「グ......ク、ク......」
修学旅行明け最初の休日、その昼過ぎ。
葛城家ではアスカが唇を噛み締め、今にも叫ばんとするのを我慢していた。
その理由は
「食べ物もこっちと違って新鮮で」
「ほんでな! 海が透明で」
「キレ~なお姉さんがガイドさんで」
「へ~、そうなんだ。僕は沖縄に行ったことないから知らなかった」
修学旅行を終えて帰ってきた第三新東京市立第壱中学校、2年A組のヒカリ、トウジ、ケンスケ。そしてゲンドウとともにアスカたちとは別の旅館に泊まったシンジである。
まるで自分の家のようにくつろぐ彼らは、タローがお客ようにと用意したジュースやらお菓子やらを食べながら談笑している。その内容は、主に修学旅行の話。
ことの発端は2年A組が修学旅行の全日程を終了し、第三新東京市へと戻ってきた日の夕方。トウジとヒカリが
その話をタローはトウジから、シンジはケンスケから、アスカはヒカリから、レイはトウジから知らせを受けたタローから聞き、四人のエヴァパイロットは特に断ることもないと承諾。
しかし問題はその場所であった。
「なんっでウチなのよ......!」
「......」
アスカは隣でオレンジチップをポリポリと小さく齧るレイの肩に『あんたは居てもいいからね』と手を載せながらぼやく。
そう、修学旅行疑似体験の思い出話~お土産を添えて~が行われている会場は、葛城家なのである。
本来ならばヒカリが『どこかショッピングモールの休憩場所とかで』と提案しており、実際そのようになるはずだったのだが。トウジとケンスケがミサト見たさに『そらもうティーチャーの家がエエやろ!』『僕もそう思うな!』と強引に話を曲げた。
「まぁまぁ、イイじゃない賑やかで」
「良くないわよ!」
ただ普通に葛城家で、となればアスカは普段通り『絶対にここから先には足を踏み入れるな。水場も貸さない』という一緒に旅館に行った親しい人たち以外に適応されるルールさえ守られれば文句はなかったが。下心丸出しの男子が居る、となれば話は変わってくる。
現にミサトはアスカからの命令で、普段の短いパンツに胸元の空いたラフな格好ではなく、Tシャツにジーンズと必要以上に肌を晒さない格好。当然アスカもそれにならい、赤いデニムに黒いTシャツ姿。レイはいつもの通り制服である。
「つか、なんなのよこの小娘たちは!」
さらに、アスカの不満はそれだけではなかった。
いつもの定位置なら、彼女はある人物の横を陣取っている。それはアスカのいわゆる幼馴染であり同期、彼女が公私ともに最も信頼を置く人物であるタロー。
葛城家なので彼も当然この場に居る。のだが、アスカがミサト越しに見た彼は二人の女子小学生を相手にしていた。
「タローさん、これどやって解くんです?」
「ああサクラちゃん、そこはねぇ」
「これ、合ってますか?」
「うん正解、流石ミドリちゃん」
あぐらをかいたタローの足の間に座り、甘えるように質問する関西弁の少女は足の怪我から完全復活し退院したトウジの妹のサクラ。
その隣でちょいちょいとタローの腕をつついて答えを確認し、正解だと頭を撫でられて照れ隠しに唇をキュッと結ぶ少女はミドリ。
8歳の少女二人を相手に、しっかりお兄ちゃんをやっているタローを見てアスカは口元をヒクつかせる。
「子供相手にニコニコしちゃって......」
「でもポイント高いわよ、歳の離れた子でも変に下に見ずちゃんと接してあげてるの。タロちゃんはいい親になるわね」
「私も葛城一尉に同意するわ。白露くんは、人を成長させるのが得意だから」
「そりゃわかってるわよ、あたしのタローだもの。もういつ子供が出来ても大丈夫よね、あれなら」
ミサトとレイの言うことは尤もであると、アスカも理解しているし妄想したこともある。
だがしかし、彼女にはある懸念があった。
「......フッ」
「ダァーッ! またよ! 今の見たでしょミサト!? アイツよアイツ、鈴原の妹が!あたしを! 見て! 鼻で笑ったのよ!!」
「どうどうアスカ、落ち着いて。ほらお茶でも飲みなさい」
「これが落ち着いてられるかァーッ!!」
タローの足の中でアスカを見て、目を細めながらニヤケて鼻から息を漏らすサクラ。
旅館の時のペンペンのように『タローさんはもろたで』と不敵に笑う様子を見て、アスカは拳を握りしめ下から突き上げてくるライバルの存在に危機感を抱く。
(上にはマヤが居る、そして下にはあの妹。マヤとは10違い、あの妹とは6違い、危険しかない!)
ぐぬぬ、と唸りながらサクラを警戒するアスカ。
それにずっと気付いているミドリは、目線を数回往復させだらしない顔でタローの説明を聞いているサクラの肩をつついた。
「サクラ、惣流さんが......」
「わかっとるよミドリ。でも、これは大切なことなんや。この勝負、譲れないんや!」
髪を逆立てて荒ぶるアスカに、負けじとタローが長髪がタイプだと考察し伸ばし始めた髪を手で梳かすサクラが睨み合う。
その間にビリビリと電撃が走っているのが見えたミドリは、頭をふって目をこすってみる。
「ミドリちゃん、そろそろ休憩にしよっか?」
「......天使......」
「え?」
「あ、いや。なんでもない、です。続けます」
一旦リセットして二人を見直そう。そう考えていたミドリが目を開けると、彼女の行動を見て疲れたのではと気遣ったタローが覗き込んでいた。
ミドリには、今度は優しい言葉をかけながら微笑むタローの頭上に天使の輪が見えてしまい思わずそんな言葉を呟く。それは一度タローから目を逸らし、恐る恐るもう一度目を向けると消えていたが、以前として彼女にはアスカとサクラの間に電撃が飛び交っているのが見えた。
「負けるもんですかッ。大人の色気にも、年下の甘え力にも......!」
「絶対喰らいついちゃる......こっからもっと、どんどん理想になってみせる......!」
タローを取られてたまるか、いつかタローさんを振り向かせてみせる、と、闘志を燃やすアスカとサクラ。
互いに自重する立場ではなく、思う存分に好意を押し出せる相手同士ということで敵に不足はなしと燃え上がっている。
二人がそうして燃え上がっている間に、レイがそっとタローに近づいてコップを差し出した。
「少し、休憩したら」
「綾波......ありがとう。助かるよ」
「そう。迷惑じゃないなら、よかった」
レイから水の入った青いコップを受け取り、それを一気に飲み干すタロー。彼はレイの気遣いに舞い上がって気付いていなかったが、そのコップは葛城家においてあるレイ専用のもの。
タローが飲み干したことで空になったコップを手にレイは再びアスカの隣に戻り、そこに水を注いでさも当然のように自身も水分補給。
そこに深い思惑などはなく、ただレイとしてはタローを労ってあげようという気持ちで、今の状況で自分がすぐに出来ることを分析した結果。
なのだが、ミドリにはそれが別のものに見えた。
「もしかしたらサクラのライバルは惣流さんだけじゃないかも」
と小さく口を動かすミドリ。だが、ミサトの耳がその声を捉え、緊張を煽ってやろうとレイに声をかける。
「レイ? コップ、新しいの出しましょうか」
「......どうして?」
ミサトの提案に、レイはコップを両手で持ったまま僅かに首をかしげて聞き返す。
その姿にミサトは小動物的愛らしさを感じつつ、リツコに自慢してやろうと心に決めながら微笑む。
「だってそれ、タロちゃんが口つけちゃったでしょう」
「......」
レイは自身が握るコップを見つめ、思い出す。
確かタローが口を付けたのは、この当たりだったな、と。コップを回し、注意深く観察する。
特に他の場所と変化は無いが、レイの頭にはいつだかの食事の時にアスカが言っていた言葉が浮かんできた。
『言っておくけど、あたし間接キスなんて好きな人以外とは絶対しないから。男はタロー以外とは絶対無理、あり得ない。でもレイは女の子同士だしあたしたちの仲なら問題無いわよね』
その時のアスカはそう言いながら、レイが飲んでいたドリンクのストローに『一口貰うわ』と口を付けたあと、自分ものをレイに差し出した。
それまでレイからしてみれば間接キスという概念はなく、それが起きていたとしてもたまたま同じ場所に口が付いただけ、程度の認識だったが。アスカの言葉で、同じ場所に口をつけるのは特別な間柄だけであるという認識に変わった。
故に、レイはタローが自分の使っているコップになんのためらいもなく口をつけたことを信頼の証と解釈し、ならば自分もそれに応えようと、同じ場所から水を飲んだ。
「ウッソ、これちょっと燃えてくるわ!」
突拍子もない行動に、レイがそんな考えを持っているとは知らないミサトが興奮して鼻を抑える。
ミサトはレイにたいして元々、タローに特別な感情があるんだろうなとは思いつつも今まで確証に至る出来事がなかったためノーマークだった。だが、この行動を目にして大歓喜。
一方のミドリはというと、同世代よりも少し進んだ感性を持っているがゆえにレイの行動を見て顔を赤く染めていた。
「そ、そりゃこんだけいい人だから、仕方ない、よね」
「思わぬダークホースの登場かしら。どうなってもいいように急ぎ一夫多妻制の準備をしておかなくちゃ」
これ以上サクラの競争相手が増えては可愛そうだからとレイの行動をなんとか別の方向に捉えようとするミドリに、想像が色々と膨らみついに限界を迎えて鼻突っペをするミサト。
そんなことがあるとは知らないサクラとアスカの牽制は、ついに解散の時まで続いた。
「ほんじゃなティーチャー! また今度!」
「タローさん、今日はありがとーございました! また今度!」
「えっと、ありがとうございました。タローさんに惣流さん、葛城さん」
「邪魔したよ白露」
「またねアスカ、タローくんも」
先に葛城家を出ていったのはトウジたち修学旅行の三人組と、小学生二人組。
そして次に、迎えが来たシンジの番。
「じゃあ、僕も帰るね。また明日。お騒がせしました」
残ったのは葛城家の三人とレイ。いつも通りレイも夕飯を一緒にしようと言った食事当番のタローがエプロンを着ようとしたところ、ミサトの携帯に着信が。
「あ、ごめんリツコからだ。ちょっち出てくるね」
「私、お手洗い借りるわ」
それぞれミサトは自室へ、レイはお手洗いへと向かう。
リビングに残されたのは、タローとアスカの二人。アスカはその状況になった瞬間、迷わずタローの手を引き二人の部屋へと向かっていった。
「わっ、ちょ、アスカ?」
タローはアスカの行動に困惑するも、手を引かれるまま寝室へ。
夕暮れの日が差し込むキングサイズのベッドが置かれた部屋で、アスカは髪を夕日に照らしながらタローを壁際に追いやった。
腰から手を回し、タローの足と足の間に右膝を差し込んだアスカは、彼の胸に心臓の鼓動を聞くように耳を押し当てた。
「やっと二人きりになれた」
そうアスカが呟けば、タローの心臓はいとも簡単に大きく鳴り始めた。
急に抱きつかれ顔を押し当てられ、髪の香りや夕日に照らされた幻想的な姿にそのセリフと来れば。アスカが顔を上げて見たタローは夕日ではごまかせないほどに顔を赤くしていた。
「ふふ、やっぱあたしが一番なのね」
「あ、アスカさん、その、二人が......」
「わかってる、でももうちょっとこのまま。今日ずっと、遠かったから」
アスカはタローの腰に回した手を更に強く引き絞る。
タローは申し訳なさから、そっとアスカを抱きしめ返した。
「......ごめんね」
「謝ることじゃないわよ。女なら女らしく、正々堂々受けて立つんだから」
「受けて立つ、って、何を?」
「なんでも! こっちのことよ」
まさかサクラとアスカの間でバチバチの争いが起きていたとは知らず、単純にアスカにかまってあげられなかったなという思いでいたタローが聞き返すも、アスカはそれを濁す。
何よりも負けが嫌いな彼女だが、だからこそサクラが抱いているであろう気持ちをタローに言うことはせず、そっと胸にしまった。
「......はっ! タローさんが取られてまう!!」
「何言ってるのサクラ? あ、私ここなんで。それじゃ」
「おう! ほなまたサクラと遊んだってや!」
「待ちなさいリツコ、なんかすっごく良い雰囲気になっている気がするわ」
『なにを待てと言うのよ。それに、貴女の言っていることが全く理解出来ないのだけれど、急に何?』
「でも邪魔は駄目ね、見たいけど見れないこのもどかしさ! あんたには理解出来ないでしょうねッ!!」
『どうして私は怒られているのかしら』
「......石鹸、少なくなってる。足しとかないと」
キャラ崩壊にキャラ崩壊を重ねている気がしますが、これでいいんでしょうか。
特にアニメと新劇を見返すたびに、ここはミサトさんがぶっ飛んでるなと。
物語の密度と1話ごとの文字数について
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