ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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9話 カンペキに重ねる不完全

 穏やかな日曜日の午前。青空には黒に近い褐色と赤、二色の巨大な人型が輸送機にぶら下がり空を駆けていた。

 

「......」

 

 そのうちの赤い方。エヴァ弐号機に搭乗しているアスカはエントリープラグ内で腕を組み眉を吊り上げる。

 フンッ、と大きく鼻で息を吐いたあと、エントリープラグの座席に軽く拳を叩きつけて叫ぶ。

 

「ふざけんなッ!!」

「はは。まあ、落ち着いて落ち着いて」

 

 それをなだめるのは褐色の方、エヴァンゲリオン:プライマル。通称壱型に搭乗しているタロー。

 まあまあと通信した先のアスカに声を掛けるが、アスカは止まらない。

 

「これが落ち着いてられるかっての! せーっかくの日曜日、予定がパァーじゃないの!」

「まあ確かにね。オレだってアスカとレイと出かけるの楽しみにしてたけど......しょうがないさ。これもオレたちがやらなきゃいけないことだし」

「はぁもう......そうね、この恨みをしっかりぶつけさせてもらうわ」

 

 それまでは至って普通の男子女子らしかったのが、すっとまるで人が変わったかのような雰囲気になる二人。

 彼らは金曜日の時点で日曜日、つまり今日出かけようという約束を零号機が改修中のため再び待機となった不憫なレイも含めて三人で交わしていた。お昼に駅集合という予定だったが、午前十時を回った頃に突然の緊急招集。

 いざネルフ本部へと向かってみれば、ミサトから告げられたのは出撃。しかも駿河湾まで出向いて。

 当然作戦内容の詳細を求めたが、移動中に済ませると言われ速攻で私服からプラグスーツへ着替えてエントリープラグ内部へ。そのまま第三新東京市を離れて現在に至る。

 ミサトはというと、上空を飛行する二人の後を陸路、マヤとマコト含む四人のオペレーターのためのオペレーター室を備えた装甲車で追っていた。

 

「タローくんとアスカ、突然雰囲気が変わりましたね」

 

 二人の会話を聞いていたマヤが、手すりにつかまりプラグ内を監視していたミサトに声を掛ける。

 マヤに対してミサトは『そっか』と思い出したように返答した。

 

「雰囲気が変わった、っていうより。私からしてみれば雰囲気が戻ったって感じなのよ、あれ」

「戻った、ですか?」

「ええ。ドイツに居た時、エヴァ関連にはああいう姿勢だったの。私の先輩に言わせれば歴戦の戦士みたいって感じで。タロちゃんは日本に来てからはそうでもなかったと思うけど、多分緊張で戻っちゃったんでしょうね」

 

 ミサトの口からでた緊張という言葉、それがタローに向けられていることにその場に居たオペレーターたちは若干驚く。彼も緊張することがあるのか、と。

 それを察したのか、ミサトは小さく笑ってから続ける。

 

「タロちゃんだって普通の男の子よ。一番守りたい、守らなきゃいけない存在が直ぐ側で一緒に戦うってなったら緊張もするわよ。今回は前回の海上戦と違って、休日に呼び出されて心の準備もできてなかったでしょうしなおさらね」

「なるほど。けどそれなら、アスカも緊張してますよね。私はまだそこまで仲を深めてないので自信ないですが」

「そう? マヤちゃんには私には向けられない尊敬にも似た目を向けてると思うけど。ただアスカも緊張してるのは当たりね。私はわかるわ、怒ってるときの眉毛の角度がいつもより若干緩かった!」

 

 自信満々に宣言するミサトに、乾いた笑いが起こる。

 実際アスカはミサトへのいい奴だけど同じ女性として残念なところがあるという評価とは異なり、マヤに対してはタローを巡っての最年長ライバルという評価を下している。並大抵の女性なら『あたしの相手にもならないわ!』と気にもとめないが、マヤに関しては危機感を覚えるほどに良い印象を持っている。

 アスカからそんなふうに思われているとは思いもしなかったマヤは、ミサトからの言葉で少し口角が上がっていた。

 

「それにしてもすぐ切り替えられるのはすごいですね。子どもたちがそうなるほど追い込まれている、というのは大人としては情けないですが」

「そう考える必要はないわよ日向くん。ただあの二人が特殊すぎというか達観しすぎというか。昔っから急に目が据わりはじめる時あったし、あの子たちにもあの子たちのプライドと意地があるのよ」

「僕たちは僕たちのできることをするしかありませんね」

 

 できることなら変わってやりたいとはミサト含め誰しもが思うことだったが、それができない以上できることを全力でやるだけ。

 彼らが諦めない限り私たちも諦めない。彼らが諦めないようにするために私たちが居る。

 初陣からミサトが口酸っぱく言っていた言葉を再び胸に刻んだマコトが深呼吸をして気合を入れ直したところで、ミサトが時計を確認してマヤに目線を送る。

 その意図を察したマヤは『通信、つなぎます』とミサトに言うと、ミサトはサムズアップを返してタローたちが映るモニターに目を向ける。

 

「二人とも、作戦内容を説明するわ」

 

 ミサトの声が耳に入ると、タローとアスカは瞑っていた目を明けて仮想スクリーン越しに彼女と目を合わせた。

 

「今回は上陸直前の目標を水際で一気に叩く。先の戦闘によって第三新東京市の迎撃システムが大きなダメージを受け、実戦における稼働率がゼロに等しい今。目標に対して壱型並びに弐号機で交互に波状攻撃、上陸される前に撃破を目指すわ」

「了解」

「目標との接敵はまもなく、降下後はすぐにケーブルを接続して。事前情報なしだから無茶は禁物よ」

 

 心配の声に対して二人は頷く。ミサトがニッと口角を上げて説明の終わりを告げると、アスカはタローに対して呼びかける。

 

「タロー。前線、あたしが張るから」

「わかった、任せたよ」

 

 これにはミサトたちも少し予想外。定石通りなら様々な装備を使いこなし汎用性に優れたアスカと弐号機がサポート、接近戦特化のタローと壱型が前衛だろう。

 それは二人も良く理解しているし、それが自分の役割だと納得している。だが今回ばかりは事情が違った。

 

「この鬱憤は日本でのデビュー戦で晴らさせてもらうわ。あたしたちならお茶の子さいさいよ」

 

 やはり休日の予定が崩れたことが許せないのか、アスカがキレているのだ。

 怒りに身を任せれば冷静さを欠き、最悪の結末をたどるだけ。それを理解している二人だが、苛立っている自覚のあるアスカが前線を張ると言い、平常心を保てているタローが後衛を受け入れたのには理由がある。

 キレてはいるが、アスカがノッている。幼少期には何かと癇癪を起こすとまで言われていたが、泣く子も黙るドイツ支部でタローよりも一年長く鍛えられた彼女はだてじゃない。

 怒り、焦り、様々なマイナスの感情を集中力に変換する術を身につけている。それに加え全てを自分に任せて背中を守ってくれる最高の相棒が居るとなれば止めようがない。

 

「降下用意!」

 

 ミサトの合図で準備が進められ、しっかりとした手順を踏んで輸送機から切り離される壱型と弐号機。

 相変わらず高いところが苦手で拳に力を込めたタローと不敵な笑みを浮かべたアスカは綺麗に着地し、姿勢を低くしてネルフのクレーン車の助けを借りてアンビリカルケーブルを装着する。

 と同時に運ばれた武装。壱型の方には安定のパレットライフル、弐号機の方には薙刀のような形状をした近接武器、ソニックグレイブが用意される。

 弐号機と同じく、ドイツから持ち込まれたソニックグレイブは刀身自体はプログナイフとほぼ同等。高振動粒子でできた刃によって切れ味を高めたものだが、柄が長いことによって遠心力が生み出され純粋な破壊力も高めている。

 両者用意された武装を構えたところで、目標。第七使徒イスラフェルが海中から水しぶきとともに姿を現した。

 

「頑張ってね。作戦開始!」

 

 一瞬だけ保護者になったミサトの声を皮切りに、アスカが飛び出す。

 赤色のエヴァは他のエヴァの三倍早く動く、なんてことは無いのだが、シンジの初号機やレイの零号機はもちろん、タローと壱型よりもキレのある動きをしている弐号機に作戦室は湧いた。

 

「二対一だからって容赦しないわ。後ろ頼んだ!」

 

 先陣を切って飛び出す人が後衛に残すにはあまりにも短い一言だったが、目標であるイスラフェルに対して弐号機の走り出すコースや姿勢、アスカの声で意図を理解したタローは背中に向けて容赦なくパレットライフルのトリガーを引く。

 危ない、とマヤが声を出してしまいそうになったところでアスカが身を翻し、弐号機の背後から現れた弾丸の雨がイスラフェルに降り注ぐ。

 海中から出てきてそうそうに劣化ウラン弾を撃ち込まれたイスラフェルは弾丸を防ぐことに集中しているのか動きを止める。それに対して弐号機は動きを止めず、水没したビルを足場に飛び跳ねる弐号機が方向転換すれば元いた場所から弾幕が張られる。

 

「アクション映画でもこんなの見ないですよ」

 

 マコトの興奮したような声の後に、弐号機が高く飛び上がる。弐号機が飛び上がった後ろから撃ち込まれる劣化ウラン弾、それが止むと同時に空から弐号機が落ちてきた。

 

「せええいッ!」

 

 ソニックグレイブの柄の下をギリギリまで持った弐号機が、上体をそらして叩きつけるように刃を振るう。

 上方向からの落下エネルギーと遠心力が加わってはATフィールでも防ぎきれなかったのか、イスラフェルの体は文字通り真っ二つになった。

 

「流石!」

 

 静まった戦場に対して、作戦室ではマコトの声が響く。

 思ったよりも楽勝だった、というムードになる。しかし当事者のタローとアスカ、そしてミサトは気を抜かない。

 使徒はコアを破壊しなければ撃破できない。そして撃破後は形象崩壊。

 それが今までの戦闘記録。しかしミサトは二つに別れたものの原型をとどめているイスラフェルを訝しみ、アスカはガギエルのコアがニードルガンを撃ち込んでも壊れなかったのならこんなにパックリいくはずないと注意深く観察。

 

「手応えがない......コアは一体」

 

 その様子を見ていたタローがイスラフェルの変化に気づいて叫んだ。

 

「アスカ!」

 

 わずかに震えたイスラフェルの体。直後まるで脱皮したかのように体色が深緑に銅と銀の二つの別の生命体となる。

 アスカはその片割れ、銅色のイスラフェルに向かって回し蹴りを放ち、タローの元へと蹴り飛ばした。

 

「ッ、たぁあああああああ!」

 

 鋭い蹴りはイスラフェルの腹部に直撃し、体をくの字にさせて吹き飛んでいく。

 吹き飛んできた片割れの対してまっすぐ壱型が拳を打ち込む。

 

「でい!」

 

 狙った先はコア。一直線に振り抜かれた拳によって今度は逆方向のくの字に曲がったイスラフェルの体が示すように、相当な衝撃を与える。

 パキッ、という音がコアから鳴った。

 

「チッ、ダメか!」

 

 そのまま拳を押し込もうとしたタローだが、直前でフィードバックの感触が変わりバックステップでイスラフェルから距離を取る。

 音からするにヒビが入っているであろうイスラフェルのコアは無傷。

 タローは硬いものを殴ったはずの拳に伝わる感触が急に柔らかくなったことに違和感を覚え、アスカに通信する。

 

「アスカ、そっちのやつにコアは?」

「あるわ......ってまさかそっちもぉ!?」

「ガッツリついとるわ。さっきので割ったと思ったんだけどな......」

 

 その会話を聞いていたミサトは本部との通信用ヘッドセットを握りつぶしてしまった。

 

「なんてインチキよ!」

 

 もともと一体だった使徒が二つに分裂、しかも両方にコアが備わっている。

 それに加えて先ほどの一撃で片方のコアが割れず。

 今までにない状況にミサトは考えを巡らせる。そしてたどり着いた答えは単純だがとても難しいもの。

 

「二人とも、コアの同時破壊を目指して! 分裂するくらいしつこい敵は、同時に倒さないといけないって昔から決まってんのよ!」

「どこで決まってんのよそれ! 厄介ねもう!」

 

 分裂したイスラフェル、甲乙を挟み込むように立つ壱型と弐号機。

 壱型は肩部ウェポンラックからプログナイフを、弐号機はソニックグレイブを構えなおす。

 少しの硬直の後、タローとアスカは互いの顔を仮想スクリーンで横目に入れ、タイミングをあわせるために頷いてからイスラフェルへと飛びかかる。

 

「ガラ空き!」

 

 先に間合いを詰めたのは壱型。右手に持ったプログナイフをコアに向けて突き刺し。

 イスラフェルが左腕でそれを薙ぎ払うと、プログナイフと爪のような部分が滑って火花が散る。

 薙ぎ払われてイスラフェル甲の左手を滑るプログナイフの刃を、タローはその腕の中頃で手首を返して突き刺す。

 その直後に弐号機がソニックグレイブをイスラフェル乙に袈裟斬りの要領で振りかぶるも、やはりタローと同じように腕で薙ぎ払われる。

 

「甘いわよッ!」

 

 弐号機は体勢を崩して前のめりに倒れるかと思われたが、途中でソニックグレイブを逆手に持ち直し、弐号機もグルンと回転してイスラフェル乙の左肩部へ突き立てる。

 壱型と弐号機、両者ともイスラフェル甲乙の体へと武器を突き刺した状態。

 しかし弐号機はまだ体勢を完全に立て直せていないという状況。そこでタローは壱型を走らせる。

 

「行くぞ」

 

 バシャバシャと海水を撒き散らしながら壱型はイスラフェル甲に対して、まるでラグビーのタックルのように腰付近を抱え押し込む。

 向かう先は弐号機とイスラフェル乙。アスカは瞬時に状況を理解し、弐号機の両手はイスラフェル乙の左肩に突き刺さっているソニックグレイブへ、両足はしっかりと地面に突っ張らせて衝撃を受ける姿勢をとった。

 そこへイスラフェル甲を抱えた壱型が走ってくる。イスラフェル甲乙をサンドイッチにするかのように激突すると、イスラフェル乙に突き刺さっていたソニックグレイブが貫通してイスラフェル甲にも刺さる。

 そのままソニックグレイブで串刺し状態となったイスラフェル甲乙のコアに対して、壱型と弐号機は猛攻を仕掛ける。

 

「セイッ!」

「やああああああ!!」

 

 コアに対してひたすら打撃。

 鈍い音が響くが、タイミングの問題なのか込める強さの問題なのか、弐号機がジリジリと後ろへ下がっていく。

 トドメの一撃、と壱型は拳を振りかぶり、弐号機は回し蹴り。

 だが、ソレがまずかった。

 

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

 

 両者のタイミングが僅かにずれ、それまでは互いに反発し合う方向に衝撃を受けており背中合わせとなっていたイスラフェル甲乙が動いてしまう。

 それによって渾身の一撃はコアの中心を射抜くことができず、勢い余って壱型と弐号機は前へ投げ出される。

 その背後ではイスラフェル甲乙が再び融合していた。

 

「そのまま走って!」

 

 イスラフェルの融合を確認したミサトは叫ぶ。

 なぜだ、と問うことはせずタローとアスカは壱型と弐号機を走らせて距離を取る。

 ある程度の距離が確保できたかと二人が振り向くと、イスラフェルは融合を終えて一体に戻っていた。

 

「しくじった、もっかいいくわよタロー!」

「いいえ、撤退しなさい」

 

 冷静に撤退を告げるミサト。

 アスカはそれに食ってかかろうとしたが、責任を感じ唇を噛み締めグッと堪える。

 

「......わかったわ」

「ごめんなさい。N2爆雷を要請、国連軍に指揮権を譲渡して構わないわ。ここは仕切り直しよ」

 

 国連軍に指揮権を譲渡するということは、実質的にネルフの作戦失敗を意味する。

 当然様々な方面からの苦情や抗議の声が飛び交うことになるが、それを受け持つのはミサトの役割。

 アスカが弐号機の中で敵前逃亡の形となってしまったこと、最後にタローに合わせられなかったことで悔しさと不甲斐なさに瞳に涙を滲ませ、エントリープラグのインテリアを握る手に力を込めているのと同じように、ミサトは受話器を握りしめる。

 

「完全に驕ったわ。私の失態ね」

 

 誰にも聞かれないくらい小さな声で呟くミサト。

 タローとアスカの二人なら、とろくに情報も得られていない中でこちらから出向いて行く形での迎撃。

 ほんの少しだけ何かが違えば無事に撃破できたであろうが、使徒との戦闘で二度目というのは基本的に避けるべき。

 今回は駿河湾で迎撃作戦に挑んだためN2爆雷を落としても多少海が蒸発する程度で済むだろうが、これが都市部となればそうはいかない。

 大きな責任と被害を伴う形になる以上、確実に撃破する必要がある。

 それほど使徒迎撃はデリケートな任務。それを『なんだかいけそう』と軽率に二人を危険にさらしたことにミサトが顔を歪めていると、壱型の中にいるタローも大きく息を吐く。

 

「周りが見えてなかったな。アスカに合わせるべきだった」

 

 そこにアスカからの通信が入る。

 

「ごめん」

「謝ることじゃないよ、運良く次があるから。だから今は一旦帰ろう、帰ればまた来られる」

「......ありがとう。ミサト! 聞こえてる?」

 

 小さくお礼を言った後、アスカは気持ちを切り替えるために大きな声でミサトを呼ぶ。

 それまでの会話が通信が繋がっていないため聞けていなかったミサトは、モニターに表示されたアスカの顔がいつも通りの覚悟を持った顔だったのに安堵しながら返事をする。

 

「聞こえてるわ。どったのよ?」

「お願い、次もあたしとタローにやらせて。あたしたちに落とし前つけさせて」

「もともとそのつもりよ。アレを撃破するためには完璧な連携が必要だもの、負担をかけることになるけどアスカとタロちゃんに任せるわ」

 

 ミサトにしっかりと返事する二人。

 三人それぞれが使命、プライド、望みを実現させるためにネルフ本部への帰路を辿った。

物語の密度と1話ごとの文字数について

  • サクサク進む(3000~4000字程度)
  • 少し書き込む(5000~6000字)
  • ガッツリ書き込む(7000字以上)
  • サクサク書き込め
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