ただひたすらアスカを愛してみた   作:たっちゃん☆

81 / 93
26話 使徒は手で受け止めるものです。

 強く地面を蹴り出し、一気に飛び出すエヴァ四機。

 やはりタローの乗る壱型とアスカの乗る弐号機は、シンジの乗る初号機とレイの乗る零号機よりも飛び出しが早かった。

 

「やはり、パイロットの身体能力の差が出るものね」

 

 スタートして僅か数秒。最初の数歩を大きく蹴り出してグングン加速していく壱型と弐号機を見てリツコが呟く。

 エヴァの操縦はパイロットが考えることで行う。そこにパイロットの身体能力の差は関係ないと思われるが、正確にはそのとおりではない。

 

 運動神経という言葉があるように、身体能力が高い人物は総じて運動音痴と言われる人物に比べて、脳が体に命令を下す速さ、繊細さ、再現性に優れている。

 エヴァと人間で一つ違うのは、体のスペックは考慮しなくても良いというところ。仮に引退して太ったアスリートと、筋トレだけをしている筋骨隆々な一般人では、人間の場合は後者が良い成績を出すことが多いだろう。しかし、エヴァパイロットとしては効率の良い体の動かし方を理解している前者のほうが優れた成績を出す。

 

 それがドイツ支部育ちの二人と、本部出身の二人の差だった。

 

「このままなら追いつける!」

「あたしも!」

 

 自分の体を動かすイメージでエヴァを動かすため、当然走る動作一つとっても個性が出る。

 しかし、ドイツ支部出身のタローとアスカは、エヴァは自分の体のようで自分の体ではないことを理解している。そのため、実際の自分の体では負荷が強いため行わない、速度を追求したストライド走法でエヴァを走らせている。

 

「僕の方も間に合う!」

「同じく」

 

 経験の長い二人に比べ、出遅れてトップスピードの差があるとはいえ。シンジとレイもれっきとしたエヴァパイロット。

 落下するサハクィエルとの距離を計測しつつ予想される到達地点まで走りながらも、自分の状況を報告する余裕があった。

 

「これはなんとも」

 

 発令所でマコトが呟く。

 使徒襲来の非常事態とはいえ、巨大なエヴァンゲリオンが第三新東京市を全速力で。それも四機が駆け抜けているとなれば絵面は壮大なもの。

 まるでスケールの大きいオリンピックの陸上競技でも見ているかのようだ、と発令所に居る全員が心のどこかで思っていた。

 

「ハッ、フッ、とう!」

 

 アスカが弐号機の中で声を出しながらタイミングを図り、弐号機が大きく跳躍する。

 サハクィエルの落下予想地点に向かう道中、市街地を抜けて田園地帯へと入るのだが。その道中に小高い山があったのだ。

 わざわざ迂回するのも惜しいと、弐号機は三段跳びの要領でトップスピードのまま一気にその山を飛び越えた。

 人間基準で換算すれば、世界記録更新間違いなしの跳躍力。それを実際のアスカがすれば足の筋肉やら健やら全てがズタボロになっていただろう。

 

「できるなら高圧電線は避けてちょうだい!」

 

 途中、パイロットたちに対してミサトから注文が入る。

 ハイテク都市の第三新東京市及びその周辺の生命線とも言えるそれをエヴァがなぎ倒しながら進めば、復旧に余計な労力を割くことになる。

 だからこその注文だったが、パイロットたちははなからそのつもり。各機は高圧電線に対してハードルを飛ぶように片足は伸ばして片足はたたみ、一気に高圧電線を飛び越えていく。

 

 落下地点に先回りする、という作戦は順調。このままいけば間違いなくエヴァ四機のうち一機は追いつき、広大な範囲をカバーできるはずだった。

 

「目標のATフィールド変質!」

 

 途端に、サハクィエルの姿が変わったのをシゲルが報告する。

 それまでは真っ黒な球体だったものが、殻を破ったように弾けた。

 内部から現れた七色に色が変わりゆく球体は、前方に肉眼でハッキリと視認できるパネルのようなものを地面に対して垂直に展開。それが風の力を受けたのか、落下速度が増したうえに流されて予想地点を大きくハズレていく。

 

「軌道が変わります!」

「目標、更に増速!」

「急ぎ落下地点修正行います!」

 

 シゲル、マコト、マヤが言う。

 サハクィエルの映像を見ているミサトは、やはり一筋縄にはいかないことに思わず舌打ち。

 

「予想より速い......こっちじゃ間に合わない!」

「オレもアウト! 綾波は!?」

「このままいったら追いつかない」

 

 上空を見上げたシンジに続き、タローも自分から逃げるように方向転換していったサハクィエルには追いつかない。

 横から刺す形となっているレイも、落下速度が増したことで到達は不可能と判断した。

 

「落下予想地点修正、出ました!」

「あたしの出番ってワケね」

 

 マヤの出した速度変化後の落下予想地点。追いつくかどうかはともかく、最も早くたどり着けるのはアスカだった。

 

(これが女の勘ってやつか。この速度を保てれば追いつける!)

 

「ミサト! 頼んだ!」

 

 インテリアのレバーを握る手に力を込めたアスカは、頼れる作戦課長の名前を呼ぶ。

 アスカが求めるものを即座に理解したミサトは、とりあえず近くにいるマコトからキーボードとコントロールパネルを乗っ取って操作し始めた。

 

「緊急コース形成! 最短進路で出すわ!」

「Bitte!」

 

 やけに慣れた手つきでキーボードを叩き、第三新東京市の設備を展開していくミサト。

 いつのまにそんなことが出来るように、と仕事を奪われたマコトや横から見ていたリツコが驚いた。

 

「パイロットたちの命を預かってんだから、これくらい出来るわよ!」

 

 その視線を感じたミサトが答える。パイロットたちのために覚えたのだ、と。

 ミサトはまず最初に、弐号機が最高速度を維持したまま進路を調整出来るようにとエヴァが体重をかけてもびくともしないほど頑丈な大型の金属パネルを展開。

 競輪のコースのように斜めの壁が展開され、弐号機は速度を維持しつつそれに乗って緩やかに、そして確実に進路を横方向へとずらしていく。

 

 進路を調整した先、一直線で落下予想地点に向かうためにはそこそこ高さのあるビル群が。

 ビルを蹴散らしながら進むことも可能だが、体当たりしたうえで瓦礫が散乱すれば弐号機の速度を落としかねない。

 ならば初陣で船から船へと飛び移ってみせたアスカの操縦力をかって、ビル群を飛び越えさせようと地面からどのビルよりも高い足場を展開。弐号機は飛び上がり、僅か二歩で空中へ飛び上がりショートカットしてみせた。

 

「クッ!」

 

 高く飛び上がり勢いそのまま空中で一回転した弐号機は、着地してから即座に足の回転を早める。

 とにかくひたすら早く走る、とアスカの集中が研ぎ澄まされていくと、全神経が足に集中し空気抵抗を減らすため前傾姿勢となり、腕は後方で宙ぶらりんに。機体からはソニックブームが発生し、弐号機が音速で動いたことで生じた空気摩擦が爆音とともに衝撃波を発生させ、通り道付近に駐車されていた車等が吹き飛ばされる。

 

 どこぞの忍者のような走り方になった弐号機のエントリープラグ内では、アスカは突如周りが静かになったの感じる。

 音を置き去りにしたことで、エヴァが発する動く音と、自分の心臓の音だけがアスカの耳には届いていた。

 

「少し遅れる!」

 

 タローが声を上げる。

 彼の乗る壱型もまた弐号機に続いて音を置き去りに。しかし壱型の場合は弐号機や、あとから同じように追いかける初号機、零号機と異なり、腕は宙ぶらりんにならずしっかり振られていた。

 ああ、らしいな。と発令所にいる職員は走る壱型がタローに見えた。

 

「目標、更に変形。距離1万2000」

「落下予想地点修正、変更無し!」

 

 そして再びサハクィエルの姿が変わる。

 前方に展開されていた六角形のパネルが離脱し、七色に移ろいゆく球体に裂け目が入り赤いモヤと共に開かれる。

 眼球の左右に五枚ずつの羽が着いたような、左右対称の形状となったサハクィエルは、相変わらず全身を七色に輝かせながら。ブオオオン、という人間の唸り声のような重機の稼働音のような音と共に、赤いモヤとATフィールドで自分を押し出し加速。

 一度のみならず二度も姿を変えたサハクィエルを、ミサトはスクリーン越しに鋭く睨みつけた。

 

(アスカは追いつく、計算上では少し遅れてタロちゃんも。シンジくんとレイがたどり着くまで持ちこたえられるか......)

 

 ギリッ、とミサトの奥歯が鳴った。

 

「本当、どこまでも厄介ね」

 

 ミサトがこれまで誰にも見せることの無かった、使徒への憎悪。

 それを隠すこともしない険しい表情は、幸いにも同じデッキにいるオペレーター三人は自分の作業に集中し、リツコは後ろに居たため誰にも見られることはなかった。

 

「間に合わせるッ」

 

 サハクィエルは既に雲の下、よほど急激な方向転換でもしないかぎり落下地点はせり上がった丘の上。

 アスカはサハクィエルを目と鼻の先まで捉え、弐号機にの右足を前にだして急ブレーキをかける。

 ザザザ、と街を抉りながら、弐号機は落下するサハクィエルの真下に滑り込んだ。

 

「かかってきなさい!!」

 

 今までのどの使徒よりも巨体。加えて落下とATフィールドの変質で加速されたそれを受け止めればどれだけの衝撃になるか。

 それを考えるよりも先に、アスカは気合を入れようと雄叫びを上げてATフィールドを全開に。あまりにも強力に展開されたATフィールドの反発力で周囲の建物は吹き飛び、サハクィエルを受け止めようと両手を上げる弐号機の周りにはクレーターが生まれた。

 

「セイ!」

 

 キィィン! と反発するATフィールドがサハクィエルを押し返そうとする音が鳴り響く。

 その途端、アスカはこれまで感じたことのない重量を弐号機越しに両手に感じる。少しでも気を抜けば伸ばした手ごとぺしゃんこに折れてしまいそうなほど。

 しかしなんとか限界ギリギリで耐えられている。もう少しの辛抱だ、とアスカが顔を歪める。

 

「ッ、アアアアッ!!」

 

 その時、サハクィエルがATフィールドを用いて更に加速。自分を押し出した。

 弐号機の両腕は限界を迎えてしまい、前腕も二の腕も裂けて血が吹き出す。その痛みは高いシンクロ率を誇るアスカにはよりダイレクトに伝わり、痛々しい悲鳴を上げる。

 

「この、ヤロー......ッ」

 

 エントリープラグ内から見える景色はエヴァがダメージを受けたことで歪み、両腕からボコボコとLCLが泡を立てる。

 それでもアスカは意志をしっかり持ち続けている。激痛から瞳には涙が浮かんでいたが、依然として弐号機はサハクィエルを受け止め続けていた。

 

 ただ、サハクィエルにはまだ手段があった。

 アスカが受け止めている中央の目のような部分から、不気味な音を立てて人の上半身のような本体が現れる。

 やせ細ったような体に、白い頭部は蚊のような形で目を赤く光らせる、まさに異形の姿。

 本能的にアスカは、コイツと取っ組み合いになるのはマズイと悟る。しかし、本体は両腕を伸ばし、弐号機と手と手を合わせようとした。

 

「アスカアッ!!」

 

 サハクィエルの伸ばした手が弐号機に触れる前。アスカの名を呼ぶタローと壱型が追いつく。

 事前にシンジとレイの位置を確認し、残り時間が三十秒になる前には二人もここに追いつくと理解していた彼は、まず弐号機と向き合う形になる。

 そのまま両手を後ろに引いてためを作り、ATフィールドを全開にして突き出した。

 

「させるか!」

 

 弐号機が展開したものよりも巨大なATフィールドが展開され、再びATフィールドの反発する大きな音が鳴り響いた

 そのATフィールドもお構い無しにサハクィエルは弐号機と取っ組み合いを始めようとする。だが、壱型の展開したATフィールドに触れた瞬間。サハクィエルの両腕は水に綿あめを溶かしたように音も立てずに形象崩壊を始めた。

 

「も、目標、一部のATフィールドを喪失!」

 

 見たことのない現象に、ATフィールドをモニタリングしていたマヤが声を荒げる。

 壱型の展開したATフィールドに触れた使徒の部位が、まるでコアを破壊された時のように形象崩壊を起こした。

 前代未聞。リツコはモニタリングされているATフィールドの数値を飛びかかるように見る。

 

「中和なんて生易しいものじゃない......これは侵食? いや、まるで......」

 

 前例のないデータにリツコはブツブツと呟き混乱する頭を整理しようとする。

 その間に、タローとアスカの元へシンジとレイが追いついた。

 

「碇くん、コアを!」

「うん!」

 

 初号機、零号機共に肩部のウェポンラックからプログナイフを取り出す。

 コアを破壊するためにはサハクィエルがコアの周囲に展開するATフィールドを一旦破る必要があるが、その役はレイが担当。プログナイフをギュッと握りしめた零号機がサハクィエルのATフィールドを一刀両断。あとはシンジがコアを破壊するだけ。

 

「なにっ」

 

 初号機の放ったプログナイフの突き。カンッ! と音を立てたそれはサハクィエルのコアに命中することはなかった。

 刃が届く寸前、コアがサハクィエル本体の周辺を高速で回転し始めたのだ。こうなっては狙いが付けられず、更にはサハクィエルがATフィールドを変質させ衝撃波のようなものを放ち続けているため、シンジとレイは初号機と零号機の動かしにくさに苦戦する。

 残り時間は二十秒。サハクィエルが赤いモヤの噴出量を増やし地面方向に向かって勢いを強くする。

 

「ク、グゥ! ッァァ」

「チッ、クショーめぇ!」

 

 サハクィエルを受け止める弐号機と壱型に掛かる重さが更に増し、アスカとタローから苦悶の声が。

 既に弐号機も壱型も腕部が限界寸前。モニターでは両機とも腕部が真っ赤に染まり警告域に達していた。

 

「アスカ、白露くん.......ッ!」

 

 苦しむ二人の声を聞き、レイが本能的に行動に出る。零号機を無理やり動かし、回転するコアを両手で掴んで受け止めたのだ。

 瞬く間にサハクィエルのコアに触れた零号機の両手が真っ赤にコア化する。そのフィードバックを受け取ったレイは、熱した鉄を持ったような、ジリジリと両手を焼かれるような痛みに身を捩らせて耐える。

 

「ぅ、はァ......!」

「シンジくん! 頼んだ!!」

 

 パイロット三名、エヴァ三機、共にもう持たない。時間もない。

 アスカとレイが痛みに耐えて声を上げることもできない中で、タローは最後の要であるシンジに全てを託した。

 

「はぁぁぁぁぁああああ!」

 

 初号機がプログナイフを零号機が抑え込むコアに向かって突き刺す。振動で火花が上がるが、それだけではコアを破壊するには不十分だった。

 残り時間はもう五秒。なりふりかまっていられないと、シンジは初号機の拳でコアを、コアに突き刺さるプログナイフの柄を殴り続ける。

 当然硬いものを殴れば初号機の拳も破損し。シンジもまた拳に感じる痛みに顔を歪ませるも、その手を止めることはない。

 

 僅か数秒が、とても長い時間に感じられた。ピシ、という音がしてサハクィエルのコアにヒビがはいるまではたったの三秒だったというのに。

 そしてようやく、シンジと初号機の拳が、サハクィエルのコアをプログナイフの刺さっている場所を起点に二つに叩き割った。

 パキンと音を立ててコアが割れると。七色に光るサハクィエルの体は輝きを失い。開かれた羽の部分がくるくると縮んで中央に折りたたまれる。そして、エヴァ四機の居る丘を消し去る大爆発を起こした。

 

「......ふぅ」

 

 パイロットのうち、誰のものかわからないため息が響く。

 発令所のスクリーンに表示されるエヴァの損傷率は、高い順に弐号機66%、壱型47.7%、零号機39%、初号機15%。

 都市及びエヴァへのダメージがここまで大きい作戦は、ラミエルとの戦闘以来。エヴァ四機を用いたことと住宅地への被害を考えれば、損害規模としてはそれ以上だった。

 

「ありがとう、みんな」

 

 全身の力が抜けて膝から崩れ落ちそうになるのを、コントロールパネルに両手を着いて支えたミサトが言った。

 発令所に残ってくれた人たち、そして作戦を成し遂げたエヴァパイロット四人に向けた言葉。今回ばかりは誰一人として歓声を上げることが出来ず、ただ各々がしっかりと勝利を噛み締めていた。




壱型:やっぱシンクロ率上げるとタローきゅん痛そうで可哀想ンゴね、抑えたろ。てかなんやコイツ、タローきゅんシカトしてアスカたんと弐号機さんに攻撃しようとしてるンゴ! せや! ATフィールドぶっ壊してその要らない腕消し飛ばしたろ!

もし普通にシンジくんが受け止めるなら、多分「ATフィールド全開!」で受け止めてます。
仮にタローくんだった場合、某九尾の人柱力と同じ声の熱血キーパーよろしく「止めてみせる!」とか言いながら幻のゴッ◯ハンドくらいは出します。
なんならノリノリだったらオメガ・◯・ハンド! とか言ってサハクィエルごと握りつぶせます。

物語の密度と1話ごとの文字数について

  • サクサク進む(3000~4000字程度)
  • 少し書き込む(5000~6000字)
  • ガッツリ書き込む(7000字以上)
  • サクサク書き込め
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。