ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

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21話 戦闘:マトリエル

「目標確認!」

「了解。エヴァ全機、投下用意!」

 

 輸送機に懸架されネルフ本部から旧熱海方面へと発った四機。彼らから目視できる距離に目標である第9使徒を捉えたことで、マコトが作戦課長のミサトに報告。

 ミサトが間髪入れずエヴァの投下を命令すると、四機のエヴァが切り離され沿岸部に着地。先陣を切る零号機は新造された肩部のウェポンラックからジェットを噴射し、衝撃を最小限に留める。同じく先陣の弐号機は、空中で新体操のように一回転してから着地した。

 

「着地ヨーシ」

 

 決まった、と上機嫌なアスカの声が響く。

 その直後だった。ドシン! という地響きが零号機と弐号機越しにレイとアスカの体を揺らす。

 二人は揃って『初号機がズッコケたか?』と思いながら振り向くと。そこにあったのは片膝を付いて着地する初号機とシンジ、その横でガッツリ尻もちを着く壱型とタローだった。

 

「ッテテ......」

「だ、大丈夫?」

 

 両手を後ろに付く壱型の側に、初号機が屈んで近づく。

 エヴァの操縦に関して問題ない、とされていたタローのまさかの着地ミスに、発令所はざわついていた。

 

「神経接続は?」

「ハーモニクス、全て正常です。シンクロ率72、72、72......安定しています。」

「エヴァとタローくんとのコンタクトは問題なし、となると」

 

 マヤに機体とパイロット両方の状態を確認させたリツコは、そのどれもが正常であるという返事を受けスクリーン越しに尻もちを着く壱型を見つめる。

 隣で不安そうに聞いていたミサトや、上で訝しげな表情をしていたゲンドウと冬月も同じように見つめる。

 全員の視線が集まった一瞬で、タローは各パイロット及び発令所との通信で映像をオンにし、自分の顔を映し出す。頬を指でかきながら気まずそうに笑うタローは、かすれた笑い声とともに言った。

 

「あはは......すみません、高さにビビッてたら投下されて着地に失敗しちゃいました」

 

 ズコー、という音が発令所全体に響く。

 エースが不調か、と心配していたところを、まさかの高所恐怖症が原因だということに安堵やら呆れやら笑いやらが起きる。

 投下の指示を出したミサトは腕を組んだまま渋い顔をしていた。

 

「ごめんなさい、忘れてたわ」

「いえいえ! ただオレが未だに克服できてないのが悪いだけなので」

「誰にだって苦手なものはあるものよ。カウントするべきだった」

 

 自分が未熟だからだ、と答えるタローだが。作戦はパイロットファーストだとミサトは猛省。

 その姿に申し訳なさが募るタローに、アスカが檄を飛ばした。

 

「油断してんじゃないの! 目標は目の前なんだから」

「......ああ。ごめん」

「ふん、そうこなくっちゃ」

 

 目付きが変わり、ゆっくり壱型を立ち上がらせるタロー。それを見届けたアスカとレイは背中を壱型と初号機に預け、四機とも事前に用意されていたクレーン車でアンビリカルケーブルを接続。戦闘準備に入った。

 

「タローくんとシンジくんはライフルを、アスカとレイはそれぞれソニックグレイブと新兵器のデュアルソーを。目標のATフィールド中和は後衛が担当、前衛は様子を見つつ連携攻撃。頑張ってね」

『了解』

 

 ミサトもタローをちゃん付けではなく、くん付けで作戦に集中する。

 彼女の指示された武装を四人が受け取ると、やはりどうしても零号機の持つチェーンソーが二つ連結したような物騒な代物に視線が集まった。

 先日の爆砕剣といい、こんなロマンの固まりのようなものを実現させるのはあの人だろう。という考えを代弁するように、リツコが口を開いた。

 

「レイ。その新武装、言うまでもないだろうけれどレーマン博士による設計開発よ。だから、思い切って戦いなさい」

「......はい」

 

 ブゥン、ブゥゥン、とチェーンソーの刃を回転させるレイ。動力源はATフィールド、などという無茶苦茶仕様の武器だが、それを大人しくバックアップに回ることの多いレイが持っているという状況がさらに場を困惑させた。

 

「レーマン印の強烈兵器、見て驚いて動いて驚いて破壊力に驚いて。ほんととんでもないわよねぇ」

「同じ科学者としては考案から実現に至るまで、全ての工程において無駄がなく尊敬でしかないけれどね。にしても、どうしてこうポンポンとドイツ支部から持ってこれるのかが不思議だわ」

「単純な話よ。バチカン条約回避のため、エヴァ弐号機のネルフ本部着任とともにエヴァンゲリオン:プライマルをドイツ支部の所属にしたでしょう? そこで、壱型のデータ収集という名目で装備を送ってもらってるのよ。毎度毎度『尚取り扱いはエヴァ零号機、初号機、弐号機も可とする』ってご丁寧な説明書きもされてるから無問題」

「なるほど。そういえば、ドイツ支部はエヴァの研究開発を実質的にストップしているらしいわね。その分の予算を惜しみなく使ってくれている、ということかしら。ありがたいことこのうえないわね」

「親バカだもん、あの人。こんなコト本人の前で言ったらぶん殴られるけど」

 

 聞こえてきた大人の事情に納得したパイロットたちは、改めて目標に意識を向ける。

 たくさんの目が付いた黒い半円から、同じく黒く細長い足のようなものが四つ伸びているという異形の姿。

 見た目の気色悪さにアスカは鳥肌がたちそうになるのを抑えて。ソニックグレイブを構えた。

 

「左右に分かれるわよ。レイ、アンタは右側から! タローと碇は後ろからATフィールドの中和よろしく!」

「わかったわ」

「Ja」

「うん」

 

 目標が細長い足を動かしてある程度の距離まで近づいたところで。アスカとレイは一つ呼吸してから横に並んで飛び出す。

 途中、二人が左右に別れたタイミングでタローとシンジはパレットライフルを発射。目標に命中し爆煙が発生した。

 

「ここよッ」

 

 それが晴れたと同時に、アスカがソニックグレイブを突き刺そうと近づく。

 しかしそれをレイが止めた。

 

「離れて」

「は? ってうわッ! キンモッ!」

 

 レイの声で動きを止めるアスカ。彼女が注意深く観察すると、目標は眼球のような箇所からオレンジ色の液体を流していた。

 それが海にふれると、ジュワァと蒸発。瞬時に危険を察知したアスカとレイは一旦距離を取るためバックステップを踏むが、目標が身を捩り溶解液を撒き散らす。

 その一滴が弐号機の前腕部にふれると、海水に触れたときのようにジュワァという音と煙を出した。

 

「熱ゥ」

「アスカ」

「こんくらいへっちゃらよ、ちょっとお湯がかかった程度。レイ、そっちは?」

「私は大丈夫」

「そ。にしても面倒ねぇコイツ、タロー!」

 

 アスカの呼びかけに、タローはシンジと目を合わせてから再びパレットライフルの引き金を引く。

 目標に弾丸が打ち込まれる瞬間まで見逃さまいと目を見開いたアスカは、あることに気付いた。

 

「コイツ、もしかして溶解液を出してる間は無防備なんじゃ」

 

 ならば話は早い、とニヤリと笑ってソニックグレイブを構える。ボソリと呟いたアスカの意図を察したのは、タローだけでなくレイもだった。

 デュアルソーの回転率を上げて構え、アスカとのタイミングを見計らう。

 

「そのまま射撃続けて頂戴! こっちで避けるから!」

 

 アスカの言葉を信じ、タローとシンジは引き金を引き続ける。

 目標の懐まで忍び込んだアスカがソニックグレイブを突き刺すと、事前に壱型と初号機でATフィールドを中和しきっていたため、さっくりとバターを切るように突き刺さる。

 目標は突き刺さったソニックグレイブを排除しようとしたのか、瞳のような場所から再びあの溶解液を染み出させる。そこに、デュアルソーを持った零号機が特攻した。

 

「まずは足止めを」

 

 レイは驚くほど冷静な声とともに、デュアルソーを二度、三度と振るう。なんの抵抗もなく目標の細長い足二本は細切れされて形象崩壊。

 その様を後ろから見ていたタローとシンジが『思ったよりもエグいことするなぁ』若干引いていると、アスカがソニックグレイブを抜いて目標から距離を取った。

 

「譲るわ! やっちゃいなさい!」

「ええ。トドメを刺す」

 

 間接的に支えとなっていたソニックグレイブと弐号機が離れたことで、目標は足の無い側。零号機の方へと倒れる。

 溶解液が飛んでくるよりも先に、レイは再びデュアルソーを振るう。

 両刃であるそれを振るう姿はまるでアスカのように豪快で的確、タローのように繊細で効率的な刃筋。

 コアがパッと見で発見出来なかったため、それなら全てを切り刻んでしまえという単純明快な判断による行動だったが。目標はレイからの攻撃で全身をみじん切りにされ、血の霧のようになって姿を消した。

 

「も、目標形象崩壊......」

 

 またしてもあっさり終わった。

 と発令所は思うが、あのレイがチェーンソーを振り回して使徒を原型がなくなるまでズタズタに切り刻んだ、という事実がマヤの口元をヒクつかせる。

 元々いわゆるグロ耐性というものがないだけに仕方のない反応だが、側でレイを見てきていたリツコも『どっかで教育を間違えたんじゃないかしら』と若干の不安に襲われていた。

 

「あんたって結構エグいことすんのね」

「エグい、?」

「ん、なんでもないわ。とにかくやったわね!」

 

 目の前で見ていたアスカは引きつつも、レイの乗る零号機に向かって弐号機の拳を突き出す。

 しかしレイと零号機は、それを『この手は何だ』と言わんばかりにじっと見つめるばかり。しびれを切らしたアスカは零号機の右手を取った。

 

「グータッチよグータッチ、やったことない?」

「ないわ。これは、どういう意味があるの?」

「誰かと目標を達成した時とか、喜びを分かち合うときにやるもんなの! ほら、早く。力加減はちゃんとしなさいよ」

「......」

 

 取られた零号機の右手を、そっと弐号機の突き出された右手に打ち付けるレイ。

 アスカが短く『ん』と言いながら微笑むと、レイもそれに答えるように随分と様になった笑顔を見せた。

 

「イイねぇ。青春だ」

「またやってるし。タローくんは混ざんないの?」

「シンジくんさぁ、あんなところにオレが入れるわけないじゃん。浄化されちまうよ」

 

 前衛組の微笑ましいやり取りを見る後衛組。壱型は腕を組みながら顔を上下にさせており、初号機はシンジが呆れているのが機体だけでもわかるほどに脱力して立っていた。

 少ししてからタローは何も言わず、アスカがやったように壱型の右拳を初号機に突き出してみる。シンジは初号機の拳をコツンとそこに打ち付けた。

 

「......成長したな、パイロットたちも」

 

 その様子を発令所の上から見ていた冬月は、すぐ側でいつもの姿勢のゲンドウに声をかける。

 成長とは、ただ使徒に対しての対応力だけではなく。一人の人間として。

 ゲンドウはそれに同意するように、ゆっくりと頷いた。

 

「ああ、最後の選択を誰に委ねられても問題はあるまい。ドレッドノート(恐れなき世界)を実現するのにおいて、これ以上無いほどだ」

「不確定要素は精神介入か。この先、使徒と老人どもがどう出てくるか」

「どちらにせよ問題ない、パイロットたちが互いに補完するさ」

「そうだな。巨木が折れても、新たな芽が出る。碇、お前も成長したよ。随分と他人を信頼するようになった」

「......」

 

 冬月の言葉に、ゲンドウは赤くなった顔を隠すため顔の前で組んだ手を更に上げる。

 

 それを見ていた世界の第三者が『何が起きているんだ』と自分と同じ存在であるタローに接触を図ろうと考えていることは誰も知らない。

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