ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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20話 敵意と信頼は紙一重

 新たな使徒の出現。旧熱海付近の海上に現れたこれを、ミサトは『エヴァ四機による制圧で、今度こそ第三新東京市に上陸する前に撃破します』と前回の経験を活かして最初から最大火力を投入することにした。

 水際へエヴァを投入するために、壱型、零号機、初号機、弐号機を急遽F装備へ換装。その僅かな待ち時間に、プラグスーツ姿のパイロットたちの間ではやや不穏な空気が漂っていた。

 

「......」

「......ごめんなさい......」

 

 エヴァ格納ケージ。そのブリッジの上で腰に手を当てて胸を張り、威嚇するような格好でタローへ鋭い眼光を向けるアスカ。タローは釣り上げたアスカの眉と反対に、眉をハの字にしてしょんぼりと謝罪の言葉を絞り出す。

 シンジは『また怒られてるよ......』と二人から一歩距離を取ったところで触らぬ神に祟りなし状態。

 レイは先のヤシマ作戦で損傷し、改修を受けて新たな姿に生まれ変わった零号機をじっと見つめていた。

 

「皆、揃ったかしら」

「エヴァ全機、F装備への換装は間もなく終了よ」

「ッ!!」

 

 そこへミサトとリツコがやって来た。

 シンジはミサトならばこの空気をなんとかしてくれるだろう、とほっと胸を撫で下ろしたが、彼女の後に続いてやってきたリツコを見たアスカは、まるで親の仇を見るかのようにリツコを睨みつけた。

 そしてリツコに向かって勢い良く右足を踏み出し、タローが止めようと伸ばした手が触れる前に左足を出し。カツカツとブリッジの上に大きな足音を立てながらリツコの前に立った。

 

「ちょっと失礼するわよ!!」

 

 暴力沙汰か!? と、シンジのみならずエヴァの確認作業に勤しみながら横目で見ていた職員たちが鼓動を早める。

 アスカは両手をリツコの白衣、その胸ぐらに伸ばして掴み、強引にリツコを自分の目線まで引き寄せた。

 ビンタか、頭突きか、何が出る。と周りがいよいよ本格的に騒がしくなってきたところ。アスカは顔をリツコの首元に近づけた。

 

「あら? ちょっと、くすぐったいわよ」

 

 まさかの噛みつき攻撃だ! とはならず。アスカはリツコの首筋でスンスンと鼻を鳴らした。

 アスカの鼻息にリツコが少し身を捩ると、アスカはムッと唇を横一文字に結び手を離す。

 そして回れ右。今度はタローへと大股で近づき、彼の両肩に手を置いて。リツコにしたのと同じように、首筋に近づけた鼻を鳴らした。

 

スン、スン......」

「アスカ」

「ちょっと待って。......ぁあScheiße(シャイセ)! こんのッ!!」

 

 何をしているのか、と確認しようとしたタローを制したアスカは一瞬固まったかと思うと、いつかのように大きなドイツ語で悪態を付いた。

 タローが『アスカをこんなにも怒らせてしまうなんて』と、なぜここまで怒っているのか理解出来ない自分に自己嫌悪していると。アスカは目一杯腕を伸ばしてタローを抱きしめ、リツコから隠すような格好を取った。

 

「リツコ! アンッタやりやがったわね!」

「はい?」

「ぬわぁ~にが範囲外よこのキュウリ女! タローのこと呼び出したかと思ったら警報が鳴るまでどっかに連れ込んで、やあっと見つけたと思ったらどうしてあんたからうちの匂いがして、どうしてタローからあんたの匂いがすんのよ!!」

 

 リツコに向かって指を指し、今の今まで何をしていやがったんだ、と抗議する。

 

「え、タローくん......」

「......」

 

 まさか、とシンジが呟いたが。それを耳が捉えていたタローはブンブンと勢い良く首を振って否定する。

 シンジが死人が出ることはなくなったと見開いた目を戻してため息を付くと、リツコは憤るアスカに対して自慢するような顔を見せた。

 

「別に、何も変なことはしていないわよ。ただタローくんの初めてを貰っただけね」

ハアッ!?

くぁwせdrftgyふじこlp

 

 頬に手を当てながら言うリツコに、隣に居たミサトはお化けでも現れたかのように体全体で驚きを表現して腹から声を出す。

 対してアスカは、声にならない悲鳴をあげながら嘘だ嘘だとタローを抱く手に何度も力を込めては自分のものなんだぞと騒ぐ。

 ミサトにアスカ、二人が盛大に取り乱す中で、タローは自分が何か言えば逆効果だと沈黙を貫く。それに気付いたリツコは、そろそろネタバラシと笑った。

 

「肩叩き、すごく上手なのよ。アスカもやってもらったらどうかしら」

「......は? 肩、肩叩き?」

「ええ。ほら、タローくんって体育科学で論文を出しているでしょう? 最近肩こりが出てきたから、市販のマッサージチェアなんかよりも彼にお願いしたほうがいい効果が得られると思って」

「なによリツコ、そのためだけにタロちゃんを呼び出したってわけ?」

「そういうことになるわね、悪いとは思ったけれど。私の予想通り最高級エステ並だったわ、今度ミサトもやってもらいなさい」

 

 立場上リツコは多忙であるためエステや鍼治療などに頻繁に通えるほど暇ではない、というのはアスカも理解している。そのために以前旅館で自分をマッサージしていた彼を呼び出すのは確かに合理的だ、と彼女はなんとかして『二人の間には肩叩き以外何もなかった』と納得させようとする。

 しかし、それにしたってリツコが満足げな顔でタローと現れたことが頭を過ぎり。アスカはすがるような思いでタローのことを解放し目を合わせる。

 

 揺れるアスカの瞳をまっすぐ受けるタロー。ここで彼が間違った言葉を発すれば、もしアスカがメンタル面で不調になってしまったら。この後の作戦ではこれまでのアスカと弐号機とは違ったものになってしまう。

 リツコはそんな不安と、アスカを少しからかうつもりがタロー関連の話題が思った以上に高威力の地雷であったと境界線を見極められなかった後悔とを宿した瞳で祈る。

 少し力んだ彼女の肩に、ミサトが手を置いた。

 

「まあまあリツコ、あんた確かにあれはブラックどころかダークマターなジョークだったけど。私の脳がしっかり破壊されたけど。けど安心なさい」

「安心?」

「そ、安心。あの二人の絆と、自分とアスカとの絆を信じてればいいわよ」

 

 急に何を言い出すんだ、とリツコが目線をミサトに向けた時。タローが少し長く息を吸ってからアスカを抱きしめた。

 

「ごめんアスカ、もっとちゃんと説明すればよかった」

「いや......勝手に不機嫌になってたのは、あたしだし」

「だとしても、オレだってそんな状況になってたら不機嫌になってるから。そこでちゃんと説明できなかったのは、オレの落ち度だから。信じてほしい。アスカのことを、絶対に裏切らないって」

 

 言い切ってみせたタローに、周囲の女性職員たちは思わず拍手をし始めようとした手を抑える。男性職員は女心わかってるぅと黄色い声を出すのを抑える。

 ただ一人アスカを抱きしめるタローの顔が見えているシンジは、顔をアスカのプラグスーツよりも赤くしているタローに見えるようにと小さく拍手。それに照れくさそうな笑顔でもって答えたタローに、シンジは自分が男で本当に良かったとゲンドウと記憶の薄い母に心のなかで感謝した。

 

「......もう、いいわよ。わかってるし! タローがどんだけあたしのこと好きなのか、って!」

 

 いつも通りの勝ち気な雰囲気に戻り、ギュウッと目一杯タローのことを抱きしめ返したアスカ。

 二人はどちらからともなく互いを抱きしめる力を弱めて離し、アスカは腕を組みながら満足したと言わんばかりに鼻を鳴らす。

 

「ふふん、さーて作戦よ。あ、その前にリツコ! あんたそういう紛らわしい言い方やめなさいよね! タローに悪影響じゃない」

「え、ええ。ごめんなさいね」

「はーもう心臓に悪いわ。でも何にしろタローの初めてをリツコに取られたってのは悔しいわね、全部貰うつもりだったけど肩叩きは盲点だったわ」

 

 リツコはアスカが納得しなければ土下座でもなんでもして身の潔白とタローの純潔を証明しようと考えていただけに、あっさり機嫌の治った彼女に目を丸くする。

 ドイツ支部からの報告書を見て現在は全く違う、とされていても、幼少期のワガママ娘、じゃじゃ馬っぷりがアスカへのイメージとして先行していただけにあっさり自分を許したことにむしろ納得がいかないといった表情。彼女のことをミサトは口元を隠しいやらしい笑顔で突いた。

 

「やーだ、リツコったらアスカに信頼されてるみたいねぇ。んん?」

「信頼ですって? このどこにそんな要素があったっていうのよ」

「リツコがいい奴って思ってるからこそ、アスカはタロちゃんを取られたかもしれないって不安とリツコはそんなことしないって気持ちがあったのよ、きっと」

「私、本当にわからないわ。ミサト、お願いだからもう少し詳しく言ってくれないかしら」

 

 科学者として、人として様々な言い回しへの理解力はあると自負していたリツコ。だがミサトの言うことの真意を理解できず、彼女に教えを請う。

 その瞳孔が開ききっていることにミサトはやや引き気味になった。

 

「あーはいはい。つまるところ、リツコを人として認めてるからこそ敵視してたのよ。他の人がタロちゃんと深い関係になった、とか匂わせてもアスカは相手にすらしない、いやタロちゃんを侮辱されたと感じて半殺しくらいにはするかもだけど」

「待って、そんなに危ない橋だったの? 私、今生きていることをタローくんと過去の自分に感謝すべきかしら」

「それがいいかもね。とにかく、リツコにならタロちゃんもなびいてしまうかもしれないって思う位には尊敬されてるし。同時にあんたがそんなこと無かった、って言えばリツコはそんなことしないって納得するくらいには信頼もされてんのよ。最終的には、タロちゃんのアスカ(りょく)のおかげかもだけど。タロちゃん関連で敵視されるのは、むしろ名誉だと感じたほうがいいわよ」

「名誉、ね......」

 

 ミサトの言葉にリツコは考える。アスカがタロー関連で敵視しているのは誰か、と。

 やはり彼女が一番最初に思い浮かんだのは、自分の後輩であり二人の専属補佐であるマヤ。彼女とタローが仲良さそうにしていると、アスカは露骨に対抗心を燃やしてマヤの前で腕を組んでみたりしている。時折マヤが反発したり、私だって、と張り合うのも含めてリツコは何度も見ていた。

 同じくレイも、ふとした瞬間の近い距離感を見たアスカが焦り、こいつはあたしのだから、と主張し、なぜ? と対抗するレイを見ていた。

 と同時に、リツコはタロー関連を抜きして。二人はアスカとどういう関係かを改めて振り返り理解した。恋敵認定した相手にこそ、アスカはよく懐いているではないかと。

 

「気付いた顔してるわね」

「......ええ。でも、アスカの自信も凄いわね。有象無象ごときでは自分と彼との仲を切り裂けない、という前提だもの」

「そりゃあもうあんだけ好き好きされたら自尊心もマックスになるでしょ。それにタロちゃんも堅物だしね、アスカが自分から見てイイ女じゃなければ、って思うのも納得よ」

「なるほど、ね。アスカがそう思ってくれているのなら嬉しいけれど、彼女をそこまでさせるだなんてますます彼が女の敵に見えてきたわ」

 

 ああいうところも含めてね、とミサトがタローを見ながら付け加える。

 彼女の視線の先では、タローが『超緊張したぁ、抱きしめるのってめっちゃ勇気要るんだよお』と情けない声で高鳴る心臓を抑え、苦笑するシンジに背中をさすられ慰められていた。

 

「年相応に慣れていないところとか最高じゃない? すました感じで抱きしめるけど、心臓バックバクにして心の中で緊張殺して叫びたいの我慢してるのとか、チョベリグーよ。可愛い」

「チョベリグーなんて、この世界で使っているのはもう貴女だけよミサト」

 

 相変わらず古い言葉を使うのね、とリツコはミサトに白い目を向けるが、その目は彼女の人を理解すること能力への感心も含んでいた。

 少年二人と女性二人がそうこうしている時、少女二人はというと。アスカが先程からずっと零号機を見つめているレイに近づいていった。

 

「これが零号機の新しい姿?」

「ええ」

「ふーん、青色ねぇ。似合ってるじゃない、レイに。プロトタイプだったのからちゃんとした仕様にアップグレードもされてるみたいだし」

「ええ」

「ええ、って、あんたちゃんと聞いてるわけ?」

 

 依然として零号機に目線を固定するレイに、アスカは眉を上げてちょっかいをかける。

 それでもレイはアスカへと目を向けることはなく、ずっと零号機を見つめている。その姿に、アスカはまさかと口を開いた。

 

「あんた、嬉しいんだ」

「嬉しい?」

「そ。嬉しいのよ、きっと。ずっと言ってたじゃない、作戦に参加して力になれないと胸がざわざわするって。けど零号機は改修されて、もうただのプロトタイプじゃなくなった。戦えるのが嬉しいのよ」

「戦えることが、嬉しい......もう、待つだけじゃないのね」

「制限はなくなったんだもの、当然! 期待してるわよ。まっ、あたしとタローの横に立てるかは謎ね。碇くらいなら超えれるんじゃない?」

「アスカの隣、白露くんの、隣......」

 

 そこでレイは、修羅場でも離さなかった目を零号機から離す。アスカを見て、奥にいるタローを見て、再び零号機を見て。最後に、開かれた自分の両手をみて。

 

「私は戦える。零号機といっしょに、皆のために」

 

 そう呟くと両手をクッと握りしめ、顔を上げて零号機を見るレイ。無機質に佇むその単眼が、レイの目には輝きを増したように写った。

 

「あ、そうだ。作戦なんだけど」

「葛城一尉」

 

 そろそろF装備への換装も終わりそうだ、とミサトが作戦内容を伝えようとする。

 やはり定石通りアスカとタローは前線、シンジとレイでサポートを、と考える彼女の言葉を、レイが遮った。

 レイはミサトの前まで足を運び、確かな決意のこもった目を向けて言った。

 

「今回の作戦は、私と零号機が前に出ます」

 

 レイからの提案に、周囲が一瞬静まり返る。

 ミサトは、その真剣な目が放つ勝利の匂いを感じ取っていた。

 

「わかったわ。今回の作戦は、レイとアスカが前衛、タロちゃんとシンジくんがサポート役を。目標が上陸する前に、旧熱海の沿岸で迎え撃つわ」

「了解」

「Ja」

 

 レイのやる気に従い、事前の予定から変更しレイを前線、タローをサポートへと下げる決断をしたミサト。

 その決定を受けたレイは力強く頷き、アスカは不敵な笑みを浮かべる。

 サポートを任されたタローとシンジは、ミサトからの視線にそっと頷いた。

 

「なによレイ、やる気満々ってわけ? 言っとくけど、あたしが倒しても文句なしよ!」

「文句なんてないわ、目標の殲滅が最優先だもの」

「クールね~ほんと。負けないぞーって気持ちとか無いわけ?」

 

 パンパンとレイの背中を二度叩き、気合入れなさいよと言うアスカ。

 そこでアスカも零号機の新たな姿を見て、あることに気づく。

 

「肩のウェポンラックが付いた程度だと思ってたけど、胸の当たりとかあたしの弐号機と一緒じゃない」

「弐号機と?」

「あたしの弐号機は正規実用型だからね。そのデータをもとにしたんだろうけど、あたしとおそろいよ」

 

 何の気なしに言ったアスカの言葉に、レイは胸の当たりが暖かくなったように感じる。

 このぽかぽかは何なのか。レイは、ヤシマ作戦での盾を構えるタローと壱型の後ろ姿を見た時と、同じだと気付いた。

 

「心強い」

「はぁ?」

「アスカと同じなら、それはいいこと。安心して戦える」

「なにコイツ可愛いんだけど」

 

 やはりアスカと違って感情を表に出す方法はわからず、無表情だが。自分の感じたことを言葉にするのも一種の感情表現だとアスカから学んだレイは思うがままに発する。

 それを聞いたアスカはレイを愛で始め、レイはいつも通りややジト目でそれを甘んじて受け入れる。少女たちの行動に、少年たちは顔を見合わせて笑った。

 

「綾波とアスカが仲良しなのを見ると心が浄化されるよ。そう思わないかい、シンジくん」

「いやごめん、すっごい格好つけてるけど僕は多分タローくんが思うほど理解出来てないよ」

「ふっ、今はそれでいいでしょう」

「これから作戦なのにそんな調子で大丈夫かなぁ」

 

 良くわからないテンションのタローに、シンジは肩を竦める。

 だが、ミサトとリツコにはタローの言うことが深く理解できたようで、二人は腕を組みながらじっとレイとアスカのことを眺めていた。

 そこに、マヤが小走りでやってくる。

 

「エヴァ全機、F装備への換装完了しました。いつでも出撃できます!」

「わかったわ」

 

 ミサトが答えれば、パイロットたちは既に横一列。左からレイ、アスカ、タロー、シンジの順に彼女の前で整列していた。

 

「みんな、出撃よ。目標の進行速度から予定通り沿岸での迎撃が可能。各自エヴァに搭乗し、輸送機で旧熱海方面へ向かいます」

『はい!』

 

 パイロットたちの朗々とした返事がエヴァケージ内に響く。

 四人はそれぞれの機体にエントリーし、輸送機とF装備とを固定して目標の迎撃へ向かっていった。

物語の密度と1話ごとの文字数について

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