特に使うキーボードは打ち心地最高なのですが、反射神経おじいちゃんなのに大は小を兼ねる理論でゲーム特化のモード? にしているせいで誤打や二重入力が今まで以上に増えるかと思います。なのでいつも誤字報告してくれる皆さんに先に感謝しておきます。ありがとうございます。
「エヴァで掃除をする、ですか?」
学校終わり、プラグスーツに着替えたタローがネルフの実験室の一室で言う。
彼の目の前では、白衣姿でタブレット端末を手にしたリツコが頷いた。
「ええ。念には念を入れて、というものよ」
「リツコさんのことを疑ってるわけじゃないですよ。ただ、どうして急にそんなことをと......」
「百聞は一見にしかず、まずはコレを見てちょうだい」
タローに近づいたリツコが、タブレット端末を彼の前に差し出す。
動画ファイルが展開されている端末に映るのは、なんてことないただの壁。リツコがそれを再生すると、右下に日時が白文字で記された監視カメラの映像であることがわかった。
じっ、とそれをタローが見つめる。
「......あっ」
タローが声を漏らす。
監視カメラに映る壁の一部に、徐々に黒いシミのようなものが現れる。そして黒いシミから一瞬、小粒の赤い光が複数輝いたのだ。それが正常であるかどうかはわからないが、映像に変化が現れたことでタローはリツコに視線を向ける。
その視線を受けたリツコは再生していた動画を止めて頷いた。
「これが今日、タローくんとエヴァンゲリオン:プライマルに掃除してほしい代物」
「ってことはやっぱり、あの黒いシミは想定外のものだったんですね」
「そういうこと。つい昨日に搬入されたB棟の無菌室用のパーツなのだけれど、侵食が見られ温度と伝導率が僅かに変化しているの」
タブレット端末の画面をスワイプし、今度は画像ファイルを表示させるリツコ。
タローはそれを見るが、科学方面での心得は無いため、それとなく表示されている情報から予測を立てつつ話を聞いていく。
「無菌室の劣化自体はよくあることなのよ。使徒が現れてからの工事で、工期が50日近く圧縮されているから」
「うわぁ、大変そう。頭が上がらないですね」
「そうね、けれどその分の対価は支払っているのだからしっかり仕事をしてもらいたいものだわ。っと、こんな話をしたかったわけではなくて」
サッ、と再び画面をスワイプしたリツコ。それは明後日に行われる予定の実験の詳細であった。
その実験を行う場所こそ、まさに先程の映像で侵食が見られたタンパク壁を使用するシグマユニットのAフロア、D-17の隣であるブリプノー・ボックスであった。そこでタローは、リツコの言う『念には念を入れて』の意味が理解できた。
「なるほど、明後日の実験には万全を期したいと」
「話が速くて助かるわ。それに、同日にMAGIシステムの第127次定期検診がある。それまでにはかたをつけておきたくてね」
時間は限られている。明後日の実験を確実に行うため、MAGIの定期検診を行った後にタンパク壁の侵食について調査する余裕はない。明日に調査しようにも、タンパク壁をすぐに取りつけようとしてまた杜撰な工事をされては困る。
ならべ今日のうちにタンパク壁を完全にクリーンな状態にし、明日は時間に余裕を持たせて取り付け、明後日の実験にそなえよう、というのがリツコの考えだった。
それにはタローも同意する。
「任せてください! イレギュラーはできるだけ無い方がいいですから」
「あら、てっきりタローくんなら『困難に立ち向かうべきです!』と断られるかと思っていたのに」
「降ってきた困難に立ち向かうならともかく、目に見えてるリスクに飛び込むほど馬鹿なつもりはないですよ!? っていうか、本当にそう思ってるならわざわざオレに依頼してこないでしょうに」
「ふふふ、そうね。ありがとう」
先の作戦で弐号機に次ぐ損傷率となった壱型と、そのパイロットであるタロー。わざわざリツコが彼に依頼をしたのは、その手腕と僅かな異変にも気がつく察知力の高さをかってのこと。
冗談混じりに言ったリツコはそれを見破られていることに笑うと、さっそくタローを引き連れて壱型の元へ向かう。
いつものケージではなく、別の実験室でパイロットを待つエヴァ。サハクィエルを受け止めたことで両腕部に包帯のようなものが巻かれている壱型に、タローは乗り込んだ。
起動し、神経接続を行い、シンクロも完璧。驚くことに修復が最優先で行われている弐号機や零号機、初号機よりも急速に素体の復元が進む壱型がすぐにでも動かせる状態になったところで、リツコが指示を出す。
「すぐ隣の実験場に件の第87タンパク壁が置かれているわ。私はここから状況を確認します」
「了解しました」
「......この掃除は私の独断よ。いつものようなサポートも無いけれど、なるべく手早く終わらせられるようにするつもり。責任は私が取るから安心して頂戴」
「大丈夫ですよ。リツコさんが責任を取らなければならないような事態には絶対しませんから。さて、お掃除お掃除~っと」
実験場内を動く壱型の中で、タローは陽気にお掃除のテーマ:作詞 タロー、を口ずさみながら壱型を移動させていく。
ゆっくりと動き、隣の実験場に続くシャッターをくぐる壱型とタローを見てリツコはまるで子供を見守るような優しい表情になる。
(なんだかんだ言って、私もあの子に甘えているのね。気遣わせないように楽しそうにしちゃって)
ふんふんと鼻歌混じりのタロー。気遣わせないようにとは実際考えておらず、単純に初めてのエヴァでの掃除にワクワクする彼。
壱型の横には、リツコが初めて存在を知った時『どこで使うのよ。そもそもエヴァに掃除させるってなによ』と思わず頭を抱えてしまったエヴァ専用のデッキブラシが。
まさに今回のように念には念を入れる時に使うものだったか、とリツコが用意したそれを手に、壱型が第87タンパク壁へと近づく。
「どう? 何か感じるかしら」
「う~ん......」
「些細なことでもいいのよ。ときにはフィーリングも大事に」
リツコに言われ、タローは考える。どうすべきかと。
(うっすら覚えてるけど、このシミって確か使徒じゃなかったっけ......どうしよ、そもそもこれブラシでこすったら殲滅できんのかな。てかこのデケェブラシは誰がどうして作ったんだよ)
壱型が手に持つデッキブラシを見ながら、タローは薄れている記憶を呼び起こす。
彼が考えている通り、この第87タンパク壁に現れた黒いシミは第11使徒であるイロウル。しかし、リツコは流石にこれが使徒であるとは想定していないだろうと、伝え方に悩んだ。
悩んだ末に出した答えは、リツコがときには大事にといったフィーリングというワード。
「なんとなく違和感はありますね。先入観かもしれませんけど、普通じゃない感じが」
「......なるほど。ATフィールドはしっかり展開しておくように、こっちもMAGIと見張っておくわ」
「よろしくお願いします」
タローはリツコにやんわりと伝えると、そのまま壱型を操縦しデッキブラシを第87タンパク壁へと近づけていく。
まずはこすってみるか、とものは試しで近づけたデッキブラシだが、壱型からのフィードバックで僅かな抵抗を感じる。
もしや、とすぐさまバックステップで距離を取ると、リツコは即座に第87タンパク壁の分析をMAGIに行わせようとする。が、分析をするまでもなかった。
「ATフィールド!?」
「リツコさんこれ......ただの侵食じゃないですってェ!」
極小サイズの六角形のATフィールドが、いくつも展開されてブラシを弾いたのだ。
それを目視で確認したリツコがMAGIによる分析を続けさせると、やはりという結果が出た。
「分析パターン青......間違いなく使徒ね」
「やっぱり。どうしますか、これ」
小さな黒いシミが、徐々に赤い輝きを伴い第87タンパク壁を広がっていく。
このままでは第87タンパク壁を仮置きしている実験場に広がり、いずれは壱型、そしてネルフ本部、MAGIシステムまで侵食していくだろう。
リツコ冷や汗を流しながらも、タローに指示を伝える。
「ここで足止めを、殲滅を試みるわ」
「待ってました!」
「ATフィールドを展開、目標にこれ以上の自由をさせないで!」
「はい!」
実験場はともかく、エヴァンゲリオンまで侵食されてはかなわない。
まずは身を守るために、という意味で指示を出したリツコだが、タローはその意図を勘違いし。第87タンパク壁に対してATフィールドを展開、イロウルの活動を抑制しようと試みた。
するとどうだろうか。壱型の展開したATフィールドが、逆にイロウルのことを侵食していったのだ。
「これは、あの作戦の時と同じ......」
その様子をモニタリングしていたリツコが言う。
あのサハクィエルの人型部分、その両腕のATフィールドを溶かすように消失させ形象崩壊を起こした現象が再び目の前で起きたのだ。
アスカを助けるためにタローが起こした一回性のもので再現性は無い『気合と根性とかでたまたま生まれた奇跡でしょ』とリツコとミサトの間で片付け、上には報告を上げなかった事象だったのだが。今まさに同じように展開されたイロウルのATフィールドを消し飛ばし、赤い輝きは見るからに弱っていた。
「タローくん! これは掃除よ! ATフィールドは洗剤だと思って、そのままブラシで擦り落として!」
「は、はい!!」
しかしこれは好都合だと、リツコはその能力を活かせるであろうイメージと共に指示を飛ばす。
言われた通りにタローは、壱型の展開するATフィールド、洗剤をイロウルのATフィールド。汚れに吹きかけ、それを擦り落とすイメージを持ってブラシを向ける。
どうだ、とリツコがATフィールドの数値に目を向けると。壱型の展開したATフィールドがイロウルの数多に展開されたATフィールドを中和するのではなく飲み込み、まるで本当の洗剤のように溶解させていった。
そこに壱型がブラシでイロウルが発生している箇所をこすっていくと。かすかに聞こえる断末魔のような高い音と共に、タローの手にプツンプツンと何かが潰れる感触が。
「どうです、リツコさん!」
「順調よ。そのまま続けて」
ひたすら第87タンパク壁にブラシを向けて擦るエヴァ。その光景はシュールではあったが、リツコの思惑通り見事にイロウルはその数を減らしていく。
やがてタローの手に何かを潰すフィードバックがなくなると、ブラシを離す。かすかに見えた光る十字架の後、そこには黒いシミはなくなり、物理的にこすられたことで一部がやけにツヤツヤになった第87タンパク壁だけが。
急ぎリツコはその第87タンパク壁をMAGIで分析する。パターン青は検出されず、次いで実験場を、実験場のある区間を、ネルフ本部を、最後にMAGIにも分析をかける。
普通ならば数人がかりで、それでも相当時間のかかる作業。それを一人で淡々とこなしていくリツコと第87タンパク壁とを、壱型の中でタローは交互に見ていた。
「......うん、異常なし。ありがとう、タローくん」
タローがちょうどリツコに何度目かの視線を向けたところで、彼女はサムズアップしながら言った。
そこでタローは肩の力が抜け、エントリープラグの中に浅く座った。
「はぁ~良かった。リツコさん、お疲れ様です」
「それはこっちのセリフよ。私は特に何も」
「そんなことありません。オレも少しはMAGIの使い方が分かっていれば分析の手伝いでも出来たんでしょうけど......」
「あら、気になるなら教えてあげてもいいわよ?」
覚えるのは相当大変だけれど、と付け加えるリツコ。タローは苦笑した。
「先が思いやられそうです」
「冗談よ、貴方には貴方にしかできないことがあるもの。さて、こうなってしまった以上は報告をしないとね」
「あ、それなら手伝いますよ。ていうかオレも報告必須でしょうし」
「どうも。じゃあ、まずは壱型を所定位置に戻して。プラグ射出から後処理はこっちでやるから、排出後はゆっくり着替えて待ってて」
「はーい」
再びシャッターをくぐり、壱型を固定ユニットに固定させるタロー。
彼がエントリープラグから出るための操作をしながら、リツコは誰にも聞かれていないのをいいことに独り言をつぶやく。
「案外悪くないものね、母親気分というのも。母さんもそうだったのかしら」
コンピューター技術でその名を広く知られていた科学者である母親、ナオコの姿を思い浮かべるリツコ。
自分のことは祖母に預け、もっぱら研究に没頭していたその人だが、ある日を堺に突然自分のことを気にかけてくれるようになった。その理由を尋ねてみると『親子であることの大切さをあの人が教えてくれたから』と恥ずかしげに微笑んでいた。
初めて見る母親の女の顔。それ以降二人の関係は改善し、リツコも科学者としての道をより強く意識するきっかけとなった。
一体誰が母さんを、と当時のリツコは考え、そばにいればわかるのではと思っていたが。その答えがわかったのは母親の死後だった。
「にしても、私たちは親子揃ってドレッドノートという人には弱いのかしらね」
MAGIシステム完成後、不慮の事故で高所から頭を下に落下したナオコ。彼女が落下死する瞬間をすぐ横で目撃していたリツコは深く悲しみ傷つき、そして絶望に打ちひしがれていた。
そんな彼女を支えてくれたのが大学時代の同期であり、現在も付き合いが続くミサト。
当時はドイツに居るにも関わらず、時間の限り話をしてくれたことで孤独を癒すことができた。
しかしミサトもまたかつて絶望を抱えていた女性。そんな彼女が父親の死を完全に乗り越えられたのはドイツで出会った二人のエヴァパイロット候補生のおかげである、と聞いた時。そしてそのうちの一人の名前を聞いた時、リツコはとても驚いた。
「ドレッドノート博士、という人が母さんを変えたみたいだけれど。その人もとんでもない人たらしだったんでしょう」
自分のスマートフォンを開くリツコ。写真アプリからギャラリーを見て、古い画像を選択する。
MAGIシステムの内部が撮影された写真。複雑に入り組んだそこにリツコが足を踏み入れたのは、母親であるナオコが死亡しMAGI関連の業務を引き継いでからのことだった。
リツコが足を踏み入れるまではMAGIの内部はナオコのテリトリー。本人も自分以外に入ることは想定していなかったのか、様々なメモやら写真やらが張ってあり、まさに秘密基地状態。
ナオコが科学者としての自分を移植した
バルタザールにはリツコとナオコのツーショット写真や、リツコ幼少期の思い出話が書かれたメモやら、母親としての愛情が存分に。その写真を見たリツコは思わず顔が緩む。
「MAGIまで侵食されずに良かったわ、母さん。貴女のコレを他の人に見られたら私まで恥ずかしいもの」
女としてのナオコが移植されたカスパー内部の写真を見てつぶやくリツコ。
そこにある落書きには『碇のバカヤロー!』やら『二日目。鬱』やら。しかし、一番多いのは『ドレッドノート博士♡しゅき♡』や『ドレッドノート博士のお陰で娘と仲良くなれました。抱いて! 私は貴女が女性であろうが構いません!』やら、ドレッドノート博士という人物に対しての愛の言葉。
中には相合傘を描き、ドレッドノート♡|ナオコ♡など、子供じみたものまで。
そして、リツコが特に印象深い光景が。
「こんな母さんの顔、他の人に見せられないわ」
カスパーの最深部で額縁に入って飾られた一枚の写真。
長いブラウンの髪をなびかせ、満面の笑みでピースする一人の女性。付箋で『↓ドレッドノート博士♡』と補足されている彼女は、その写真だけでも相当の美女であろうと初めて見たリツコでさえ思わずドキリとしてしまったほど。
そして彼女の右隣で肩に手を置かれたナオコの顔は、タローとアスカに対してのミサトのように。開かれた両目はハートになっているのではと錯覚するほどうっとりしており、両手を胸の前で組んで一緒に映る女性に対してのときめきが隠せていない。
まさに女の顔。リツコはこれが他の人の目に触れる可能性がなくなって良かったと、ほっと胸を撫で下ろした。
「リツコさーん」
そこにリツコのいる場所のドアが開かれる。やってきたのはプラグスーツから学校の制服に着替えたタロー。手にはマグカップに入ったコーヒーを持っていた。
「どうしたのタローくん」
「待ってるだけでも暇ですし。コーヒー淹れてみたんですけど、いかがです?」
「そういうことならいただこうかしら」
タローからマグカップを受け取ったリツコは、口をつけてゆっくり流し込む。
温かく、ブラックなのにどこか優しい味のするコーヒーが喉を流れるのを堪能したリツコは、目の前で何か聞きたそうな少年に声をかけた。
「美味しい、ありがとう」
「あっ、それならよかったです! あはは」
安心したように笑うタロー。リツコはスマートフォンを彼に見られないようにとポケットに入れた。
「さて。作業は終わっているし、報告の前に、軽く何か食べていきましょう。奢るわ」
「え、いいんですか? ちょうど小腹が空いてたのでありがたく!」
「......ドレッドノート博士もこんな感じだったら、母さんが敬愛するのも無理ないわね」
「どうしました?」
自らの母親を変えた博士と同じ、ドレッドノートが名前に入るタローをみて思わず言葉を漏らしてしまうリツコ。
それをごまかすためにまたコーヒーに口を付けてから、彼女は優しく笑った。
「気にしないで。お手柄ね、タローくん」
「なんもです。それに、リツコさんが念には念を入れてくれたおかげですから」
「あら嬉しい。なら明後日の実験、全裸でハーモニクスのテストをするからアスカの説得よろしくね」
「はい! ......って、エエェーッ!? 全裸ですかァ!?」
「ええ」
リツコの言葉に「ますますお婿にいけなくなる......」と絶望するタロー。リツコはその背中を見て、亡き母を思い浮かべながら言った。
「やっぱり、私たちはドレッドノートに弱いみたいね、母さん」
やたらとリツコとタローを守ろうとする決断を下すバルタザールとカスパー。そしてその決断に引っ張られがちなメルキオールにまで、その声はしっかり届いた。
ナオコ:ドレッドノート博士しゅきしゅき♡ 抱いて♡ おいゲンドウ! テメェ博士に近づいてんじゃねぇよ◯すぞ! ユイさんいんだろうが! あっ、レイちゃん♡ お菓子食べりゅ?
前半部分はナオコが隠していたのでリツコは知りませんが、ここでのナオコは↑みたいな感じでした。
ナオコがしゅきしゅきしてくれてたおかげでレイのリツコに対する好感度は初めから高かったですし、失う悲しみは標準装備してます。
ただリツコは最初、母親がしゅきしゅきしてたレイと仲良くなっちゃうと自分もドイツに居るミサトみたいになるのでは、とビビッて距離取ってました。でももうプライドもクソもないので表に出さないだけでレイちゃんしゅきしゅきしてます。可愛い30歳ですね。
物語の密度と1話ごとの文字数について
-
サクサク進む(3000~4000字程度)
-
少し書き込む(5000~6000字)
-
ガッツリ書き込む(7000字以上)
-
サクサク書き込め