「ではこれより、第1回機体相互互換試験を開始します」
全裸での模擬体を用いたハーモニクステストから数日後。ネルフ本部では再びリツコ指導のもとで新たな試みを実行に移していた。
実験内容は名前の通り、各エヴァとパイロットの互換性を検証するもの。
エヴァとパイロットは番のようなもの。ペアリングされた機体とパイロットでなければシンクロどころか起動すらしないのだが、エヴァ零号機と初号機のパーソナルパターンが酷似していること。同様に、弐号機と壱型にも多少の類似点が。
そして、エヴァ弐号機が完成する前。そのコアとタローがドイツ支部にてシンクロテストを行っていたことから、今回の実験を行うに至った。
「予定通り、まずはレイちゃんが初号機に。その後、タローくんが弐号機に、アスカが壱型。続けてタローくんには零号機にも乗ってもらって、最後にシンジくんにも零号機に乗ってもらうの」
「......私は、壱型には」
マヤが実験の順番を伝えると、レイが問いかける。
わざわざ壱型、タローの乗っているエヴァに乗らないのかを聞いてきた理由は、リツコにはなんとなくわかっていた。
「ごめんなさい、レイ。今回は互換性があるであろう組み合わせだけなの。いつか貴女にも、壱型に乗ってもらう機会はあるから」
「......はい」
「あ、綾波にも乗ってもらったらどうですかね? せっかくなんですし!」
リツコの説明に視線を落とし頷くレイ。その肩がしょんぼりとしているように見えたタローは、なんとか彼女を元気にさせようとそう提案する。
しかし、それで変に事故を起こしては本末転倒。リツコ自身も肩を落とすレイを見て心苦しい思いをしているが、それよりも安全第一だからと首を横に降った。
「今日のところは、できないわね」
「そ、そうですか」
(うわーリツコさんめっちゃ申し訳なさそうな顔で視線送ってきてる......そりゃ綾波がショゲ波になったらそうなるわな。アスカなんて背中さすってるし)
不本意ながらもレイのやる気を折るような形になってしまったことで、リツコは綾波 レイを見守り隊の仲間であるタローに悲しげな視線でもって苦しい気持ちを伝える。
タローもそれを受け取ると、うんうんと頷きリツコの気持ちに寄り添った。
「......では、実験を開始します。マヤの言った通り、まずはレイから」
「はい」
「頑張って」
リツコによる罪滅ぼしも兼ねた応援に、レイは優しく口元を緩ませて頷き部屋を出ていく。
ガクン、と落ちたリツコの肩をミサトが叩いた。
「最近のレイ、より一層自発的になったわね」
「ええ......嬉しいことだけれど、タローくんやアスカにだんだん似てきたから。あんな顔をされると、胸が痛いわ」
「あちゃー重症だこりゃ。まわからなくもないわよ、ふとした瞬間に面影を感じるもの。良い友達を持ったわね」
「育ちが良いのよ、あの二人もシンジくんも。ミサトは悪影響だけど」
「おい」
感情表現が豊かになったレイ。そのベースにあるのが誰よりも濃い時間を過ごしたタローとアスカであるため、ミサトやリツコに言わせれば大人びた立ち振舞の内側に垣間見える子供っぽさがある。
特にリツコにとってのレイは、ただでさえ目に入れても痛くないほど可愛い存在。それが同じくらい可愛い存在の二人の要素を完全に兼ね備えた時、自分はどうなってしまうのかとリツコは未知への恐怖を僅かながら抱く。
その隣で、先にその境地に達したミサトは「一歩踏み出したらあっという間だったわねぇ」とあの頃の自分を懐かしんでいた。
「初号機、起動。シンクロ率及びハーモニクス、共に安定しています」
初号機とレイの様子をモニタリングしているマヤが報告する。
その報告を聞いて、リツコとミサトはもちろん、同室で待機しているタローたち三人のパイロットもほっと胸を撫で下ろす。
エヴァの暴走の事例は、レイが零号機を始めて起動した時だけ。初号機も弐号機も壱型も起こしたことは無いのだが、少なからずそのリスクがあることはパイロットたちに共有されていた。
「どう? レイ。初めて乗る初号機は」
リツコが言った。
それに対しての返事な何か、全員が黙って待つ。
「少し、不思議な感じ。零号機とは確かに違う、私には馴染まない感じ」
「わかったわ、ありがとう」
違和感ほどではないにしろ、やはり零号機とは異なり自分のものではないような感覚をレイは感じる。
データ上では特段大きな問題は無かったが。実際に搭乗しているパイロットの生の声は貴重なサンプルの一つだ。
「シンクロ率自体は零号機のときとほぼ変わらないわね」
「零号機と初号機は、特にパーソナルパターンが酷似していますからね。でも、レイちゃん自身は快適ではなさそうです」
「だからこそシンクロが可能なのだけれど、有事の状況を除いてわざわざ初号機に乗せる必要はなさそうね」
その後もテストは続き、一通りのデータを集め終える。
ハーモニクスも正常値をキープしているとなれば、リツコが出した結論は「レイと初号機の互換性に問題点は検出されず」であった。
そして次に、タローと弐号機のテスト。
「いい? タロー。弐号機とあんたなら大丈夫だと思うけど、変な感じしたらすぐ出てくるのよ。あと挨拶は忘れないように」
「もちろん。アスカはマメだね」
「あったりまえでしょ。大体、弐号機に対して挨拶始めたのはあんたが先なんだから。お陰であたしもそうしないと変な感じすんのよ」
「まあ、オレたちを守ってくれる相棒なわけだからなんとなくでさ。それじゃ、いってきまーす」
直前にアスカとそんなやり取りをしてエントリープラグに入るタロー。
エントリープラグが弐号機に接続されると、まずはドイツ支部の時と同じように「よろしくお願いします」とつぶやき、それから起動を試みる。
リツコやマヤ、ミサトの予想では、シンクロテストをしていた過去があってもアスカ専用機になった今、起動の確率は限りなく低い。対してアスカは「起動くらいするわよ」とやけに自信満々。
その結果は
「弐号機、起動。神経接続及びハーモニクス、全て正常。シンクロ率、33パーセント」
「起動した......」
「まさか」
正常に起動。ミサトとリツコが慌ててパイロットのバイタル値等を確認するも、以上は全くなし。
なぜか誇らしげなアスカが、腰に手を当てながらタローに状態を聞いた。
「どうよタロー、久しぶりの弐号機は。完成した状態で一人で乗るのは初めてでしょ?」
「うん。なんだか、懐かしい感じ。暖かくて、落ち着くような......あとね、アスカ」
「なに?」
「やっぱ弐号機めっっっっっちゃいい匂いするよ。なんなのこれ、すんごいフローラルっつうかなんつうか。アスカの匂いとはまた違うような」
「......謎よ、それは」
アスカが来日した初陣でも言っていたことを、再び主張するタロー。
弐号機とエントリープラグが接続された瞬間、じんわりと温かさと共に華やかな香りに包まれる。
アスカも言われて以来何度か意識したことはあるが、彼女自身はそれを感じられず。嗅覚異常が出ているのではとマヤとリツコがタローのバイタルをチェックしても、異常は見られなかった。
「でも全然嫌な感じはしない。ただやっぱり、綾波が言ってたように壱型ほど馴染む感じはしないかも」
「レイと違って、タローくんと弐号機の場合はパーソナルパターンの相違によってシンクロ率自体が大幅に下がっているもの。しかしハーモニクスの値は見事なものよ」
「リツコさん。ということは、この実験は......」
馴染まない感じ、ということの原因はシンクロ率であろうとリツコが伝える。
その声色が普段通りであることに、タローはこの試験は良い結果であろうと知りたがった。
「タローくんと弐号機の互換性に問題なし、ね」
「当然ね」
スペックを完全に活かせるかはともかく、動かすこと自体は問題なく出来るであろうという判断。
それに誰よりも満足そうだったのはアスカだった。
試験は続き、今度はアスカが壱型に乗る番。弐号機から上がり、合流したタローにアスカはアドバイスを求める。
「タローはなんかないの? 壱型に乗る時してることとか。あたしもそれやらないと」
「同じだよ、アスカと。挨拶して、あとは背中を預ける。それだけ。心配いらないよ」
「そ、わかったわ。あたしのほうが良い数値出しても恨まないでよねっ!」
「大丈夫、泣くだけだから!」
そう会話して送り出されたアスカは、タローが弐号機にしたのと同じように、壱型を起動するフェーズに入る前に「よろしく頼むわよ」とつぶやく。
リツコとマヤは先ほど弐号機が起動したのは偶然だろう、と思いつつも。心のどこかではひょっとして起動するのでは、と感じていた。
そして結果はやはり
「壱型、起動。神経接続及びハーモニクス全て正常、シンクロ率は30.2パーセント」
「30か......ま、壱型もそう安くはないわよね」
「また起動するなんて」
「パーソナルパターン、だっけ。それってどれくらい重要なのよ」
「言ってしまえば、エヴァとパイロットの個性であり相性よ。多少似通っている程度では起動しないと思っていたのだけれど、ね」
あっさりと起動。しかし、こちらもシンクロ率は大きく下がっている。
こうもすんなり起動されては、ミサトも実際エヴァのパイロットは誰でも良いのではと感じたが。リツコの言う通り、適当な人選で起動するようなら中学生がパイロットになってはいない。
にも関わらず、弐号機とタロー、そして壱型とアスカの間には起動させられるだけの何かのつながりがあったのだ。
「どうアスカ。壱型、というか他のエヴァは」
「こっちも変な感じはしないわ。というか、最初期型だからなのか視界がちょっと違うのね。でも、背中を任せられる安心感はある」
「それなら良かった。ところで、なんでさっきから深呼吸を?」
「決まってんじゃない、タローの匂いがす......ちょっと待って。今の無し。忘れて、忘れろ!」
初めて壱型に乗った。そして起動した。ということで、タローが乗る壱型に認められたような気がして少し舞い上がっていたこともあってか、思っていることをそのまま口に出してしまったアスカ。
ブチッと回線を切るが、遅かった。
「......オレ、そんな変な匂いなのかな......」
「それはないわ。例えるならば、合法麻薬よ!」
「何いってんだこの人......どうかな、シンジくん」
「え、僕? う~ん......いや、無臭だと思うけど......」
「それが一番安心する」
自分では気づかないものだから、とシンジに確認してもらったタロー。
何も感じなかったシンジだが、それよりもタローの後ろでこっそり鼻を鳴らすレイのほうが気になり。言うか言うまいか悩むも、あのゲンドウと意思疎通が出来る彼は空気を読むことなど容易く気づかないフリを貫き通す。
「壱型とアスカの互換性もあり、ね。それじゃあ次に、タローくんと零号機」
「わかりました。綾波、零号機をちょっと借りるね」
「ええ。無理はしないで」
弐号機に続き、今度は零号機のエントリープラグに乗り込むタロー。
ここでも「よろしくお願いします」と挨拶をし、いざ起動の時間。
全くパーソナルパターンが異なる零号機とでは起動しないだろう、とタロー本人も思っていたが。以外にも起動はした。
「零号機、起動しました。神経接続、ハーモニクス正常。シンクロ率20......いえ、ハーモニクスに問題発生。零号機、活動停止します」
「途中で切れたの? マヤ、もう一度起動できる?」
「いえ、起動範囲まで届きません」
「......ふむ。零号機とタローくんとでは互換性は無し、か」
起動自体はしたのだが、すぐにハーモニクスに問題が生じ維持できずに活動を停止する零号機。
タローもエントリープラグの中で、外の景色が一瞬見えたかと思いきやすぐ見えなくなったことで、若干ふてくされる。
「零号機にフラれた......」
「いいえ。白露くんは悪くないわ」
「そーそー。エヴァとの相性が悪いこともあるわよ」
「むしろ、一瞬だけでも起動しただけ凄いことみたいだね」
「みんな......!!」
唇を尖らせながら戻ってきたタローを口々に慰めるレイ、アスカ、シンジ。
シンジの言う通り、一瞬の起動ですら想定外中の想定外。なにせ零号機は壱型とのパーソナルパターンが全くもって違うのだ。一部類似点がある弐号機や、初号機ですら僅かに似通ったパターンを持っている。
零号機も、初号機と弐号機に対しては多少なりとも似たパーソナルパターンはあるが。壱型とは一つも類似点が無い、文字通り全くの別物。
そのため今回の場合はパーソナルパターンの書き換えはせず。互換性というよりも、その状態でタローが起動できるのか、という運試しに近い行為。
それがたとえ僅かな時間でも起動出来たことは、宝くじに当たるよりも低い確率を引き当てたようなものだった。
「最後に、シンジくんと零号機の試験を」
「はい」
そして実験も最終盤。こちらは高確率で起動するであろう零号機とシンジの組み合わせ。
ただ、タローの中では別の不安要素が。
(零号機って、このあとシンジくんこと侵食しようとして暴走してなかったっけ?)
確かそうだったような、と目線を天井に向けて考えるタロー。
しかし、であればなぜ自分は特に何も起きなかったのか。
起動が一瞬だったから、など様々なことを考えるが。レイの顔を見て、タローはこれが杞憂に終わりそうだと感じた。
「大丈夫かな、シンジくん」
「心配いらないわ」
「......綾波も信頼してるんだね、エヴァを。零号機のことを」
「あなたが教えてくれたことだから」
「クッ、カワイイ!」
目線を合わせられ、そんな高周波数の声を出すタロー。
「鼻の下伸ばしちゃって」とアスカがイライラしている中始まった実験。タローの心配はやはり杞憂に終わり、シンジは無事に零号機の起動に成功する。
「どう、シンジくん。何か異変は?」
「いえ、特には何も。ただ、綾波の言っていた馴染まない感じっていうのが、わかる気がします」
「そう。レイとシンジくんのシンクロ率自体それぞれ零号機と初号機の時と大きくは変わらないのだけれど、やはり違和感は仕方のないことね。零号機とシンジくんの互換性にも問題なし、テストは終了よ」
「はい」
最後まで見届けるタロー。結局、零号機は暴走など起こすこともなく実験は終了。
本実験の結果をもって『エヴァンゲリオンの運用には適したパイロットが必須である』と結論づけ、ゲンドウが上からああでもないこうでもないと言われ胃を痛める原因となっているダミーシステムへの反対要素の一つになった。
「第11使徒は赤木博士が穏便に処理をしてくれたようだな」
「ああ。良い働きをしてくれた」
ネルフ本部、司令室。
ここでは人類補完委員会に呼び出され報告を終えたゲンドウと、一人で将棋を指す冬月の姿が。
「しかし、赤木博士から上がってきた報告書を見るに。壱型は、彼女はとっくに目覚めていると見ていいな」
「......」
「碇、お前はまだ彼女が苦手なのか......」
一瞬手に込める力を強めたゲンドウに、冬月が思わず苦笑する。
かつて彼の妻でありシンジの母であるユイと、アスカの母親であるキョウコ、そしてリツコの母親であるナオコといった世界有数の女性科学者たちを束ねた存在。
ゲンドウに対して『おいマダオ!』と呼ぶその姿は、タローに重ねられた。
「予定外の使徒侵入。それを完全に隠蔽出来たのは、彼女と白露のおかげだろう?」
「......ああ......」
「全く。アダム計画のほうはどうなんだ?」
「順調だ。これ以上進める必要はない、適当にごまかすさ」
「切り札は全てこちらの手の中。ゼーレも闇雲には出てこれない、か」
タン! と駒を置く冬月。
本来ならば対局相手にタローを呼び出したいところだが、流石にこの会話を聞かれてはマズイと本を相手に戦っていた。
「ロンギヌスの槍は? あれが向こうの手に渡るのは厄介だぞ、計画の邪魔になる」
「厳重に保管してある。仮に模造品が作られようが、それを持ってしても彼女たちを止めることは出来まい」
「......そうだな。それで止まるようなら、こんな無茶なことはしていないな」
ハッハッハ、と珍しく豪快に笑う冬月。
彼の脳内に浮かぶ、未来に希望を抱いていった三人の女性。
中でもやはり、目の前のゲンドウを文字通りコテンパンにしてしまう女性のことは忘れがたかった。
「ドレッドノート博士。ジャンヌ・ダルクやメアリー・スーやら、色々な例えられかたをしていたのが懐かしい」
「......やめてくれ」
思い出したくない過去を思い出し、顔を青くするゲンドウ。被った仮面をまたしてもドレッドノートに剥がされかけているその姿に、冬月は楽しそうに鼻を鳴らした。
弐号機:タローきゅん! お久しぶりねぇ! ママ張り切ってタローきゅんとシンクロしちゃう!
壱型:アスカたん! はじめまして! 挨拶出来て偉いねぇ頑張ってアスカたんに合わせるンゴ!!
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