出来ることがあるなら、可能性があるなら。諦めて逃げるよりも行動して自分の信念を貫く。
そんなタローの覚悟を受けたシンジが力強く宣言すると、タローはニッと歯を見せた。
「ありがとうシンジくん、君が居てくれて嬉しいよ。一つ、言っておきたい事がある」
「言っておきたい事?」
「うん。聞き流すつもりで構わないから」
タローは途中で止まっていた手を動かし、シャツのボタンを外していく。シンジは視線をタローからそらした。
「もしシンジくんが失敗を恐れているなら......こんな事言うのは不謹慎かもしれないけど、失敗したって良いんだよ。だってそうなったら皆死んで、誰もオレ達に文句を言えないからね。ちょっと意味違うけど、死人に口なしってやつさ。でも成功したら英雄になれる」
「英雄......」
「ああ。人類滅亡の危機、それを救った三人の英雄! ってな。もちろん使徒との戦いはまだ続くだろう、でもいつだって同じさ。失敗しても文句を言う人は残らない、成功したら英雄。シンジくんがエヴァに乗る覚悟を決めてくれた今だから言うけど、やらなきゃ損ってやつだよ」
全裸になってプラグスーツに足と手を通したタローは、目をつむりながらそう語る。
「それと同時に、男にはやらなきゃやらない時ってのがある。ここだけの話、昔からずっと好きな人が居てさ」
「......ミサトさん?」
「間違ってないけどさあ、一番に出てくる? ミサトさんへの好きは、こう、なんていうか。尊敬の好きだよ。オレが言ってるのは恋愛的な......おいなんじゃその目は」
「いや。まさかタローくんから恋愛なんて言葉が出てくるとは思わなくて」
まるでダチョウが空を飛んでいるのを見たかのような顔のシンジ。一切の悪気がない言葉だからこそタローは『中身オッサンが恋愛して悪かったな』と心で呟く。
更衣室での会話を聞いていたミサトは、薄暗い仮設オペレーター室でもわかるほどのドヤ顔だった。
「その顔やめなさいミサト。鬱陶しい」
「あら、私はいつもこんな顔よ。ふへ」
「ふへって......」
ミサトとリツコの掛け合い。それをいつも見ておりタローの好きな人というのに予想が付いているマヤとマコトは顔を見合わせて苦笑。しかし他の女性オペレーター三名はタローの恋バナが気になるのか、耳を澄ませていた。
「とにかく、オレが戦う理由の一つがその人の為なんだよ。男としてせめて好きな女の子くらいは自分の手で守りたい、って完全なエゴだけどね」
「......凄いことだと思うよ、僕は。その人はどこに?」
「ありがとう、その人はドイツに居るんだ。小さい頃からずっと一緒で、エヴァ弐号機の専属パイロットに選ばれるくらい凄い子。あんまり惚気話聞かされるのも退屈だろうから、とにかくオレから一つだけお願いがある」
プラグスーツのフィッティングボタンを押したタロー。カシュッという音のあと、伸びていたスーツが縮んて体に密着する。
シンジが顔を上げて自身を見たタイミングで、タローは頭を下げた。
「今回の作戦、何としても成功してほしい。プレッシャーを掛けるようで悪いけど、オレはまだまだやってないこと、やりたいことが沢山ある。ちゃんと好きな子に好きだって言えてないし、シンジくんや綾波ともっと仲良くなりたいと思ってるんだ。目標の攻撃は全部防いでみせる、だから一度きりのチャンスを掴み取ってくれ。大丈夫、オレ達とミサトさん達が信じてる自分を信じて」
「自分を、信じる......」
今まで自分なら出来るという気持ちになったことが無かったシンジ。しかし、なぜ自分が砲手に選ばれたのかを考えるにつれ『僕なら出来るんだ』と自信をもって頷いた。
「うん、わかった。必ず成功してみせるよ」
「ありがとう、もし失敗したらあの世で一緒に謝りに回るよ。まあ、オレと綾波が居るんだ。少なくともシンジくんが死ぬことはない、そうだろ綾波?」
ずっと黙って二人の会話を聞いていたレイ。突然話を振られた彼女はプラグスーツのフィッティングボタンを押し、二人からは見えていないとわかっていても頷いた。
「ええ、二人には指一本触れさせないわ」
宙を睨むレイは、静かに応える。死んでも代わりが居る、そんな精神でいた彼女は今、生きることにこだわっていた。タローが自分には向けない感情を向けられている名も知らぬ少女に、嫉妬のような感情を持ちながら。
(私は白露くんの大切な友人。代わりは居ない、誰にもやらせない。もう誰も失いたくない。だから零号機)
タローに言われた言葉を胸に息を吐いたレイは、自身の手にあるインターフェイス・ヘッドセットを撫でた。
「私達を守って」
その小さな呟きは誰にも聞かれることなく消えた所で、指一本触れさせないというレイの言葉に感涙にむせんでいたタローが復帰した。
「心強いな本当に。綾波、ありがとう。一緒に頑張ろう」
「そのつもりよ」
「んっはっは、よぉし!」
パァン! と乾いた音を立てながら、タローは右手の平に左手の拳をぶつける。利き手は右なので右手の拳を左手の平にぶつけようとしたタローだったが、右手が壁パンでえぐれていることを思い出し逆に。
しかし密着したプラグスーツが少し擦れたことで生まれた痛みを誤魔化すように、タローは気合を入れた声を上げる。
「人類の興廃はこの一戦にある。気合ッ、入れてェ! 行くゾォオ!!」
「うんッ!」
「ええ」
更衣室に響いた甲高い叫び声と、それに対しての返事。三人の覚悟ガンギマリエヴァパイロット達は、更衣室を飛び出した。
「子供達ばっかりに、良いカッコはさせられませんね」
オペレーター室ではマコトが鼻を擦ってやる気に満ち溢れていた。それを見たマヤ以外の三人の女性オペレーターは『お前そんなキャラじゃないだろ』と驚いた顔だったが、時に熱血男となるタローを普段から近くで見ているミサト、リツコ、マヤはすっかりそれに慣れてしまい、マコトにそれが伝染していることには気付いていなかった。
「そうね。ここが私達の戦場よ、皆。頑張りましょう!」
『はい!』
ここが~からを他のオペレーター室や現場で電力供給をしている作業をしている職員達にも聞こえるよう、マイクをオープンにして言うミサト。
その言葉は夜の二子山に響き、決戦の夜を支える名もなき戦士達をそれぞれの勇者にした。
シンジくんはやれば出来る子、覚悟ガンギマリになれば無敵の子。というかエヴァパイロットは皆そうだと思ってます。
基本的に主人公は平常時の他に右京さんモード、松岡修造モードがあります。中身オッサンですが、意外と人って周りの環境に影響されるのでしっかり年下もこなせます。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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サクサク進む(3000~4000字程度)
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少し書き込む(5000~6000字)
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ガッツリ書き込む(7000字以上)
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サクサク書き込め