進路相談の翌日の朝。タローはいつも通り学校の制服......ではなく、スーツに身を包み洗面所で髪型を整えていた。
「ん、よし。こんなもんで良いかな」
横と後ろをあわせ鏡で確認したタローは、手に余ったワックスを洗い流す。
そこにミサトがやって来た。
「ど~お、タロちゃん。ネルフの正装よ!」
普段ならばこの時間、ミサトようやく夢の世界から目覚める頃だろう。しかし今日のミサトはタローとともに早起きして朝食を済ませ、ネルフの正装の制服へと着替えていた。
上下黒。ジャケットのボタンを上まできっちりと留め、下はミニスカートではなくロングスカート。いつもとは全く異なる雰囲気を醸し出すミサトに、タローは感嘆の声を漏らす。
「お~、カッコイイですね。いつもと違って大人! って感じです」
「でっしょ~!? ......ん、待てよ? いつもと違って?」
「はい! いつもと違って!」
曇り無い笑顔でそう言うタローに、ミサトはショックを受ける。『いつもは大人っぽいと思われてなかったの!?』という悲しみから思わず涙目になるミサトを見て、タローは遊びすぎたかと反省して慰める。
「冗談ですよ。いつものナチュラルな感じも好きですけど、今日の綺麗におめかししてるミサトさんも好きです」
「ヤダ、ときめいちゃいそう!」
恍惚な表情をするミサトに、この人ならどんだけ適当に褒めても喜びそうだなとタローは思う。キザなセリフにどのような反応を示すのか、彼が面白半分で試した結果生まれた体をくねらせるミサトは、ピタッと体の動きを止める。
「タロちゃんこそその髪型、似合っててとても素敵よ。オールバックもカッコイイわ」
「......ありがとう、ございます」
今日は学校を欠席し日本重化学工業共同体が開発した巨大人型自走兵器、
普段はワックスなど使うことはなくただドライヤーで前髪を流すだけという学生らしい髪型をしている彼は、ネルフの代表として参加するのだから舐められてはいけないとオールバックスタイルに髪をセットしていた。同時に色気を出すためにあえて数本の束の前髪を垂らしたその髪型をミサトは褒めると、すぐさまスマホを取り出してパシャパシャとあらゆる角度で写真を撮り始める。普段ならばある程度のところで待ったを掛けるタローも、ミサトから素直に褒められたことで気が良くなり撮影をやめさせなかった。
そうこうしている内に、葛城家の玄関扉が音をたてて開かれる。扉を開いた人物は葛城家へと上がってダンダンと大きく足音をたてながらタローとミサトがいる洗面所へと向かい、写真を撮られてる、撮っている二人に向かってため息を一つ。
「はあ。あなた達、全然降りてこないから何事かと思って来てみれば」
「あ、リツコ。おはよ~」
葛城家へと上がった人物、リツコは気の抜けたミサトに呆れながらも律儀に挨拶を返す。彼女もまた普段の白衣姿とは異なり、青色のスーツに身を包んでいた。
「おはようございますリツコさん、今日もおキレイでございますね!」
「おはよう。今日はやけにテンションが高いわね、息をするようにそんな言葉が出てくるなんて」
呆れ笑いのリツコが言うように、タローは普段以上に舞い上がっていた。
元々エヴァンゲリオンに興味が薄かった彼がエヴァンゲリオン以外の大型ロボット、JAを見ることが出来るからという理由ではない。ミサトとリツコ二人の普段とは違う服装を見たから、というのも少しはあるがここまでテンションが上がることではない。
今朝、目を覚ましたタローは思い出したのだ。細かなところは覚えていないものの、この後に起こる展開......JAが暴走し、それをミサトがなんやかんやして止める。そしてそれが無事終われば次は。
(もうそろそろで、アスカに会える......!)
ドイツからセカンド・チルドレンとエヴァンゲリオン弐号機が海を渡ってやってくる。おまけに使徒がやってくることまでタローはしっかりと覚えていた。
リツコにテンションが高いと言われた彼はそれに返事をすることなく、頭の中をアスカで一杯にしてニコニコと笑うだけ。それを訝しんだリツコはミサトに耳打ちする。
「ミサト、あなたタローくんに手料理でも食べさせた?」
「ちょ、なんでそうなるのよ!? 大体私、キッチンにはタロちゃん同伴じゃないと立たせて貰えないし」
「......今は女性が働いて男性の専業主夫っていうのも珍しくないし、ネルフの給料なら大丈夫だけど。流石にそれは女性としてどうかと思うわよ」
せめて簡単な手料理くらいは作れると思っていたわ、と顔を引きつらせたリツコは腕時計を確認する。時間ギリギリ、そろそろ下で待たせている車に乗り込み本部付近のヘリポートからVTOLに乗り換えなければならない時間だった。
「さて、準備は出来ているでしょう? いい加減出発するわよ」
「あ、はい。すみません」
「はいは~い」
先に葛城家を出ていったリツコ。その後をタローとミサトは追っていった。
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同時刻、ネルフ本部司令室。
「それで、例の件に関してはどうするんだ?」
相変わらずのゲンドウポーズを取るゲンドウに、冬月が声を掛ける。例の件とは今まさにタロー達が完成披露記念会へと向かっているJAのこと。
ゲンドウは眉一つ動かさずに応える。
「予定通りだ。あれはまだ使徒との戦闘に使えるものではない、こちらの予算を減らされては困る」
「ふ、その通りだな。今日の完成披露記念会には赤木博士の提案で白露も同席するそうだが......一体どう処分するつもりかね? プライム・チルドレンがいる状況で手荒な真似をすれば老人達も黙ってはいないだろう」
「奇跡を演出するのさ。そして老人達の注意を逸らす。牙を持った時、それをこちらの切り札にする......プライム・チルドレンと同じ様にな」
老人達、ゼーレに感づかれないようにJAを処理しつつ、来たる決戦の時の手札に加える。それがゲンドウの狙いであり、自身の計画の邪魔をさせないための策略。
ネルフ内で彼の計画の全てを知るのは、今まさに隣で『相変わらず悪知恵が働くな』と笑う冬月のみ。そんな冬月がポケットから一枚の資料を取り出す。
「ドイツで予定されていた5、6号機の建造だが......レーマン博士が一役かったことで、ドイツが直前で建造を撤回したそうだな。中国の動きはどうだ?」
「8号機から建造に参加するという姿勢は変わっていなかったが、欲深いあの国のことだ。英国によって引きずり降ろされた地位に再び立とうと躍起になっているだろう。レーマン博士を筆頭にドイツ支部の職員は引き続き最重要保護プログラムを適用だ、プライム・チルドレンを向こうに握られる最悪の自体は回避せねば」
ゲンドウの指示に冬月は頷く。
ゼーレの計画ではドイツで5、6号機を建造するはずだった。当然、ネルフドイツ支部もそれを拒否するつもりは無かったのだが、タローとアスカが状況を変えてしまったのだ。
幼少期からエヴァパイロットとしての生活を余儀なくされていたにも関わらず、弱音の一つも吐かずにその使命を全うしようとする健気な姿勢。それに心を痛めない大人が居ないわけがなかった。
そこに、もともとエヴァンゲリオンというものに疑問を抱いていたイェーナが後押しをした。ドイツ最高の頭脳と呼ばれる彼女が『二人の幸せのためにも、もう二度とあの子達のように運命を背負わされた子達を生み出すようなことはすべきではない』と言えば、誰がそれに歯向かうことが出来るだろうか。
新たなエヴァンゲリオンの建造よりも、ドイツ支部から巣立つ息子と娘の支援を優先すべき。それがドイツ支部としての考えであり、建造に関わる者達の総意。
それはゲンドウにとって嬉しい誤算であった。彼らの計画に必要なエヴァはエヴァンゲリオン:プライマルのみ。ドイツで建造する予定だった2機の完成が遅れることはそのままゼーレの計画進行が遅れることに繋がり、決戦の時が訪れればゼーレ側の戦力を想定より低下させられる。
しかしドイツ支部のその決断はゼーレのシナリオから外れたもの。ドイツでの建造を強行するつもりがあれば、最悪の場合は障壁となっているドイツ支部を丸ごと抹消される可能性もある。
仮にそうなった場合やそれを脅しに使ってきた場合、特にドイツ支部への思い入れが強いプライム・チルドレンのタローがゼーレ側につく可能性もゼロではない。なんとしてもそれだけは阻止するために、ゲンドウはあらゆる手段を講じてドイツ支部を保護していた。
「レーマン博士の頭脳とドイツ支部の技術力をなくすのはあまりにも惜しい。プライム・チルドレンのみならず、葛城一尉とのコネクションで良い関係を結べている。そこにセカンド・チルドレンも加わるのだ、もしもの時にはこちら側につくと言って良いだろう」
「お前にしてはずいぶん楽観的だな、碇。私も概ね同意だが、まさか白露がここまでの働きをしてくれるとはな」
「ああ。この我々の計画はプライム・チルドレンなくして遂行することは出来ない。奴はまさに、運命を自ら手繰り寄せる新人類だよ」
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「っくしょん! ......あ~あ、どうすんだこの状況」
旧東京都心、JAの完成披露記念会が行われている会場の一角。ネルフ御一行様と張り紙がされた控室の中で、タローは大きなくしゃみの後に同席した二人の成人女性が荒ぶる様子を見てため息をつく。
「ケッ! このッ、このッ、クソッ! あの俗物共が! どうせうちの利権にあぶれた連中の腹いせでしょう!? 腹立つわねぇ~この! クソッ!」
汚い言葉と共にガンガンと音を立ててハイヒールのかかとでロッカーを蹴りつけ、これで通算3つ目のロッカーをベコベコにへこませて破壊したミサト。それでも怒りが収まらない彼女は蹴り心地が悪くなったベコベコのロッカーの隣に移動し、4つ目のロッカーを破壊し始める。
一度だけ、初陣を終えた後に少々メンタルが荒み自身を否定する言葉を言ってしまったタロー。その時もミサトは怒りはしたものの、今のように感情をむき出しにした暴力的な怒りではなく、叱ると言ったほうが正しい理性的な怒り方。
いつもひょうひょうとしている彼女が我を忘れた子どものようにロッカーを破壊している様に、タローはなんとかなだめようと近づいてしまった。
「み、ミサトさん......落ち着いムゴッ!?」
「はぁぁぁああ、たまらん......っ、やっぱタロちゃんしか勝たん!」
ガッツリとミサトの胸元にホールドされるタロー。これ以上ミサトに暴れられるよりはマシだ、と抵抗せずに大人しくそれを受け入れる。
役得だ、とミサトの胸の中で精神年齢おっさんがニヤけているとは知らずに、リツコはそれを止める。
「およしなさいよ大人げない。もう少し余裕というものを見せるべきよ」
一見すると冷静なリツコ。だがタローは見ていた、般若のような顔をする彼女を。
「自分を自慢し褒めてもらいたがっている......比べるまでもなく大した男じゃないわ」
リツコが手にしているのは一人ひとりに配られたJAの資料本。タローはしっかりと保管、ミサトは控室に入ると同時に丸めてゴミ箱にぶち込んだそれを、リツコは黒い笑みを浮かべながら手にする。
かと思えば、その資料を自分達を小馬鹿にしてきた日本重化学工業共同体の代表、時田 シロウに見立ててじっくりと自前のライターで火炙りにしていた。
「っていうか、そもそもなんでアイツらがATフィールドまで知ってんのよ!? 諜報部は何やってんのかしら!」
ミサトの発言に『極秘情報がダダ漏れね』とリツコ。ATフィールドを持つ使徒には一般兵器で対抗できない、だからこそそのATフィールドを中和できるエヴァが必要。ところが時田はそのATフィールドという存在を知っていたようで、リツコがネルフの主力兵器以外では
別にソレだけでここまでの不快感と怒りを顕にするほどリツコとミサトは血気盛んではない。問題はATフィールドを知られていたことではなく、エヴァパイロットの否定だった。
零号機も初号機も暴走を起こさず正常に運用出来ている状況下では、エヴァという兵器自体を完全に否定することはできない。そこで時田はシャムシエルとの戦闘で逃げ惑う初号機の画像を提示し『いくら兵器が優秀でも、このように無様な姿を晒す者がパイロットではねえ』と言い会場の笑いを誘った。
その発言には当然の様にタローが怒り今にも飛びかかりそうだったものの、その場ではミサトとリツコに制されて事なきを得た。しかし控室に戻ってみればタローを抑えた二人が広すぎるテーブルの中央にビールを置く、三名と言っているのに椅子を2つしか用意しない、料理などは提供なしなど地味な嫌がらせの数々を思い出して彼以上に荒ぶり始め、それを見たタローは一周回って冷静になっていたというのがここまでの話である。
「大体あの初号機の画像、アングル的にネルフ内部に内通者がいるってことよね」
「そうね。その件に関しては帰ってから報告しましょう」
ネルフに極秘状況を提供した内通者がいる。その事実にミサトとリツコがまたヒートアップしそうになったところで放送が入る。
「まもなく、JAの起動テストを開始します。ご来場の皆様は、管制室までお集まりください」
いくら頭に来てるとはいえ、現物をしっかりと見てその情報を持ち帰るのが仕事の三人。放送を聞き、顔を見合わせて頷いてから管制室へ向かう。後にボコボコにされたロッカーを見て清掃員が唖然としたことは知る由もなく。
管制室に全員が集まったのを時田が確認すると、格納ビルが左右二つに分かれ、ついにJAがその姿を現す。人形ではあるが生物的要素はなく、タローはそのシルエットからどことなく初陣の相手となったサキエルを連想した。
「これより、J.A.の起動テストを始めます。何ら危険は伴いません。そちらの窓から安心してご覧ください」
「チッ、ホンット厭味ったらしい言い方ね」
当てつけかしら、と時田の言葉遣いに小さく憤慨するミサト。その横で静かにコーヒーをすするリツコも同意して頷いていた。
窓に張り付いてJAの性能をしっかりと確認し、自分達が作り上げたものの成果を見届けたい重化学工業企業。そして投資するリスクとリターンを確認したい企業の重役と異なり、タロー達ネルフ組は壁によりかかって遠目から見るだけ。
「テスト開始!」
時田の声に、オペレーター達が遠隔操作を始める。全動力を開放し冷却も問題なし。制御棒と呼ばれる黒い棒状のものがいくつかJAの背中から映えてきたところで、顔に当たる部分に光が灯る。
「歩行開始!」
「歩行、前進微速。右足、前へ!」
「了解。歩行、前進微速。右足、前へ」
時田に続いて二名のオペレーターの声。そしてJAが一歩を踏み出す。
ドシン、と地を鳴らした右足を前に出したJAに、会場ではネルフ組以外の招待客が『おお!』とざわめく。バランスが正常であることをオペレーターが確認すると、続いて左足を前に出して。そして今度は右足、左足と歩を進める。
「へえ、ちゃんと歩いてる。自慢するだけのことはあるようね」
「歩くだけじゃあ囮程度にしか使えないけれどね」
順調に歩行を続けるJA。次は立ち止まって機動力のテストをしようかと時田が考えていた矢先、ピーッという警告音が鳴った。
「どうした?」
「変です。リアクターの内圧が上昇していきます!」
「一次冷却水の温度も上昇中!」
「バルブ開放、減速材を注入」
「駄目です、ポンプの出力が上がりません!」
後ろでなんか聞き覚えのあるやり取りやってるな、とこの世界ではまだそのセリフを言っていないマヤの顔を頭に浮かべたタローが聞き耳を立てる。
その間にもJAは歩行を続け、ついには管制室の目前に迫っていた。
「いかん! 動力閉鎖、緊急停止!」
そう時田が指示するも、JAに発信された停止信号は受信されず。無線回路も不通となり、止まる気配のないJAとオペレーターの『制御不能!』という声が響いた管制室はパニック状態に。
「っ全員、窓を正面に左右に散開! 早く!!」
このままではJAに踏み潰されて死傷者が出る。タローはJAの足幅を計算し管制室の両脇なら安全と判断しよく通る声で指示を飛ばす。
そのかいあってJAが通り抜けた後に残ったのは管制室の瓦礫のみ。ネルフ以外の招待客は怯えながらも全員無事だった。
「ゲホッ、ゲホッ。ったく、つくり手に似て礼儀知らずなロボットね。ナイス判断よタロちゃん」
「パイロットがいるから駄目だなんて、よく偉そうに言えたものね」
「うわあ、二人共めっちゃ根に持ってる......」
もちろん元々壁に寄りかかっていたネルフ組も無事。三人揃ってJAによって日が差し込む天井を眺めた時に、大きな警告アラームが鳴り響く。
「加圧器に異常発生! 制御棒、作動しません!」
「このままでは炉心融解の危険もあります!」
「し、信じられん......JAにはあらゆるミスを想定し全てに対処すべくプログラムが組まれているのに......このような事態はありえないはずだ......」
オペレーター達の報告にうろたえた時田は『そんなハズは』と現実逃避にも似た言葉をボソボソとつぶやく。
JAの動力源は原子炉、つまり核分裂反応を動力として使っている。その原子炉が冷却されず動作も停止させられないとなれば、いずれ限界を迎えた原子炉が
それだけでなく、爆心地を中心にした広範囲は核汚染によっていかなる生命も生まれない不毛の地と化す。旧東京、海の上でそれをされるだけでも大規模な海洋汚染に繋がるが、最悪の場合歩き続けるJAを止めなければ都市部でそれが起こり得ること。
そうなってしまえば国民の命、土地、様々なものが犠牲となる。ミサトは未だに動揺している時田を睨みつけた。
「あり得ないあり得ない言ったって、現にいま炉心融解の危機が迫ってるのよ!」
「こうなっては自然に停止するのを待つしか方法は......」
「自動停止の確率は?」
チラリと横に居たオペレーターに視線を送るミサト。オペレーターの答えは、0.00002%。
「まさに奇跡と言える確率です」
「そうなれば奇跡を自らの手で起こすしかありません。時田さん」
タローが一歩前に出て時田の目を見る。ネルフからやって来たのはわかるが、この少年は一体......と顔に出す時田に、タローはニヤリと笑った。
「失礼、申し遅れました。私はエヴァンゲリオンのパイロット、白露です」
「き、君が......しかし、方法は全て試した」
目をそらす時田。こんな少年がエヴァのパイロットだったのか? という感情を悟られないようにしたものだったが、タローはそれを別の手段があるからだと解釈し詰め寄る。
「嘘つけ、全てを白紙に戻す最後の手段があるはずです。資料によると、本体内部に想定外の事態に備えてのコントロールパネルがあるそうですが?」
「うわよく見てたわねタロちゃん、私目も通さずに捨てたわよ。リツコは?」
「2ページまで読んだけど、その後は何故か溶けて消えてしまったわ」
自らの後ろでそんな会話がされていたタローは、コレじゃ格好つかないと僅かに赤面する。幸いにも、それが気付かれることはなかった。
「しかし全プログラムのデリートは最高機密、私の管轄外だ。口外の権限はない!」
「なら『なら命令を貰いなさい。今すぐ!』......そうだそうだ! 命令貰えこのヤロー!」
「タローくんのセリフ取るんじゃないわよミサト......」
見せ場をミサトに取られたタローは適当なヤジを入れる。リツコはそれを見て一気に締まりが悪くなったなとカップに残ったコーヒーを飲み干した。
しかしエヴァパイロットであるタローと、その上司であるミサトからの圧に押された時田は半ば諦め命令をもらうために電話を掛ける。しかし内務省、通産省、防衛省、各重化学工業の責任者からの返事は『こっちだけじゃ困るから書面で別の者にも回して』というもの。ミサトは『たらい回しか』とつぶやく。
「今から命令書が届く。作業は正式なものだ」
「そんな間に合うわけないでしょう。爆発してからじゃ何かも遅いのよ!」
そうミサトが言った直後に、JAが厚木方面に向かい進行中という知らせが入る。いよいよ余裕がなくなってきたところで、ミサトは強硬手段に出た。
「時間が無いわ。これより先は私の独断で行動します......あしからず」
黙り込み返事をシない時田に、沈黙は肯定理論で行動を開始するミサト。ネルフの権限を持ってすれば強制的に動くことは出来るが、あくまでも彼女は『早期解決のために独断で』という体裁を保つ。
そこにはやはり必要以上の敵を作らない、という意図があった。
「そーゆーわけだからタロちゃん、協力してもらえる?」
「もちろんです。オレが出来ることならなんでも!」
「チッ、尊い! よし、じゃあ壱型を......ってリツコ、壱型って出れる状況だっけ?」
「ええ、もう空挺投下用のF装備でこっちに持ってくるよう連絡はつけたわよ」
「おお、頼もしいわね!」
ミサトがボコボコに破壊したロッカーがある206の控室に向かう途中、そんな会話をする。
ヤシマ作戦でラミエルの攻撃を防ぎ続けた壱型が限界に近いことは確かだった。しかし、突如始まったリツコとマヤも首を傾げるほどの急速な修復により内部の素体は復元、装甲もドイツ支部からのサポートで予備を揃えられていたことが幸いし、初号機と零号機と共にすでに運用できる状況。
壱型とタローに無理をさせるようであればレイとシンジを要請することも考えていたミサトだったが、機体もパイロットもやる気満々なために予定通り進めることに。
暴走したJAを壱型で抑え、ミサトが乗り込み全プログラムを消去。三人は危険が伴う作戦の成功に向けてそれぞれ動き出した。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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サクサク進む(3000~4000字程度)
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少し書き込む(5000~6000字)
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ガッツリ書き込む(7000字以上)
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サクサク書き込め