「っくしょん!」
ミサト達がオーバー・ザ・レインボーの食堂で互いの近況報告をしている中、タローとアスカは弐号機の居る輸送船へとヘリで移動していた。
「風邪でも引いた?」
くしゃみをしたタローに対して、アスカが問いかける。タローは大丈夫大丈夫と手を振った。
「ちょっと鼻がむずむずしてさ。噂でもされてるのかな」
「なにそれ」
先ほどまで二人が居た場所で自分のことも噂されていることなど知らず、小さく笑うアスカ。
それと同時にヘリが輸送船のヘリコプター甲板に着艦した。
「ありがとうございました。アスカ」
「ええ」
ドイツの時と変わらず、やはり先に降りてアスカに手を差し出すタロー。アスカも変わらずに手を取ってゆっくりヘリから降りる。
アスカの足が地につくと同時に彼女はタローを引っ張るように歩き、二人は流れのまま手を繋ぎっぱなしで階段を降りて輸送船の一部に被せられた大きなシートまで向かう。
その間表情を変えない二人だったが、心ではそれぞれが舞い上がっていた。
(うわ、アスカの手すべすべであったけえ。これは手を洗えないっすわ)
(こんなに手、ごつごつしてたっけ......捗るわね)
ずっと一緒に居た二人が一年間声も聞けず、顔も見れず、触れられず。アスカの場合は触れられないだけではあったが、それでもようやく二人きりになれた状況で両者ともに互いの手が触れる右手と左手に全神経を集中させていた。
シートが被せられた場所に到着すると同時に、アスカは『ガッツくのはもっと落ち着いてからね』と押してだめなら引いてみろ理論で手を離し、機密保持と雨風を防ぐために被せられたシートをめくった。
「これが......」
アスカがシートをめくったことでわずかながら見える赤色の機体。エヴァンゲリオン弐号機を見たタローは思わず声を漏らしながら見つめ、頭の中である疑問を抱く。
(弐号機はテレビ仕様なのか新劇仕様なのか、一体どっちなんだ)
この世界でのエヴァンゲリオン零号機及び初号機は、腹巻きのようなアクセントが胴体に入っていないテレビ版と呼ばれるような仕上がり。とくに零号機に関しては先のラミエル戦では山吹色だったことから、タローは後に青色にカラーリング変更されることを予想している。
そして、テレビ版にも新劇場版にも登場していないタローが乗っているエヴァンゲリオン:プライマルには褐色の拘束具のうち、新劇場版のエヴァと同じように胴体に一箇所だけ腹巻きのように赤色のアクセントが入っている。
という例外があれば弐号機もテレビ版と同じ見た目とは限らないと考え、タローは『頼むからあのツノは無しで。宇宙戦艦ヤマトの艦首をつけるな』と念じていた。
「せっかくだし、近くにいきましょう」
限られた隙間から見える弐号機を凝視しているタローに、アスカは『あたしの相棒が気になるのね』と嬉しさから口角を上げて提案する。当然タローもその提案に大きく頷き、二人はシートの隙間から体をねじ込みアスカから先にハシゴへ足をかけた。
「よっ、と。足元気をつけなさいよ、あたしでも流石に落ちてきたあんたは受け止めきれないから」
「うん、大丈夫大丈夫」
先に地に足を付けたアスカは腰に手を当ててタローを見上げる。その視線がまさか自分の尻に向けられてるとは知らずに、タローはゆっくりとハシゴを降りて足をつけ弐号機へと視線を向ける。
「ぉおお......横たわってるのを近くで見ると壮観だ」
「でしょう? カラーリングの赤はあたしがお願いしたのよ、なんてったって赤といえばこのあたし、惣流・アスカ・ラングレーだもの! でしょ?」
満面の笑みを浮かべるアスカ。それを見たタローには彼女からぶんぶんと左右に揺れる尻尾と犬の耳が見えた気がして、数回大きくまばたきをした後にようやく返事をした。
「確かに、アスカには赤色のものが似合ってるよ。その......髪留めも」
インターフェイスヘッドセットを見ながら呟くタロー。アスカの髪留めが自身がプレゼントしたリボンではなくなったことを本人は気にしていないつもりだったが、人間ふとした瞬間に本心が出るもの。思わず触れないようにしていたことを口に出してしまったことに驚いたタローが自分の口を塞ぐと、アスカは『待ってました』と言わんばかり自信たっぷりだった笑顔をにいたずらっぽいものに変えた。
「気になる? リボンがどこにいったか」
「そりゃ、気にならないって言ったら嘘になるけど......」
「へ~ぇ? あたし、意外と愛されてるのかしら」
手を後ろで組んだアスカが、下から覗き込むようにタローへ顔を近づける。
幼い時と変わらない暗い青色のタレ目を眉と同じように右目だけは下げ、左目を上げたアスカが顔を近づければ近づけるほど、タローは目を見開く。お互いの鼻先が触れそうになる直前、弐号機の頭部拘束具がスライドして隠された瞳が現れたと同時に輸送船を衝撃が襲った。
「きゃっ!?」
前のめりになっていたためバランスを崩して短い悲鳴を上げるアスカ。彼女をタローが受け止めた。
「大丈夫? アスカ」
「......ええ、どうも」
タローに抱きかかえられるような体勢になったところでアスカは素早く一歩進んで距離を詰め、真剣な顔をしながら深く息を吸った。
「水中衝撃波、爆発が近いわ」
「これは一体......」
一瞬にして緊張感漂う雰囲気となった二人。タローはこの衝撃が使徒によって齎されたものであるということを知っているため、被害を出さずに殲滅する方法へと頭を動かす。が、アスカの神経は鼻に集中されていた。
(視覚と聴覚は満たせても、嗅覚は本物じゃないと味わえないのよね~。味覚、は......駄目よ、まだ早い! でも味見くらいなら......いや我慢よ、こらえるのよアスカ!)
使徒殲滅を考えているタローとは真逆、脳内を真っピンクにしているアスカ。しかし同じ境遇で育ってきたからか、やはりこちらもポーカーフェイスに関しては一流だった。
本人もそれを自覚しているからこそ、どんどんと冒険に出ていった。
「......」
腕に感じる柔らかく温かな感触に、口を横に向けて意識を向けないように努めるタロー。その顔をチラリと盗み見たアスカは黒い笑みを見せる。
(ミサトになにか吹き込まれてるかと心配したけど、まだこういうこと知らないでいてくれてるわね。あたしの全部上げるから、あんたの全部あたしのものよ~)
そんなドス黒い激重感情を向けられているとは思わないタローは『どうやってこれを切り抜けよう。どうやって切り抜けよう』とアスカのホールドに迫りくる使徒を捌く方法を考える。そこで思いついたのは、もっともらしい理由を付けて一旦二人きりの状況から抜け出すことだった。
「アスカ、甲板に戻ろう。状況を整理しないと」
「ええ」
やけにキレの良いアスカの返事に吹き出しそうになったタローは、それを隠すようにハシゴへと駆け出し素早く登る。先に甲板に出たタローは登り切る直前のアスカに手を差し出して持ち上げ、二人で甲板の端ギリギリ。手すりに両手を着いて海を睨む。
激しい水しぶき。それが横切ると近くの護衛艦が爆散した。
「魚雷の攻撃?」
その様子を見ていたアスカはそう口に出す。だが、すぐにその推理が違うことに気付いた。
「いや、あんなにくねくね動くはずがないわ。もしかして、あれが?」
「アスカの思ってる通り、使徒かもしれない。まずはミサトさんに指示を仰ごう」
エヴァの機密保持の為に電波妨害をしている状況下では一般のスマホなど使い物にならない。そのためここまでやって来たヘリコプターへと戻ろうとするタローの腕をアスカが掴んだ。
「......チャ~ンス」
これ以上ない程に完璧で邪悪な笑みで耳打ちするアスカに、タローは心のなかで愛を叫びながら笑顔でサムズアップした。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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