第七使徒イスラフェルをエヴァンゲリオン:プライマルと弐号機によるユニゾン攻撃で撃破してから数日。それまでの張り詰めた空気が抜けたネルフ本部では、それぞれがまったりと業務に取り組んでいた。
それは使徒との戦闘があるときに最も忙しくなるミサトも同様。発令所でリツコと三人のオペレーターたちとともにコーヒーを片手に談笑をする余裕すらあった。
「そうだ、皆にちょ~っち相談があるのよね」
そうミサトが切り出すと。四人は揃って彼女に視線を向ける。
ミサトからの相談とは一体何のことだろうか、と待っていると、彼女は一枚の紙を取り出しそれを机に置いた。
「これなんだけど」
「修学旅行?」
机の上に置かれたのは、タローたちが通う第壱中学校の二年生に配られた用紙。
内容はじきに開催される修学旅行、それのプランと保護者向けの説明だった。
「そ。全然知らなかったんだけれど、タロちゃんたちってぼちぼち修学旅行らしいのよ」
「修学旅行ですか。僕は行けなかったので羨ましいですね~」
「俺も修学旅行なんてなかったな」
「私は中学はありませんでしたが、高校は行けましたよ。京都でした」
この場にいる五人の中で唯一の修学旅行経験者であるマヤが言うと、ミサトたちはなんとなく若さによる差を見せつけられたような気がして肩を落とす。
セカンドインパクト世代かつ当時から修学旅行に行く暇がなかったミサトとリツコはもちろん、マコトとシゲルもセカンドインパクト後の騒動で安全面から修学旅行は行われず。マヤはようやくほとぼりが冷めた高校生の頃に修学旅行が開催され、まだ彼女の記憶に新しい出来事の一つでもある。
「にしても珍しいわね、ミサトがあの子たちの学校行事を把握していなかったなんて」
コーヒーを飲みながらリツコが呟くと、ミサト大きな声で『それが!』と距離を詰めてきた。
「タロちゃんとアスカったら全然言わなかったのよ!? せっかくの修学旅行なのに、二人とも揃って澄ました顔で『戦闘待機ですよね?』って、どんだけ自覚あるのよ偉すぎるわ!!」
「はぁ、惚気話なら他所でやって頂戴。もうわかってるから」
リツコがツッコミを入れると、マヤたちはクスッと笑う。しかしミサトは至って真剣なようで、作戦を考えているときにも似た表情と雰囲気を作り出してから口を開いた。
「ここからが大事なんだけれど......どうにかして四人のパイロットたちを二対二に分けて、一日ずつでも修学旅行に参加させられないかと思って」
そう語るミサトの表情は保護者そのもの。自分があまり体験出来なかった分、タローやアスカ、そしてシンジにレイも含めた我が子たちに学生を楽しんでほしいという気持ちが見て取れるほどだった。
だからこそリツコたちはすぐに思考してみる。もちろん彼女たちもエヴァパイロットである以前に四人の中学生、という認識を持って接しているからこそ浮かれているなどとは言わないし思いもしない。が、やはり現実的にそれを実現するとなるとミサトの考えと同じ答えが出てきた。
「エヴァの装備特徴、そしてパイロットの練度を考えるとレイとアスカ、タローくんとシンジくんのペアになるわね」
「私も先輩に同意見です。通常時とは異なる戦闘が発生した場合、プロトタイプの零号機では装備に限りがあり、壱型もレーマン博士の協力で空挺降下用のF装備はありますがそれ以外は装備不可なので分けて。汎用性の高いテストタイプの初号機と正規実用型の弐号機も分ける必要があるかと」
「戦闘スタイルで言えば、ガツガツ突っ込んでいけるドイツ組、後方支援が得意な本部組に分かれてますね」
「人間関係的な面で言えば、アスカはレイちゃんに懐いてますからね。というより、タローくんとレイちゃんを残したら彼女が帰ってきたときが怖い」
「わかるわ、それ」
総合的に判断したリツコと、エヴァの機体事情を考慮したマヤ、戦闘スタイルを考えたマコト、人間的な部分を考えたシゲルの四人どれもが同意見。特にミサトはシゲルの言うタローとレイをコンビにしたらアスカがブチギレるのではという点に同意していた。
「まさか皆が同じ意見とはね。実は私もそう考えてたんだけれど、大前提として本人たちが納得するかも微妙なのよね」
「というと?」
「一日だけだったら修学旅行行けるわよって、昨日聞いてみたのよ。タロちゃんとアスカに。でもタロちゃんは誰かを残してまで行くのは申し訳ないからオレが残りますとか言うし、アスカはタロー居ないならつまんないから残るって」
「そうなると、レイとシンジくんも似たようなことを言うでしょうね。二人を残して修学旅行に行っても仕方ない、とか」
「やっぱそー思うわよねぇ」
というミサトとリツコの会話にウンウンと頷くマヤたちオペレーター陣。
良くも悪くも彼らエヴァパイロットが覚悟と責任感を強く持っているため、学生としての楽しみもしっかり満喫してほしい大人たちにとってはなんともやるせない気持ちになる結論しか出てこず。
「実は黙っていたけれど、レイも似たようなことを言ってたわ。修学旅行は行けるわよと聞いてみたら、頑張った白露くんとアスカに行ってほしいって。それをアスカが聞いたらますます行く気をなくすでしょうね」
「想像つくわね。となるとシンジくんだけでもと言いたいところだけど......」
「まあ厳しいかと僕は思いますよ。シンジくんだって自分が行くよりは二人に行ってほしいでしょうし、それを聞いたら今度はタローくんが行く気をなくしそうですし」
「まさか四人が仲良すぎるデメリットがこんなところで出てくるなんてな。いや~、羨ましい限りですよ」
呑気に笑うシゲルだが、ミサトはやはり頭を悩ませる。自分がまとまった休みを取れればこの第三新東京市郊外程度なら使徒襲来を考えつつ連れまわせるのだが、と嘆く。
「そういえば、肝心のタローくんとアスカはどうしてるんですか? 今日みたいに実験がない日でも、たいてい本部で姿を見てましたが」
「ああ、二人はデート中。なんか映画見て服を買うって言ってたわよ」
スマホを取り出したミサトは、何かのアプリを開く。それをリツコが盗み見ると、とあるショッピングモールで『Taro♡』『Asuka♡』と名前のついているピンが動いていた。
思わずリツコが小さく声を漏らして反応すると、ミサトは焦ったり隠そうとしたりはせず。むしろ逆に新しい玩具を自慢する子供のような顔をして四人にそれを見せつけた。
「今はショッピングモールを散策してるみたい。三階だから服を見てるのね」
「ちょっと待ちなさい。ショッピングモールなんていう電波が混雑している場所で移動が正確にわかるのも驚きだけれど、まさか高さまで分かるの?」
「そりゃわかるわよ。高さがわからないんじゃ二人のことを確実に見つけようがないじゃない」
「......やはりドイツの科学力は世界一なのかしら」
ミサトが話している間にも、リアルタイムで正確な位置情報を更新し続けるアプリに頭を抱えてしまうリツコ。
この地球の周りに無数にある、世界各国が打ち上げた衛星をバレないように不正に利用し、なおかつ独自のプログラムをとある科学者が個人的に保有しているスパコンを用いて動かすことで初めて実現する究極のGPS。
それをまるで何てことなさそうな顔で利用しているミサトだが、ぼそぼそと何かをつぶやくリツコをはじめマヤとマコト、シゲルの三名もその異次元さをそれとなく理解はしていた。
「でも良いですねぇ、デート。ちょっとうらやましいです」
「ありゃ、妬いちゃった?」
「違いますよ! ただ時間があるときにそうやってお出かけできる関係性がうらやましいなっていうだけで、別にアスカがほかの男の人と遊んでいてもうらやましくもなんともありません!」
まったく! と言いながらそっぽを向くマヤ。すかさずシゲルが『俺でよければ付き合うぜ?』と問うてみれば『結構です。多分趣味が合わないので』と即撃沈。
冗談のつもりで言っても仕事仲間にこうもキッパリ断られるとショックだったのか、シゲルは硬直してしまう。マコトは『なら僕が!』と続こうとしていたが、マヤの無駄なことを聞くんじゃないと制圧するような目力に開きかけた口をそっと閉じた。
「まあ、なんにしてもリラックスさせることは大事よ。ただあの子たちにはあの子たちなりのリラックス方法があるし、もう明日に迫った修学旅行へ無理やり参加させるのは諦めるしかないわね」
「......そうね、私が気が付くのが遅すぎたわ。ていうか、よくよく考えたら修学旅行の期間中会えないとか普通に無理」
「また急に重たい女みたいなことを」
「失礼ねぇ、一途って言いなさいよ一途って。ま、あんたにはわからないでしょうね。恋したことない歴イコール年齢の赤木ハカセには」
「恋愛未経験の三十路呼びされようが、中学生にガチ恋するアラサーよりよっぽどマシよ」
横から聞いていると実は仲が悪いのでは、と思わせてしまうような言葉遣いをするミサトとリツコ。
しかしそれもまた、二人がリラックスする方法の一つである、とマヤは眺めながら思う。たまにガチの喧嘩に発展することもあるが、それでも一拍子置けば元通りになれるくらいには硬い信頼が二人の間にはあった。
「......はぁ、そろそろここも飽きてきたな」
そんなやり取りが発令所で行われているとき、加持はため息をついて真っ白な天井を見上げる。
場所は懲罰室、再び権限外の部屋へと侵入したことでここに送られた加持は目を閉じてつぶやく。
「俺が本部移動になったってこと、みんな忘れちまってるかもな」
閉じられた瞳の間からわずかに涙をにじませた加持は現実逃避の旅にでるのであった。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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