ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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本編 アスカ登場
1話 アスカ襲来


『......』

「んっはっは! 今日も良い天気だなぁ全く。お天道様が僕ちんを照らす、なんちって♪」

 

 Mi-55D輸送ヘリ。その中で上機嫌なタローを見て、シンジ、トウジ、ケンスケは唖然とする。

 いつもニコニコはしているものの、それは優しげで大人びた笑み。そんなタローがまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供の帰り道のように、満面の笑みでワクワクという擬音が頭上に浮かびそうな状態なのだ。三人はそろって『一体どうしたんだ』という感想を抱く。

 

「やっぱ良いよね、海。母なる地球が我らに与えたオアシス! すべての生命の源さ」

 

 現在タロー達四人、そしてミサトとヘリの操縦士を含めた六人は太平洋上空を飛行している。

 目的は国連軍の太平洋艦隊が輸送しているエヴァンゲリオン弐号機の電源ソケットを届けることと、弐号機パイロットであるセカンド・チルドレン。惣流・アスカ・ラングレーとの顔合わせ。

 タローが上機嫌な理由はそこにあった。

 

「ミサトさん......タローくん、どうしたんですか?」

 

 しかしそんなことは知らないシンジが前の座席に座るミサトに問いかける。ミサトは気の抜けた声を出した後に、ウインクしながら応える。

 

「タロちゃんにだって、楽しみになることくらいあるのよ。服だって気合入ってるじゃない?」

「まあ、確かに」

 

 肩と肩がぶつかるくらい近くで右隣に座るタローを上から下までみたシンジは頷く。

 変な服装ではよくないからと、いつも通り制服のシンジとケンスケ。これがワシの正装や! といつものジャージのトウジに対して、タローは赤色のポロシャツに黒いジャケット、下は淡い黄色のスラックス。そして腕時計を付けてバッチリ決めた格好。

 偶然にもドイツ国旗カラーに見を包んだ彼を遠目で見たトウジが、思わず『今日は宜しくお願いします!』と挨拶してしまった程に中学生らしからぬ姿のタローが、小学生よりもワクワクしている状況にシンジは考えることを放棄した。

 

「やっぱミサトさんエエなぁ。本物の大人の余裕や」

「そうかな? タローくんと同じでミサトさんも何か楽しみにしてそうだけど」

 

 左隣に座ったトウジの小声にシンジがそう返す。シンジはトウジの位置からはギリギリ見えない、腕組をしたミサトの右腕の人差し指が忙しなく動いているのを見て『ミサトさんも気になることがあるのか』と思っていたのだ。

 報連相に厳しいミサトがエヴァ弐号機のパイロットと顔合わせをする、という重要なことをタロー以外に伝え忘れていたと言えば、彼女がどれだけ浮ついているかわかるだろう。

 

「おおーっ! 空母が5、戦艦4、大艦隊だ! ほんと、持つべきものは友達だよなあ!」

 

 窓の外にカメラを向けていたケンスケの声に、三人の男子中学生は一斉に外を見た。

 

「うわーお、動く実物は初めて見たな......」

「でっかい船だなぁ。飛行機が上に乗ってる」

「全然見えへん!」

 

 横須賀の記念艦三笠以外は軍艦を直に見たことがないタローは白露という名字の縁もあって駆逐艦に興味があり、シンジは国連太平洋艦隊の旗艦であり乗っている輸送ヘリがこれから着艦する超大型空母オーバー・ザ・レインボーを見て素朴な感想を、トウジはもうちょっと詰めろと騒ぎ立てる。

 そしてオーバー・ザ・レインボーの艦橋では、彼らが乗るヘリを見上げるワンピース姿の一人の少女が。

 

「来たっ......!」

 

 少女が軽やかに階段を降りて甲板に降りると同時に、輸送ヘリもオーバー・ザ・レインボーの甲板に着艦する。

 ヘリの内部では我先にとシートベルトを外して飛び出すケンスケとトウジ、軍艦や戦闘機に興味は無いためゆったりとした動きのシンジ、そしてアスカと出会うために深呼吸しているタローとミサトに分かれた。

 

「よし、行くか」

 

 タローが降りるころには、すっかりミサトもシンジもいなくなっていた。パイロットに軽くお礼を言った後に甲板へと足を付けたタローは強い海風に吹かれ目を細める。

 

「遮るものがなにもないと、すごい風だなあ」

Hey you, you!(ねえ君、そこの君!)

「へ?」

 

 海風にまぎれて聞こえてきた男性の英語。タローがそれに返事をすると、ミサト達が向かった方とは逆方向に腕を強く引っ張られる。

 

「おわっ、ちょっと! 何ィ!?」

 

 かなりの力で引っ張られているためタローが抵抗せずそれに付いていくと、とうとう甲板の端までやってきてしまう。

『しくじった』。周りに誰も人が居ない状況を確認したタローはそう思う。世界中探しても片手の数しか居ないエヴァパイロットが一人になるという状況を作り出してしまったのだ、今自分の腕を引っ張っている人物に何をされるか分かったものではない、と。

 タローがそう考えると同時に、腕を引っ張る人物は彼を開放して太陽に背を向ける形でタローと向き合った。

 

「綺麗だよね、平和な海」

「ああ......うん?」

 

 自身よりもかすかに背が高く、声と体つきからして男と思われる人物の流暢な日本語にタローは困惑する。

 英語で呼びかけられたと思いきや突然日本語に変わった目の前の人物の顔をタローが良く見ようとすると、彼の後ろにある太陽が輝きを増した。

 

「君の少し後ろの甲板にサ、ちょっとした細工をしてあるんだ。開けてみて」

「......わかった」

 

 どことなく語尾が外国人の喋る日本語のようなイントネーションになった人物の命令に、大人しく従い背を向けて屈んだタロー。彼が甲板をさすって手探りすると、パカッという音とともに一辺が五センチ程の四角形に一部が外れる。

 そうして生まれた空間の中には、小さな箱が一つ収まっていた。

 

「これは?」

「その小箱さ、艦長に渡してよ。エミリーにって。本当は僕が渡したかったんだけど」

「じゃあ自分で......あれ?」

 

 タローが振り返ると、すでにその人物の姿はなく。そもそも太陽の方角すら異なっていた。

 

「え、ヤダ怖い」

 

 高所恐怖症に加えて心霊も嫌いなタローは甲板をもとに戻し、足早にその場を去ってミサト達の元へ向かう。

 その頃のミサトはというと、興奮しながらカメラを回すケンスケに、風に飛ばされた帽子を追いかけるトウジ、大あくびをするシンジの後を軍人達に笑われながら気まずそうに歩いていた。

 

「くっそお、止まれ止まらんかい!」

 

 コロコロと甲板の上を転がる帽子を追いかけるトウジ。そんな彼の願いが通じたのか、帽子はある人物。艦橋から彼らが乗って来た輸送ヘリを見上げていた人物の足にぶつかって止まる。

 

「おっ!」

 

 ようやく帽子が回収できそうだ、と笑顔を見せたトウジ。彼の帽子を止めた足の持ち主は、腰に手を当てた状態で足を上げて帽子を踏みつけ......はせず。そっと帽子をつまみ上げた。

 

「気をつけなさい」

「お、おお......どうも『アスカッ!!』」

 

 トウジが少女から帽子を受け取ると同時に、後方にいたミサトが瞬間移動かと見間違う程のスピードで駆け出す。

 戦闘機や軍艦の撮影に夢中になっているケンスケは気付かなかったが、シンジとトウジはそのスピードに驚く。しかしミサトにアスカと呼ばれた少女は微動だにせず、目の前に近づいてきたミサトに対して陽気な挨拶を。

 

「ハロー、ミサト。元気してた?」

「元気も元気よ! アスカも背伸びたわねえ!」

 

 ガバッとアスカを覆いながら抱きしめるミサト。アスカは眉をヒクつかせるが、平静を保つことに努める。

 

「そっ。他のところもちゃ~んと女らしくなってるわよ」

「んふふ~、抱いてわかったわよ! 相変わらずの良い匂いとサラッサラの髪に引き締まった体は5年前から変わってないけど......小さくても感じるこの感触ワッ!?」

 

 爆発にも似た音を立てて、ミサトがアスカの足元に撃沈する。振り下ろされたアスカの右拳からは煙が上がっていた。

 

「ちょっと、全然カッコつかないじゃないのよ! 変に背伸びたせいでミサトの胸で窒息しそうになるし! てか余計なこと言うんじゃないわよ!」

「ったたー、良いじゃないのよ感動の再会なんだし! もうちょっとアスカを堪能させなさいよコノ!!」

「もー暑苦しい! あんた本ッ当変わってないわね、このハグ魔! イェーナに殴られときなさいよ!」

「それがいつもタロちゃんの写真とか送ってあげてた恩人に言う言葉ぁ!? イェーナさんの鉄拳はアスカのと違って普通に痛いからイヤ!」

「じゃああたしが代わりに殴ってやるわよ! 大人しく頭出しなさい!」

 

 盛大な喧嘩が始まってしまった。アスカとミサトのやり取りをみたシンジは最初こそそう思ったが、これが喧嘩では無いことに気がつく。

 

「笑ってる......」

「ホンマや。あんなに楽しそうなミサトさん初めて見たで」

 

 口では物騒な言葉を発しているアスカも、それを拒否して抱きつこうとするミサトも、両者共に笑顔だった。

 それを見ていたトウジの楽しそうにしてるミサトを初めて見た、という言葉にシンジは迷う。『タローくんと居る時はいつもあんな感じだよって言っちゃおうかな。でもトウジはミサトさんを大人の女性だって思ってるし......どうしよう』と。

 いっそのこと暴露すればミサトをちょっと残念な人だと思う自分に同意してくれるだろうかと考えたシンジだったが、友人の夢を壊すわけにはいかず『そうだね』と同調した。

 やがてアスカとミサトのキャットファイトも終わりを迎え、アスカを抱きしめ堪能したことでツヤツヤになり光り輝いた目をするミサトと、彼女の胸の中で格好良く登場しようとしたのにと死んだ目のアスカがシンジ達に近づく。

 

「紹介するわ! エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット、セカンドチルドレンの惣流・アスカ・ラングレーよ!」

 

 元気なミサトの声と共に突風が吹く。アスカのワンピース、そのスカートが風に吹かれてめくれあがりそうになり、シンジとトウジは思わずそこに視線が向き、ケンスケもシャッターチャンスとカメラを向ける。

『嫌、このままじゃ』

 そうアスカが思うと同時に、ミサトがアスカを抱きしめる右手を離してそっと彼女のスカートを抑え、スカートがめくれることを防いだ。

 

下着を見せるのはタロちゃんだけだものねっ

「な!?」

 

 やったことは紳士的でも、イヤラシイ笑みを浮かべてアスカにささやくミサト。それを聞いたアスカはすぐさまミサトから距離を取った。

 

「いや~ん、逃げないでよアスカぁ。もうちょい!」

「イーヤーよ! せっかくの再会が台無しじゃない」

「だって会いたかったんだもの~。ほら、もう一回抱きしめさせて! ねっ!」

 

 腕を広げてお願いお願いとせがむミサト。アスカは腕を組み断固として拒否といった様子だったが、それでも再会の喜びが勝ってしまい薄目を開けてミサトを見る。

 

「......ま、まあさっきのお礼もあるし。後で何か奢ってくれるなら、ちょっとくらい良いわよ」

「イヨッシャアアアアアア!!」

 

 雄叫びを上げて腕を広げたミサトの元に近づき、がっつり抱きしめられるアスカ。それを見たシンジ達が思うことは一つ、『チョロい』。

 それを目線で察したのか、アスカはミサトの胸の中で三人を睨みつける。

 

「なに見てんのよ。っていうかあたしのタローは何処よミサト!」

「てぃ、ティーチャーのことあたしの言うたであの女! そういやミサトさん家の玄関にあった写真の女やないかい!」

「あ、そっか。弐号機のパイロットってタローくんが好きな人なんだっけ」

「大スクープの予感!」

 

 アスカの『あたしのタロー』発言で彼女こそタローの幼馴染であると思い出すトウジ、弐号機パイロットが好きだとタローが言ったことを思い出したシンジ、学校の女子人気ナンバー1に想い人がいることを記事にでもしようと考えるケンスケ。

 そんな男子三名のことは眼中にないアスカは、タローなら絶対に来てくれると信じて周りを見渡す。その時だった。

 

「お~い! はぐれてすみませ~ん!」

「っ!!」

 

 アスカにとっては、スピーカー越しに聞き慣れた声。だがその声を聞いた瞬間、彼女は心の中で何かが滾るような感覚を覚え、ミサトの腕を飛び出した。

 

「すみません、ちょっと迷子になっ」

 

 タローは言い終わる前に、胸に強い衝撃を感じる。

 このまま無理に耐えては怪我をすると、とっさに足の力を抜いて倒れる。手で甲板を叩いて受け身を取ったタローが目を開けると、そこにはアスカの顔が。

 

「遅いッ!!」

「......アスカだ......」

 

 眉を吊り上げて怒りの表情を見せるアスカとは正反対に、ハの字の眉でポカンとした表情のタローがつぶやく。

 そのリアクションに、アスカは表には出さずとも胸の奥が痛むのを感じる。『会いたがってたんじゃないの? あたし一人で舞い上がってただけ?』そう考えると同時に一気に押し寄せる羞恥心から飛び込んだタローの胸を離れようとしたが、それをタローが許さなかった。

 

「アスカだ......アスカだぁ......!」

 

 うわ言のように呟くタローは、自身に覆いかぶさるような格好となったアスカの手に触れ、肩に触れ、頬に触れる。チラリと目についた髪留めがかつて自分がプレゼントした黒色のリボンではなく、赤色のインターフェイスヘッドセットになっていたことに若干凹みはしたものの、それでも自称アスカ検定特級取得者の彼の目に映るアスカの悲しそうな顔を放っておけなかった。

 

「アスカ!」

「わっ、ちょっと!?」

 

 アスカの細い腰に両手を添えたタローは、彼女を持ち上げながら立ち上がる。そしてくるくると回転し始めた。

 

「あっはは! アスカだ、本物のアスカがいる!」

「は、離しなさいよ! 何やってんのよもう!」

「本物の......アスカ......っ」

 

 笑顔でアスカを持ち上げたタローだったが、やがて目に涙を浮かべて彼女を下ろす。

 突然泣き始めたタローに焦ったアスカは、彼が自らの腰から離した両手を掴んで腰に押し当てた。

 

「わー!? わかったわよ! つ、続けて良いから泣くんじゃないわよ! ちょっと聞いてるのバカタロー!?」

 

 そんな彼女の様子が面白くなり、タローは笑い声を漏らす。そしてアスカの腰にある両手にそっと力を込め、彼女の背中を優しく抱いた。

 

「会いたかったよ、アスカ」

「ファッ!?」

 

 耳元で囁かれたアスカは、顔を真っ赤にして『これは音声編集で作ったささやき声よりヤバイ』と目をぐるぐる回す。それでも抱きしめ返せるようになったのは、イェーナとの花嫁修業の成果か。

 

「あ、あたしだって会いたかったわよ......バカ」

「......うん、バカだよオレは。舞い上がっちゃってごめん、でもそれだけアスカを感じたかったんだ。それだけは信じてほしい」

「大丈夫よ。アンタはあたしには嘘つかないって、一番知ってるしね」

 

 目を閉じたアスカは、この日のためにと用意した赤いヒールのお陰でタローと同じ目線になり、彼の肩に顎を乗せて固く抱きしめ合う。

 周りの目などすっかり忘れていた二人が、共に『ずっとこの時間が続いてほしい』という思いを胸にいだいた頃。

 

 -----パシャリ

 

 カメラのシャッター音に、二人は目を見開く。音のする方向を見ると、ハアハアと肩で息をしながらよだれを垂らしてスマホを向けるミサトが。その後ろでは『タローくんやるなあ』と苦笑しているシンジと、『そりゃ他の女子になびかんわ』と口をあんぐりと開けたトウジ、そして『いや~んな感じ』と口元を手で隠したケンスケがいた。

 それを見たタローとアスカが固まっていると、ミサトがとても人前に出てはいけない顔をスマホの横からのぞかせた。

 

「どったのよ二人共、続き! 続けて! もうそのまま階段をパァーッと駆け上がってよぉ!」

 

 明らかに世に解き放ってはいけない状態となってしまったミサトがタローとアスカ以外わからないドイツ語で卑猥な言葉を叫び始めたと同時に、二人は顔を見合わせたあとに下を見て自分達が抱き合っていることを意識する。

 同じタイミングで顔をゆでダコのように真っ赤にし、素早く離れた。

 

「ちょっとはっちゃけすぎたかも」

「そ、そうね。まあ、喜んでくれてたなら何よりだけど......」

「......うん。アスカがアスカでいてくれて、凄く嬉しいよ」

 

 目を合わせないで会話する二人を無言のまま写真に収めるだけ収めたミサトは、後ろを振り返って置いてけぼりをくらった三人の男子中学生に言う。

 

「いい、あの二人の邪魔しちゃ駄目よ」

「邪魔なんてしませんよミサトさん。あそこで手繋いだままってタローくんと惣流さんはどれだけラブラブなんですか......」

「鈴原 トウジ、決して友人の邪魔はしませんミサトさん!」

「同じく相田 ケンスケもです!」

「流石の着眼点よシンジくん! 鈴原くんと相田くんも助かるわ、そっとしといてあげてネっ」

 

 ウインクしたミサトに対しての、トウジとケンスケの大きな返事が太平洋に響いた。




主人公を一旦引き剥がすために茶番をはさみました。
余談ですが船の上で話しかけてきた人が気付いたら居なくなってた経験は筆者も海外であります。その時はポケットにあった小銭入れも同時に居なくなってたなぁ......

物語の密度と1話ごとの文字数について

  • サクサク進む(3000~4000字程度)
  • 少し書き込む(5000~6000字)
  • ガッツリ書き込む(7000字以上)
  • サクサク書き込め
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