モンハンワイルズ楽しい......
シンジたちが訪ねてきた翌日の朝。葛城家のダイニングではいつものようにタロー、アスカ、ミサト、そしてペンペン。三人と一匹が朝食を取っていた。
本日の朝食当番はアスカ。食パンのトーストにプレッツェル、サラダとゆで卵に数種類のハムやジャムとチーズ、バター。そしてスライスされたりんごに紅茶という、いかにも洋風な朝食。
それを黙々と食べる三人。今朝はいつもより早いからと、急ぎ目のペースで食べ進めていたミサトが、プレッツェルの最後の一欠片を口に放り込んでから話し始める。
「っん、ふう。そうだ、念の為確認しておくけど、作戦開始は三日後よ。いいわね二人共?」
「はい」
「ええ」
しっかりと頷いた二人を見て、ミサトは途端にニンマリと口角をあげた。
「そ・れ・か・らぁ~、ちょっと業務が忙しくてね。私は今日から二日間、つまり作戦開始日まで家を空けるわ。ちなみにペンペンも一緒よ」
「クェ」
ミサトに続いて頷くペンペン。タローとアスカは食べる手を止めてお互いの顔を見合わせた。
「つまりその間は二人っきりになっちゃうけど......まあ多少の間違いなら許すわ!」
と宣言するミサトに、タローとアスカは二人揃って吹き出す。
ゲホゲホと咳き込むなか、アスカがキッと眉を吊り上げてミサトに抗議した。
「なに言ってんのよミサト!?」
「多少ならなら許すって言ってるのよ。そもそもアスカ、あなたタロちゃんがお風呂入ってるとき乱入してるでしょ。それ普通に私じゃなかったらアウトよ」
「ぐ......」
ミサトの言うように、アスカは幾度となくお風呂乱入事件を引き起こしている。
それも水着を着ていたりタオルを巻いていたりするわけでもないため、そのたびにタローの心臓が悲鳴を上げている。
基本的にはミサトが仕事が疲れて眠っている日に乱入しているが、それでも翌朝の二人の様子を見れば気付くのが彼女。やけにニコニコしているアスカと、アスカを横目でチラチラと見るタロー。
怪しんだミサトが寝たフリをしてみればお風呂場から『入るわよー!』と元気なアスカの声に『ちょっとぉ!?』という焦ったタローの声。ミサトは全てを察してニヤけながら眠りについていた。
「流石に超堅物男のタロちゃんでもペンペンまで居ないとなれば怪しいしね」
「それ、褒められてるのか馬鹿にされてるのかどっちなんですか......」
「まー気にしない気にしない! 私が当直とかで家に居ない時も平気なんだし信用はしてるわ!」
というミサトの声に、二人はなんとも言えない顔をしながら黙って目線を下に向ける。
確かにミサトが寝ているときにアスカがお風呂に乱入することはあった。だが二人がお風呂を共にするのは乱入だけではなく、ミサトが家に居ない時にアスカから誘いタローが下心を隠して頷くことも多々。
流石にそこまでは知らなかったミサトは、突然黙り込んだ二人を前に目を丸くする。
「え、何その反応。私が居ない間にそんな美味しいイベントが起きてるワケ!?」
「ウッサイ! 早く食べて練習再開するわよタロー!」
「あー、うん。そうしようか......」
一度盛り上がってしまえばミサトには手が付けられないというのがわかっている二人は、潔く無視を決め込む。
それでも一人で『いやぁ~ん』や『ほわぁ~ん』など古い擬音を口に出して体をくねらせているミサトに、ペンペンはため息をついていた。
そして朝食を終えミサトがペンペンを抱えて出勤した後。時刻は午前十時。
タローとアスカの二人はリビングで例のリズムゲームを準備し終え、膝を突き合わせて話し合っていた。
「あと四十八時間。それがオレたちに残された時間だ」
「睡眠時間を八時間換算すると三十二時間、そっから諸々の時間を除いたらどれだけあるかしらね」
「そこで。なるべく息を合わせることを意識していきたいんだけど......アスカは何か良い案ある?」
とタローが問いかければ、アスカは顎に手を当て『んー』と唸りながら斜め上を見つめる。そしてひらめいたことがあるのか、あっと声をだしながらタローの両肩に両手を力強く置いた。
「いつものあたしたち以上でいく」
「......んん?」
ニヤリと笑うアスカに対して、タローは首をかしげることしかできず。
「あたしたちって普段ずっと一緒に居るじゃない。寝る時、食事の時、学校の時、訓練の時。それでもダメだったなら、それ以上に一緒に居ればいいのよ」
「それ以上って、具体的には?」
「起きるところからよ。寝て起きる、これが今日と明日で二回ある。普段は食事当番とか関係なしにあんたのほうが早起きだから、あたしもそれに合わせるわ」
そこまで言うと、アスカはタローの両肩に置いていた手をグイッと上にあげ、タローの両頬をニュッと軽く潰した。
「それから特訓以外も行動を同じにする。食事はもちろん、休憩する時も同じように休憩。お風呂は一緒に入るとして、トイレもどっちかが行ったらその前で待つの」
「ほう?」
「あれやろうと思った時、一緒に動き始めるくらいが理想ね。もうとにかくなんでもかんでも一緒にやって体に染み込ませるのよ、お互いの行動パターンを」
グリグリと頬で遊び始めるアスカに、タローは考える。
お互いの行動パターンを体に染み込ませるためとはいえ、わざわざお風呂を一緒に入ってトイレの前で待つ必要はあるのか、と。
そして顔面を弄ばれ揺れる視界でチラリとアスカの顔を覗き見て確信する。これは何を言っても聞かない表情してるから大人しく従うのが吉だ、と。
「そうと決まれば早速練習再開よ。ただちょっと工夫するわ」
立ち上がったアスカは用意されているリズムゲームのシートを引っ張ると、九十度回転させる。もう片方も同じように回転させ、互いに尻を突き合わせるような向きにセットし直す。
「横並びじゃなくていいの? 逆にやりづらそうだけど」
「やりづらいからこそに決まってるじゃない。タローもあたしも、もうお互いの動きを気にするのはおしまい。実戦でいちいち横を気にしながら戦うなんて効率的じゃないわ」
「......まぁ、やるだけやってみっか」
そして始まった特訓。たった三十分後、そこには這いつくばるアスカと頬をかいてどうしようかと悩むタローの姿があった。
「ぜー、はー......自信なくすわこれ......」
「まあまあ。まだ早いけど一旦休憩挟もうか」
大の字になっているアスカにスポーツドリンクを差し出しながら苦笑するタロー。
この三十分、アスカがタイミングを合わせられずにエラーが連発。
ドイツ時代に学校の芸術科目で音楽を選択している二人はリズム感というものは抜群である。
音楽に合わせて指定された箇所に触れるというこのゲームを一人でプレーする分には全く問題が無いが、デュエットとなると話しは変わる。
正確に押し続けていくと徐々にテンポアップして手数が増える、つまり時間が経過するほどに難易度が上がっていく仕様となっているが、タローがプレーすると初っ端からフルスロットル状態となるため序盤でアスカが落ちる。そして何度もそれが続き、アスカの中に焦りが生まれて必要以上に体力を蝕み、短時間で肩で息をし渡されたスポーツドリンクを見ることしかできてないほど追い込まれていた。
「横目に見てた時はなんとかついてけてたけど、全く見てないとダメね」
「そもそも横目に見てから動きを合わせられるだけでも凄いことだよ。って言っても、なんの慰めにもならないかもしれないけど」
「よ~くわかってんじゃない。それに、あんたは見なくてもあたしに合わせられるでしょう? それ......すっごい悔しいのよ」
ギュッ、とペットボトルを強く握ってうつむくアスカ。タローが次の言葉をじっと待っていると、ふっと鼻で笑ったアスカは眉を上げながらやれやれといった顔で目線をあわせる。
「そういうとこなのよねぇ。アスカ以上にアスカを知ってるわよあんた」
「ふふ、お褒めの言葉いただき光栄です」
「でもあたしはタロー以上にタローを知らない、これじゃあいつまで経っても隣に並べないっての。あたしは三歩後ろを歩く気なんてさらさらないから!」
ペットボトルの蓋を開けたアスカは口をつけ、スポーツドリンクを喉に流し込む。コキュ、コキュ、とアスカの白く細い喉が力いっぱい動いたあと、ミサトのように『ぷはーっ!』と息を吐いた。
「勝利は調和から生まれる、だったっけ? 鏡になるんじゃなくて、一体になるまで続けるわよ!」
「もちろん。それにアスカ、日本に来てからあんまりいいとこ見せれてないね」
「なんですってぇ~! 言ってくれるじゃないの、エースの余裕ってやつかしら!? 待ってなさいよ、今すぐあんたのとこにたどり着いてやるわバカタローッ!」
「望むところ!」
やや雑な発破のかけ方でも、一番いいところを見せたいその人から言われればアスカにとって効果覿面。
引きずり下ろしてエースになるのではなく、たどり着くという言葉が今の彼女と二人の関係を表しているようで、タローはむず痒さを覚えた。
「さあ特訓再開よ。昼までぶっ通し、地獄のワルツの開幕!」
声高らかに宣言したアスカ。彼女のタイミングを表示するモニターにMissの文字が表示された台パンならぬ床パンが奏でられるのは、それから二十秒後だった。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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