ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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ネルフ御一行様の温泉休暇:上

 浅間山にて行われた呼称第8使徒の幼体、その捕獲作戦もとい殲滅が終了した後。

 プライム・チルドレン、ファースト・チルドレン、セカンド・チルドレンの三名のエヴァパイロットと、彼らとともに作戦に当たったミサト、リツコ、マヤの合わせて六名は、ネルフ所有の要人郵送用垂直離着陸機、VTOLに乗って移動をしていた。

 

「ん~、これでいいのか......?」

 

 そこそこに狭い機内で、タローは窓枠に右肘を着いて外を眺めながら呟く。

 これでいいのか、とは向かっている先の旅館に宿泊するメンバーのこと。

 作戦担当者としてしっかり任務を全うしたアスカはもちろん、その他の面々が泊まるのはおかしい、というわけではなく。タローはこの場に居ないサード・チルドレン、シンジに思いを馳せていた。

 

 遡ること数十分前。作戦終了後に、大人たちは撤収作業を、パイロットたちは報告書の作成が終わった頃に、二機のVTOLが。一つは今まさにタローたちが乗っているもの、もう一つは司令でありシンジの父親、ゲンドウが乗っているものがやってきた。

 まさか浅間山まではるばるネルフの総司令官がやってくるとは思わず。現場はやや混乱したが、ゲンドウはエヴァのパイロットたちとオペレーターたちに近づき一言。

 

「ご苦労」

 

 その言葉に対し、全員が返事をした後。頷いたゲンドウは改めて作戦に参加した全員の顔を見た後、シンジに声をかけたのだ。

 

「シンジ、宿は取ってある」

「えっ」

 

 それからは驚くほどスムーズに話が進んだ。当初、今タローたちが乗っているVTOLの六名に加えてシンジも含めた七名で旅館に泊まるかと思われたが、以前からシンジが父親とゆっくり過ごす時間を所望していたこともあり、まさかの碇家は別の旅館に宿泊する流れとなったのだ。

 いくら親子の時間がなかったとはいえ、シンジとて年頃の少年。友人たちの前で父親と一緒に宿泊することを言われても、恥ずかしさから拒否するのでは。と予想していたタローだったが、見たことのないくら満開の笑顔で元気良く頷くシンジを、タローは手を振って見送ることしか出来なかった。

 

「にしても、旅館で一泊なんて久しぶりだわ~」

「そうね。作戦以外で第三新東京市を一日開けることは難しいもの」

「気を使ってくれた碇司令には、感謝しないとですね」

 

 タローの前では、すっかりリラックス状態となったミサトが頬を緩ませながら旅館での酒盛りを考える。

 その隣に座るマヤも旅館に泊まることは学生時代の修学旅行以来のため、普段よりやや上ずった声で。さらに隣のリツコは、紙コップからコーヒーを呑みながら答えた。

 

 エヴァパイロットの四名はもちろん、作戦課長のミサトに、エヴァのメンテナンス等の運用を担当するリツコ、それを補佐しつつ作戦時にはタローとアスカの専属補佐も行うマヤは、有事の際に備えて第三新東京市内にとどまることが好ましい。

 ネルフ本部に勤務する他の職員は定期的に有給を取ったり、ということもあるが。彼女たちはその役割からどうしてもプライベートと仕事の境界線が曖昧になりがち。そこに平日の仕事終わりにタダで温泉もある旅館とくれば、テンションが上がらないわけがなかった。

 特にマヤは、普段家に帰っても同じルーティンが続く生活を送っているためか、顔に『楽しみ』と貼り付けてあるのが誰の目に見ても明らかだった。

 リツコはそんな後輩を見て微笑むと、またコーヒーに口をつけた。

 

「旅館に着いたらさっさと温泉に入りたいわぁ。朝も入らなきゃ勿体ないわね」

「貸し切り状態、なのね」

 

 そんなリツコの前に座るレイが、ゲンドウから貰った旅館のパンフレットを隣のアスカと見ながら呟く。

 全員が全員同じ場所に宿泊、というのは要人保護の観点から一長一短であるため、この六名と碇家とは別の旅館に宿泊することになっている。

 ゲンドウが居ては本人が気にするなと言えど、気持ちが休まらないだろうとレイにパンフレットと『楽しんでこい』という言葉だけ残してそそくさとシンジを連れ去ったのはそのためだった。

 

「貸し切りってことは、それってつまり混浴可能なのでは?」

「変なこと言わないでくださいよミサトさん。綾波もリツコさんも、マヤさんも居るのに」

「あら。私は別に構わないわよ? 見られて恥ずかしい体のつもりはないし、タローくんの裸なら見慣れているし」

「ハ?」

「ぃや違うからアスカ! 検査でだから! 身体検査でってだけだから! リツコさんも変なこと言うのやめてくださいよッ!?」

 

 そんなやり取りをしながら六名は旅館に到着。

 場所は予定通り第三新東京市郊外。源泉かけ流し、露天風呂もあるこじんまりとしたこの旅館までVTOLで一直線とはいえ、昼過ぎに始まった作戦の後処理後に移動を開始し、VTOLが着陸できる場所から徒歩だったこともありすっかり日が傾いている。

 温泉が混じり湯気の立つ川沿いにあるこの旅館、そこに続く橋を渡りきった六名は『本日貸し切り ネルフ御一行様』という立て看板をミサトがひょいと持ち上げ、引き戸を引いて入室した。

 

「お待ちしておりました」

「ゲッ! 保安諜報部の!」

「ふふ、はい。実は私、実家が旅館でして」

 

 出迎えてきたのは黒髪を短く束ねた和装姿の若女将。と思いきや、ミサトが見覚えのある保安諜報部の職員だった。

 見覚えがある理由は至って単純。彼女がいつもは髪を一本に結い、真っ黒なスーツにサングラス姿で陰ながらタローの護衛や保護を行う、ミスターKをリーダーとした集団の一員だから。

 そしてそれだけではなく。

 

「あ、どうも。こんな時まで申し訳ないですが、よろしくお願いします!」

「いえいえ。私としても懐かしい気持ちになりますし」

 

 爽やかな笑顔でタローに返事をする彼女だが、裏では保護対象である彼のことを『推し』と言い切るような人物。

 彼女の上司にあたるミスターKから、ミサトは以前『優秀だが熱意がありすぎて困っている。申し訳ないが貴女の秘蔵コレクションを分けてくれ』と頼まれたこともあり、ミサトとしては危険人物という認識。

 パイロット四名には各自専属の保安諜報部のチームが着いているが、アスカ、レイ、シンジの三名にもチーム内に推しですと宣言する職員がいる。しかしアスカとレイを推しと言うのは女性職員だが、シンジを推しと公言しているのは何故かオネエ気質の男性職員ばかりなのはまだ誰にも知られていない。

 

「お荷物お預かりします。お部屋の案内をいたしますね」

 

 ササッとどこからともなく現れた同じく旅館職員になりきっている保安諜報部数名に荷物を預けたタローたちは、仮称若女将の後に続いて宿泊する部屋へと向かう。

 とはいえ、三階建ての旅館は完全なる貸し切りであるため部屋はどこでも使用できる状況。しかし名目は休暇であり、かつ保護及び有事の際の避難が容易であるため一階の部屋を案内される。

 

「六人で一部屋でも三人一組でもお一人さまでも、お好きな部屋を利用していただいてかまいませんので。お食事時間や他に何がございましたら、こちらでご連絡ください」

「ありがとうございます」

「それでは」

 

 一階の全六室を案内した仮称若女将は、最後に大広間に案内。そしてしれっとミサトではなくタローに連絡用の携帯電話を手渡しすると、荷物と六人を残して退出する。

 もちろん最低限の保護活動として出入り口には人が常駐し旅館周囲にも人を配置して警戒をするが、この後は呼びつけを受けない限り旅館内に保安諜報部が立ち入ることはない。

 つまり家と同じで完全なるプライベート空間。ミサトはさっそく上着を脱ぎ捨て楽な格好となり、大広間で座り込んでくつろぐ。それに続いて全員が座ると、タローはミサトに仮称若女将から預かった携帯電話を預けようとした。

 

「ミサトさん、これで連絡をしてくれって」

「ああ、タロちゃんが持ってて良いわよ。多分私が電話したら拗ねるし」

「え?」

「まあまあ。とにかく、まずはパーッと温泉入って汗流しましょう! 晩御飯の時間はどうするー?」

「今は十七時前ですね。温泉に入ってのんびりするとなると......十八時半くらいでしょうか」

「私もマヤに同意ね。せっかくだしゆっくり楽しみましょう」

「あたしも賛成!」

「私も」

 

 全員の意見がまとまったところで、早速とタローが携帯電話を開いて一つだけ登録されている番号に電話をかける。

 仮称若女将の元気な声に『夕食は十八時半に大広間でお願いします』とタローが言えば『かしこまりました!』と何故か鼻息を荒くしつつ承った。

 

「それじゃ早速」

 

 温泉に行きましょう。そうアスカが提案しようとしたところで、大広間の襖が開かれる。

 誰だろうか、と全員が目線を向けると、普通の人なら顔が見れるであろう位置には何もなく。下に目を向けると、葛城家で生活する三人は見慣れた存在が居た。

 

「クァ」

「ペンペン!」

 

 来たぜ、と言わんばかりに手を上げている温泉ペンギンのペンペンに駆け寄るタロー。

 彼がペンペンを抱き上げると、腕の中のペンペンはあっちあっちと温泉に続く方へ向かって何度もクチバシを向け、瞳を輝かせながらクウクウと鳴く。

 まるで『はやく行こう!』と言うかのようなペンペンを胸に、タローは振り返って自分の着替えが入ったカバンを手にした。

 

「オレ、ペンペンといっしょに温泉入ってきますね!」

「カウァ!」

 

 わりいな、とタローの腕の中でニヤリと笑ったペンペン。タローは『ペンペンが来てくれなかったら押し通されて混浴になってたかも』と考えながらパタパタと温泉に向かって走っていった。

 残された女性組がその音を目で追っている途中にも、タローの楽しそうな『まずは体洗ってからだよ!』やペンペンの甲高い甘えるような短い鳴き声がして、アスカとミサトは眉をピクピク動かしレイは微笑む。

 

「白露くん、いつもペンペンが居ると嬉しそう」

「そうね。にしても、ミサトの家にお邪魔した時から思っていたけれど温泉ペンギンがあんなに懐くとは珍しいものよね。突然美味しい料理を作ってくれる人が現れたともなれば無理もないでしょうけど」

「ちょっと、どういう意味よそれ。私がペンペンにまともなものを食べさせてなかったとでも言いたげね」

「ペンペンくんも男の子ですから、やっぱり同じ男の子としてタローくんとは仲が良いのかもしれませんね。でも、それにしても不思議な感じはしますけど......」

「わかるわよマヤ、あたしいつも思ってるもの。ペンペンのあの声は完全に落とされてるわよ......。だって明らかに良さげな雰囲気のときに邪魔してくるものッ! オスの! ペンギンに! 邪魔されるのよ!!」

 

 コンチキショー! と言いながら畳に拳を打ち付けるアスカ。レイが背中をさすると、ガバッと顔を上げた。

 

「こうしちゃいられないわ! あたしたちも早く温泉に行くわよ! レイ!」

「ええ」

「私も行くわ! ぐふふ、ちょっと覗ける穴とか作っちゃ駄目かしら。 つかやっぱ混浴でいいわよね? イイわよね?」

「マヤ、私たちも行きましょう。タローくんの貞操の危機よ。......マヤ?」

「あっ、は、はい! そ、そうですね!」

「......全く」

 

 ペンペンにタローを取られてなるものか、と息巻くアスカと、静かながらもそれに同意するレイが立ち上がり、その後にやや危険な言葉を発しながらミサトが続く。

 アスカとレイはともかく、ミサトは大人として一応止めなければ、とリツコも立ち上がり、顔を赤くしてぼーっとしていたマヤも彼女に二度名前を呼ばれようやく復帰する。

 その様子にミサトはともかく後輩が楽しそうに過ごせているなら、とリツコはVTOLでの移動中と同じように微笑む。が、直後にその顔を無表情にした。

 

「いや未成年は駄目でしょ。せめてあと四年は守らないと」

 

 自分の前を歩く成人女性二人を見ながら『ニュースに二人の名前が出ないようにしよう』と誓うリツコは、諜報部よりも諜報部らしい険しい顔になっているのであった。

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