ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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3話 近況報告

 オーバー・ザ・レインボーの艦橋を後にした一行は、空母内にある食堂へ座っていた。長テーブルでいわゆる誕生日席から時計回りにミサト、タロー、アスカ、向かい側にケンスケ、トウジ、加持と七人が並んでいた。

 

「今、付き合ってるヤツ居るの?」

 

 加持は向かい合っているミサトに足を伸ばしテーブルの下でちょっかいを掛ける。腕を組んで仏頂面のミサトは眉一つ動かさず沈黙を貫く。

 

「タローはこのあとどうするのよ?」

「明日は学校があるし、もっとアスカと一緒に居たいけど第三新東京市に戻らなきゃなんだよね」

「えー!?」

 

 あくまでタロー達は弐号機の電源ソケットの輸送に付いてきたに過ぎないため、これ以上ここに残る理由は無い。だがミサトは再会した直後にすぐ別れるようではアスカが騒ぐのが目に見えていたため、特別な用事を作っていた。

 

「すぐじゃないわよ、タロちゃん。このあとはここ、オーバー・ザ・レインボーの見学があるから」

 

 その言葉に誰よりも早く反応したのはケンスケだった。

 

「見学! つまり、自由に見回って良いってことですか!?」

「そうよー。でもあまり深入りはしないように」

 

 舞い上がったケンスケにはミサトの忠告は耳に入らず。代わりにとトウジが返事をする。

 

「安心してください、このワシ鈴原 トウジが責任もってケンスケを見張っとります!」

「あらそう、それは助かるわ。ありがとね鈴原くん」

「とんでもございません!」

 

 ミサトがトウジとケンスケを上手いことコントロールしているこの光景は、タローとシンジにとっては見慣れたもの。しかし加持は意外そうな顔をしていた。

 

「驚いた。まさか葛城がしっかり保護者やれてるなんてな」

「......」

 

 また無言になるミサト。シンジはその会話を目の前で見てなんとなく察していた。『この人は多分ミサトさんの黒歴史なのかも』と。

 だからこそ二人の間に挟まれている状況下でタローに助けを求めようとしたが、タローはアスカにべったり。トウジはミサトの顔を目に焼き付けているし、ケンスケは興奮してメガネを曇らせている。

 諦めたシンジはただ空気になることに努めた。

 

「そうだタローくん、君は今葛城と同居してるんだろう? 実際のところはどうなんだい?」

 

 加持がタローに話を振ると、その場に居た全員の視線が集まる。シンジからは『どう切り抜けるんだ』という視線、トウジとケンスケからは『普段はどんな感じなんだ!?』と期待のこもった視線、ミサトからは『信じてるわよ』とタローに委ねる視線、アスカからは『なんでそっちに目線移すのよ』と刺すような視線。

 

(ミサトさんが婚期逃すと可愛そうだし、本当のことは言わんとこ)

 

 そんなことを心に思ったタローはミサトのできる大人というイメージを守ることにした。

 

「相変わらずですよ。公私どちらでもオレ達のことを考えて助けてくれる、良い人です」

「タロちゃん......!!」

 

 あえて細かくは言わないことで、後のことをそれぞれの想像に任せることにしたタロー。ミサトは感涙を浮かべているが、アスカにはタローの思惑がバレているのかニヤニヤとしていた。

 タローの発言に加持は感心したような表情を見せる。が、ここで少しちょっかいをかけようとあのセリフを言おうとした。

 

「ほう。葛城にそんな一面があるなんて、そりゃ知らなかったな。こいつの寝相ブハッ!?」

「あ、ごめ~ん加持さん。手が滑っちゃった」

 

 寝相の悪さ直ってる? そう加持が言おうとした時、アスカはミサトの名誉のためにコーヒーカップの下にあるお皿、ソーサーを加持の顔面めがけて投げつけた。

 加持の額にクリーンヒットしたソーサーは割れることは無く、机の上をコロコロと転がって再びアスカの元へ戻っていった。

 

「ナイスアスカ、これでミサトさんの名誉が守られた」

「ま、ミサトには恩があるし、余計なこと言われるとあれだしね。そうだタロー、あんたこのあと付き合いなさいよ」

「アスカに?」

 

 聞き返したタローに、アスカは当然といったように頷く。

 

「そうよ。どうせ見学できるって言ってもオーバー・ザ・レインボーとか興味ないでしょ? 弐号機に挨拶しにいきましょ」

「弐号機に......」

 

 アスカの提案に考え込むタロー。弐号機に挨拶、という彼女の言葉遣いがすこし引っかかっていた。

 タローはアスカのことを見る。彼女は弐号機のことを自身を証明するための道具に過ぎない、そんな考えを持っていると思っていたタローは、アスカの目を見て考えを変える。

 

「そうだね、ちゃんと挨拶しにいかないと。弐号機に」

 

 弐号機は決して道具ではない、あたしの相棒。だからあんたが挨拶するのは当然。

 アスカの力強い瞳からそれを感じ取ったタローは、彼女の意識の変化に喜ぶ。エヴァに対して心を開くようになったアスカがどれだけ凄まじいかを知っているから。

 

「決まりね。じゃあミサト、あたし達ちょっと抜けるから」

「ほえ? どこ行くのよ」

「弐号機のとこ。タローもシンクロテストしてたんだし、顔見せておきたいのよ」

「顔......? ええ、わかったわ。時間になったら連絡するから」

 

 アスカの言い方がまるで友人に別の友人を紹介する時のようで違和感を覚えるミサトだが、特に気にせず承諾する。

 これで許可は取った、と立ち上がったアスカはタローの腕を引いて食堂から出ていこうとするが、それをタローが一度止めた。

 

「アスカ、ちょっと待って。ミサトさん、これ後で艦長に渡しといてください」

 

 タローが取り出したのは、甲板で見つけた小さな箱。それを目の前に置かれたミサトは首をかしげる。

 

「ナニコレ?」

「甲板に落ちてたんですよ。その場に居た人から艦長に渡してくれってお願いされたんですけど、その人どっか行っちゃって」

「ふ~ん、わかった。これは私が責任持って艦長に届けるわね」

「ありがとうございます、ミサトさん。じゃ」

「お気をつけて~......色々とね」

 

 改めてアスカに手を引かれて出ていったタロー。その二人の後ろ姿をミサトはニヤニヤしながら見ていた。

 

「二人の関係、変わらないようで結構変わったな?」

 

 残されたメンバーで最初に口を開いたのは加持。流石にミサトもこれは無視出来ないのか、ため息をついて諦めた表情で応える。

 

「ええそうね、だいぶ変わったと思うわ」

「前からあんな感じじゃなかったんですか? タローくんの受け入れ具合が凄いなと思ってたんですけど」

「どちらかというと前は逆よ、タロちゃんがアスカにべったりだったわ」

『逆ぅ......?」

 

 ミサトの発言にシンジとトウジ、そして現実世界に戻ってきたケンスケは訝しげな表情を浮かべる。一人の女の子にべったりな同級生の様子が想像つかない三人に加持が当時の様子を伝える。

 

「あれは完全にお姫様を守る騎士そのものだったよ。三人とも、好きな子が出来たらタローくんを見習うと良いさ」

「......正直、あんまり想像出来ないです。タローくんってどちらかといえばあっさりしてるというか、一人に執着しない感じだと思ってたので」

「ワシもシンジと同意見や。ティーチャーは良くも悪くも人にあんまり興味ない感じやろ」

「それはちょっと違うと思うけどな。綾波の写真を売ろうとしたらボコボコにされたし」

『ソレに関してはケンスケが悪いよ(やろ)』

 

 男子中学生三人の会話に吹き出す加持。エヴァパイロットとしてのタローは良く知っている加持だが、ミサトと違い素のタローを見たのはドイツから日本に行く直前のみだったということもあり、興味を持って他のエピソードを聞き出そうとする。

 

「他にはどんな感じなんだい? ファースト......綾波 レイとも仲が良いのか?」

 

 この場にいるのがシンジだけならミサトは『余計なことを模索するな!』と言っていただろう。眉をピクつかせるミサトの顔を見たシンジはそれすらも察していた。

 

「そうですね、タローくんと綾波は仲良いですよ。僕は数ヶ月前に転入したばかりだから、それより前のことは知らないですけど......」

「そういやシンジに言ってへんかったっけ、ティーチャーが転入初日にやったこと」

 

 トウジにシンジと加持の視線が集まる。ミサトとケンスケが『ああ、あれか』と察していたエピソードをトウジはやけに誇らしげに語り始めた。

 

「あいつ、転校初日にワシらのクラスで英語の授業やりおったんやで」

「しかもトウジなんて首根っこ掴まれてクラスの前に立たされてたよ。あれは傑作だったな」

「おい! そこは言わんでエエねん! 今こうして改心したんやから水に流せや!!」

「タローくんがトウジを......」

 

 二人の会話からその状況を想像するシンジ。彼の頭の中ではタローが『オラ立て鈴原ァ!』と巻き舌でまくしたてる様子と『立て、これをやれ』と無表情で命令する様子の二つの状況が浮かんでいた。

 

「どっちもやりそうだな」

 

 そのどちらもシンジにはシックリきたのか、腕を組んで頷く。その右斜では加持がお腹を抱えて笑っていた。

 

「はっはっは! 英語の授業やるとからしいな! 実にタローくんらしい!」

「それに関しては私も同意よ。彼の名誉の為に言っておくけど、悪いのは学校側だから」

「そりゃそうだろうよ葛城。ただ、それならアスカも負けてないぞ。この空母である程度の自由が許されてるのも、彼女のおかげさ」

「わかってるわよ」

 

弐号機の電源ソケットを輸送するだけならミサト一人居れば十分。本来ならトウジとケンスケのみならず、タローとシンジも部外者の扱いとなるところをアスカの知り合い、そしてアスカの知り合いの知り合いだからと艦長から特別に許可が出されている。

 ミサトも一人で出向くつもりだったが、ちょうど電源ソケット輸送から四日前。彼女のスマホに入ったアスカからの『タローも連れてきなさい。あとアイツと仲良いヤツも』というメールでアスカが艦隊から信頼を得ていることを感づいていた。

 

 しかしミサトはアスカの『アイツと仲良いヤツ』という言葉を少々履き違え。アスカからしてみればファースト・チルドレン、綾波 レイを連れてこいという意図だったが、ミサトは『普段の友達付き合いを把握して検閲したいのね』とあえてレイではなくトウジとケンスケ、そしてシンジという男友達を選んだ。

 仮にミサトがアスカの意図を察していたとしても、レイが『不測の事態に備えて私は待機します』と答え連れて来ることは叶わなかっただろうが。

 

「で、二人は弐号機のところに行ったんだよな? 大丈夫か、あの新婚夫婦もビックリなイチャつき具合なのに二人きりにして」

「変なこと考えるんじゃないわよ。どう考えても襲うとしたらアスカからだから無問題」

「まあそれなら大丈夫か」

 

 ミサトと加持の会話に、三人の男子中学生は『どこが大丈夫なんだよ』とツッコむ。が、大人二人は表情一つ変えずに応えた。

 

「大丈夫よ、アスカはタロちゃんに襲われたら断らないだろうけど、タロちゃんはアスカに襲われても断れるって」

「そうだぞ。男として生きてきた先輩として言わせてもらうが、ありゃ堅物も堅物だ」

「もちろんアスカにもそれは言えるけれどね」

「タローくんと惣流さんは混ぜるな危険ってことか......」

 

 お互い身持ちが堅い二人だが、その二人同士では距離感などあってないようなもの。ファースト・チルドレンとセカンド・チルドレンのどちらかがプライム・チルドレンとイチャついてるときにイチャついていないほうと邂逅したらネルフが崩壊するビジョンがシンジには見えた。

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