タローが混浴の流れを断ち切ろうと、タイミング良く現れたペンペンとともに男湯に向かってから少し遅れて。
アスカを先頭に、女性陣五人が温泉の前までやってくると、そこにはどの温泉にも共通するように、左右で二つに入口が別れていた。
しかし、タローが脱衣所に入った時。彼が入った左には青い暖簾で男、右には赤い暖簾で女となっていたそれは、アスカたちが到着すると、右の入口は閉鎖されており、左の入口には黒い暖簾に漢字の湯が刻まれているだけ。
不思議に思ったアスカがその暖簾の下にある立て看板を読むと、そこにはこう書かれていた。
「ただいまの時間、男女混浴......へぇ、保安諜報部も気が利くじゃないッ!」
それを見たアスカは、我先にと暖簾をくぐって脱衣所の中へ。後にレイも続き、ミサトも『混浴の時間なら仕方ないわよね~』と当然のように暖簾をくぐる。
その後ろでは、マヤが混浴の文字に固まり、踵を返して入浴時間をズラそうとするが。リツコが彼女の細い腕を掴んで止めた。
「行くわよマヤ、私たちも」
「で、でも先輩! 混浴だなんて、そんな......」
「......貴女はいいの? このまま逃げたら作戦課長が未成年淫行で逮捕され、私たちはパイロットの管理不届きになるわよ。ここは腹をくくるしかないの、見られるのが恥ずかしいならタオルで体を隠しなさい」
「う......わ、わかりました......」
リツコに丸め込まれたマヤは、顔を真っ赤にしてうつむきつつ、手を引かれて脱衣所へ。
そこではタローの着替えと脱いだ服の置かれたロッカーの横を陣取るアスカとレイが服に手をかけており、ミサトは既に上半身を露わに。
脱衣所でそんなことが起きているとは知らないタローは、露天風呂の手前。室内の洗い場で自身の頭を洗い終え、ペンペンと一緒に体を洗っている最中だった。
「楽しみだなぁペンペン」
「ピィ!」
体を洗いながら、ペンペンの手伝いもしつつ声をかけるタロー。ペンペンの甲高い返事に『インコみたい』等と思いながら、泡を流そうとシャワーに手を伸ばす。
その左手が握ったのは細く白いシャワーヘッドではなく。代わりに、ムニッとした押し返すような弾力を感じた。
「白露くん」
「え? ......エェ!? 綾波、ナンデ!?」
不思議に思ったタローが視線を向けるよりも前に、レイが彼に声をかける。
声のする方向へとタローが顔を向けると、そこにはタオルを巻いたレイが無表情で立っており、タローは自分の左手がまだお湯を浴びていないためひんやりとしたレイの太ももに押し当てられていることに気づき、急いで手を引く。
なぜレイが男湯に居るのか。それを確認するよりも前に、タローは引いた手をずらして伸ばし、シャワーを手にとってペンペンを流す。
そんな彼の横にある椅子へと、別のシャワーを手に取り茶色の強い長い金髪をなびかせた少女が座った。
「
「イヤ、結構デス」
「ッハハ! 顔真っ赤~」
アスカが茹でダコのようになったタローを見て満足気に笑う。
彼女もまたレイと同じようにタオルを巻いて隠しており、なおかつ普段は葛城家でかなりラフな格好をしているしお風呂に突撃されることもあるため、タローはいくらか見慣れているが。それでも彼女の肢体を直視することはできず、目を逸らしても同じ格好のレイが居るとなれば逃げ場がなく目線を下に向けるしかなかった。
「なによ、楽しそうじゃない」
「ミサトサッ」
助けが来た。
ミサトの声にそう思ったタローが顔を上げると、なぜかタオルを腰に巻いているミサトの姿がそこにあった。
タローの行動は早く、瞳孔が数回開いたり閉じたりしてパニック状態になったかと思うと、突然スンとした無表情になってシャワーからお湯を出し、自身とペンペンの体に着いた泡を流し落とした。それが終わると鏡の下に置いておいた二つのタオルを手にし、一つは折りたたんでペンペンの頭の上へ、一つは自分の腰へと目にも止まらぬ速さで巻いて立ち上がった。
「ペンペン」
「ク」
そして二人は目を合わせて頷き、脱兎のごとく洗い場を飛び出して露天風呂へと向かう。
突然のことにアスカもレイも、ミサトも反応することが出来ず。遅れてやってきたリツコとマヤはタローとペンペンの後ろ姿しか確認出来なかった。
「あちゃー、ちょっちやりすぎたかしら」
「貴女、まさか家でもそのノリなの?」
「い、いけませんよ葛城さん! そんな、上も隠さないと......!」
マヤの指摘が尤もである。だがしかし、彼女は振り返ったミサトの腹部にある大きな傷跡を見て、思わず失言してしまったと口を抑える。
だがミサトはそれを気にする素振りもなく、むしろ申し訳ないという表情を見せた。
「その傷跡......」
「あーこれ? ごめんねマヤちゃん、変なの見せて。でも気にしないで! ドイツに居た時イェーナさんから治せるって言われたけど、治さないでこのままにしたのは私だし」
「忘れてはいけない、とでも?」
リツコは固まるマヤの横を通り抜け、ミサトに声をかけながらシャワーで体を洗い始める。
その目はまるで自分を試すかのようだ、と感じたミサトは眉をハの字にして笑いながら隣に座った。
「違うわよー。ただ無理に綺麗であろうとも汚れようともしないで、ありのままでもいいって思えるようになっただけ」
「......もう少し早ければよかったんじゃないかしら?」
「意地悪言うんじゃないわよ。もしそうなったなら隠すつもりは無いケド、ね」
「でも受け入れてくれるんじゃないかしら? あの娘たちが夢中になる理由もそこにあるだろうし」
何やら大人たちが意味深な会話をしている、と思いつつも。ミサトの腹部にある傷跡のことをドイツに居たころから既に知っているアスカは遅れを取り戻そうと頭から洗い始める。
レイとマヤも二人同じタイミングでシャワーを手にしたところで、既にリツコは化粧を落とし終えて頭も洗い終え、ボディーソープで体を洗い始めていた。
「ただ、今は状況的にも年齢的にもそんなこと言ってる場合じゃないわよ」
「あのねぇ、私にそんな権利が無いってことくらいちゃんとわかってるわよ。こっちから手を出すつもりないし受けよ受け。大体、こちとら女やってるわけじゃないんだけど?」
「あらそう? とてもそうは見えないけれど。言ってなかったけれどドイツから戻ってきて以来、貴女とても楽しそうな女の顔してるわよ」
「ちょっと。それ、褒めてんのか馬鹿にしてんのかどっちよ」
目を細めるミサトに対して『さぁね』と軽く流すリツコ。口を動かしながらも手を止めていなかった彼女は、既に全身を洗い清め終え、最後の仕上げとシャワーで流してから立ち上がり、タオルを体に巻き始めた。
「私は一足先に行くわ」
「ナッ!? ずるいわよリツコ! てかなんでそんなに早いワケ!?」
「髪が短いと、こういう時に楽なのよ。それじゃ」
ひらひらと手を振りながら露天風呂へと向かって歩くリツコ。その後ろでミサトは恨めしそうな顔をしながらシャンプーを泡立てている。
彼女の隣のアスカは頭を流し始め、リツコと同じようにショートカットのレイとマヤは二人を追い越し体を洗っている。
一方のリツコは、扉を開けて外に出ると、洗い場には無い自然の風の心地よさを感じた後、タローの姿が見えないことに一瞬焦りを覚える。
だが、湯船内部にある岩かげから気持ちよさそうな顔をしたペンペンが頭を上にして流れてきたのを見て、タオルを巻いたまま湯船の中に入る。
リツコが岩に手をかけながら後ろに回ると、そこにはペンペンと同じような表情でタオルを頭の上に置いて肩まで湯につかるタローの姿が。
「お隣失礼するわね」
「ぇ? あっ、は、はい! どうぞ!」
覗き込むリツコに気付いたタローは、慌てて背を向ける。
その後ろ姿に笑いかけながら、リツコは体に巻いたタオルをほどき折りたたんで岩の上に置き、ゆっくりと彼の右隣に座った。
「もういいわよ、どうもありがとう」
「いえ......」
新陳代謝を促し保湿する、と美肌効果を売りにしている温泉は無色透明。
そのため、いくら湯に浸かっているとはいえ下を向いたらほぼ丸見え状態。タローは足を組んで手をその上に置き、肩が触れそうなほど近くに足を横に流して座ったリツコを不快にさせないようにと、顎を上に向ける。
リツコはそんな彼の顔をじっと見ながら話し始める。
「今日の作戦、タローくんやアスカ、ミサトから学ぶことが多かったわ」
「学ぶこと、ですか? オレは特に何も」
「いいえ。使徒を捕獲できた、そう思ってすぐに気を緩めてしまったけれど。貴方たちは最後まで油断していなかった。自分が恥ずかしい」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、リツコさんたちのお陰でオレたちは作戦に集中できてるんです。だから、あんまり自分を卑下しないでほしいというか、なんというか」
生意気ではないか、と言っている途中に思ったタローは徐々に小さな声になっていく。
リツコはそんな彼のことを、頼もしいと思えど生意気などとは思わず。むしろ年下に気を使わせたと額に手を当て『私もまだまだね』と呟いた。
「タローくん。貴方の最初の戦闘の後、祝勝会でも言ったと思うけれど。大丈夫だったから、という考えで貴方を。レイやアスカ、シンジくんを失うなんて耐えられないわ。今日の出来事は改めてそれを強く認識させることになった」
「リツコさん......」
「それと、そんなつもりは無いでしょうけれど。もっと私たちに期待しなさい、もっと私たちを当てにしなさい。私たちはタローくんたちの期待に答えるつもりよ、失敗したら感情のままに罵ってくれて構わないから」
リツコからの強い視線を感じ、タローはゆっくりと彼女の顔を見る。
いつもの化粧をした、大人な女性という色気を醸し出す姿ではなく。涼しげでどこかあどけなさを感じさせる見た目。その流し目に思わずドキリとしたタローは、急いで視線を逸らす。
ところが、リツコはその反応を良しとせず。タローの顎を持って無理やり自分と向き合わせた。
「どうしたのかしら? 急に目を逸らすなんてらしくないわよ」
「い、いや......」
「意外とウブなのね。可愛いところもあるみたい」
「からかわないでくださいよ!」
強く頭を反対方向に向け、リツコの手から解放されたタローはフンと鼻を鳴らして怒ってますよとアピール。
リツコが苦笑しながら『ごめんなさいね』となだめるように謝ったところで、じゃぶじゃぶとお湯が音を立て始めた。
「あんた! タローに変なことしてないでしょうね!?」
何事だ、と二人が顔を見合わせたタイミングで現れたアスカは、タローをリツコから隠すように、彼の頭を持って自らの腹部に押し付けながら抗議する。
作戦の時はあれだけ冷静でも、やはり彼が絡むと年頃の少女であることに思わず口元が緩むのを隠しながら、リツコは身の潔白を証明する。
「何もしていないわよ。ただお昼の作戦のときのことを話していただけ」
「本当でしょうね?」
「本当よ。それよりも、そろそろタローくんを解放してあげたほうがいいと思うのだけれど」
リツコに言われて、アスカは自分が抱き寄せるタローを視界に入れる。
タオル越しにアスカの引き締まった腹部に顔を押し当てられ、感触やら香りやら状況やらで頭が混乱しきったタローは、見える耳を真っ赤にして固まっている。
急いでアスカが顔を放すと、復帰したタローは押し当てられていた鼻を真っ赤にしながら深呼吸をした。
「スー、はぁ~......死ぬかと思った......」
元々なんとか呼吸は出来ていたものの、それをするとアスカの香りで色々とおかしくなりそうだと息を止めていたタロー。外の新鮮な空気をこれでもかというくらいに吸い込んだ彼に向かって、アスカは申し訳ないと眉を落とした。
「ごめん」
「いやいや、謝ることじゃないよ。こっちこそ勘違いさせてごめん、ありがとう」
「......ん」
アスカの謝罪を受けたタローは、非があったのは自分でありむしろ助けようとしてくれたことに感謝しながら、アスカから視線を逸らす。
その意図を察したアスカはタオルを解くと、タローと肩を触れさせながら隣に座りもたれかかった。
反対側からそれを見ていたリツコは、かけていないメガネをクイッと上げる動作をしてから、早口な小声でボソボソと呟き始めた。
「なんなの? この子たち。どこでもイチャイチャ、自分たちだけの世界を作り上げてるじゃない。というか、その割にはウブなのはどうしてなの。コラそこ、一瞬離れた肩と肩がまた触れたときに恥ずかしそうな笑顔をするんじゃないわよ。こんなのミサトが見たら温泉が紅に染まるわ。アスカその表情やめなさい、どうしてタローくんの前だとそんな色づいた表情が出来るの。タローくんはどうしてアスカの前だとそんな子供っぽい表情が出来るの」
「せ、先輩?」
本人たちに言ってやりたい気持ちと、いい感じの雰囲気を邪魔はしたくないという気持ちが入り混じり、自分だけに聞こえるように呟くリツコ。彼女の横からレイを引き連れたマヤが声をかけると、リツコは意識をそちらに向けた。
「レイ、マヤ、貴女たちも早くお湯に浸かりなさい。風邪引くわよ。大丈夫、タローくんなら今はもう視界にアスカしか入っていないわ」
「あ、あはは......そうみたい、ですね」
「ちょっと何よその反応。レイ、あの二人を現実世界に連れ戻してきて」
「了解」
レイはてくてく歩き、超至近距離で今日の作戦を振り返っているタローとアスカに近づく。そして、二人の首筋に自らの手を押し当てた。
『ッツゥ!?』
「目が覚めた?」
「リアクションも同じなの」
二人して後退り、目を大きく見開いて驚くタローとアスカにもはや呆れを通り越して『前回のユニゾンで完璧な連携を手に入れたのね』と尊敬すら抱き始めるリツコ。
そんな彼女たちの直ぐ側に、何かが落下してきて大きな水しぶきをあげた。
「うっひゃー! っぱ温泉はイイものねぇ!」
落下してきたもの、それは露天風呂へと豪快にエントリーしたミサトだった。
そのまま五人の前で片膝を立て肩までお湯に浸かってリラックスし始めるが、そこにアスカが噛みつく。
「ちょっとミサト! びしょびしょじゃない!」
「いーじゃないのー、どうせ上がる時にまた流すんだし。にしてもアスカ、やっぱすごく肌綺麗よね。チョト触らせなさいよ!」
「ひゃっ、こ、このアホミサト! 変なとこ触らないでよもう!」
「わーぷくぷくしててすっべすべ! なにこれキモチー!!」
アスカの体を弄りながら下品な笑い声を上げるミサト。ようやく解放されたアスカが涙目になり肩で息をしていると、今度はミサトの視線がレイへと向いた。
「レイぃ? あなたも、身体検査してあげるッ!!」
「......少し、くすぐったい......」
「あぁ~しっとりしててなめらかぁ......ひんやりしてて気持ちいいわよレイ! これはマシュマロね!!」
サムズアップしてレイを称えるミサト。レイは自分の肌を自分で触り、これはそんなに良いものなのかと確かめる。
そうしている間にもミサトは、次のターゲットに目をつけていた。
「か、葛城さん......?」
「マヤちゃん、わかってるわよね。年齢順よ?」
「い、いや、その。私は......ッ!?」
「はいつべこべ言わなーい! マヤちゃんのこの吸い付くようなみずみずしい肌、若さを感じるわ! それに、可愛らしい顔通りの中々に形が綺麗なものをお持ちみたいで!」
「んやっ、やめてください、せ、先輩! タローくん! 助けてぇ」
マヤの助けを求める声も虚しく、ミサトの手は止まらなかった。
それを見ていたリツコは『こんなことをされたら面倒だわ』とちょうど体も温まっていたためその場から離脱することを決意。しかし、何も発さないタローが気になり横へ目を向けると。
「......」
「......忘れていたわ、この子意外とウブなんだった」
アスカがミサトにまさぐられるよりも前。ミサトが色々とおっぴろげで飛び込んできた当たりから既に意識を飛ばしかけていたタローが、全身を赤くして目を白黒させていた。
このまま放置しては普通に生命が危険だ、とリツコはミサトたちに気づかれないようにとタローのことを担ぎ上げる。そこに、ペンギンの手が。
「あら、手伝ってくれるの。どうも助かるわ」
「クッ」
リツコはペンペンから猫の手ならぬペンギンの手を借り、二人と一匹で露天風呂を後にする。
やはりタローの裸を見慣れていると豪語するだけあり、リツコは至って冷静にタローの体を拭いて着替えさせ涼しい場所で彼が目を覚ますまで介抱した。
夕飯前に目を覚ましたタローは『もうお婿に行けない!』と顔を両手で覆い、リツコはそれを見て大層満足げな顔をしていたとか。
本当はこれ中の予定で、上中下の三本にしようと考えていましたが、はやく次の使徒をしばきたいので終わらせます。
多分、そのうちきっと気が向いたら本当の下も投稿します。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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サクサク進む(3000~4000字程度)
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少し書き込む(5000~6000字)
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ガッツリ書き込む(7000字以上)
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サクサク書き込め