例に漏れずこちらでもトドメは通常兵器だったり
「......下がキツくて上がスースーする......」
階段でプラグスーツに着替えた後、再び弐号機のもとへやってきたタローとアスカ。アスカが弐号機に乗り込むために手動操作をしているところを、タローは下から見ていた。
「......これは流石にやばいな」
赤色のプラグスーツを纏っているアスカを見たあと、同じプラグスーツを着用している自身の体を見たタローは声を漏らす。
いくら伸縮して体にフィットするよう作られているとはいえ、採寸したパイロットが基準となっているため手足以外の部分が大きく変化することはない。アスカの体には完璧にフィットしているとはいえ、それがタローの体にも同じようにとはいかないのだ。
故に彼は肩周りと腰のあたりに窮屈さを、胸のあたりにわずかながらの開放感を覚える。そこから導き出される答えは一つ。
「アスカ、腰めっちゃ細いし位置高えな」
「ん? あたしが何よ」
ボーッとして良からぬ想像を働いていたところ、突然目の前に現れたアスカにタローは驚く。『おひょお!?』という情けない声を上げながら三歩後退する彼を、アスカはぽかんとしながら見ていた。
「い、いやいや何でもないよ! ごめんごめん!」
「どうでも良いけど、ちゃんと集中しなさいよ。っていうかタローも割と赤色似合ってるじゃない。私服が黒色ばっかなのはそろそろ卒業した?」
「うん、流石に日差しがキツイから黒色以外も着てるよ。今度一緒にお出かけしよう、アスカと行ってみたいなってところ沢山あるから」
「まぁ、イイケドォ?」
若干口を曲げながら、語尾を上ずらせてそっぽを向くアスカ。照れ隠しの時にたまに出る表情ということを理解しているタローはなんとか話を逸らせられたと胸をなでおろす。
「とりあえず、準備出来たから乗るわよ。く・れ・ぐ・れ・も! 傷つけないように慎重に!」
「もちろん」
すでに弐号機からはEVA-02と刻まれたエントリープラグが露出しており、あとは乗り込んで内部から操作して起動し神経接続をするのみといった状態。アスカを先頭に二人はゆっくりと弐号機に足をかけ登り、すでにL.C.Lで満たされたプラグまでたどり着く。
先に飛び込んだアスカに続くように入ったとき、タローはあることに気づく。
「なんか弐号機のエントリープラグ、めっちゃ良い匂いするんだが」
「はあ? 良い匂い? 無臭でしょ」
言われたことでスンスンと鼻を鳴らすアスカ。どれだけ集中しても良い匂いを感じられなかったのか、諦めてハッチを閉じエントリープラグを手動操作で挿入する。
その間にも、タローの鼻にはドイツ支部で感じた薄い血のような匂いではなく、花にも似た香りを感じさせていた。
「L.C.L Fullung. Anfang......いや、ちょっと待った」
いざシンクロを始めようとした途中で、アスカはそれを中断する。こうしているうちにも使徒が暴れまわっているのが輸送船の揺れから伝わっているのだが、彼女はタローの『プラグ内にパイロット以外の人間がいるとノイズ認識される』という発言からどうしても試してみたいことがあった。
「タロー、これつけてみなさいよ」
「インターフェイスヘッドセットを?」
「髪留めタイプだから、適当に結んで」
アスカはツーサイドアップの左側を止めていたインターフェイスヘッドセットを外し、それをタローに手渡す。と同時に右側のインターフェイスヘッドセットも外し、髪の毛を一本にして縛る。俗に言うポニーテールに結い直した。
初めて見る彼女の髪型にタローは口を開けながら脳裏に焼き付け、同時に頭頂部でインターフェイスヘッドセットを結ぶ。弐号機のエントリープラグ内でポニーテール姿の美少女と、それを見つめる口を開けて呆けたちょんまげ男という構図が出来上がったところでアスカは再びシンクロを始める。
「あたしの予想通りなら、案外うまく行くはず......よしキタ!」
シュゥ、と一度モーターの電源が切れたような音が鳴り響いたあと、プラグ内に映し出される映像が二転三転。弐号機から見た輸送船内部の映像が映し出され、無事起動した。
「思考言語、ドイツ語であってたか。よかった」
「あたし的には、タローがドイツ語で思考してるほうが驚きよ。英語とか日本語じゃないのね」
「エヴァに関してはドイツ語が一番馴染み深いから。それにアスカに合わせるほうが良いし。ていうかこれ、オレとアスカでインターフェイスヘッドセット共有してて動かせるのか?」
「出来るわよ、あたし達なら。主導権はあたしが取るわ、タローは細かいところの補佐よろしく」
ニヤリと口角を上げたアスカ。タローが言われた通りに余計な思考をなくして弐号機の動きを待っていると、弐号機の腕が動いて上体を持ち上げ始める。タローはその動きによって生じた輸送船の揺れに注意し、姿勢を制御するイメージを固めていく。
グググッとゆっくり、確実に弐号機が起き上がっていく。弐号機の起動はオーバー・ザ・レインボーにも伝えられた。
「オセローより入電! エヴァ弐号機、起動!」
「なんだと!?」
通信士からの報告に艦長は驚愕、同時にミサトとシンジ、トウジとケンスケに副館長は弐号機の乗っている輸送船へと注目する。
「ナイス、アスカ!」
ミサトの声が響くと同時に、弐号機に被せられていた保護シートが持ち上がり、その姿を露わにしようとしていく。しかし、艦長が待ったをかけた。
「いかん、起動中止だ! もとに戻せ!」
マイクを握って叫ぶ艦長。ミサトは当然それに反抗する。
「艦長! 起動を認めてください」
「エヴァ及びパイロットは我々の管轄下だ、勝手は許さん!」
とは口でいうものの、艦長の目はミサトの発言を待っていた。だてに国連軍の太平洋艦隊、その旗艦であるオーバー・ザ・レインボーの艦長を務めているわけではない。現状では未知の生命体、使徒への有効打を持っていないことはとうに理解している。そしてこれ以上この状況が続けば、艦隊への被害が増えるだけだということも。
「あらかじめ説明させていただいた通り、有事の際は我々ネルフの指揮権が最優先です。これより使徒殲滅作戦を開始、条例によりエヴァンゲリオン弐号機及びそのパイロットは我々の指揮下に入ります。ご承知おきください」
「......ふん」
ここまで言われればどうしようもないだろう。ミサトの予想通り、初めから抵抗する気のない艦長以外の船員が仕方ないと納得する。
その様子を見ていたトウジとケンスケは目を輝かせ、シンジも初めてミサトに尊敬の念を抱く。
艦長はまたしても百点満点の返事をしてみせたミサトに対して、組んだ腕の間から隠しながら親指を立てた。
「そういえば、これを預かっていたのを忘れていました。今ここには居ない少年が甲板で見つけたようです」
艦長のサムズアップに小さく頷いて答えたミサトは、食堂でタローから預かった小さな箱を取り出し艦長に手渡す。艦長はその小箱を開くと、帽子の奥にある瞳を一瞬だけ大きく見開いた。
「......まさかそんなところに隠していたとはな。確かに受け取った」
小さな箱の中にある一つの指輪とメッセージカード。差出人は艦長ではなく、宛先は女性に向けられたもの。懐かしい部下の顔を思い浮かべた艦長は思わず頬が緩んだが、姿勢と共にそれを正す。
「これより太平洋艦隊はネルフの指揮下に入る。各艦に伝達しろ」
「はい!」
通信士に告げる艦長。ミサトは『納得いただきありがとうございます』と言い、通信用のマイクを手に取る。
「アスカ、聞こえる?」
「ええ、聞こえてるわ」
いつも通りといった声で答えるアスカに、ミサトはひとまず安堵する。そしてもう一人のパイロットを探し始めた。
「タロちゃんは? 一緒に弐号機のところに行ったんでしょう?」
「今まさに一緒に弐号機に乗ってるところよ」
「そういうわけです」
「っははーん、エヴァの中なら誰にも見られないって魂胆かしら?」
「いや違いますよ!」
ミサトの冗談に大きな声で否定するタロー。パイロット二人が平常運転なことを確認したミサトは正式に命令を下す。
「エヴァ弐号機はそのまま起動して頂戴。っていうか、弐号機って今B型装備よね?」
「落ちなきゃ良いのよ。それに、こっちには連戦連勝。エースパイロットのタローが居るのよ? 舐めないでほしいわね」
「やめて、恥ずかしい。たまたまだから、ほんと皆のおかげだから!」
「どっこでもイチャツイてるわねぇこの二人......」
ミサトは『ここは二人の顔が見えないじゃない』と悔しがりつつも、それを抑えて指示を出す。
「各艦に、甲板付近からの退避命令を出してください。アスカ、非常用の外部電源をここの甲板に用意しとくわ。ここまで船の甲板を足に飛んできて頂戴」
「わかったわ」
「すでに二人がいる輸送船の乗組員は避難が完了してるから、なるべく引き付けて飛ぶように。合図はこっちで出すわ、頑張ってね。二人共」
「ふふん、任せなさいよ。タロー。改めて補佐、よろしく頼むわね」
「ばっちこいよ」
三人の会話が終わると同時に、オーバー・ザ・レインボーの通信士が警報サイレンと共に各艦に『甲板付近から離脱、耐ショック姿勢!』と声を荒げる。
ミサトは副艦長から『貸して!』と双眼鏡をひったくり、水しぶきを上げながら移動する使徒の後を追う。徐々に二人に近づいていき、その速度と通信の僅かなタイムラグを意識して叫ぶ。
「今!」
「ッ、行きます!」
ミサトの合図と共に、弐号機は保護シートをマントのように纏ったまま輸送船から飛び上がる。直後、使徒が輸送船に突っ込み大きな船体を真っ二つに砕く。
「あそこに降りるわ!」
「アスカは機体制御に集中して、次の場所はオレが指示する!」
「
空中にいる間、アスカは保護シートを脱ぎ捨てて着地する船に向かって体勢を整え、タローは周りを見回して使徒の動きと艦隊の位置を確認。最短ルートを編み出して着地後間髪入れずに口を開く。
「左、右、左、左、右、わかる?」
「あったりまえよ。あたしを誰だと、思ってんのよ!」
左右方向の指示のみ、具体性のないそれでもアスカにはタローと同じ道が見えている。着艦の衝撃を減らすために高く飛ぶのではなく、低く飛んで片足着地。そしてまたすぐに飛ぶ。
オーバー・ザ・レインボーの中では徐々に近づく弐号機に対して歓声が上がった。
「おおすごい! あれが新しいエヴァ!」
「弐号機は赤色なんだ」
「こっち来るでぇ!?」
巨大な赤色の人形ロボットが軍艦を足場にして飛び回る。その現実離れした光景にオーバー・ザ・レインボーの乗組員達は吹き出したり、唖然としたり。その反応は十人十色。
それは艦長も例外ではなく、声色に活気を宿す。
「はっ、でたらめだ!」
そして弐号機は最後の一隻に右足をつけ、オーバー・ザ・レインボーに向かって先程までよりも大きく飛び立つ。すでに飛行甲板には非常用外部電源が用意されており、艦載機を除いて誰一人として存在しない。
そこに弐号機が滑り込むような絶妙な角度で飛んでくる。
「エヴァ弐号機、着艦します!」
「現代の八艘飛びじゃあ!」
空中で膝を折り曲げた弐号機は、オーバー・ザ・レインボーの甲板に右足から着地。その勢いを殺すように左足でブレーキをかけ、バランスを取るために右手を甲板へ。俗に言うスーパーヒーロー着地の体勢で大きな揺れを引き起こすことなくオーバー・ザ・レインボーへと着艦。艦載機が海に落ちることはなかった。
「外部電源、切り替え完了」
「武装は?」
「プログナイフで十分よ。これもあることにはあるけど」
そう言ったアスカが表示させたのは、右肩のウェポンラックに装備されたニードルガン。それを見たタローは嫌な記憶を思い出して苦い表情を浮かべるが『これは使える』と切り替え考える。アスカは横目にタローを見て彼が口を開くのを待つ。
「......何にせよまずはコアを見つけないと。あのバカ魚のことだ、多分突っ込んでくるだろうからドンと構えていなそう」
「アリね、けど空母に直接突っ込まれたら厄介だわ。ミサト! わかってる!?」
「戦艦二隻残ってるわ、海上からでもビビらせるくらいには役立つはず!」
アスカの言わんとしていることを察したミサトは通信士の方へ振り向き、命令する。
「戦艦二隻に伝達、同時に空母手前に射撃! タイミングはエヴァパイロットに合わせるように!」
「り、了解!」
ヤケクソだ、と通信士は戦艦に一言一句違わず伝える。当然戦艦側から返ってきた反応は『は?』という何を言っているんだとでも言いたげなものだったが、使徒殲滅作戦が展開されている以上ネルフ所属のミサトに逆らうことは上官に逆らうことと同じ。数秒の沈黙の後に『了解』と小さな返事が返ってきた。
だがミサトの言葉に異を唱えるものが管制室に一人。艦長が立ち上がった。
「戦艦の砲撃が到達するまでの偏差はどうすると言うのだね! 動く標的に当てる指示など素人に出来るわけがなかろう!」
「それでも空母に直接使徒が突撃してくるリスクを考えればやらないよりはマシで『そういうわけではない!』......はい?」
「タイミングは私に任せろ。確かにあれを撃退することに関しては君達のほうが優れているだろうが、船に関しては我々のほうが上だ。ヤツを甲板の上に引っ張り出してやろう」
「艦長......あんたやるじゃない! 良い二人共、そういうわけだからちゃんと目標に集中しときなさいよ!」
ミサトと艦長の言葉に、タローとアスカは顔を見合わせて『了解!』と大きく答える。
舞台は整った、後は鮮やかに目標を撃破するだけ。とアスカは若干前のめりになり、エントリープラグのシートにかかっているタローの左手を右手で持って自分の左手に添えさせる。
「アスカ?」
「タローの連続撃破記録が途切れないように、最初のはあたしとあんたで共同撃破にしてあげる。光栄に思いなさい」
「......うん、そりゃありがたい。残念ながら、この戦いが終わるまでオレの連続撃破は続くけどね!」
前かがみになったアスカの背中側に生まれたスペースに上体を差し込んだタローは、彼女の体を包み込むようにして右手もアスカの右手の上からレバーを握り引き上げて展開。
より繊細な操縦技術を求められる代わりに、通常時より高い力と機動性を発揮する高機動モードへと切り替え。空母に迫る水しぶきを前に、左肩からプログナイフを展開して待ち構えるアスカは不敵な笑みを浮かべる。
視線を手元に落とし、両手にスーツ越しで感じるタローの体温を全身に巡らせるイメージを持ったアスカは、弐号機を通して海風を全身に感じ取る。
(あたしにはタローと弐号機と、ママがついてんのよ。負ける気がしないわ......!)
守られている。それを感じ取ったアスカが気持ちを昂らせるのと同時に、彼女の後ろにいるタローも別のニュアンスで気持ちを昂らせていた。
(アカン、エントリープラグとアスカの頭皮からめっちゃ良い匂いがする。うなじ眩しすぎるぅ!)
間近でアスカを感じたタローは真剣な表情の内側で踊り狂う。
気分を高揚させた二人のパイロットに応えたのか共鳴したのか、弐号機とのシンクロ率は更に上昇。二人が弐号機の前でイチャついてる時と同じように、頭部の拘束具が上下に分かれその奥から四つの目を光らせていた。
「目標接近!」
オーバー・ザ・レインボーから通信が入ると、アスカはレバーを握る手に、タローはアスカを支える手に力を込めて睨みつける。そして艦長の声が響いた。
「てぇええい!」
まるで雷のような轟音と共に、戦艦の主砲から空母付近の水面に向かって砲撃がされる。それは放物線を描き、水しぶきの進む先へと着弾し炸裂。同時に使徒ガギエルが口を開けながらトビウオのように飛び上がる。
「っ、コアだ! 口の中!」
「あれが? ぃよし!」
アスカはプログナイフを両手に構えて姿勢を低くし、口を開いて突っ込んできたガギエルの下顎めがけて突き立てる。プログナイフの切れ味と突っ込んだガギエルの運動エネルギーが合わさり下顎を左右にバッサリ切断。同時に艦橋へぶつからないように余った勢いを受け止め、実質的に下顎がなくなったことで噛みつかれることなくガギエルの口腔内に侵入することに成功した。
「よく止めたわアスカ!」
「これくらい朝飯前よ!」
「今ここでコアに致命傷を与えます、最後も手伝ってください!」
返事を待たずにタローは右肩のウェポンラックからニードルガンを展開。それをコアに向かって放つ前に、ガギエルを抑えるアスカに優しく声を掛ける。
「アスカ、経験上コアを破壊したらこのデカブツ達って爆発して散るんだよ。多分コイツもそうだからニードルガンで割りかけくらいにして海にぶん投げよう」
「っ、結構重いわよコイツ?」
「出来るでしょ? アスカなら」
「あんたバカァ!? あたしとタローなら、でしょッ!」
ガギエルを両手で支えながら、アスカが叫ぶ。タローは更にアスカの手を握る力を強くしながら頷いた。
「そうだね。コイツを船尾の方向に思い切りぶん投げます! 百メートルは飛ばしてやりますから魚雷でもなんでも!」
「各艦に告げろ! 魚雷投下、主砲斉射用意!」
艦長の指示に残っている艦隊がオーバー・ザ・レインボーの船尾から百メートル付近の位置に主砲と魚雷の投下準備をする。遠くに飛ばせなければオーバー・ザ・レインボーへの被害も免れない状況下で、太平洋艦隊はエヴァと二人のパイロットを信じて待つ。
その期待に応えるだけど技量と爆発力が二人にはあった。
「ニードルガン撃つよ、アスカ!」
「来いやぁ!」
気合十分な返事に、タローは戸惑いなくコアに向かってニードルガンを四発だけ放つ。威力を抑えめにしたそれはガギエルのコアに深く突き刺さりヒビを入れることには成功するが、割ることはなく。薬莢が排出されてカランカランと音を立て甲板に落ちた時に口腔内から胴体下部へと潜り込み、タローとアスカは渾身の力でガギエルを持ち上げ始める。
「こんのぉおおおおお!」
「重っ、たい、なぁあ!」
二人で力を合わせてレバーを押し込み、持ち上げることだけに集中。甲板に弐号機の足跡を作りながら、徐々にガギエルの体が持ち上がり始める。
「行くよ!」
タローの言葉と同時に、シンクログラフは瞬間的に限界点を突破。隠された弐号機の瞳が鋭さを増してガギエルを背中に担ぐ。
後は海に向かって投げるだけ。その一瞬、タローとアスカは体にかかるガギエルの重みを感じなくなる。
シンクロが切れたのかという考えが頭によぎった二人だったが、代わりに自らを包み込む言いようのない温かさを感じるがままにガギエルを投げようとする。
「たぁりゃあああああああ!」
「てぇええええええええい!」
弐号機は動きを止めることなく、背中にガギエルの巨体を背負ったまま走り、助走をつけ海に向かって放り投げた。
「今だ!!」
そこに艦長の声が響く。タローの宣言どおり、いやその距離以上にガギエルは宙を舞ったが、さすがは国連軍太平洋艦隊。精鋭揃いの兵達にかかれば誤差修正など容易か、ガギエルが着水すると同時に無数の魚雷と主砲が到達。大きな音を立てて爆散しニードルガンでヒビの入ったコアは衝撃に耐えきれず真っ二つに。
戦艦の主砲以上の轟音に魚雷の爆発以上の水しぶきを天に登る十字架と共に上げ、ガギエルは散った。
「......終わったの?」
それを眺めながらアスカはつぶやく。タローは彼女の両手に添えた手を離し、肩に手をおいてアスカの横に笑顔を出した。
「終わったね。オレ達の勝ちだよ、アスカ!」
「あたし達の勝ち」
「そう、オレ達んぅ!?」
数秒の無言の後、タローの視界いっぱいに広がっていたアスカの顔が離れた。
「油断大敵。勝った後も気を引き締めとかないと、味方に襲われるかもしんないわよ?」
「す、すへぇ!?」
「あっはは! マヌケな顔~!」
突然の事態にフリーズしてしまったタローと、それを見てお腹を抑えながら笑うアスカ。その会話はもちろんオーバー・ザ・レインボーにも届いており。
「ティーチャー達、何してるんや?」
「そりゃあナニだろ、トウジ......痛ッ!? なんで叩くんだよ碇!」
「僕がやっておかないと、タローくんにやられるよりマシだよ」
シンジは目の前の友人がエヴァの中にいる友人で不純な考えをしたことへの怒りと、それがエヴァの中に居る友人に知られた時に目の前の友人が悲惨な目に合うことを予防するために『僕が処しました』という口実作りのためにケンスケをひっぱたく。それを見たトウジは『シンジって結構おっかねえ奴』と軽く震えていた。
「もーまた私の見えないところで......ん? 待てよ、エントリープラグの中なら......!」
あることに気づいたミサトは、急いで通信用のマイクを手に取る。そして切羽詰まった声でアスカに呼びかけた。
「アスカァ! プラグ内の映像データ、全部私だけに提出しなさい! これは命令よ!!」
「ハァ? どうし......って嫌よ! 絶対イヤ!」
「嫌ですってぇ!? 拒否することを拒否するわ!」
「寝言は寝て言え、このバカ!!」
ブチッ、と通信の切れる音がする。しかしミサトは諦めることなく、舌打ちした後に『んにゃろー!』と管制室を飛び出して弐号機に向かい駆けていった。
「......これがネルフ、これがエヴァか。なるほど、面白いではないか」
一連の流れを見た艦長は腕を組みながら静かに笑い、それに釣られるようにシンジ達以外の管制室にいるメンバーからは笑い声が鳴り響く。それは艦隊への被害が船のみにとどまったという知らせでより大きなものとなる。
最小限の被害と作戦終了後に見せた挙動から、この一件でミサトはオーバー・ザ・レインボー乗組員に『手腕と人心掌握は確かだが、エヴァパイロットが絡むと良くも悪くも人が変わる』というなんとも言えない評価をつけられることになったのであった。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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サクサク進む(3000~4000字程度)
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少し書き込む(5000~6000字)
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ガッツリ書き込む(7000字以上)
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サクサク書き込め